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いおりん☆トランス

-一日目-

“ピンポーン♪”

 はーい、いま開けまーす。って、なんだお前か。ごめんごめん、こっちから呼んだのに“なんだお前か”は無いよな。とにかく上がってくれ。どうした?早く上がれよ。え?何言ってんだよ。俺だよ、俺。幼馴染の顔ぐらい記憶しておけよ。保育所から高校までずっと一緒だったじゃんかよ。……いいからつべこべ言わずに上がれ!

 えーっ、席についてもらったので用件を言おうか。まあ、見ての通りいま俺はとんでもない事態に直面している。今日、学校休んだのもこれが原因だ。おかげで保育所からの連続無遅刻無欠勤の皆勤記録が途絶えちまった。俺の数少ない自慢できる記録だったのに……。うるさい!健康優良児なのが唯一の取り柄とか言うな!えっ?学生だから欠勤じゃないだろって?いいんだよ意味が通じてたら。お前って昔からいちいち他人の揚げ足を取るよな?その癖直さねーと彼女できても嫌われちまうぞ?うっさい!俺の事はいいんだよ。こないだ同じクラスの東和田さんに告白して“ごめんなさい、あなたの事かわいいとは思うんだけど恋愛対象としては見れないの”ってフラれたとかな。って、俺は何言ってんだ。もう、こんな無駄話するためにお前を呼んだんじゃない!本題に入るぞ。要するにだ。俺がどうしたら元の俺に戻れるか、考えろ。えっ?“俺にわかるわけないだろ”?……確かに。お前とはずっと赤点ギリギリの超低空飛行をしてきた戦友だもんな。※墜落するときは二人一緒だって誓い合った仲だ。悪かったよ。お前に相談した俺がバカだった。え?ああ、両親は二人とも昨日から留守だ。俺がこんな状態になったのは今朝だから二人ともまだ知らない。電話しようかとも思ったんだけど話しても多分信じないだろうし。帰ってきたらわけを話すよ。幸い、見た目はそんなに変わってない……って、これは喜ぶべきか悲しむべきか…。え?“かわいいから文句ないだろ”?黙れ!かわいいとか言うな!俺は男だぞ!男が男に“かわいい”ってお前バカか?バカ野郎ですか?ガリレオ先生が言ってただろ、“かわいい”と“きれい”は全然違うって。ん?ちょっと違うな。すまん、これは俺もおかしいと思う。ああ、そうだな、ちょっと落ち着こうか。


 さて、一服したところでこれからどうしたものか考えようか。顔はそんなに変わってないから誤魔化せるとして問題は首から下だな。これはいくらなんでも隠したりも誤魔化したりもできないな。俺ってどっちかと言うと控えめな性格だから体も控えめだと思ってたけど、ここだけがこんなに自己主張が強いのはなんでだ?ひゃっ!?な、なにすんだよ!はぁ?“本物かどうか確かめたかった”?アホか、なんで俺がそんな事するんだよ。ちゃんと今朝に確認してあるよ。そ、そりゃ、見るだろ。朝起きて自分の服が盛り上がってたら何事だと思って服の下を覗くだろ。へ、変態!?待て、なんで自分の体を見ただけなのに変態呼ばわりされりゃならんのだ?それも相手に断りも無くいきなり手を出すお前によ!お前の方がよっぽど変態だろうが。いや、ド変態だお前は。なに開き直ってんだよ。“俺も確認したいから直に見せてくれ”?どアホ!む、“男同士だからいいだろ”?た、確かに男が男に裸を見しても問題は無いよな。……確かにそうなんだけど。なんか…身の危険を感じるんだよな……。あの、言っておくが俺は男だぞ?そのこと努々忘れるなよ?よし、じゃあ脱ぐぞ。よいしょっと。……どうだ?納得したか?じゃ服を着るぞ。おいおい、何で服を取り上げるんだ?“今度は下を確認したい”?下?下って……な、何考えてんだ!男同士とか関係ない!アホな言ってないで早く服を返せ!なに?“股間を確認させてくれるまで返さない”?なに真面目ぶった顔で言ってるんだよ。いくら真剣そうな顔しても言ってる事は変態だからな。い・や・だ。なんでかって?じゃあお前自分のを見せられるか?見せられる?確かにな。理由も無しならともかく、理由さえあったら男同士で見せ合うことには問題無いか。別に俺もお前のなんか見たくねーし。うっさい!お前の方が大きいからひがんで言っているんじゃない!……お前って自分で“俺のビッグマグナムはすごい”とかよく言えるよな。言ってて恥ずかしくないか?って、ちょっと勃起してないか?おいおい、まさか俺に欲情してるんじゃないだろうな。いいか?よく思い出せ?俺は男。お前は男を抱く性癖があるのか?無いよな?うん、無くて当然、それが健全なる男子というものだ。だからな?その勃起を収めろ。“お前の股間を見せてくれたら収める”?バカ野郎、そんな事したら余計勃起するだろうが。待て、近づくな。ちょっと服取ってくる。ここは俺ん家だからな。服はいくらでもある。いいか、そこを動くなよ?


