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歯車クラゲ

作者: ねーぴあ

歯車クラゲが見つかったのは、ある晴れた日の事だった。

大きな太陽クラゲを中心に、小さな遊星クラゲが無数に集まり、噛み合うことで巨大な機械構造を生み出す、新種のクラゲ。

生命維持のため、必ず一方向に回転し続ける性質を持つそのクラゲは、最初は人々に観賞用として受け入れられた。


しかし、その機械構造は、極めて効率がいいという事が分かるのに、そんなに大した時間はかからなかった。

なにせ元が生物なのだ。有機物のエネルギー変換効率は9割を超える。クラゲの生命維持のエネルギーを差し引いても、

取り込んだ有機物の持つカロリーを8割方回転エネルギーに変更することができるのだ。

勿論、死んだクラゲはそのまま有機物としてプランクトンの餌になる。夢の永久発電装置の誕生だった。


始めは、自然活動家やエコロジストが飛びついた。

太陽クラゲを核とし、数万もの遊星クラゲを噛み合わせれば、発電機を作ることができるのではないか?と。

そこに、自然エネルギー論者と反原発主義者が乗り、最終的に歯車クラゲの発電機、その試作機が生み出されることになった。


発電機の出力は驚嘆すべきものだった。海の中に入れておくだけで、周囲のプランクトンを取り込みながら

一つの大都市圏を支える程のエネルギーを発揮したのだ。クラゲ発電は、一気に次世代のクリーンエネルギーとして世に評価された。


クラゲは回り続け、無尽蔵の発電を行う。人々はますます豊かになり始めた。そして、火力発電所や原子力発電所は次々に廃棄されていった。

だが、クラゲ発電が主流になって数年後、クラゲ発電に陰りが見え始めた。餌となるプランクトンが、足りなくなり始めたのだ。


「今更あんな自然を汚すエネルギーになんて頼れない!」


ある者は言った。


「クラゲを回すのだ! プランクトンを養殖しろ!」


またある者は言った。

そして、クラゲに頼り切ることの危険性を論じ、今こそ古い石油発電、原子力発電を再生するべきだという意見は黙殺された。


人々は、その英知を持ってプランクトンの養殖を考えた。つまり、海に生物を放り込むのだ。

始めは穀物や雑草が使われた。次に動物、最後に人間の死体が使われた。様々な動物がクラゲの餌となって絶滅していった。

クラゲ発電機は、どんどん大きく、どんどん強くなっていった。人々の社会と一緒に。

プランクトンの養殖ルートができたことで、自動車をはじめとする地上のエンジンも尽くクラゲに置き換えられていった。

そして、数十年が経った時、ついに限界が来た。


「つまりですな、プランクトンの養殖速度はこれ以上増やすことができませんのじゃ。これ以上の養分を、地上では作れない。」


クラゲ発電の権威たる科学者は言った。


「クラゲからこれ以上のエネルギーを取り出すことはできませぬ。このエネルギーで賄える分だけしか、人類は生きられませんのじゃ。」


人々は考えた。火力発電所も原子力発電所も、もはや失われた技術だ。新しく作るには長い年月がかかる。

人が増えれば、その分一人当たりに割り当てられるクラゲのエネルギーは減る。


「子供たちの未来の為に、今すべきことは何ですか!」


政治家は言った。


「クラゲを回すことです! 人類は、何をもってしても、クラゲを回す必要があるのです!」


人々の歓声が飛ぶ。


「今こそ!クラゲの為に、人類をも捧げる時が来たのです! 子供たちの未来の為に!」


止められるものは、もはや居なかった。代わりになるものも最早なかった。

役に立たない人間、老いた人間、生きるためにコストがかかる障害を負った者たちが、クラゲに捧げられ始めた。


人類は、クラゲを回す歯車になった。


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