蓮姫、クラガリを語る
第3章 蓮姫、クラガリを語る
意識を取り戻した先輩、今井ななかを送った後、私は早速まくしたてた。
「説明してもらっていいわよね。あたし」
(・・・)
「どうやって私に入ったかはしらないけど、人の体借りて、大立ち回りを演じてくれちゃって」
(・・・)
「おまけに人んちの屋根に、制服投げ捨てるわ、魔法少女コスプレかますわ。ひとの日常なんだと・・・」
(どんだけ鈍感なんだ、条里くずしに足を踏み入れて)
私の脳内に私ではない「声」が響く。
「やっと口を開いたわね、あの、その、蓮姫っていったわね。んっ、ジョウリクズシ??」
(ここは古代最後の都。じいさまが施した、クラガリ封じの結界だ。規則的な都の大路に、ところどころ大陸仕込みの結界が施してある)
「わからないわ」
(トラップだ。入ったら、基本出れない。舞装なしではな」
「あっそう。で、その結界やらに、化物がいるわけね」
(クラガリだ。税を収める道なかばで倒れた、地方の民の怨霊だ。ほぼすべての太古の都は、これにやられた。人に憑き、都に仇なす)
クラガリ、倉狩りとも暗がりとも言われる、太古の闇。上古の天才、吉備真備がその余生をかけて、この最後の古代の都に封じたと言われる。その結界は千年にわたり、彼らをこの地にとどめ、日の本の歴史から封殺した。為政者への怒りの権化、悪と呼べずとも、共感するには危険すぎる存在。
「で、今更なんで、そんなのがノコノコと。。。」
(結界、賞味期限切れた)
あっさりと、まあ。。。
「会話」が再開したのは、私が自分の部屋に帰ってからだった。
伝統的な町家の2階。少し天井が低めだ。
「で、そのクラガリ退治に、天平時代の姫様が降臨したってわけだ」
(違う。私は、ずっとこれをやっている)
「はいはいって、え?いつから?」
(ずっとだ、ところどころ混濁してはいるが、基本、これを千年あまりやっている)
「・・・」
(都びとの体を借りてな、で、今は)
「あたしってわけね。。。いつからいたの。その、私の中に」
つぎは流石に衝撃的だった。
(君が生まれたときからだ)
ちょっとじっくり話そうか、蓮姫。追い出す気だったが、この姫はちょっとやばい系だ。
同刻、今井家。
ななかは、ゆっくりと正気をとりもどしていった。旧市街のアンティークでみつけたブレスレット、つけてからの記憶があいまいだ。「先輩、もう大丈夫ですから」家に届けてくれた、同じ高校の一年生。名前を聞いただろうか。思い出せない。
ブレスレットはもうない。そして、また意識が薄れる。
(レンキ。。シッテイルゾ。マダイタノカ、ニクキフジワラノチ。。。)
彼女の両肩が蒼く光る。それに呼応するように、また、ななかの目が紅く輝き始めた。。。
(そうだ、ちょっとスマホ借りていいか?)
小一時間、私の数々の文句、主にプライバシー関連の、をめんどくさそうに聞き流して蓮姫が言った。
「蓮姫?スマホって、あなた」
(LINEだ。時間は取らせない)って、私の腕を使い、カバンからスマホを引き出す。どこにテキスト送るんだかって、早っ!
目にも止まらぬ速さで、メッセージを送る蓮姫。なにこの、天平娘。
(もっと舞装がいる。ニ○リもいいが、本格的な狩りには不足だ)
ふと思った、あーあまた重くなるんだ、私の通学カバン。。。
そして古都の夜は更けていった。