緊急事態だが里帰りしてきます (改訂)
エミリさんの魔物及び雑学講座
「今回はゴブリンのコロニーについてよ。簡潔に言っちゃうとゴブリンのメスがいるゴブリンの巣のことを言うの。なんだ、それだけか・・と思うでしょ?でも、メスがいるといないでは全然違うのよ。ゴブリンのメスは言うなればゴブリン製造機。平均で一秒あたり3匹は産む。それを死ぬまで続けるの。しかも、メスの産んだ個体はどういう原理か二時間程度で成体になる。つまり、ゴブリンの大量発生が起きるというわけなの。過去、所詮はゴブリンと侮って滅亡した国がいくつもあったから・・」
給水。
「冒険者ギルドはコロニー征伐を強制依頼としているわ。発生するゴブリンの量も数千数万では数えたりないし過去最悪の事例では数千万のゴブリンが発生し大陸の十分の一に相当する面積が荒野になったそうよ。その時は数万人単位の魔術師が協力し大規模殲滅魔法を打ちまくってゴブリンを排除したらしいわ。だからね、ゴブリンのコロニーを見つけたら即座に排除するか冒険者ギルドに情報提供するように。ちなみに情報提供者には漏れなく白金貨一枚の報酬が出るわよ。
神貨1,000,000,000G
金剛貨1,000,000G
白金貨100,000G
金貨10,000G
銀貨1,000G
銅貨100G
鉄貨10G
石貨1G
硬貨の価値はこの通りよ。まあ神貨は大国に一枚あるかどうかっていう希少なものだから一般ピーポーには関係のない硬貨ね。では、また次回」
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Eランク以下の冒険者は街の防衛組(強制)だ。まあ、当然の帰結ではある。コロニー征伐ともなれば、一度に相対する数が10や20というレベルではない。集団戦では実力の低い者=弱点、突破口だ。足手まといを戦線に加えるべくもない。攻めは精鋭部隊が、というわけだ。冒険者のランクという基準で考えれば、冒険者(仮)の俺も当然、防衛組なのだが、何故か遊撃という立場を与えられた。打って出たり、防衛したり、両方こなせということらしい。
役割が割り振られた所で他の冒険者達は準備のために動き始めた。見える範囲で逃げ出すという選択をした者はいないようだ。少しばかり意外だった。今回の場合は街の住人の護衛という形での逃げ道がある。しかも広範囲殲滅型の魔法を使える者が現在街にいないというのだから、火力不足が否めない。戦力的にかなり厳しいと言わざるを得ない状況だ。まあ受付嬢さんに言わせれば、
「ここの冒険者は大半がこの街出身ですから、やはり故郷が大切なのでしょう。それに冒険者は大抵一旗揚げたいという方々ばかりですから」
ということらしいが。
「筋金入りの馬鹿だと」
「ふふ、そうとも言えますが。男性とは英雄とか憧れるものじゃないですか?」
「生憎と俺は命あっての物種って言葉をこよなく愛する人間でして」
尤も、多少の無茶で栄光が得られる状態なら博打に出るのも吝かではないけれど。
「そういう考え方を大事にしてください。こほんっ、今回の報酬ですが依頼達成報酬が3120G、魔石の買取額が5000Gです」
冒険者(仮)、1日目はゴブリン一体につき50Gという報酬でかなり儲けさせてもらったがコロニーの出現に起因するインフレでゴブリンの討伐報酬額は暴落、魔石にしても小さく質も悪いため、1~3Gという具合になっている。まあ、それでも新人冒険者という視点で見れば、今の額でも相当高額な収入には違いない。
「頑張ってくださいね。子鬼殺しさん」
「その異名は不本意なんですが」
翌朝、冒険者ギルドにて冒険者に先遣隊壊滅の報が告げられた。激震が走るとはこの事だろうか。先遣隊のメンバーはそのうちの誰もがベテランと言える実力を持った斥候役で構成されていた。よもや壊滅する等、誰が想定したか。壊滅の報を持ち帰った構成メンバーの一人も敵状を報告後、意識を失い今も昏睡状態だという。
冒険者ギルド付近に集合した冒険者にギルドマスターが先遣隊の得た情報を伝えた。
「先遣隊の生き残りからの情報によると確かに複数のコロニーは存在したが現状(ゴブリンの大発生)の原因はコロニーにあらず。真の原因は山向こうの農村、今は廃村だが、そこに発生した迷宮。それも活性迷宮で恐らくゴブリンキングの迷宮だ」
迷宮・・歪みや澱が溜まった区画に発生する地下迷宮型ダンジョンの略称。迷宮にはその状態を表す呼称があり活性迷宮は迷宮から迷宮内の魔物がほぼ無尽蔵に溢れ出てくる状態をいう。
