第5話 機械の心
初の依頼で黒猫捜索の依頼を受けた、
後一歩まで追い詰めたが、唯の黒猫のはずがミサイルを吐き出した・・・呆然とする3人に黒猫が襲い掛かる
第5話 機械の心
第5話 機械の心
「えーと・・・・和也さん?」
怜次がビショビショの状態で急に礼儀正しい言葉で和也に話しかけた。
「・・・・・・なんだ・・・」
和也は腕組みをしながら、全く濡れている自分を気にしていない。
「最近の猫は凄いな・・・毛玉だけじゃなくミサイルも吐くのか」
「ああ・・・最近の猫は凄いな・・・」
和也が無表情で答える。
「ってんなわけねーだろ!!何だよありゃ!!」
黒猫がさっきのように大きく口を開けた。
「そんな事してる場合じゃないよ!!次来るよ!」
水音の声と共に怜次がすぐに体制を作った。
黒猫の口から鉄柱が覗き始めた。
「来るぞ!飛べ!!」
和也は2人に叫んだ。
黒猫の口からミサイルが発射された。
音と共に飛ぶミサイルは間違いなく兵器で、毛玉でも何でもない
本物の抹消兵器。
ミサイルが3人に向かって一直線に飛んだ。
3人が同時に地を蹴る。
さっきまで3人が居た所でまた爆音が響く。
着地すると同時に和也が刀を抜いた。
「行くぞ!怜次!水音!」
「おう!」
怜次も布を取ると槍を構えた。
その時、また不可思議な声が響いた。
シニタクナイ…
(え?)
今度は水音にしか聞こえなかった。
「待って!!」
水音が慌てて二人を止めようとした。
だが、水音が叫んだ時には二人は黒猫に向かって走っていた。
「怜次!2手に分かれて挟み撃ちにするぞ!」
和也が走りながら言った。
「おうよ!」
黒猫の一歩手前で2手に分かれた。
和也が猫の右から刀を振り下ろす、
怜次も左から槍を一直線に向けながら走る。
黒猫は2人が当たる直前で宙を飛んだ。
(飛んだ!?あんな直前で!?)
確実に自滅を狙った行動は見事に和也達にはまった。
目標を失った二人はぶつかり、お互いが仰向けになった。
「痛ッテェ…」
怜次が痛そうに漏らすが黒猫はそんな姿を逃さない。
空中で黒猫が下に口を向けて大きく開けた、
下には怜次と和也が立ち上がろうとしている所だった。
「うわぁ!!」
怜次が仰向けの状態で空中の黒猫を見た瞬間、驚愕の声を上げた。
「ック・・・間に合え!」
怜次よりも早く起き上がった和也は、怜次を守る様に立つと覚悟を決めた。
刀を飛んでくるミサイルに向かって振った。
二人が居た所にミサイルが直撃した。
深い煙が立ち上がり、2人の姿は見えない。
「和也ー!怜次君ー!」
水音がもうもうと煙立つ部分に向かって走った。
「和也!怜次君!」
水音は爆煙の残る二人が居た部分に向かってもう1度叫んだ。
煙がゆっくりと晴れていく。
そこには倒れている怜次を守る様に仁王立ちで立っている和也が居た。
怜次がそこで目にしたのは燃え盛る赤い炎を纏う刀だった。
刀に纏っている炎は刀を更に大きな刀に見える様な、大きな刀の形状をしていた。
まるで全てを飲み込むような赤い赤い炎は危ない魅力を感じさせた。
「すげぇ・・・」
怜次が呆然と炎の刀に魅入った。
水音は駆け寄りながら、和也の刀に目を見張った。
水音には解った、感覚の鋭い水音にはこの力がどれほど危険なのかを、そして基の力の弱い和也が使えば生死に関わる力だと。
(この力は凄い!!でも、凄すぎる!和也には危ない!)
「・・・くぅ・・・」
和也が苦しそうに顔を歪め、膝を付いたと同時に刀に纏っていた炎が消えた。
和也の体には小さな焼け焦げと頭から少量の血が垂れていた。
「おい!和也!」
「和也!」
怜次と水音が慌てて和也に駆け寄る。
黒猫は休ませまいと、もう1度大きく口を開けた。
「くそ!一時退却だ!水音ちゃん!」
怜次は和也を抱えて走り出した。
「うん!」
水音もその後を追う。
黒猫は追いかけようともせず、
静かにその場に座り込み、走っていく後姿をジッと見つめていた。
公園の近くの小さな林の中、
怜次がソッと和也を木の御木に下ろした。
水音が慌ててポケットからハンカチを出した。
「ジッとしてて」
水音が和也の頭の血をハンカチで拭いた。
「和也・・・すまねぇ・・・」
怜次が申し訳無さそうに和也に頭を下げた。
「借り・・・1だな・・・」
和也は力無くうっすらと笑った。
「あ・・・ああ」
怜次も釣られて笑った。
「和也・・・さっきの刀は何?」
水音は先ほどの炎の刀の事を言っている様だ。
「あれは、『炎斬』っつー技だ・・・俺の最大の切り札だ」
まだ苦しそうに息が荒い。
「和也、あの力相当辛いでしょ」
水音は和也の目を一直線に見据えた。
驚いた様な、困った様な顔で和也も水音を見据えた。
「よく解るな、あの技は力をかなり使うんで、まだ5秒位しか技を保つ事が出来ないんだ、
唯でさえ普通の能力者よりも力が弱いんだ、俺にとってはかなりきつい大技だ」
「未完成か・・・あの技なら、あのクソ猫も1発だろうによ」
怜次も考え込む様に腕を組んで目を瞑った。
「どう思う・・・己宮内」
和也が森林の中に響く様に大きな声を出した、
二人が同時に顔に?を浮かべた。
「何言ってんだ?お前?己宮内さんはいな・・・」
怜次がそう言いかけた瞬間、携帯電話が鳴った。
