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中編

勢い余って『前後編』モノだったのが『前中後編』モノになっちゃいました。

いよいよ宇宙旅行の始まり、やっと飛び立ちますよぉ。

でも、飛んでいる間はごにょごにょごにょ。

さぁ、お読みくださいませ。

 まるでコンニビの買出しから戻ってきた大学生ような姿の僕が、招子の銀色に光る宇宙船に乗ることに自分のことながら、酷く違和感を感じていた。

 曇一つ無い銀色で、流麗で流暢な流線型で、それ程までに美しい招子の宇宙船。僕の心の中では、この非現実的な美しさと、それが現実に目の前にある事実とに懐疑心を持ち、そしてそれに自分が乗り込むんだということが実に不可解で不思議に思えて、どうしてもこの現実に馴染めないでいた。

「タカシ助手様、シッカリしてくださいませ」

 かわいい顔で、しかし目だけは紫色の妖しい光を放っている招子に揺り動かされて、初めて我に返った。

「あ、あぁ。何だか足元がフワフワとしててね。現実かどうか、自分でもよく分からないでいるんだ」

 僕は正直に、自分の心根を吐露した。

「あははは。そんなことで驚いてちゃ、この先もっと大変ですよ、うふふふふ」

 招子はクスリと笑いながら、僕の背中を押して船内へと案内をした。

 招子の含み笑いが意味することをようやく知り、僕の背筋に冷たいモノが走ったのはその後すぐのことだったのだが。


 宇宙船の中に入ると、そこには操縦席なのかそれともラウンジなのか、壁面全部がやはり銀色で、しかも相当に広い四角い空間で、広い船内の中央に銀色の蓋の開いた箱がある。それはどうやらこの部屋の床と一体となっているようだった。

 その他には何も見当らず、ただ持ち込んだ荷物が部屋の隅に雑然と置かれているだけだった。

 ダン教授は、既にスペーススーツを着て、頭にはヘルメットを被っていたが、夏美はタンクトップで超ミニスカートにサンダルのいつもの夏美ルックだった。

 当然だな、何と言っても夏美はロボットなんだからさ。あ、失礼。ガイノイドって言わないと夏美に殴られるんだった。

「タカシ助手も早くスペーススーツを着たまえ。ヘルメットも被って早くしなさい。発進時刻はもうすぐなんだぞ」

 僕は、ダン教授の言われるままに、つなぎのようなダブダブのスペーススーツを服の上から着込み、首までチャックを絞めてから、そこにヘルメットを装着した。

「よーし、これでいいかな? スペーススーツは一体型だから、スーツのチャックとヘルメットがシッカリと固着しているか、確認だけしてくれ」

 僕は言われた通り、チャックを確認しヘルメットを確認した。

「大丈夫です。これでOKです」

 僕がそう言うと、ダン教授は胸の小さな赤いボタンををした。すると今までダブダブだったスーツがギューッと縮み、ある部分では伸び、僕の身体にジャストフィットした。

「どうだ、動けるか?」

 ダン教授の言葉に、僕は立ち上がってジャンプしたり屈伸したりした。

「スゴイですね。まるでこのスペーススーツ自体を全く感じないですよ。まぁヘルメットは仕方ないですけど」

「ここに帰ってくるまで、このスーツは解除出来ない。逆に解除できるような状況にはないということだけ、頭の隅に置いておいてくれたまえ。要するにだ、大気が無い、あるいは大気があっても、我々が呼吸できる大気ではないと。ざーっと言えばそんなところだ」

 ひぇーっ、地球に帰ってくるまでこの姿のままってこと?

 それに、人間が呼吸出来ないようなところへ行くんですか?

 そんな状況なのに、こんなペラペラの『スペーススーツ』とやらで大丈夫なんですかねー?

 僕、ムッチャ不安。

「もちろん、このスーツはGCR(ギャラクシーコズミックレイ)をも防ぐことが出来るし、酸素もスーツ内に一週間分を確保してある。二酸化炭素は自動排出される仕組みだ。原理や動作はここでは省略するがな。帰ってきてからでもゆっくりと説明しよう」

 空気のことは分かったけど、食べ物とかおしっことかは?

「食料は口から摂る必要がない。これもこのスーツに仕込まれた栄養補給装置が、君の体内に表皮を通して浸透していく仕掛けだ。この補給には胸の部分の小さな装置が交換ユニットになっている。喰わないからウンチは出ない。それに、浸透栄養補給液の中に排便や排尿をする気持ちにならなくする『シターク・ナーイ』を配合させてあるから大丈夫だ。尿は二酸化炭素と同じで、自動除去される。ただし一日一回、針を刺す痛みを感じるだろう。それが尿を排泄するためのプロセスだ」

 こんな薄っぺらのペラペラなスーツにそれだけの機能を盛り込むなんて。なんて恐ろしい科学力なんだろうかと、僕は変なところで感心してしまった。

「クシ教授の考案した『ポジティブ・セックス』はコストダウンを図ったので搭載してない。ちなみにそれはどんなものかというと、このスーツを着たままセックスが出来るという代物だ。コイツは結構な金食い虫でな……」