 おまたせーっ…って何やってんだ?俺の服を嗅いだりしてお前そんな趣味あったのか?“男なら当然”?待て、それは服の持ち主が女の子だった場合の論理だろうが。俺は男だ。その男の服の匂いを嗅いでどうすんだ!もういいよ。帰れよ。お前に相談しようとした俺がバカだった。え?両親は今日も帰らないけど?なに?“夜に一人は危険だから俺が今晩泊ってやる”?お前がいた方がよっぽど危険だ!


 ったく、なんであんな奴に頼ろうとしたんだろ俺。まあ、こんな非常“識”事態を話せる人間てあいつしかいなかったからなんだけど。でも、本当にどうしよう……いつまでも学校休めないし…父さんたちも帰ってくる。顔はそんなに変わってないから、この膨らんでいるものが無かったら何とか誤魔化せるのにな。どうしよう…そうだ、もしかしたら他にも同じようなことがあるかもしれない。インターネットで調べてみよう。ひょっとしたら治し方が見つかるかもしんにゃい……誰もいてない時に噛むのも恥ずかしいな。

 …………ダメだ見つからない。そりゃそうか、他にも発生してたら絶対にニュースになってるよな。はあ…本当にどうすんだよ。そうだ、朝起きたらこうなってたんだから次の日の朝に元に戻ってる可能性も……そうだよ、きっとそうだよ!なーんだ、心配して損した。


※落第とか留年とかの事ですよ


-二日目-

“ピンポーン♪”

 はーい、ってお前かよ。え?元気無い?ちょっとな、クリスマスにサンタさんからのプレゼントを楽しみにしてたのに一個ももらえなかった子供みたいにがっかりしてな。朝起きたら元に戻ってると期待してたのにこの通りだよ。そんな事よりお前が朝に家に来るなんて珍しいじゃないか。どうしたんだよ?え?迎えに来た?何言ってんだよ。見てわかんないのかよ。今日も休むに決まってんだろ。なに?大丈夫?なにが大丈夫なんだよ。え?“お前が学校に来ても大丈夫な制服を持ってきた”?へぇ、その袋か?どんな制服だ?この自己主張が過ぎる二つのふくらみを隠せたらいいんだが。うん、ちょっと着替えてくる。そこで待っててくれ。やっぱり、お前に相談してよかったよ。

 ……前言撤回、やっぱりお前なんかに相談するんじゃなかったよ!なんだよ、これ!制服?確かにうちの学校の制服だよ!でも、俺が着たらダメな方の制服じゃないか!なに?似合ってる?うっさい!“でも、いまのお前にはぴったりだろ?”?確かに、確かにそうだよ。ある意味そうだよ。ごめん、悪かった。どうやらお前とは意思の疎通が図られていなかったようだ。俺がなんで学校に行きたがらないか。その理由が俺とお前とで共有できていなかったみたいだな。お前は俺がこんな体になってしまって今の制服じゃおかしいから学校を休んでる。だから、いまの体の俺におかしくない制服を用意すれば学校に行けると思っている。そうだろ?でもな、違うんだ。俺はこの体になったのを誰にも知られたくないから学校に行きたくないんだ。わかるか?なに?“その件はもう解決している”?どういうことだ?“昨晩のうちにクラスの連中と担任に知らせておいた”?……へっ?…………えぇーっ!!?え?昨夜のうちって…そんな事って……“ラインをなめんなよ”?確かに、恐るべしライン。俺、ラインってやんないもんなぁ。って、何勝手にバラしてんだよ!というか皆よく信じたな。“単純な連中だ”?確かに、それは俺も思う。そうか…もう皆にバレちまったのか。“元気出せ”?やかましい!お前のせいだろ!“いいから早く仕度しろ遅刻するぞ”?やだ、この制服来て学校行くなんて絶対やだ!この男が来たら男としての尊厳が地に失する制服なんて男を捨てるようなもんだろうが。そりゃ確かにこういう趣味の人はいるよ。でも、俺にはない。そういや、お前よくこんなの入手できたな。近所の店で?どういう店だよ、そこ。……わかったよ、行きゃいいんだろ。