「溢れ出たゴブリン共は現在、こちらに進軍中。上位個体も確認されている。ここまでの到達予測時刻は今日の正午。数は10万。尚、この数字は確認した時点で進軍していた数だ。仮にこれを退けても奴らには幾らでも予備戦力が存在するであろう事は想像にかたくない」
空気が重苦しい。ギルドマスターは言葉を続けた。
「故に領主との協議の結果、現時刻を持ってこの街は放棄し昨日の強制依頼を撤回。街の住人の避難に協力せよ、それを強制依頼とする」
エミリさんによると当初の想定ではゴブリンの数は2万。それでも驚異的な数であるが2万ならばどうにかする手段があったらしい。しかし、実際数は想定の5倍。相手側の予備戦力を含めれば十数倍、いや数十倍の可能性もある。そして現状、この街が滅ぶのは限りなく100%近い確率で確定していると。
「昨日の今日でこれは急展開がすぎる」
誰一人逃げずに戦うと、と意気込んでいた翌日に撤退命令とは。
「広範囲攻撃魔法が使える人材がいなかったのも災いしたわ」
「見るからに物理職の方々ばかりですしね」
「時間稼ぎが出来れば応援も呼べたのだけど」
「エミリさん。時間稼ぎはどの道しないといけませんよ」
「それもそうね。この街、高齢者多いから避難に時間が掛かるわ」
いつも快活に話すエミリさんの表情は強張っていて、俺との会話も搾り出すようで声も低く硬い。悔しさ、歯がゆさを押し込めて彼女は現状に耐えていた。今この場にいる大半の冒険者もギルドマスターも彼女と同じ様子だ。ここは彼らの生まれ故郷、とても大切なんだろう、胸抱く愛着はとても強いものなんだろう。それくらい誰でもわかる。
決定的に俺とは違う。
「この街が大切ですか」
俺は逃げてきた。故郷から。
「当たり前よ」
彼らのように故郷が大切だと、言えない。
「どうして?」
つらかったのだ。親から認められず、しかも奴隷にされる所だった。
「ここで生まれてここで育ったの。辛いことも楽しいことも全部、ここで知ったの」
優しかった前世の両親の記憶があった分、その差に絶望さえ感じた。
「・・・・」
つらかった、つらかった、つらかった、つらかった。
「この街は私の人生そのものだわ」
けれど、数週間前まではあの村が俺の全てだった。紛れもなくあの村こそが俺の人生だった。村から逃げ出してから俺はずっと忘れようとしていた。けれど、思い返してみれば、家族のことを除けば本当にいい村だったように思う。村の人たちは家族を除いていい人たちだった。食べ物も恵んでくれたしな。
だから不本意だと思った。ただ不本意だと。先祖から脈々と受け継いできた土地、みんな(俺の家族除く)が丹精込めて耕し育んできたあの場所の現状が。昨日、命あっての物種だなんてほざいてた野郎の考えることじゃない。でもまあ、きっと俺が筋金入りの馬鹿ってだけなんだろうな。
「・・そうですか。なら、ちょっくら里帰りしてきます」
「・・はい?」
「エミリさん、お世話になりました。機会があればまた会いましょう」
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結果的に街は無事だった。何者かによって侵攻していた10万のゴブリンは駆逐され、廃村周辺で幾つか形成されていたコロニーも壊滅。さらには活性迷宮も主が討伐された事で沈静化していた。今回の事例で死んだゴブリンの総数は上位種を含め約200万体。その数の討伐を誰が為したのか、どのように為し得たのかは未だに不明だ。そして調査隊が調査する中で不思議な事が一つあったという。飛龍によって壊滅したとされる迷宮発生元の廃村だが、放置されていた瓦礫が綺麗に片付けられていた上、荒れ果てていた田畑が耕され村の中央には村民の数だけ墓が掘られていたのだ。結局、事の真相が判明することなく調査隊は引き上げていった。
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ノエル 職業,氣の繰手Lv50
筋力AAA-(2424)+(1200)
体力EX(4379)+(700)
耐久AA+(2187)+(900)
敏捷S-(2256)+(700)
器用A+(1809)
魔力F-(0)
氣力EX(5982)+(300)
才能,拳闘、体術、強化、闘気、気功術、操氣術、氣弾の射手
PS,身体及び身体構造強化、並列思考及び思考加速、知覚及び反射神経強化、内功 及び外功強化、打撃威力+++、近接格闘技術++++、闘気++
AS,氣弾、威圧、操氣、氣鎧、見氣、氣纒