 ダラダラとダン教授が説明していると、招子が割り込んでいた。

「ダン教授、時間がありません。タカシ助手様への説明はこれくらいで」

「おぉ、そうだった、そうだった。それでは招子クン、発進準備に入ってくれ。私とタカシ助手は部屋の隅で待機することにしよう」

 そう言って、ダン教授は僕の手を引いて部屋の壁際に連れてきて、壁を背中にして座り、僕にも座らせた。

「じゃ、夏美さん、お願いします」

 ダン教授と僕が座ったのを見届けた招子は、夏美に声を掛けた。

「あいよ」

 そう言うと、夏美は招子の後ろに廻って、首の辺りをいじくった。

 すると、そこから紫色の半透明で液体のような、いや粘土というべきか、そんなの塊がモコモコとあふれ出てきた。

「う、うわぁ! アレは何ですか、アレは一体なんですか!?」

 僕が思わず声を上げて立ち上がろうとしたのを、ダン教授は僕の腕を捕まえて必死で押さえていた。

「あれが招子の本体、無形生命体だ。精神生命体とは違い、有物質生命体だが、特定の形を持たない生命体なのだ」

 ダン教授の説明に耳を傾けながらも、ワナワナとしている僕だった。

 そうか、さっきの招子の含み笑いはこのことだったのか。

 そりゃ驚くってば。腰も抜かすってばさ。

 まるで『うごめくサツマイモ』みたいなんだもの。

 しばらくすると招子だったものは完全に抜け殻になり、しおしおに萎んでいた。そして、紫色をした無形生命体は、部屋の中央にある銀色の箱へと向かい、その中に入っていた。

 箱の中に、紫色の無形生命体が完全に入り込んだのをに届けてから、夏美はその蓋を閉じた。

 すると部屋の片面、ダン教授と僕が座っている正面に招子のCG画像が現れた。

「タカシ助手様、驚かせてごめんなさい。私はサジタリウス腕中央部の星『ガネーシャ』からやってきた、本名は『サヴィトリー・ダキーニー』と言います。私の故郷は強い恒星の二重連星なんです。形があると恒星に焼かれてしまうので、こんな形の進化を遂げたのです。今では銀河人として認定され、特に私は精神感応力の強さを乞われて、こうして銀河連邦の仕事をしているのです」

 僕は、黙って静かに聞いていた。聞くしかなかったのだが。

 しおしおになった招子の抜け殻は、夏美がハンガーに掛けて部屋の隅に吊るされた。

「この『招子スーツ』もフィーンド・パレスの産物だ。特にクシ教授が丹精を込めて作ったことは、今では伝説となっておるわぃ」

 ダン教授はしみじみと語っていた。

 道理でやたらと「かわゆい」んだと僕は納得した。


「それは発進します。先ずは銀河連邦サジタリウス州の州都惑星『テミス』へ寄って定期報告をしてから、私の星『ガネーシャ』へと進行します」

 僕はふと疑問に思ったことを口にした。

「ちょ、ちょっと? ここは海の底でしょ。少なくとも十メートル以上の海の中だ。そこからそんな深遠な宇宙空間へどうやって?」

 ダン教授は、僕の脇腹を突っついた。

「おまえ、東京のコンビニに行っただろ? 大学は何処にある? 沖ノ鳥島、日本の最南端だ。その海底ドームが大学の所在地だ。そこから瞬時にどうやって移動したんだね?」

 僕は、その時点でやっと気が付いた。

「そうか、そうだったのか。あのテレポートゲートは元々、この招子の宇宙船の動力、次元透過粒子発生装置(DPPPD)なんだ。粒子を異次元へと透過させる装置で物質の情報に変換して次元を超えて送り込み、目的の場所へとモノを再構成させる。分かりました。理解できました」

 僕は得意顔で答えたら、ダン教授と夏美は完全に呆れ顔をされていた。

 招子の反応はどうかなと、僕は正面のスクリーンを見ると、星間図が表示されていて、それは見たことも無い星系図になっていた。

「申し訳ありません、タカシ助手様。ウダウダと説明している間に、州都惑星『テミス』に到着しています。私はこれから報告に行ってきますので、しばらくお待ちください」

 部屋の中央にあった箱が床へと消え去り、何処かへ行った様子だった。

 招子は淡々と仕事をこなしていたのだ。

 僕は完全に置いてきぼりだった。

 ちょっと淋しいぞ。

 ぐっすん。

「あのさ、この次元透過粒子発生装置(DPPPD)は、特にこの招子の宇宙船のヤツは、ダン教授が改良したからかなりのスピードアップをしたのよ。距離が短ければ瞬時に移動できるけど、絶対的な距離を無視することは出来ないの。だから、一万光年で五分弱ほどの割合でタイムラグが発生するようになる。五千光年で二分ちょっと、千光年で二十五秒ほどのタイムラグとなるわね。でも、ダン教授とタカシ助手サマのお喋りの時間は十分をこえていたからねぇ。一万五千光年ちょいの『テミス』までなら、とっくの昔に着いているって訳よ」