 とは言ったものの、やっぱりやめときゃよかったぁ。なんでだって?お前、自分がこの制服着て登校してるの想像してみ?ありえないだろ?俺だって一緒さ。ありえないの!もう帰る!放せよ!なに?“騒ぐと余計に目立つ”?む、確かにそれもそうだ。“もう皆知っているから気にする事なんかない”?そうか?俺が気にし過ぎか?そうなのか…。わかった、俺も男だ。逃げも隠れもせん!


 やっぱ逃げるか隠れるかするべきだったな。皆、俺の体を触りまくるんだもんな。まあ、触ってきたのは女子ばっかだけど。あれってどうしていいかわからないよな。東和田さんまでが一緒になって触ってくるんだぜ、こないだ俺を振ったくせによ。え?モテ期到来?…これってモテてるって言うのか?むぅ…確かに女子が俺の周りに群がってくるなんてなかった。そうか…俺はモテてるのか……待て、やっぱダメだ。人気があるのとモテるは違うんじゃないのか?え?もう一度東和田さんに告白?そうすれば俺がいまモテ期かわかる…。でも、俺こないだ彼女に振られたばっかだよ?なに?“いまのお前なら大丈夫”って何が……いや、そんな事は…。あ、すまん、ちょっと考え事をな。有りえない事を考えてたんだ。そうだよ、あの東和田さんにかぎってそんな事は……言うな!彼女が男に興味無いって言うな!なんでそんな事わかんだよ!あいつに聞いた?なんであいつがそんな事知ってんだ?関係を迫られた事がある?あいつがそう言ったの?それであいつはどうしたって?断った?そうだよな。しかし、あいつにまで手を出してるとなると相当な数の女子を口説いてるな彼女。あのクールビューティーなイメージからは想像できないな。いつも沈着冷静でどんなトラブルやアクシデントが発生しても動じずにテキパキと指示を下す。そんなところに惹かれたんだよな。まあ、俺みたいなお子ちゃまが相手にされるとは思ってなかったけどさ。え?“いまなら想いを遂げられる”?……なんかさっきの話聞いてたら躊躇してしまうな。もういいや、それより早く昼飯食っちまおうぜ。


“ピンポーン♪”

 はあい。ん?どうしたんだ?今日は用事があるから家には来ないって学校で言ってたんじゃなかったか?俺に渡す物?その紙袋がそうか?これからの俺に必要な物?なんだろう。開けていいか?別にわざわざ届けてくれなくても明日学校でくれたらいいのに。なに?今日必要になる?はて?何のことだろう。えっと、なんかの生地みたいだな。どれどれ……ってなんじゃこりゃあああああっ!!な、なんでこんなもの俺に渡すんだよ!“いまのお前には必要だ”?余計なお世話だ。いいか?何度も言うが俺は男だ。この体だっていつか元に戻るんだ。戻るんだよ!わかったらこれ持ってさっさと帰れ!何?アンケート?何のアンケートだよ?俺がいまの状態でいた方が良いかどうかのって、いつの間にそんなのやったんだ?まあいいや、見せてくれ。どれどれ…いまのままがいい100%、元に戻るべき0%。どういうことだ?“誰もお前が元に戻るのを望んでいないって事だ”?ふざけるな。こんなアンケートなんかこうしてこうしてこうしてくれる!ハァ…ハァ…どうだ参ったか。とにかく帰れよ。俺の体が元に戻るまで家には来るな!しつこいな!そんなのいらないって言ってんだろ!それにもらったとしても着け方知らないよ。お前が教える?なんでお前がこれの着け方知ってんだ?まさか、着けた事があるって言うんじゃなかろうな?ある!?う、うわあ、近寄るな!それ以上俺に近づくな!お前とは10年以上の付き合いだが、その付き合いもこの時をもって更新停止だ。俺の友人に変態はいらねぇ。情けで知人にはしておいてやる。俺の慈悲に感謝するがいい。ん?“勘違いするな”?自分で着けてたんじゃないのか?自分ででないとすると彼女か?お前、彼女いたのか?何だよ、全然気づかなかった。何で言ってくれなかったんだよ。言ってくれてたらその彼女にお前の過去に犯した恥部の数々をすべて暴露して幻滅させてやったのに。やはり、お前との友情もここまでだ。彼女できた奴の彼女がいない奴の見る目ほどムカつく事はないからな。彼女じゃない?付き合ってはいないってこと?ただのカキタレか?で、誰だよその物好きは。え?聞かない方がいい?何だよそれ、俺の知っている奴か?教えろよ。気になるじゃねえか。え?“教えたらこれをつけてくれるか?”?うーん、それはきついな。だって、それ着けたら俺の中にある男としての何かを裏切る事になるんじゃないかって。そんなに着けさせたかったらお前がまず着けてみろ。いや、すまん、着けなくていい。双方に何のメリットもない。お前の彼女が誰か気になるところだが、俺も自分を裏切ることはできない。悪いが帰ってくれ。お、おい!?待て!これを持って帰れよ!…行っちまいやがった。どうすんだよ、これ。


