蓮姫、登校する
私は久宝みの、御門高校一年。
旧市街を抜けて北の丘陵にある我が高校。少し遠目の徒歩通学。
「この天平娘」
(なんじゃ)
「なんか言うことあるよね」
(特にないぞ)
絶句して、また小声でささやく
「だから、重すぎるだろ、このカバン!」
昨晩、正体を現した、この天平娘こと蓮姫。化け物狩りを生業にする憑依型魔法少女。で宿主がこの私の久宝家の一人娘。この古代魔法少女、ちょっとイケてない。
「舞装とか言ってるけど、要は変身でしょ。なんか空間物質固定とかで、こう、ぱっとやっちゃえないの」
(原子再構成はオーバーテクノロジーだ)
腹たつぅーーーーこの天平むすめぇ
(心配するな、三層縫い上げるのに、コンマ三秒。このなまった肉体でも、十分速い)
怒りにおもわず声をあげると、他の通学生徒が一斉に振り返る。
「蓮姫!レンキ!代われ、今すぐ代われ。この岩のように重たいカバン、こっから教室まで持っていけぇー」
話は昨晩に戻る。
私が眠りにつく頃、蓮姫は体を借りたいと言ってきた。どこか、行くところがあるらしい。夢うつつに承諾。
すぐに夜風が頬に当たる。窓から飛び出す私の体、そして、跳躍。今日の戦闘もそうだったけれど、なぜこんな運動能力が発揮できるのだろう。
(イブキだ)
私の疑問を感じ取った、蓮姫が呟く。
次に私が意識を取り戻した時、私は、とある寺院の建物の前に立っていた。
国宝、正倉の院。上古の工芸品を今に伝えるという宝物庫。内部は非公開。
来たことはなかったが、駅前の観光ポスターになるぐらいの名所だって、え、おいこら天平娘、ここ立ち入り禁止だって。
「なんだ、君は!」
当然のように、警告する警備員。だが、もう一人の、かなり若い、同僚に制止される。
「姫、お待ちしておりました。今回は長い眠りでありましたな」
「連れは息災か」私、いや、蓮姫の声。
「・・・昨年世を去りました。姫様にもう日一目会いたいともうしておりましたが」
「大義であったと墓前に伝えよ」
(あっ、ちょっとかっこいい)
そして、案内された、内部の部屋。北側の奥にあるその小部屋の扉を開けた途端。
この天平娘は歓喜の声をあげて、収蔵品の箱を開けまくる「これよ、これ」
前言撤回。こいつはただの布マニアだ。
玉虫色に輝く織物にまみれ恍惚の表情をうかべるこの姫に私はつぶやく
(あっ、かなりかっこわるい)
おやすみなさい。体は天平娘に任せて私の意識は奥に引っ込んだ。
で、朝、私はパンパンに膨れ上がった通学かばんを見つけることになる。
(強力なクラガリには多層の舞装を仕込む必要があるわ)
(途中の色の組み替えも必要だし)
(これ見て、いい輝きよね)
だんだん説得力をなくす、蓮姫の説明に、私はただ呆れていた。
で、授業中はというと、彼女は寝ているのか、全く出てこない。唯一、古文の授業だけは、起きて来て、テキストをパラパラめくっては、間違っているだの文句をたれてはいたが。全く役にたたない、脳内寄生娘だ。
放課後、遅ればせながらクラブ見学に参加した私。突然、(体借りるよ)
唐突に蓮姫が動いたのは、弓道場の前だった。。。