 夏美が何時に無く、優しい口調で僕に説明してくれた。

 ありがとう、夏美。いつもそんな風に優しいと僕は嬉しいんだけど。


 突然、部屋の中央がこんもりと盛り上がった。招子の入っていた箱が帰ってきたのだ。

「只今戻りました」

 壁面のディスプレイには、ぬいぐるみを着た時の招子のCG映像が映し出された。

「おかえり。首尾は? 上々じゃろ?」

 ダン教授はいつもの調子に戻っていた。

「えぇ、仰る通りの上々でした。非公式な州都本部の見解だからということで関係者以外の公表は差し控えて欲しいとのことですが、ダン教授並びに沖ノ鳥島の皆々様に対して並々ならぬ敬意を払っていると伝えて欲しいとのことでした。有り難いことです。特にDPPPDの改良に関してはすぐさま、中央銀河連邦に申し伝えるとのことです」

 招子はそう言ってにこやかに笑った。

「そうか、それは良かったな。太陽系も満更ではないだろ、悪くはないじゃろ?」

 ダン教授がそう言うと招子は照れた。

「まぁ、そう、ですね」

「良かったな、招子」

 夏美は、にこやかに笑ってVサインを出した。それに応えて、招子も画面上でVサインをした。

「あら? タカシ助手様はどうされたんですか? 落ち込んでいるように見えますが」

 招子は目ざとく僕を見付けた。

「招子、今はそーっとして置いてやんな。タカシ助手サマは、いつも能天気な時ばっかりじゃないんだとさ」

 やかましいわ、夏美! 誰がいつでも能天気だって?

 でも、今はそんな風にカラ元気も出せない「タカシ助手」なんですよ、えぇ。

「あまりにも、目の前で起こっていることが目まぐるしくってさ……」

 あれ? 独り言を言ったら、僕の目から何かがあふれてきたけど、スーツの除去装置のお陰ですぐに乾いちまったよ。

「大丈夫ですよ。あたしの両親に逢ってくださいな。元気が出ますから」

 招子は、僕を元気付けてくれた。

 僕はその言葉だけで、今は十分に嬉しかった。

 その言葉の意味することを知るまでは。


「さて。では、私の生まれ故郷『ガネーシャ』に向いましょう。ものの三分で着きますから」

 招子はとてもご機嫌な様子だった。

「どうした、招子? 何か良いことがあった?」

 その様子に夏美が突っ込んだ。

「えぇ、今回の私の働きによって両親にも特別ボーナスの支給があるんです。だから早くそれを知らせたくて」

 画面の招子のCGは満面の笑みだった。しかし、こんな無形生命体から感情表現を取り出せるものだと、乗船時から僕はズーッと感心していた。

「あのCGはサカツキ教授の自信作なんじゃ。素晴らしいだろ。完全に感情を表現している。感情を数式化・方程式化するためには、彼のコメディーに対する造詣の深さが無かったら出来なかった代物だ。いやー、実に素晴らしい」

 ダン教授は、画面を見る度に感心してうなづいていたのだった。


「既に『ガネーシャ』には辿り着いているのですが、どうも様子がおかしいです」

 CGの招子は心配そうな表情をした。

「どうしたんだ? 君の星に争いなど無いことは承知しているけれどだな……」

 ダン教授も心配になってきたようだった。

「……あ、なーんだ。そーゆーことですか!」

 CG招子の表情が急に明るくなった。

「私の功績が既に『ガネーシャ』にも伝わっていて、功労者として待遇するからしばらく入港を待てとのことです。そして、地球の友を客人として迎え入れるとのことです」

 おぉ! 何か途轍もなく話はスゴイ大きくなってる!

「ステーションBにて迎え入れるとのことです。いつもの通りでお願いします。……あ、タカシ助手様、普段通りの振る舞いでOKですから。いつも通りで。あ、我々の姿を見ても驚かないようにだけは言って置きますけど」

 僕はニヤリと弱く笑った。というのも、驚かないという自信が無かったからだ。あの紫色のグニュグニュと動くものに対して、僕はまだ免疫が無い。それだけはハッキリしていた。

「ステーションBのドックポートに接岸、オートパイロット作動」

 軽いショックが船体に伝わった後、急に音が静かになった。

「じゃ、私は箱から出て先に行きます。詳しいことは追って、夏美さんのテレパス感受装置で皆様にご連絡致しますから」

 招子がそう言い終わると、壁面のCG画像は消えて、箱が自動的に開き、『サヴィトリー・ダキーニー』という名の紫色の無形生命体が這いずるように搭乗口へと去っていった。

後編を期待していた方、ごめんなさい。

ついつい面白くて、タイプする手が止まらない、止められない。

シーンを想像するだけで、キャラは勝手に動き始めるのは楽しいですなぁ。

今度こそ、後編をお楽しみにしてくださいませ。

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