 うーむ、どうしたものか。捨てんのもちょっとな。やっぱり明日学校で返すか。……ちょっと着けてみようかな…はっ!いや、いやいやいやいや何を考えてるんだ俺は。正気を保て!しかし、学校でこれを返すとなるといらぬ誤解を招くかもしれないし……。ああ、もう!風呂入ってさっぱりしよう!

 あー、さっぱりした。昨日は鼻血が噴出して生死の境をさまよったけど今日はどうにか堪えたぞ。さて、バスタオルで体を拭いてパンツを穿いてそんでこれを着けて…って何やってんだ俺は!?なんであいつが持ってきたパンツを穿いてんだよ。うっかり着替え乗せるカゴに入れといたのがまずかった。ってか、穿く前に気づけよ、俺。そういや着替え入れとくの忘れてた。脱ぐか……でも、これ俺の体にフィットしてるな。フィットちゃんだ。肌触りも全然違うし…全然わかんないけど値段が張るんじゃないか?……少しだけ穿いておくか。なんだろう、そんなに拒否感とか嫌悪感とか無いな。体が変わっちゃってるからか。まさか、意識まで変わりつつあるんじゃないだろうな?それは考え過ぎか。もっと気楽に行こう。こんな体験滅多どころの確率でできるものじゃないからな。下を穿いたんだから上も着けないとな。でも、どうやって着けんだ?そうだインターネットで調べよう。自分の部屋に行ってパソコンをポチッとな。

 インターネットで着け方を覚えて下に降りて着けて鏡の前でポーズっと。顔は以前とさほど変わっていないのにこの違和感の無さ。これが体毛だらけのごっつい髭面だったら……………………オエッ。くそっ余計な想像して吐いてしまった。しかし、こうも見ていて違和感が無いとこのまま着ててもいいんじゃないかって気になるな。……これは好奇心だ。純粋な好奇心でやるんだ。決して変態的な性的嗜好のためじゃない。あ、電話だ。もしもし……。


-三日目-

 おはよう……“どうした?元気ないな”?元気も無くなるさ。これを見てくれ。俺の下駄箱に入ってたんだ。お前も見たんだろ?戸が閉まらないぐらい入ってたんだから。これがただの手紙ならいいんだが、ここの封してあるの見てみ?ハートマークのシールで封してあるんだ。これってさラブレターって奴だろ?生まれてこの方ラブレターなんてもらった事なかったからこれは喜ぶべき事なんだと思う。送り主が男で無かったならな。初めてのラブレターが男からなんて何の冗談だ?こいつら何考えてんだ?俺は男だぞ?見た目に騙されるなって教えてやった方がいいかもな。ん?“昨日渡した物返してくれ?”あ!しまっ……あ、いや何でもない。そうそう昨日のアレね。わかってるよ。明日持ってくるから。今日取りに来るって?ダメ、今日はダメ。どうしても!なんでダメかって?ダメなものはダメなの!ああ、悪いな。今日は都合が悪いんだ。納得してくれたか。さすがはわが友だ。え?“着け心地はどうだ?”?うん、体にフィットしてなかなかいいんじゃないか……って何を言わせるんだお前は!違う、違うんだ。いまのは冗談。俺がそんなの着けるわけないだろ?“嘘はつくな、長い付き合いだからお前の嘘はすぐわかる”?ぐ…さすがは幼なじみ。実は好奇心で…実際着けてみるとさなんか良くって……。だって違和感も何もなかったんだもん。“そんなんでよく俺は男だって言えるな”?うっさい、返すよ。返したらいいんだろ。ちゃんと洗って返すよ。何?いらない?お前、さっき返せって言っただろ。“それはお前が着けないと思ったからだ”?くっ強制されてならともかく自分から着けてしまっては何も言い返せない。あ、そうだ、不思議に思ってたんだけどお前よく俺のスリーサイズ知ってたな?“俺のスカウターは瞬時にして相手の体のサイズを計測する”?アホか、アホですか。え?“そのラブレターどうすんだ?”?どうしよう。このまま捨てるのもな。だって逆恨みされそうじゃん。え?読んでみるの?うん、わかった。

