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前編

前回の勢いを取り戻せるか、ダン教授とタカシ助手は?

とりあえず、長くなりそうなので前編ってことで。

SF要素満載でお送りいたします。

ご希望によってはストーリーを捻じ曲げようっかな。

「すみませーん、遅れて申し訳ありませーん!」

 僕が慌てて駆け込んだ、第一中央研究管理棟の第三十七小会議室には、そこそこイケメンだけどドーナッツの座布団を椅子の上に敷いて座っている男性とやたらとケバくてどう見積もってもお水のおねえちゃんにしか見えない女性が座っているだけだった。

「大丈夫だよ、まだ始まってないから」と男性。

「えぇ、ホントよ。嘘は言わないわよ」と女性。

「は、はぁ」と僕。

 タカシ助手こと僕は、ダン教授の名代として年度末の決算査定と来年度の予算公告の会議に出るようにと、ダン教授に言われたのだ。それもつい三十分前に。ダン教授も無茶苦茶だよぉ。何しろ初めてのことだから、何がなんだかサッパリ解らない。ダン教授の助手となった僕に何でも言い付けるんだから敵わないよなぁ。

「大丈夫よ、心配することなんてないわよ、坊や」と女性。

「そう、我々『フィーンド・パレス』の研究者は特別だからね」と男性。

 僕は、そこで初めて気が付いた。この二人は、僕と同じ研究棟の人たちだってことに。

 イケメンで痔の男性は、理論物理学者で数理学者でもある『阪築(さかつき) (きよし)』教授、通称「サカツキ教授」(そのままじゃねーか)だ。そして、このキャバクラの姉ちゃんは、自称「性科学専門家」と言ってはばからない生物学者の『(くし) 兵太(へいた)』教授、通称「クシ教授」(こっちもそのままじゃねーか)の第一秘書の源氏名『優美子(ゆみこ)』さんだ。

「君、今度、ダン君の助手になったんだよね?」

 僕が頭の中で確認していると、不意にサカツキ教授に訊かれた。

「あ、はい、そうです。ダン教授の助手の『(けい) (たかし)』と言います。以後、よろしくお願いします。えーと、サカツキ教授と、それから優美子さん」

 僕がそう答えると、サカツキ教授は握手してきた。

「タカシ助手か。こちらこそよろしく」

 優美子も立ち上がってしなを作った。

「あーら、あたし達のこと、良く知ってるじゃないの。嬉しいわ。こちらこそ、よろしくねぇ」

 優美子からは強烈な香水の匂いが漂い、僕は危うく倒れそうになった。


 ようやく落ち着いて僕が席に着いた時、後のドアが開いて数人の取り巻きと共に、あの朝霧侑華が会議室に入ってきた。

 朝霧侑華はボディラインがくっきりと分かるグレーのビジネススーツに白衣をまとい、コツコツとハイヒールの音を響かせて、僕らと対面になる席に着いた。長い髪をアップにして、ウェリントンタイプの黒縁メガネが妙に決まっていた。

「サカツキ教授、お元気? 痔はまだ治りませんか?」

 朝霧侑華の問い掛けに、サカツキ教授は苦笑いで答えていた。

「相変わらず、クシ教授は『リサーチ』で忙しいようね。優美子さんがキッチリと締めてくれてるからいいようなものの……。たまには私に顔を見せるように言っておいてね」

 朝霧侑華に問い掛けられた優美子は、敵対心というより同盟同志のように微笑んで答えた。

「えぇ、まったく。最近じゃあたしにも顔を見せない始末ですわ。今じゃ、第七秘書くらいまで存在しているかも知れませんわね。一度確かめてから、キッチリと締めておきますわ」

 それを聞いた朝霧侑華は、安堵の表情を示した。

「お願いしますね、優美子ちゃん」

 そして朝霧侑華は、僕の方を見た。

「えーと。今日はダン教授じゃなくてタカシ助手ってことね。ちっ、まぁいいわ」

 おいおい! 『ちっ、まぁいいわ』ってどーゆーことだよ。憧れの侑華先生に「ちっ!」とか言われるなんて。ぼかぁ、泣けてきましたよ。

 僕が俯いていると、朝霧侑華の声がした。

「あ、変な意味じゃないのよ。これでダン教授の実態をコト細かに聞けるってことだから、それはそれで私は楽しみなのよ。タカシ君、ダン教授のことをシッカリとレポートしてね。これ、侑華のお願いだから」

