邂逅の夕暮れ
第1章 邂逅の夕暮れ
海のない街、私の街。
県立御門高校に通いだしてから、一ヶ月がたとうとしていた。
旧市街を通り抜ける私の通学路。
かつて都があったというこの街に、私の家は代々暮らしてきた。
それにしても、
(重いわねこのカバン)
一見ただの学校指定の通学カバン、で実に普通の通学カバン。ノートを取らないスタイルの学業生活、本来ならだれよりも軽いはずの私のカバン。
(全く変な妖怪もいたものだわ)
私がつけた名は妖怪ヌノカクシ。どこから持ってきたのか、ちょっと高級そうな布を人様のカバンにつめていく。
(まあ古い街だから、古風な妖怪変化も珍しく。。。)
私はそこで微笑む。明らかに不審な出来事だが、私は幼少の頃から「それ」に慣れていたのだ。
朝起きると、何かが違っている。それは髪型だったり、服装だったり、そして今はカバンの中身だったり。。。
母も知っているがさして気にしていないようだ。
旧市街から循環路に抜ける少し手前、薄暗くなった頃、少し近道をしようと狭い路地に入る。気の早い常夜灯に少し目を奪われ、軽い眩暈を覚える。
(ここ、こんな道だったっけ?)
狭くはあるが見通しがよいはずの路地。今日はやたら暗い。
((条里くずしよ。戻って))
なにか聞こえた。でも次の瞬間、私は同じ御門高校の制服を前方に見つける。
先輩らしい、どこかで見かけた気がする。そして驚き。
(なんでこっちみてるのよ)
昏い路地に、棒立ちの女子高生。足元に転がる通学カバン。赤い目!
(ちょっと、妖怪?)
((違うわよ))
考えながら後方に駆け出す。いや駆け出そうとした。
(えっ!)
見えない。さっき曲がったはずのT字路も、すぐそこにあるはずの旧家の門構えも。
再び振り向くと、想定外の光景。
信じられないジャンプを見せて、私に飛びかかる「先輩」!
反射的にカバンを振り向きざまに、叩きつける。あっちょっと早かった。虚空を切って、今度はこの憎っくき重量級通学カバンに振り回される私
(オワッタ。。)
格闘ゲームのように様になった突き蹴りが私の頭を砕くその刹那ー
私の回転が加速する。先輩の動きを搦めとるように、体が旋回。そして、夜空に舞い上がる!
あまつさえ、先輩の後頭部に蹴りを入れつつ、音もなく町屋の屋根に降り立つ。
(ああ、五重塔みえるわ)
呑気な独り言には答えず、私の「妖怪ヌノカクシ」が口上を垂れる。
「マツロワヌモノ!この藤原の姫が前で、都人に害をなすか!」
先輩が目を見開く。普段はおとなし目の美人さんだったと思うが、赤眼でこうも睨まれると怖い怖い。
いやそこじゃない。
誰よ。あんたは。藤原の姫!?妖怪じゃない?ていうか私の声だよね。私の体だよね。
((ちょっと借りるよ。でないと死ぬよ))
これが私とこの天平娘の出会いだった。