 ……ダメだ…俺には耐えられない……。なんだ?この“君は僕の女神だ”とか“君を一目見た瞬間から僕のハートは君に釘付けさ”とか。はっきり言って気持ち悪い。極めつけはこの30年後までの人生プランを披露している奴だ。俺と結婚して子供を作る事まで想定というか妄想してやがる。俺は男だぞ。この国はまだ同性婚を認めていないはずだ。“俺が渡した下着を自分から着けた奴がよく俺は男だと言えるな”?う…それを言われると辛い。確かにこの状態で男だと言い張れば俺は変態の烙印を押される。“いい加減自分がもう男じゃないと認めちまえ”?うっさい!俺は諦めんぞ。“親父さんたちは何て言ってるんだ?”?ああ、昨日電話があってさ今日帰ってくるんだ。なぜか俺がこんな状態になっているの知ってたんだ。お前が教えたのか!なんでお前は次から次へと俺の了承も無しに重要機密を暴露していくんだ。え?このラブレター?ゴミの行きつく先は焼却炉しかない。


 あ、もしもし?俺だけど。お前の携帯にかけたんだけど電源入ってないとかでしゃーなしに自宅にかけたんだけど。充電切れ?あ、そう。実は明日病院に行くことになったんだ。父さんも母さんも一度お医者さんに診てもらうべきって言うからな。だから明日は学校休む。それで何でか知んにゃいけど夕方お前を家に呼べって言うんだよ。何でって俺にも知らないよ。そういうわけだから悪いけど学校帰りに家に寄ってくれ。じゃあな。

“ガチャン♪”

 ……そういや何科を受診すればいいんだ?


-四日目-

“ピンポーン♪”

 はーい。すまないな。わざわざ来てもらって。え?診察の結果?これだよ、これ?え?わからん?見りゃわかるだよ。お手上げだってさ。誰がって?医者がだよ。まあ、とにかく上がってくれ。父さん母さん、来てもらったよ。ん、わかった。何かお前に話があるみたい。そこに座ってくれ。えっと、俺は…こいつの隣に座んの?わかった。…で、何でこいつを呼んだの?え?“お前から病院の診察の結果を言え”?えっと…さっきも言ったように医者にもなんで俺の体がこんなにも変化したのかわからないみたいだ。だから、その…原因もわからないから治療法も無いって……。世界にも例が無いって言ってた。つまりは…俺はずっとこのままだっていう事…らしい。ねえ、どうしよう。嫌だよ、まだ女の子とキスしたことも無いのに。え?“大丈夫、俺に任せろ”?なんかいい策でもあるの?俺を幸せにする唯一の方法?幸せ?すまん、意味がわからなさすぎる。あれ?皆どこ行くの?黙ってついてこいって、なんでお前が俺ん家で指揮るんだよ。えと…皆居間から別の部屋…和室そうカツオがいつも波平に説教されているあの部屋と似たような感じの和室に移って…あれ?座布団が4つ置いてある。父さんと母さんが並んで座って…その対面にお前が座って…その隣に俺が座る…のか?あれ?父さんどこ行くの?着替える?何でいま?ちょっと…行っちゃった。なんなんだ?あ、もどってきた。着物に着替えて…どうしちゃったの?普段そんな格好しないでしょ。母さん!母さんもどこ行くの?着替える?いいよ!着替える必要なんてないだろ。“何事も雰囲気作りが大事なのよ”って何の雰囲気作りだよ。いいから、座って。で、何なの?とにかく座れ?わかったよ。座ったよ。え?胡坐なんかかくな?行儀悪い?いままでそんな注意した事ないだろ。どうしちゃったんだよ、父さんも母さんもどっかおかしいよ。それと、お前も。何で正座してんだ?“ご両親に大事な話があるから正座するのは当然だろ”?はあ?何言ってんの?話があるって呼んだのうちらだし、お前は呼ばれただけだ。って、無視ですか。え?いきなり両手を畳についた?な、なんで土下座の形になってんの?“娘さんを僕にください!”?え???ちょっ…何?いきなり何を言いだす?“お前みたいな奴に大事な娘はやれん!”って父さんも何言ってんの?何?このコント。“絶対に娘さんを幸せにしてみせます!”?さっきの「幸せにする唯一の方法」ってこのことか!お前に幸せにしてほしくなんかないわ!“今度こそ君だけは幸せにしてみせるよ”?何を言っているかわからないよカヲルくん!って、お前カヲルくんじゃないだろ!


