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メのセカイ  作者: 滝馬 劉
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目が覚めると、色々なものが()えてくる。

それは、目映いばかりの陽の光だったり、

それは、ひんやりとした地面に散らばる無数の機械たちだったり。

それは、鈍い温かさの残る金色の光だったり。

それらは所詮毎日視ているただの映像でしかないが、私にとっては、その大概が消化しきれない黒い感情をぶつけるための対象だ。

人間って生き物はどこまでも醜い存在で、人間って生き物は、どこまでも都合のいい存在でしかない。

それが私が十数年かけて学んだ世界の真実だ。

――――なんて、そんな詩人めいたことをいくら考えたって、結局私だって人間なのだから、やはり都合よく生きているのだけれど。



「――――」


街の中を歩くと、自然と人々の視線を感じる。

蝉の鳴き声が頭のなかに反響する夏の昼下がり、うだるような暑さの中で、しかし彼らの視線からは確かな冷たさを感じてしまう。……まぁ、人間慣れというのは恐ろしいもので、今の私はそんな視線くらいじゃ驚かなくなってしまっているのだが。

きっとそうなってしまったのは、そんな程度で驚いてたんじゃ、この世界で生きるのが難しかったからだと思う。

「はぁ………」

暑い。

真夏日、猛暑日。そんな言葉が似合ってしまう今日のような街中の空気は、正直かなり鬱陶しい。せっかく着てきたそこそこお気に入りのワンピースもこの暑さで汗に濡れてしまっているし、何より異常に蒸れている自分の体と、汗で額に張りつく前髪がかなり気持ち悪い。

「うえぇ~……」

ぐうぅー、と、軽快な音が私の胃袋から鳴り響く。こんな異常な暑さの中でも、どうやら人間の体という物は正常に働くらしい。

そういえばここ三日間くらい、私は何も食べていない。

腹が空くのも納得がいく。

喉の渇きもそうだが、空腹というやつは人間を駄目にしてしまうものだと私は思う。少し、いやかなり気は進まないけれど、今日はちゃんと食料を確保すべきだろう。

「………」

見ると、前方に強い太陽光を受けて看板が爛々と輝いているコンビニエンスストアが在った。

この真夏日、喉の渇ききった人たちにとってここは、正に街中のオアシスそのものだろう。

ごくりと、私は生唾を飲み込む。

気が進まないなどと私は先述していたが、いざ目的の場所を目の前にすると、やはりお腹の中の虫の悲鳴が強くなってしまい、我慢できなくなってくる。やっぱり、人間というのは欲望に正直な、都合の良い生き物なのだと思う。

――――なんて、どうしようもない事を考えながら、しかし私の体は目的地であるコンビニの中に在ったりする。

当然店員からの「いらっしゃいませ」という挨拶はなく、他の場所を出歩く時と同様に、客達の冷たい視線が私に向けられる。


まったく、誰も世界を壊そうとなんかしないってのに。


「――――」

まるで汚物を見るかのような彼らの視線を無視し、私は弁当のコーナーへと進む。

さっきからくぅくぅお腹が鳴っている。いよいよ私の胃袋も限界のようだ。

「……」

唐揚げや海老フライといった揚げ物が盛りだくさんの弁当を手に取り、私は隣の飲料コーナーからペットボトルのお茶を一本取り出す。……まぁ、若者の食事としては妥当なところだろう。

……とは言っても、私には今お金なんて物はなく、この弁当を買う事は出来ないのだが。

……けれど、私はこの食べ物と飲み物を、どうにかして持って帰らなければならない。つまり――――

「ごめんなさい」

一応謝罪の言葉を告げ、私はコンビニの出口へ向かって走り出す。すると、少し遅れて店員の怒声が店内に響き渡った。

「汚ぇ足でウチに入っただけでなく、商品を盗もうたぁいい度胸じゃねぇか、この魔眼持ち野郎が!!」

……やっぱり、この行動をとるとどこでも酷い暴言を吐かれる。

まったく、ただの一人の人間に、この人は何を恐がってるんだか。

「ただじゃおかねぇ!」

言って、巨漢の男性店員はレジを抜け出す。

よし、そろそろか。

「――――ぁうっ」

キュッと靴が床に擦れ、私は膝から床に落ちる。

「………」

くそっ。何でこんな時に靴ひもがほどけて――――

「……よう、魔眼持ち」

「………」

まずい。まずい、まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!取り敢えず落ち着いて、早く逃げないと!

「顔、上げろよ」

「………」

「上げろ!」

叫び、男は近くにあった商品棚を蹴る。……悔しいけれど、反射的にビクリと体が反応してしまった。

「――――」

男に言われた通り、私は顔を上げる。私は床に座っているので、自然と男を見上げる状態になる。

「――何だお前ぇ、まだガキじゃねぇか」

「何を、ガキとは失礼な」

「あ?何か言ったか化物?」

少しでもいい。とりあえずは集中力が回復するまで時間を稼ごう。……じゃなきゃ、私は多分――

「……まぁいいや。お前、どうせどこ行っても働かせてもらえなくて、そんで物を盗んだりしたんだろ?」

「……」

「人類の敵が貧しさから物を盗んで警察に捕まっちまうなんて、ざまぁねぇぜ。……と言いたい所だが、そんなことをするほど俺は外道じゃあねぇ」

「……どういうこと?」

「そのまんまの意味だ。お前のやる気次第では警察につき出す気は無ぇって言ってんだ」

「やる気って……何の?」

「まぁ、来れば分かるさ。着いてこい」

言って、男は私の手を引っ張る。……凄く不愉快だ。

「……いい。自分で立てる」

私は男の手を払い、立ち上がる。再び男と目が合った。

「生意気な女だ」

私はそのまま、男と共に店を出た。

今思えば、この時男が私の事を“ガキ”ではなく“女”と呼んでいたという簡単な事実に、気づいてもよかったはずなのに。

まぁ、気づいていたとして、何も変わらなかっただろうけど。


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