貴文のSOS
あのケーキの一件以来、それまではまどかが遠慮して別々だった食事を共にするようになった2人。
あの店風のカニ玉が食べたいだのデザートはこれがいいだの、
翌日の予定だのと貴文が一方的に喋ることが多いが、それでもまどは一つ一つ丁寧に返事を返すし、表情はだいぶ和らいできたように貴文は感じていた。
そんなある日。
「やっべ!作った資料、データごと忘れた!」
大学内で鞄を探る貴文を見て仲のいい友人達が心配して声をかけてきた。
「え?タカ、大丈夫~?あれなきゃ今日の発表できないだろ?」
「……!!俺終わった…!どうしよう!」
「落ち着け。蘭もあえて追い討ちかけるな。順番を最後にしてもらってる間に誰かに取りに行ってもらえばいいんじゃないか?」
「さすが悠馬!まどかに頼んでくる!!」
バッと携帯を取り出して電波のいいところに走っていく貴文。
「……まどか?」
友人2人の目が不穏に輝いたことにはもちろん気づかなかった。
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その後、貴文のSOSに超特急で大学までやってきたまどかのおかげで、貴文の発表は無事に終わった。
「…にしても、ホントに助かった。ありがとう。」
貴文は頭を下げる。
「…貴文様。顔をおあげください。大したことをしたわけではありませんし、家に置かせていただいている身として当然のことをしたまでです。」
「いや。まどかがいてくれて良かった」
ポンとまどかの頭に手をおきながら見せるリラックスした表情は、
はたからするとかなり蕩ける微笑だった。
「……お役に立てて、よかったです。」
さすがのまどかも目を白黒させて詰まりながらも無難に返すことしかできなかった。
やってきたまどかを見て驚きを隠せなかった友人2人は貴文とまどかに近寄っていく。
「はじめまして。貴文の友人で道明悠馬といいます。
おい、お前はいつの間にこんな綺麗な彼女を捕まえたんだ?」
「バッ!誰が彼女だ!家政婦だよ!!」
「なんだ~彼女じゃないのかぁ~。えーと、まどかちゃん?
俺は貴文の友達で伊坂蘭っていうんだ。仲良くしてね?」
手をとって顔を近づける蘭に無表情のまましっかりと頷くまどか。
「はい。貴文様のご友人とあれば、もちろん。」
「う~んその無表情が逆に萌えるねぇ~。まどかちゃんと特別仲良くなりたいってことなんだけどね?」
「おい蘭、いくらなんでもうちの家政婦ナンパすんなよ」
「え~プライベートは自由じゃないの~?」
「うっさい!遊び人はアッチ行け離れろ!しっしっ!!」
どこか日本人離れしてモデルのような貴文だったが、
この友人2人もかなり人目をひく容姿で、さらにそこにまどかがいるわけで、つまり、構内においてかなり目立っていた。
どんどん4人を囲むように人だかりができていく。
翌日からイケメン3人の前に美女現る!と噂が広まったのは言うまでもない。
イケメンの無意識の蕩ける笑みってずるいですよね。