 最初から仕組んでたんだな?父さんと母さんがいると話が面倒になりそうだから俺の部屋でお前と二人で話をしているわけだが。なんでこんな事を……。首謀したのはお前か?うちの両親に俺の事を言ったら万一の時はお前にもらってくれと頼まれた?なんじゃそりゃ。それであんな小芝居を?バカだろ?言っとくが俺はお前に貰ってもらうつもりは無いからな。“じゃ誰にもらってもらうんだ?”だと?誰にもやるか!俺は俺だけのものだ!それにそんなことが成り立つわけないだろ?え?ラインで皆に俺とお前が一緒に暮らすようになる事が決定したと連絡した?また俺に何の了承も得ずに…。そんなの誰も信じるわけ……うちの両親の承認を得ていると一緒に知らせてる!?もうお祝いの返事もすでに来ている!?卒業と同時に名字を一緒にしよう!?俺のパンツを洗ってくれ?子供は男と女一人ずつがいい?一緒の墓に入ろう!?……帰れ!!


-五日目-

 今日はお前のせいで大変だった。皆から質問攻めにあったからな。“それは災難だったな”?なんで他人事だよ。ったく、後でお前からも昨日のラインは嘘だったって皆に言えよ。“それより早く弁当にしようぜ”?ほらよ。なんで俺がお前の弁当まで作らにゃならんのだ。朝、母さんに起こされてさ。まだ起きる時間じゃないのに叩き起こされて何事かと思ったら“今日から自分で弁当つくりなさい”だもんな。しかもお前の分も作れって……。お前、自分とこのおかんに作ってもらえよ。誰がお前の母さんだ!伴侶でもない!もう皆に招待状送付した?一緒になるの卒業後って言ってただろ。気が早いにも程がある。鬼が聞いたら笑いすぎで腹を壊すぞ。ってかそれ以前にお前と一緒になるつもりはねーし。なんだ、その予想だにしない台詞に驚愕しているって顔は。俺は女の子と一緒になりたいの!…確かにもうそれは不自然になっちまったけどさ。でも、女の子と手をつなぎたいの!女の子とキスしたいの!…できればそれ以上の事もしてみたい……。無理だよ、ああ無理さ!もう何もかもできないさ!…ところでさ女の子同士ってどうなんだろ?いや女の子同士で付き合うってのはあるってのは俺も知っているよ。でもさ、男同士ってさ男から見たら気持ち悪いしか感想がないだろ?女が見る女の子同士ってのも気持ち悪いって思うのかな?東和田さんに聞いてみろって?いや、あの人は当事者だから参考にならないんじゃないの?やっぱり変かな?そうだよな…やっぱ世間から後ろ指指されるよな。あーあ、元の体に戻れたらな…。え?“元に戻れたところで女と付き合えるわけじゃないだろ”?確かに…自分でも認めざるを得ないぐらいのガキッぽさのせいでクラスの女子からは弟みたいな見方しかされないもんな……。ん?ああ、そうだな弁当を食べよう。……どう?何がって、うまいかどうかだよ!無理矢理作らされたとは言え作るとなれば真面目にというのが俺のポリシーだからな。で、どうなんだ?“うまい”?えへへっバカ野郎、男が料理褒められて嬉しいわけないだろ♪足りなかったら俺の分も食べていいぞ♪実は体が変化してから食が細くなってしまってな。今回は初めてだったから二つとも同じ分量で作ってしまったけど、明日からは俺の分はもうちょっと少なめにしておくよ。“これでいつ一緒に暮らしても大丈夫だな”?バ、バカタレ!勘違いするな!俺はお前と一緒になるなんてこれっぽちも思ってないからな!ってか、お前自身どうなんだ?まさか、本気で俺と一緒になるつもりか?“嫌か?”って…俺の意見はどうでもいいだろ。お前の意思を確認したいんだよ。俺の意思を尊重するって…俺が嫌だと言ったら一緒になるって話も無かった事になるのか?“お前が本当に嫌なら無理強いはしない”って当然だ。じゃあ言うぞ。……ちょっと待って。どうしたんだろう…ただ一言「嫌だ」って言えばいいだけなのに何か頭ん中がモヤモヤとしてさ。どうしても「嫌だ」って言えないんだよ。“自分に正直になれ”?だから正直に「嫌だ」って言おうとしているんだってば!でも、言えないんだよ。“それはお前が本当は嫌だと思ってないからだろ”?そうなのか?自分で考えろって……わかんにゃい。


