伝えたいことは
風が冷たく頬を撫でる。
水族館を出たあと、ディナーの予定を切り上げて貴文のマンションへ戻り、蘭はまどかの元々少ない荷物をさっさと伊坂の屋敷へと運ばせてしまった。
その間あちこちに電話をして全てをスムーズに進める様子を、半ば呆然と眺めるしかないまどか。
普段はのんびりしたチャラい雰囲気なのにやれば出来る、能ある鷹は爪を隠すとはこういうことなのか…
「あの…蘭さん、私なら今のままでも平気なので…」
貴文との接し方がわらかなくなってしまったまどかの為だとわかっている。
ただ、友人関係がギクシャクしないか、そこまでしてもらうのも悪い、と水族館を出てから言い続けているのだが。
そんなまどかの手をそっと包み顔を覗き込みながら、蘭は困ったような顔をする。
「うーーーーんと、そこまで頑なに拒否されると少し傷付くなぁ…とりあえず、まどかちゃんにも少し考える時間が必要じゃないかな〜?」
ね?と言われてもまだ迷うまどかだったが、ようやく納得したのか手を握り続ける蘭に折れたのか、貴文様に書置きを残します、と言って便箋を取り出してきた。
長い長い手紙を、一言ずつーーおそらく貴文のことを考え思い出しながら書いているのだろうーー時折笑みさえ浮かべながら書く。
蘭はその姿を黙って見つめていた。
そうして手紙を書き終えたまどかは、家を出た。
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家に戻って扉を開ける。
まどか達はすでに出て行った後のようだ。
部屋の扉が開け放されたまどかの部屋は、もぬけの殻だった。
2人でケーキを食べたことがつい昨日のことのようだ。
のろのろとした歩みでリビングにたどり着くと、ダイニングテーブルに手紙を見つけた。
おそらく別れの手紙ーーー数枚に渡っている。
『貴文様
短い間でしたが、お世話になりました。
夕飯は冷蔵庫の中です。
デザートにお好きな杏仁豆腐を用意してありますが、また食べ過ぎてお腹を壊さないように。』
お前は母さんか!
と全力でツッコミたくなりながら、読み進める。
『それから、冷凍庫に、レンジで温めると食べられるものを何点か入れてあります。
大学がお忙しい時も何も食べずに作業することはなさいませんよう。ご自愛下さい。
あとは、燃やせるゴミの日が明日ですので、生ゴミだけお忘れなく。捨てるのは朝8時半までです。
ゴミ袋はレンジの下の棚です。
トイレットペーパーは切れた場合洗面所にストックがございます。
それからーーー
』
おいまどか、なんだよこれは…
「あぁくそッ!」
貴文は手紙を握りしめて、家を飛び出した。




