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『黄昏の花』

作者: 詩織




冷たく透きとおった青い空から


秋のにおいを

たっぷりと含んだ風が吹いてくると


いてもたってもいられなくなるのは


緑色の絨毯の上で、


無心に胡桃をかじるリスも


食べられる木の実でポケットを膨らませ


満ちたりた気分で帰る私もおなじ。



___恵みのとき








(あっ、隣の爺ちゃんだ、、、)




婆ちゃんちの方は


1日3本の町営バス以外


車に乗れなくなった年寄りは


歩くしかない不便な田舎。



だから、


年寄りが歩いていたら


若いもんは急いでいても車を止め


年寄りに声を掛ける習わし。




「オジちゃん乗ってかん?」



「あ~、ふうちゃん久しぶりだな~」



「お久しぶりです、お元気そうでw」



「(笑)まだまだ、ピンピンやで、」



「殺しても死なんタイプやね~w」



「これから、墓参りかい?」



「うん、オジちゃんも?」



「ああ、んだけんど」



「ゆっくり行くから

先、行ってて、」



「ん、わかった、

じゃあー気ぃつけて~」



「ああ、ふうちゃんもな~」



「はあい♪」







お寺さんは、山の上にあって


歩いて行くには少しキツイ坂道で


オジちゃんは先に行ってていい、

言ったけど


心配になって戻ってみることにした。


さっき会ったところまで戻ったけど

オジちゃんの姿はどこにもなくて、



(誰か、知り合いが拾ってくれたかな?)


とも思ったけど


お寺さんまでの一本道

すれ違った車はなかった、


(うーん、家に帰ったんかな?)


(墓参りの帰り、寄って見るか~)






山の上のお寺さんには


樹齢何百年?の銀杏いちょうの木があって、


秋の終わりには立派な銀杏ぎんなん

ボトッン、ボットンと落ちてくる、


以前は誰でも自由に拾えたけど

今は、これも農産物直売場に並ぶ。


町とは名ばかりの〔村〕の

貴重な収入源になっているという。


銀杏は臭い皮を水の中に浸し

腐らせてから剝くときれいに剝けて

中の種だけを乾かして袋詰めする。


この作業が始まると

冬の始まりの合図でもある。


冬には銀杏の

黄色い絨毯を泳ぐように

枯葉の上に寝っころがって遊んだ、

子どもの頃が懐かしい。








母方の墓には戦争に行って

戦死した爺ちゃんの[戦死通知]1枚と


54歳で逝った母が眠っている。




毎年

お墓参りをしてから本堂にあがりこみ、

おっしゃん(住職)の説法を聴く。



おっしゃんの話はお説教とは違い


なにげない話のなかに

(ポッっと)


仄かに明かりが灯る。

おっしゃんの言葉が

また、一年 心を支える。



おっしゃんの久利には

清水がこんこんと湧いていて

お説法のあとに奥さんが煎れてくれる

お茶とお菓子も魅力的(笑)





「ふうちゃん、婆ちゃんは元気かい?」


「、、、元気といえば元気です、、、」


「内臓は何でもないですから、、、」


「そっか、よかったな~」


「良かったんでしょうか?」


「あんな風になって、生きてるのも

辛いんじゃないかと思う時もあります。」


「そっか、、、」


「ふうちゃんな、」


「人は必ず陰徳を修すべしという話があるんや、」


「陰徳?」


「そうや、人は必ず人に知られないところで

徳を積むべきで、

どんなにいい事をしても

それを人に知られるようにやったら

それは徳にはならんいうのや、」


「積んだ徳はどっかで役に立つんですか?」


「ほら、それが欲やがな、」


「誰も、見てなくても

誰が褒めなくても人を助ける。」


「それが、陰徳や、」


「ふーん、なるほどな~」


「むずかしな、、、」



「むずかしあるかい?」


「この村では普通にみんなやってるやろ?」


「?」


「ほら、年寄り拾ったり~、」


「アア、(笑)」


「あれは、可哀想だから、」


「それが、陰徳や、」


「なるほどな~、」


「さっき、此処来るとき

婆ちゃんちの隣の爺ちゃんに会いました~」


「ほお、」


「で?」


「そんで、爺ちゃんにお寺さん行くんなら

乗ってかん?言ったら、」


「ん、」


「ゆっくり、行くで先にって、

断られたけど、心配なって戻ったら

どこにも居てへんで、、、」


「ほお、ほお、」


「帰りに隣に寄ってみよかなと、」


「そっか~、爺さん良かったな~」


「ん~?」


「それじゃあ、爺さんちに

これ、持っていってやってくれ、」


「はあい、」



と言って、おっしゃんは

サラサラと何か書いて、


わたしを車まで送りながら


天を仰ぎ、眩しそうに

目を細め 庭から

真っ赤な曼珠沙華の花を

手折り、手紙のようなものと

一緒に私に預け



わたしが見えなくなるまで

見送ってくれる姿が

バックミラーに映っていました。



そしてその、うしろに


ニコニコ手を振る


隣りの爺ちゃんがおりました。



「な~んや、爺ちゃん、、、

きてたんか~

抜け道でもあるんかな~?」



(笑)




挿絵(By みてみん)





「ごめんください、」


「はあい、」


「これ、おっしゃんから預かってきました。」


「ああ、ありがとー」


「お茶でも、飲んでいかん?」


「はい、ありがとうございます。」



「爺ちゃん、まだ、、、」


「あゝ、急に逝ってしまったから

連絡せんで、悪かったね~」


「………?」



「爺ちゃん お寺におったよ?」



「嗚呼、だから、

 ご住職さんが御札を… 」


「爺ちゃん ふうちゃんのこと心配してたから… 」



「ふうちゃん、たまげんと聞いてな、

爺ちゃんは死んだんや、」


「ウソ~(笑)」



噛み合わない話にわけが解らず、、、


困った顔をしてるわたしに


ゆっくり話してくれました。





不思議な話を、、、






(嘘~!!!!!)

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