 さて、学校が終わって俺の部屋でお前と二人でいる状況なんだが、なんでお前を家に呼んだかと言うと見てほしいものがあるんだ。本当は昨日見せる予定だったんだが。えっと…どこにしまったかな…あったこれこれ。昨日、医者に渡されてさ…“年頃だから持っておいた方がいいよ”って言われたんだ。さっきの答えだけどさ、何で返答に窮したかと言うとこれを持たされたことで無意識にそういう行為を意識しちまったからじゃないのかって思ったんだよ。自分でも薄々気づいてたんだ。いずれ避けては通れない道だって。でも、俺は逃げてた。現実から目を背けてきたんだ。それが、昼にお前に自分で決めろって言われた時に、お前を拒絶したら俺はどうなるんだろうという不安が頭をよぎったんだ。あの時はわからなかったけど、あれからいろいろと考えてわかった。心の支えになる相棒が俺には必要なんだって。言っとくがそれとお前と一緒になるってのは別だぞ。その返答はいまは保留ってことでしておいてくれ。卒業までには答えをだすよ。え?“それまで待てない”?いますぐ答えを出せってか?それが難しいから待てって言ってんだろうが。“卒業まで待ってたらお前が他の男を好きになってしまうかもしれないだろ”?ちょい待て、どういう意味だ?俺が男を好きになるって言うのか? どこをどう想定したら俺がそんな悍ましい状態に行きつく結論になるんだ?俺は『抱かれたい』んじゃなくて『抱きたい』の!“男を抱けばいい”?マジ殺すぞ。…そりゃ確かにこんな体になっちゃったら女の子を抱くなんてガリレイがローマ教皇庁に地動説を認めさせるぐらい困難な事だって自分でもわかってるよ。でもさ、男として生まれたからには女の子と全身変形機能付き金髪美少女殺し屋が言うところの“えっちぃ”な事をしたいじゃないか!その夢を果たせないまま男に抱かれろっ?よくもそんな非道な事がぬけぬけと言えたものだな、ええ?おい!わかったって、何が?“お前が男のままでいたいという幻想を抱き続けている限りお前を俺の物にはできない”?…それで?“俺がお前の中の男の部分を全部とりのぞいてやる”?なにをする気だ?変な事したら大声出すぞ。待て、冷静になれ。いま俺を襲えばお前はホモかロリコンのレッテルを貼られるぞ。“愛の前にそんなリスク物の数ではない”?よし、わかった。お前がいま為すべき事は冷静になる事よりも正気に戻る事だったんだな。どこで狂った?最初からって…お前ロリコンだったのか。お前だけじゃなかったな。うちの学校の男子はロリコンが結構いることが俺へのラブレターの数で判明しているからな。同胞の多くがロリコンというのは認めがたい事実だ。でもさ、俺って顔はそんなに変わってないだろ?体が変化しただけでさ。それで俺に告白する野郎が出てくるのは元々女っぽい顔つきだからということか?そうか…だからいままで彼女ができなかったんだな俺は。そして、これからも彼女ができることは無い。体が元に戻らぬかぎり……。“だから諦めて俺のものになれ”?嫌だな、そんなの。なんかお前の言いなりになっているみたいでさ。とにかく、だ。少し待て。俺だって気持ちの整理がまだついてないんだ。そっちの『せいり』じゃねえ!……やはり俺にもいつかそれが来る日があるのかな?俺やり方知らないよ。あいつに聞くのか。なんか恥ずかしい。こんな事態になってなかったら未来永劫火葬場に運ばれるまで聞く事のない話だぜ?“じゃ、おかんに聞くか?”?それはもっと嫌だ。ああもう!なんで俺がこんなに頭を抱える事態にならんといかんのだ?俺が何をした?これが何かの報いだとしたら俺よりもまずお前がその報いを受けるべきだろ。少なくとも俺はお前よりは善人だ。なに?“神様はちゃんと見ている”?神様にしては節穴な目をしているな。俺とお前のどっちが善人か神様でなくてもわかるだろ。“だったら、報いじゃなくて慈悲だと思え”?なにが慈悲だ?…なるほど、いまのままではいつまでも彼女ができないからいっそのこと……って余計なお世話だ。神様だったら俺を哀れに思うなら彼女の一人くらい日本のどこかから転校させてくれるだろ。それとも何か?日本中どこを探しても俺の彼女になってくれそうな女の子はいないってか?ああ、そうですか。そうですとも。あなたの言うとおりわたくしめはちっとも男らしくは見えませんよ。女の子に頼られたことなんて一度もありませんよ。女々しい奴だと思うなら思うがいいさ。もう俺はふてくされて布団にくるまったからお前もう帰っていいよ。