 おいおい! 侑華先生にお願いされちゃったよ、僕。何か天にも昇る気分だ。……しかし、僕の気分がコロコロと変わる速さには自分でもビックリするな、おい。


「さて、今日、フィーンド・パレスの方々に来ていただいたのは他でもない。研究費のことです。今年度の決算と来年度の予算についてお話します」

 朝霧侑華は、キリリと引き締まった表情でハキハキと述べた。

「フィーンド・パレスはご存知の通り、最重要で最高気密の部類であるため、国家機関としての秘密保持を鑑み、あたくしの裁量や裁定も含み、領収書無しでの決済を済ませました。あくまでもこれは異例ですので、そこの辺りは重々承知しておいてください」

 朝霧侑華は、一旦目を上げた。

「まぁ、これはこーゆー機関ですからね。それに、あなた達の研究成果は適度に私たちの研究にも反映させてもらっていますので、その辺りも含めて納得の上で、ということにさせていただきます」

 朝霧侑華は、書類を一枚はねた。

「それで、来年度の研究費ですが、今年度分と同じ五十億円と査定され、交付が決定されました。増額は敵いませんでしたが、各研究室には十分な額だと思います。それに、それぞれでも『小銭稼ぎ』をしているようですので、不足を言えば国税局が動きますからご注意してくださいませね。うふ」

 朝霧侑華は、書類を全て見終わり、書類を机に置いてからメガネを外して我々を見た。

「何か、ご質問は?」

 サカツキ教授が口を開いた。

「研究テーマや研究内容については今まで通りで良いということですか?」

 朝霧侑華はうなずいた。

「えぇ、今まで通り。革新的で独創的で有用で有益であれば何でもOKです、あなた達は特にね」

 朝霧侑華は周りを見渡してから、僕を見た。

「タカシ君は大丈夫? これからダン教授の世話をしなきゃいけないのよ。そしてこの私にダンちゃんの私生活を報告してくれなきゃダメなんだからね。分かってるぅ?」

 僕は、侑華先生の真剣な眼差しにビビっていた。

「あ、はい、分かりました。頑張ります。分からないことがあったら、侑華先生にお聞きすることにします」

 朝霧侑華は携帯電話を取り出して僕に見せながら、上擦った声で言った。

「そ、そう、そうね。何かあったらすぐに連絡をちょうだい。これが連絡先よ」

「先生! それはダメです。こんな一介の助手に先生の連絡先を教えるなんて!」

 朝霧侑華の取り巻きが制止しようとしたが、朝霧侑華は強い口調で言い切った。

「うっさいわね! あたしの連絡先くらい何なの。それ以前にあなた達が何とかするもんでしょ。このフィーンド・パレスの人達ほど信用できるモノは無いわよ。後でタカシ君の連絡先も教えてね、うふ」

 一瞬、険悪な雰囲気になりかけたが、朝霧侑華のJKモードで解決してしまったようである。僕はもう冷や汗モノである。生きた心地がしないよ、全く!

「それじゃ、フィーンド・パレス、正確には第百八研究棟の決算及び予算の公告を終わります。それぞれ、研究に一層励んでちょうだいね」

 手を振って去っていく朝霧侑華。それを見送るフィーンド・パレスの三人。

「今年もやれやれだ。好きな研究が出来るというのは有り難いもんだ」

 サカツキ教授は呟いた。

「うちのクシ教授も何とかお役に立っているということね」

 優美子は溜息をついた。

「そんなもんですかねぇ。僕は初めてだから訳が分からないですよ」

 僕は正直に感想を述べた。

「そんなもんだよ。しばらくは様子見でいいからジックリとやりなさい」

「そうよ。せっかくいいポジションを与えられたんだから。頑張んなさい!」

 僕は優美子に肩を思いっ切り叩かれた。

「あ、はい。出来る限り頑張ります」

 僕は落とした肩をもう一度シャキとさせた。


 優美子は東京のお店で仕事があると言ってテレポートゲート、通称TGに向かい、サカツキ教授は執筆するからフィーンド・パレスに戻るというので、僕はお供してサカツキ教授からいろいろと話を聞いた。

