僕
僕の空は白い。瞼を開けば広がっているのは1面真っ白な景色だった。真っ白な壁、真っ白な天井。
僕の空は低い。同じ部屋の中に閉じ込められて、ほんとの高さも明るさも忘れてしまいそうだ。
10時50分。これぐらいの時間にウトウトするのが好きだった。あいにく今日もやることがない。
窓の外ではソメイヨシノの花びらが舞う。
桜って、こんなに綺麗なんだ。ここに来るまでは気づきもしなかった。あまりにもありふれていて、そこにあるのが当然で、ぼんやりと捉えたつもりで満足してしまってたんだろう。
残された時間は少ないはずなのに、ここにいるとやっぱり有り余るんだ。
みんな今頃、普通に学校へ行って、普通に授業を聞いて、居眠りしたりテキトーに板書写したり、先生の寒い冗談を聞き流したり、クラスメートいじったり、
そんなあたりまえの毎日を送ってるんだろうな。
いつからか先生や親に「勉強しろ」なんて強制されることもなくなった。ここではなんにも、強要されることなんてない。
みんな下手だな。
みんな、人を騙すのが下手だ。隠そうったって、表情から、声のトーンから、目の動きから本当のことが漏れてるよ。
だから僕も気づいてないふりで……結局僕の嘘が1番上手い。
だけどちょっとくらいは信じてあげてもいいかも。根拠もないただの希望だけど、暇つぶしには丁度いい。
中途半端な希望で生き延びてる僕はただただ暇を持て余して、外を眺めたり、テレビで変に生真面目な昼番組を見たりして、そうやってボーッと1日を贅沢にやり過ごす。
こんなに持て余してるのに、自由にはなれない。
これ以上僕を縛るものなんてないはずなのにな。
高校2年生。17歳。
本当なら部活したりバイトしたり課題に追われたり、友達とふざけたり、彼女と一緒に帰ったり、他愛のないことで笑いあったり、幸せだって思える瞬間が毎日そこらへんに転がってるような、1番楽しい時間のハズなんだ。
なのに
僕の空は狭い。
ふと窓の向こう、鮮やかな空に手を伸ばしてみたくなった。