古代弓の戦姫たち
御門高校弓道場。この地域では唯一、学内に近的場を有している高校。全国大会レベルの強豪だ。
「見学?」
上回生らしき二人の女子がきさくに声をかけてくる。
「弓道は高校から始める人がほとんどだから、基礎から時間をかけて練習できるわよ。。。」
長身の方の先輩の声は、私いや今は蓮姫の指に遮られる。壁に立てかけられた弓、一番奥に位置する黒の弓を指差す。
「そう、あなた試射希望ね」
様子をみていたもう一人の部員が答える。
「副部長、この子見学者ですよ」
少し微笑みながら、御門高校弓道部副部長、渡部璃子が続ける。
「初見で、この部一番の強弓をご指名よ。経験者でしょ。いいわ私が責任をとるから。名前は」
蓮姫は間をおいて一言、「久宝」
(ああもうなんで喧嘩ごしなの)
状況に圧倒されていた私もさすがにツッコミをいれる。
制服の袖を緩め、弓を受けとる蓮姫。あとは胸当てだけの軽装で、正座に構える。今や、全部員が固唾を飲んで見守る中、蓮姫が動く。速いモーション。次の瞬間にはもう矢は限界まで引きしぼられている。
そして、吸い込まれるように的に矢が飛び込む。命中、何っ!
息を飲んだのは、刺さった矢が二本であることに気づいた時だ。
「不達矢!」
思わず璃子が口にした言葉。
蓮姫の口が笑みを形作る。
フタツヤ。古代実戦弓の技。一射目の離れと同時に矢を継ぐ。中世の達人はこれで騎馬武者をも止めたという。
感嘆と戸惑いに静まり返る道場に再び璃子の声。
「はいはい、ちょっとまだ早かったようね。うちでは、初心者は型から始めてもらうわ」
蓮姫は目を外さずに微笑み、弓を返した。同時に体が私に戻る。
申し訳なさそうに会釈しながら退散する私。「ちょっと蓮姫、やり過ぎよ!」
それには答えず一言。
(さすがは都人だな。太古の技をよく覚えている)
再び弓道場。
練習に戻った璃子は、幼少の頃に見た祖父の弓を思い出していた。
正面引き起こしからの基本に忠実なスタイル。でもたった一度だけ、全く違う動きを見たことがある。
「璃子にはまずいものを見られてしまったな」
「伝え聞く実践弓の古い技だ」
それから祖父は語った。現在の型に収まる遥か昔。中世よりもさらに遡る、源流の技を。
「これは禁じられた技じゃ。くれぐれも試すんじゃないぞ」言葉とは裏腹に、祖父は笑いながらそう言った。
それから、璃子は時々自分の血が熱くなるのを感じるようになった。静ではなく、動の弓。
そして、今日彼女が目の当たりにした古代の技。禁忌の技。実践のみに特化した。彼女はどこであの技を。。。体の芯がとてつもなく熱い。
立て続けに、命中させる。的を壊さんばかりの勢いで。
「おもしろいわね」
呟く彼女の両肩が蒼く光る。
そして、古都の街にまた危険な夜の帳が降りようとしていた。。。