「大変だよ、フィーンド・パレスは。本当に精鋭だからね、僕を含めてクシ教授もダン教授も。それを上手く操って成果を取り上げ、将来を見据えた国益として算出する朝霧侑華学長もね。先人も含めて我々の努力と先行投資でこの『沖ノ鳥島超最先端科学大学院大学』は作られた。公然の秘密だが、ここは国で一番、世界最高水準の科学の最先端の場所だ。学ぶことも多いが、やることも多い」

 僕は話を聞けば聞くほど、その深遠な深みを覗くのが怖いくらいだった。

「タカシ君、君も将来が期待されているんだよ。聞いたところによると、二十六歳という異例の若さで博士課程を修了したんだってね。それはそれで凄いことだが、そこまではただの『お勉強』だ。これからは自分で新しい価値観を発見していかなけばいけない。常識に囚われているようじゃダメだからね」

 サカツキ教授は僕に諭すように淡々と話しかけてくれた。

「いいかい、何があっても先ずは受け入れること。それから考えたり、感じたりしなさい。拒否は絶対にしないこと。いいね?」

 サカツキ教授は右手の人差指を立てて、僕に言い聞かせるように言った。

「はい、分かりました。努力してみます」

 僕がそう言うと、サカツキ教授の歩みは小走りになっていた。

「何かあったら相談に乗るよ。じゃ、またね」

 走り去るサカツキ教授を見送ると、その先には第百八研究棟、フィーンド・パレスが見えていた。

「ありゃあ、もうこんなところまで来ちゃってたのか」

 僕もフィーンド・パレスの地下二階へと急いだ。


「ダン教授、第百八研究棟の決算及び予算の公告の会議に行ってきましたよぉ」

 僕は大声で言いながら、研究室の扉を開いて中に入った。

 すると、研究室に入ってすぐのところにあるゼミ室のテーブルに、ダン教授と招子と夏美が座っていた。

「何だ、何だ。大きな声を出して。そんな大きな声を出さなくても聞こえているぞ」

 ダン教授は池シャーシャーと、僕に言い付けたことなんかをスッカリ忘れたかのような口ぶりだった。

「結構、遅かったな。もう帰ってくる頃じゃないかと噂をしていたところだ」

 ちょっと怒りが込み上げそうになったが、サカツキ教授の言葉を思い出した。

『何があっても先ずは受け入れること』

 そうだ、僕にとってこれは修行なんだ。勉強ではない、修行なのだ。

「すみません。サカツキ教授とお話をしながら帰ってきたので」

 僕がそう言うと、ダン教授はペチッと額に手を当てて「むむむむ」と言いながら答えた。

「おー、おー、おー。サカツキ教授な。彼にも相談に乗ってもらうといいぞ」

「はい」

 僕はちょっとほっとした。


「先生、さっきのゼミ旅行の続きをお願いします」

 招子が痺れを切らしたように、ダン教授に話しかけた。

「おうおう、すまん、すまん。タカシ助手もこちらに座るように」

 僕は促されてゼミ室のテーブルの、ダン教授の横で招子と夏美の向かい側の席に着いた。

「先ほどみんなと話をしていたんだけれどもゼミ旅行を行いたいと思うんだが、タカシ助手はどうかね? 異存は無いだろ?」

 当然のごとく同意だろうみたいな口ぶりを、僕は先ず飲み込んだ。

「えぇ、異存はありません」

 そう答えてから疑問が沸々と湧いてきたが、まずは押さえて押さえて。

「何処へ行くんですか? 沖縄ですか? それともアメリカとかオーストラリアですかね?」

 僕は軽いノリの口調でジョークのつもりで言ってみた。すると意外なところから鋭い反応が返ってきた。

「何を寝ぼけたことを言ってんだ、タカシ助手サマはよぉ」

 夏美が眼光鋭く僕を睨み付けた。

「なんだよぉ。ほんのジョークじゃないか」

 僕は涙目になっていた。

「スケールが小さいんだよ。ねー、招子」

 夏美は招子に同意を求めた。

「夏美さん、仕方がないですわ。タカシ助手様は初めてなんですから。宇宙旅行なんて」

 う、う、宇宙、りょ、旅行ぉ!

