舞いアがる
第2章 舞いアがる
この私の頭から湧いてきた藤原の姫は、この五分ほど、「先輩」と格闘を繰り広げています。
ちょっと信じられないような跳躍を繰り返しつつ、執拗に攻めてくる「先輩」を私の体が受け流し、時には拳と蹴りで反撃。感触も何もかも、そうとってもリアルです。
合間に姫から断片的な説明。それによると。
ーこれクラガリっていう、都に仇なす悪いやつ。
ー宿主は人間だから殺しちゃだめ。
ーヤツの手に触れられたらアウト、意識飛んじゃって、あなたもクラガリ。あと時々叫ぶからそれも聞いちゃだめ。
無理ゲーです。
((そろそろ行くわよ))
今度は何よ
一段と高く跳躍する「私」。眼下に古都の甍。いつの間にか掴んだ通学カバン。彼女に憑依された私の口がかすかに微笑む。そして、
かすむほどの速さで、カバンの中身を引き出す。瑠璃、薔薇輝石、金剛石。光り輝く衣が、いつの間にか脱いだ制服(!)の私を包む。そして、神速の速さで四肢に縫い止められる。かつて一晩で金剛界曼荼羅を織り上げた伝説の姫さながら。
「蓮姫降臨!」
魔法少女ばりに変身をキメちゃってくれた、妖怪あらため藤原の姫は、今、初めて名乗りを上げた。古都の夜に現出した古代の姫戦士。
クラガリは眩しげに地面に怯む。
輝く蓮姫の戦闘装束を畏れるように。
「緋の舞!」
知ってる。この手の輩は、叫ぶわよね。技の名前。。。
跳躍の最高点から、今度は軒先を蹴り、下方へ突進する。鋭い回転が私の全身に加わる。クラガリが不用意に上げた右腕、いや手首に、怪しげなブレスレット。正確な蹴りで爪先がそれを捉えた瞬間、
ブレスレットを構成していた珠が四方へ散らばる。叫ぶクラガリの声は、蓮姫の手にさえぎられ、私の耳には届かない。
着地と同時に、クラガリいや先輩にかけよる蓮姫。崩れ落ちる彼女を寸前で受け止める。
「本命じゃなかったわね」と蓮姫。
で、私といえばその時、二つのことを考えていた。
面倒なことになったわね
と
どこ脱ぎ散らかしたのよ、私の制服!
どこかで鐘が鳴る。少し闇を緩めた、いつもながらの古都の路地裏だった。