-八日目-

 あ、おはよう。ん、俺が元気ないって?元気もなくなるさ。これ見てみ?朝、下駄箱に入ってたラブレターだ。まだ、俺にラブレター出す奴いたんだな。高校生の分際で愛を語ろうなど10年早いちゅーに。なんだこの「僕はあきらめません」とか「彼よりも幸せにしてみせます」とか書いてあるの。俺にラブレター書くなら女子に書けよ。これが最後の一枚か、どれどれ……………………へっ?な、なに?いきなり声をかけるなよ。びっくりしたじゃないか。ボーっとしてた?な、なんでもない。あはははっこのラブレターは例によって焼却炉で処分するよ。


 昼休みになって弁当を食べる時間になったが、今日は用事あるからお前ひとりで食べてくれ。ほら、お前の弁当だ。俺は後で食べるよ。いいから先に食べとけ!ったく…行ったか。じゃ、俺も行くか。……なんでこの人が俺に手紙なんか出すんだ?今更何の用があるんだろ……。


 …………んへ!?な、なんだよ、いきなり肩を叩いたりしたらびっくりするだろ。ぼ、ボーっとなんてしてないよ。ちょっと考え事をな。もう俺なにがなんだか…誰も信じられなくなりそうだよ……。“え?誰が?”だとっ?お前も他の連中もだよ!お前らバッカじゃねーの!?俺は男だぞっ!?それなのに、一緒になるだの、付き合ってくれだの、気持ち悪いんだよ!落ち着けだぁ?これが落ち着いていられるかっ!なに、もうすぐ授業?……俺はもう帰る!石田に俺はテング熱に罹患したと言っといてくれ。“テングじゃなくてデングだろ”?うっせぇ!


 もしもし?俺だけど。もう学校から帰ってきている頃合いだろうと思ってな、電話をかけた。ああ、気分は落ち着いている。それで考えたんだけど、俺もとに戻るまで学校休むわ。少なくとも気持ちの整理がつくまで学校には行かない。それから、それまでお前は俺ん家出入り禁止な。誰がお前の人生のパートナーだ!…実は俺の事を好きだって人がいるんだ。俺もこの人の事が好きだった…いまも好きだ。なんでいまの俺が好きなのか気になる点もあるんだが……。いや、付き合うつもりはないよ。だって、前の俺ならともかくいまの俺とこの人が付き合ったらおかしいからな。でも、この人はおかしくないって言うんだ。愛の為ならリスクなどあって無きが如しってお前みたいな事を言ってた。俺はそこまでは割り切れない。だから気持ちが落ち着くまで日本を離れようかなって。もしかしたら外国なら俺をもとに戻せる方法が見つかるかもしれない。もし、戻れなかったら俺も覚悟を決めてお前との事を真剣に考えるよ。じゃあな。ガチャン♪なーんてね、外国に行くなんて嘘だよ。こう言っておいたらまさか日本にいるとは思わないだろうからな♪じっちゃんの田舎でのんびりするかな。あ、学校に休学届出さなきゃ。あ、着信だ。誰だろう?もしもし……

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