 宇宙旅行なんて聞いてないよ、僕!

 招子は相変わらず目だけは紫色の光を放ちながらにこやかに話した。

「私からお話しましょう。前にもお話した通り、私は銀河連邦サジタリウス州オリオンバレーの太陽系地球の駐在員です。定期報告のためと里帰り許可期間が、地球時間で明後日から一週間となっています。それに併せて、ダン教授が考案して改良を加えた、私の宇宙船のDPPPD(次元透過粒子発生装置:The Device which Produces a Particle Penetrating a Dimension)の試運転も兼ねて、ゼミ旅行を企画したという訳です。分かりましたか?」

 分かる訳なんて無いってばさ!

 まだ数ヶ月前に、スペースシャトルが退役して次期の宇宙運行をどうするかと世間では言われているのに、この大学のゼミ旅行は、銀河系のサジタリウス腕のど真ん中へと旅行するっていうのか!

 ポカンと口を開けて呆然としている僕に構わず、ダン教授は淡々と告白した。

「タカシ助手、失礼だとは思ったが、君が研究室でうたた寝をしている時に3Dスキャンでボディ寸法を測らしてもらったよ。ちょっと小さかったね。あ、いやいや、その話はともかく。そんな訳でスペーススーツも既に制作済みなんだよ。これで行かないと言われると私もツライのだが」

 そう言ってダン教授が指し示した方向を見ると、夏美がカシャカシャとした素材の白いつなぎのような服を持っていた。

 僕はうな垂れた。

「よし! これで合意を取り付けたな」

 ダン教授はとても嬉しそうだった。

「ところで、夏美クンの方は大丈夫なのか?」

 招子が淡々と答えた。

「えぇ、その点はご心配なく。各星系にはかならずリレー衛星が配置されていますので、それを通じてアクセス可能な装置を夏美さんに埋め込みました。今もう既にその装置が働いていて、プロトゴルさえ合致すれば、銀河連邦からの情報も受信している状況です」

 招子が言い終わると同時に、夏美はVサインを出した。

「招子の両親から、既に通信が入ってますよー。『皆様のお越しをお待ちしております』だってさ」

 招子は顔を赤らめた。

「申し訳ありません。まだ、子離れが出来てないみたいで……」

「いやいや、宇宙は広くとも我が子の幸せを願わない親はいない。丁重にごあいさつせねばなるまいな」

 ダン教授がしんみりとそう言うと、招子は頭を下げた。

「恐れ入ります」

 おいおい! みんな、慣れたような雰囲気で喋ってるぞぉ。

 僕も負けてられないぞ。

 何か、何か言わなきゃ。

 何か言わなきゃ示しが付かないぞ。

「そうですか、宇宙旅行ですか。こりゃ、楽しみですね、はっはは」

 そういった途端、三人とも一斉に僕を見て、三人ともが僕に言った。

「宇宙を甘く見ちゃいかん!」とダン教授。

「宇宙を甘く見るな!」と夏美。

「宇宙を甘く見てはダメ!」と招子。

 僕は小さくなって答えた。

「はい、分かりました」


「そうだ、タカシ助手。君に頼みたいことが二つほどあるんだが、聞いてくれないかな」

 ゼミ旅行のガイダンスが終わった後に、ダン教授は改まって僕に言った。

「何でしょうか、改まって?」

 ダン教授は澱み無く答えた。

「実はだな、招子君のご両親、特に母御さんにお土産を買ってきて欲しいんだ。彼女のお母さんは、地球のスイーツに目が無くてな。時々、VSLD(超長距離)DPPPDの実験という建前で、ケーキとかを送っているんだが、どうも鮮度の保持、特に味がダメらしいんだ。今回は手土産として持って行きたいので、見繕って買ってきてくれ」

