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田舎者の成り上がり  作者: 松佐
第一章
9/17

王都への旅路1 (改訂)

早朝、俺は目を覚ました。カーテンと共に窓を開け放ち空気を胸一杯に吸い込む。迷宮内部の無機質なものと違う新鮮さがあった。一陣の風が吹く。宿の敷地に聳える大木から小鳥が囀り青空へ舞い上がった。ああ、ナチュラルに目玉を狙ってくる迷宮の小鳥と違って外の小鳥は可愛いな。


たわい無い日常の一幕も俺にとっては迷宮から脱出したという実感になる。それの最もたるは空腹だ。昨日は10年ぶりの食事ってことで随分と食べた。お陰で胃もたれ気味なのだが気分的にはまだまだ食べ足りないぜ!


・・気分に任せて朝食を鱈腹食べたら消化不良起こして王都への出発が一日延期になった。


翌日、朝市で必要分の食料を買ってから街を発った。途中途中で幾つか街や村を経由するつもりだが、ここは国の端っこだ。街から街への距離はかなりある。まあ、常識を守らなければ一日で王都まで行くのも容易いものの、逆に一日で走破できるのだから、あえてゆっくりと計画立てて行く。だから必然的に野宿をする場面も出てくるだろうから、食料は常備しなければならない。まあ、昨日・一昨日で痛い目を見たばかりだ。食料も最低限の量で抑えてある。故に事前に立てた工程通り進まないと昔と違って空腹に対する我慢が効かなくなっているから飢える事必至だろう。


しかし予定を立てた時に限って上手く進行しないのが世の常だ。最初のエンカウントは街を出て一時間経った頃だった。


「命オイテケ、コノヤロウ」


人語を解するリザードマンが現れた。もう、びっくりだね。時の迷宮でも人語を解するものは4500層以降にしか出現しなかったというのに明らかな雑魚キャラが喋ってるんだぜ?たった十年でこれが世の中の普通になってるんだから凄いよ。

ちょっと観てみよう。


リザードマン変異種Lv20

筋力800 体力1,000 耐久750 敏捷600 器用300 魔力100 氣力590

才能,剣術、人語 武器,血濡れのロングソード


ちなみにこれぞ定番、時の迷宮踏破特典が一つ、識者の魔眼である。視界に収めるまたは自身の知覚内に属するものを意識する事で対象の情報を読み取る効果を持ち集中するほど得られる情報は詳細な内容になる。乙女のトップシークレット(年齢or体重)すら白日のもとに晒してみせる恐ろしい魔眼なのだ。人間相手に使用した事はまだないけどな。


ビュンッ、変異体でしかも才能持ちだけありリザードマンの放つ斬撃は鋭い。足捌きも中々で振るった反動も次の斬撃に繋げてくる。上手い、上手いな。どれくらい上手いかというと時の迷宮100層前後に棲息する骨兵士(ボーン・ソルジャー)くらいだ。つまり弱いってことだけど。


刺突を沈み込みながら躱し懐へ潜る。そして少量の氣を螺旋状に絡めた貫手で腹部に突きを入れる・・腹から背まで貫通した。おかしい。当初の予定ではリザードマンが背後に吹っ飛ぶはずだったんだが。やっぱり数値を見ただけじゃ時の迷宮の下層を生息域とする魔物と対峙してきた感覚は補整できないか。


「ワタシハ四天王ノ中デモ最弱。イイキニナルナヨ」


腹に穴あいたリザードマンはそんなセリフを吐き、力尽きた。その後、一時間置きに四天王(笑)の残りと遭遇したが実力に大差はなかったように思う。それぞれ扱う武器は違った。途中、襲撃を受けていた行商人を助けたが、行商人の話によるとリザードマン変異種の4体は幾つも農村を壊滅させてきたネームドつまり賞金首だったらしく、首4つで金貨10枚の褒賞が出るらしい。記念に回収しておいてよかった。


その日はリザードマンとの遭遇以外特筆すべき出来事はなく日暮れまで歩き、野宿することにした。案外、街道には先人達の野宿跡が残っているもので整地の必要はなかったが、辺りを宵闇が覆う頃に問題を発見した。どうやら、ここら一帯は首吊り自殺者が大勢居る場所らしく手頃な高さの木には必ずと言って言いほど、ぶら下がっている。そうして、こちらに手招きするのだ。


こういう類は単に魔物と言わず怪異にカテゴリーされるらしい。けれど同類の幽霊(ゴースト)などは魔物カテゴリーである。何やらこの2つを分ける基準は能動的か受動的かの違いらしい。幽霊は自発的に人類を襲う。本来、魔物とはそういう存在だ。しかし怪異と呼ばれる者達は奴ら特有の精神に干渉する誘いで獲物に自発性を持たせ引き寄せる。つまり物理攻撃よりも精神攻撃に特化している。まあ有象無象の自殺霊程度なら一般人でも引っ掛かりはしない。


しかし自殺願望とかネガティブ思考な連中には効果覿面で誘われるまま木に近づき、気付けば奴らの仲間入りだ。下手すると被害が半端でないため自殺の多発地帯は立ち入り禁止に指定された後、聖職者による儀式で浄化されるのだが、


「きっと穴場なんだろうな。ほとんど手付かずじゃないか」


怪異は波長が合ったり霊感があったり俺のように特別な目がない限りは認識できないのだ。逆に認識しなければ奴らは無害と言って差し支えない。認識できぬものに障れはしないのだ。


だからと言って放置すると輪廻転生が滞る。それは澱みを生み、新たな迷宮を生じさせる原因となる。冒険者ギルドの記録によれば怪異を発端とする迷宮はほぼ100%活性迷宮らしい。ただこの十年に起きた騒動で活性迷宮の出現という現象に対する人々の警戒は薄れている。日常化とまでは言わないが、現存の迷宮の数は十年前の十倍以上というから、出現が頻繁過ぎて慣れてしまっているだろう。


もしかしたら、それが怠慢を生んでいるのかもしれない。将来起こりうる災禍の芽を摘み取るのも冒険者の務め。現世に囚われる死者を解放するのは生者の務め。就寝前にひと仕事だ。諸君らと彼の方に舞を奉じよう。ご覧あれ。


「氣翔天舞」


これは氣力と舞を生と死、輪廻転生を司るこの世界の亜神に奉納する事で短時間だが亜神の有する権能を借り受ける術。気功術には珍しい儀式魔法の様相を持つ技の1つだ。そして借り受ける権能は輪廻の輪。輪廻転生の流れから外れた怪異、幽霊系の魔物を流れに戻すもの。


ちなみに舞の振り付けは武術の型を滑らかに連続して繋げている。まあ割と適当なわけです。意外と様になるし鍛錬にもなるぞ。ほんと意外に。


10分ほど舞った所で全ての怪異が流れに還っていった。そのまま寝た。氣翔天舞は有用な技ではあるけれど氣力が垂れ流しの状態になる分、疲労激しいからな。それじゃまた明日。


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