蛇足的な閑話 (改訂)
あの日からどれほどの月日が流れたのか。戦って戦って戦い続けた日々の中で俺の感覚は麻痺し、時の経過を認識できなくなっていた。ああ、いや、そもそも時の経過なんてここには概念は存在しないんだった。
俺はあの日、ゴブリンを屠り尽くし迷宮の主であるゴブリンキング息の根を止めた。それによって迷宮は沈静化し魔物が溢れ出るという事態はとりあえずの終息を見せた。人間意外と何でもやれてしまうもんだな、と暫く感慨に浸ってたら、いつの間にか微睡んでいたのか目を覚ませばすっかり夜だった。仕方がないからもうひと寝入りして朝早くから瓦礫の片付けを始めて、夕方には粗方整備も終わった。田畑だった場所は綺麗に耕して無事だった苗や適当な植物の種を植えておいた。
俺はやりたかった事が一段落したから街に戻る事にして故郷を再び後にした。したはずだったが、気付けば迷宮の中にいた。しかし、ゴブリンキングの迷宮ではない。上手く言えないがその場は何処か異様な雰囲気を孕んでいて気味が悪かった。そして、碌でもないことに巻き込まれたな、とはっきり理解したのは最初の階層から3階層攻略した時だった。迷宮の通路に人が倒れていて、当然事切れていた。けれど、不自然にも腐敗した様子もない。しかし、遺体の着る革鎧は長い年月の経過を示すように朽ち果てている。その遺体の時は止まっていた。
悪いと思いつつも、遺体の持ち物を漁る。鎧と同様に朽ちている携帯バックから古びたメモ帳を見つけた。その時の俺は状況判断をするための情報欲しさにメモ帳を開き・・・もたらされた情報から自分の置かれた状況を理解した。この迷宮の名は時の迷宮。特徴は内部に取り込まれた者は身体的な老化が停止する。外に出る方法は踏破する他なく迷宮内で死ぬと死んだ者は何者かが迷宮を攻略するまで、迷宮内を彷徨う事となり成仏できない。
「VRMMOのデス・ゲームネタかってんだ、まったく」
ステータスはちゃんと向上したし氣力も回復する。何より空腹になる事がないのは、まあ幸いと言えた。体調は万全な状態で固定されるらしい。戦闘による負傷は別で、また質が悪かった。何せ一定の状態で固定されているため、細胞の活動も停止している。つまり自然治癒は見込めず実質治療は魔法やスキルによる手段が無ければ不可能なのだ。あの遺体は恐らく回復手段を持っていなかったのだろう。それはこの迷宮において致命的な事柄だ。
一応回復手段はあったが極力攻撃を避け、また受け流すといった技術を磨き、攻略を進めた。睡眠や休息は迷宮内に点在する安全区域内で定期的にとっている。何とも気の利いた迷宮だな、と皮肉るが虚しかった。何時しか俺の過ごす日々は戦闘と休息とに二極化し、結局は惰性である。よく分からない衝動に従って馬鹿やらかした末路がこれって・・・何が、あの村は俺の全てだった、人生だった、だ。完全に恥ずかしい奴じゃないか。ふとした瞬間に思い出す、自分の青臭いセリフに悶えながらも俺は戦った。
そして、迷宮を攻略していくうちに知り合いが出来た。迷宮に取り込まれた英傑たちの霊だ。彼らには様々な技術を教わった。その技術は度々を俺を勝利に導いてくれた。
英霊たちとの出会いと別れを繰り返しながら攻略階層が5000を数えた時、俺は村の入口に立っていた。全てが夢、幻だったのではないかと一瞬思ったが幾多も刻まれた戦闘の痕が、身体に染みついた英傑たちの技術が現実だと教えてくれる。まずは街に行こう。情報が圧倒的に足りない。今が一体いつなのかも分からない。