「分かりました。で、あともう一つは?」

 ダン教授は、急にモジモジした。

「もう一つはだな、非常に言い難いのだがな。あの朝霧侑華に、その、あの、なんだ、派手なパンツでも送っておいてもらいたいんだ。つまり、あれだよ、バレンタインのお返しだ。要するにホワイトディだな。安物でいいぞ。三枚九百八十円でも。頼む、よろしくやっといてくれ」

 そういい終わるか否かのうちに、ダン教授はそそくさと実験装置の中に消えていった。

 僕は思わず、ニヤけてしまった。


 「明後日」なんていってたけど、実はその日の午後には出発だと聞かされた。実は、招子の宇宙船の格納庫が小笠原諸島の父島沖にあるそうだ。そこまで、沖ノ鳥島から自衛隊の護衛付きで高速艇で二日の行程だと言う。

 おいおい、それはいくらなんでも急だよ!

 僕は慌ててスイーツを買いに走った。だが、五十億円の研究予算をもらいながら、手土産代として渡された金額はたったの二千円。

 仕方がない。最近のコンビニのスイーツも美味しくなったし、安くもなった。

 僕はTGから東京のコンビニへ直行した。TG(テレポート・ゲート)とは、DPPPDの原理を応用した瞬間移動装置のことである。

 これで百円台のスイーツ十個で我慢してもらうしかない。それでも足が出てんだぞ。


 クリームたっぷりエクレア

 生クリーム仕立てのクレープ

 純生クリームカスタードシュー

 ふわふわワッフル

 なめらか仕立ての濃厚杏仁

 香り広がる深煎り珈琲ゼリー

 至福の口どけ水ようかん

 つるっとわらび餅

 ホイップクリームオニ盛プリン

 ひと巻きロールケーキ


 どうだ、これで十分だろう!

「まぁ、いいわ」

 僕の買ってきたコンビニの袋の中身を見た招子の反応が、あまりにも素っ気無いものだった。

 そのことに僕は、涙がこぼれそうだった。


 二日間の船旅で、高速な上に外洋のために揺れに揺れて、僕は完全に船酔いのスパイラルへと落ち込んだ。

「タカシ助手様、私の宇宙船はこんなに揺れませんから、ご心配なくね」

 もっと心配だー!と心の中で叫ぶのが精一杯の僕だった。

 父島の十キロメートル沖で停船した自衛隊の高速艇の甲板で、ダン教授がスマホから暗号を入力した。

すると差し渡し五メートル、直径二メートルほどのカプセルが浮かび上がり、安定用のフロートが膨らんだ後にハッチが自動的に開いた。

「では、ダン教授他皆様方、ご武運をお祈りします。グッドラック!」

 艇長はそう言って僕達に敬礼をした。

 僕はおっかなビックリでハッチから落ちるようにカプセルの中に入り込んだ。転げ落ちる僕を見てさすがの夏美も僕に声を掛けた。

「アンタって何をやらせても抜群に下手だな」

 悪かったな、運動音痴で。どうせ僕は頭でっかちですよ。……と再び心の中で叫んだ。まだまだ船酔いが治ってないのだ。

 ハッチが閉まってフロートが萎み、カプセルが沈降していくのが分かった。


 カプセルが格納庫内の定位置に納まり、排水作業を終えたことをモニタしていた招子が僕らを案内した。

「ハッチから出ると、私の宇宙船があります」

 ハッチには階段が付いていて、海面で乗り込むよりは楽だった。

 少し進むとドーム型の広々とした中に、銀色の楕円形をした物体がそこに鎮座していた。招子が右手をかざすと銀色の物体は青白く輝き始め、節々に濃い青の光が走り、やがて手前に切れ目が出来て、そこが宇宙船への搭乗口となった。

「これが招子の宇宙船なんだ」

 僕がしげしげと見入っていると、ダン教授が僕の背中を押した。

「君がゆっくりとスィーツを買っていた時間だけロスしている。招子の任務は時間厳守なんだ。さっさと乗り組むんだ!」

 僕は急かされて、スィーツの入ったコンビニのビニール袋を抱えて宇宙船の中へ入っていった。

ちょっとネタバレ風ですが、気にしない、気にしない。

後編では「あーっ!」という展開が待っている……といいな。

後編も引き続き、お読みくださいませ。

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