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それから時間にして十分程が過ぎた頃、私と男は目的の場所に着いたらしく、男は足を止めた。見渡すと、まだ明るい時間だというのに辺りはシンと静まり返っていて、すぐ側に建ち並んでいるビル群の影の所為で薄暗く、またどこかジメジメしている。一言で言い表すと、何とも薄気味悪い空間だった。
「……何よ、ここ」
「とりあえず、そこに入れ。そうすりゃここに連れて来られた理由も分かるだろうからよ」
私の質問を無視し、男は眼下の石階段の下を指差す。
そこには、古びた木製の扉があった。地下に取り付けられたその扉は、この場所が元々暗いのもあって余計に薄暗く見えた。
「……分かった」
男に言われた通りに、私は一段一段階段を降りていく。一歩進む度に伝わる確かな石階段の感触は、どこか異常なまでの無機質さを持っていて、逆に不気味だった。
中に入ると、さっきまでの暑さが嘘に思える程涼しい、というよりは冷たい空気が私の全身を包み込んだ。少しエアコンを効かせ過ぎなのではないだろうか。なんて、そんな事を考えながら辺りを見渡していると、
「――――」
この場所の異常さに、私はようやく気がついた。いかにも地下のバー然とした雰囲気を出しているこの場所には、男しかいないという確かな異常に。
ただ男の客と店員しかいないのなら、私だって異常には思わなかったと思う。しかし、どう見てもここにいる男達は一人残らず異常だった。だって――――
だって、男達は全員、たった今店の中に入って来た私を、まるで待っていたかのように視ていたのだから。
「これは………」
何かおかしい。嫌な予感がする。そう思って後ろを振り返ると、そこにはあの巨漢の男が立っていた。いつの間にやら中に入って来ていたらしい。
「どうかしたか?」
にやにやと口角を上げながら、男は私に尋ねる。
「お前は一体、どうして私をここに……!」
「さっき言っただろ。入れば分かるって。……なぁ、お前ら」
にやにやと笑いながら、他の男達は頷く。どうやらここにいる連中は全員、この男とは顔見知りらしい。
「だから、入っても解らないから聞いて――――」
いるんだろ。そう続くはずだった私の台詞は、思いもよらぬ形で遮られた。