「これって・・・」
水音が携帯を取ってスピーカーを押して和也に向けた。
「良い訳はあるか?」
和也が悪戯っぽく携帯に言った。
『クックック・・・相変わらず侮れないな』
校門前で聞いた、低い声が携帯から響いた。
「あの公園にはあの時間で誰もいなかった、お前が先に避難させたんだろう、
あの黒猫の事を知っていたなら、お前ならやりそうな事だ」
「へ?は?」
怜次はまだ解っていない様だ。
「盗聴器は何処だ?そして、あの猫の事を教えてもらおうか」
『惜しいな盗聴器じゃない発信機だ、
お前等が学校から貰った携帯(生徒手帳兼)あるだろ?あれには発信機が付いていてな、
しかも衛星と繋がっているからお前等の行動は見放題ってわけだ』
「プライバシーの欠片もねーな」
怜次が不満そうに言った。
『まぁそう言うなよ』
「学校から出さない為に監視されてるって訳か・・・」
和也が低い声を発した、
『・・・・』
己宮内にも緊張が走ったような無言の感覚が入った。
「それよりもあの猫は?」
水音が慌てて話を戻す。
『あの猫の首輪を見たか?』
和也がチラッと怜次と水音を見た。
怜次はブンブンと首を振った。
「私見たよ、確か・・・『G・W00210』」
「何だそりゃ・・・?えと・・・ゴールデンウィーク?」
怜次が困惑の色を浮かべた。
「・・・アホ」
和也が呆れた様にため息を付いた。
「ウルセー!!」
怜次も声を荒げた。
『ジェノサイド・ウェポン(genocide・weapon)、
の略だ、これを訳すと殺戮兵器という意味だ要するに、だ、』
少し間を開ける
『あの猫は機械なんだよ』
「アレが機械ならあのミサイルも納得が行く」
(嫌、いかねぇよ…)
怜次が迅速に心の中で突っ込んだ。
和也は携帯に向き直ると考える仕草を見せた。
己宮内は話を進める。
『00210と言うのは、210番目に作った兵器だろう、
実はこれは俺が大分前に作ろうとした奴だ、元々兵器では無かった、
請負人のサポート役に回すはずだったが上手い事行かなくて中止になった開発だった。』
また少し間を空けた。
怜次の唾を飲み込む音がした。
『数年前に盗まれたんだ、設計図や作りかけをな』
「誰が?」
怜次が当たり前の疑問を出した。
『・・・それは解らない、何故あの機械が来たのかも・・・な』
「なるほどな、兵器を盗まれた事と、
それが殺戮兵器に変わった何て事が社会にばれれば信用がガタ落ち、
そんな事は科学支部会長としては許されない
だがー…下手に動けば、滅多に動かない科学支部を不信に思う奴も居る、
だから俺達下っ端にやらそうってわけか、」
『そんな所だ』
特に驚いた様子も無く己宮内は平然と言った。
「お前の考え方は解る、俺でもそうするだろうからな、」
和也はゆっくりと立ち上がり水音に近づいた。
「だがナァ…」
和也の声の最後に妙な違和感が現れた。
和也は水音から携帯を取り上げた。
「和也・・・?」
水音は不思議そうに和也を見た。
和也は携帯に向かって口を2,3回開いた。
「?」
「?」
怜次と水音には聞こえなかったが、何かを言ったのは確かであった。
『あ・・・ああ、すまない』
携帯のスピーカーから慌てた様な声が水音と怜次に聞こえた。
和也はすぐに水音に携帯を返した。
「で、あの黒猫の事を教えてくれ」
和也はすぐに話を戻した。
『ああ、アレ自体は対した能力は無いが、幾つか改造されている、
ミサイルを体の中で構築する事が出来る様だ、そして変身能力はー…今は壊れているみたいだ
様々なレーダーも追加されていた、これを新たに改造した人間は俺と同じ様に天才だ』
(うわ、この人何気に自分を天才扱いかよ)
怜次が心の中で突っ込んだ。
『だが一番凄いのはー…』
一瞬間を空けた。
『感情が出来ている』
「機械が?」
怜次が不思議そうに聞き返す。
(あ・・・)
水音はさっきの聞き覚えの無い言葉を思い出した。
シニタクナイ
『ああ、どういうわけか天才の俺が作った機械構造レーダーに生命反応があった』
(うわー…絶対にこの人、俺様思考だ)
怜次が心の中で、また突っ込んだ。
「OK、天才、何かムカつくから切るぞ」
怜次は向けられている携帯の切るボタンを押した。
『おい、待っ!』
それ以上の言葉はもう携帯から出る事は無く、静かにツッツーという音だけが残る。
(あ、和也もアレ(俺様思考)はイラつくんだな)
「和也、よかったの?」
水音は携帯を戻しながら言った。
「大体の情報は手に入れた、
ミサイルの軌道や、機械の精密な動きは覚えている、
後はレーダーに注意すればいいだけだ」
和也は立ち上がり続けた。
「行くぞ」
「あ、和也、怪我!」
水音が止めようと和也に近づいた。
和也の頭の血は止まっていた。
「え?あんなに酷い傷だったのに」
「ああ俺は傷が治るのが昔から早いんだよ」
(早いなんてもんじゃないよ、あんなに血が出てたのに)
水音は不信そうに和也を見た。
普通なら1針は縫うかもしれない傷、しかも頭部の怪我だ、そんなに早く治るのはありえない。
「フーン、丈夫なんだなー」
怜次は能天気に頭を掻いている。
「まーな」
そう言うと和也は歩き出した。
その後を怜次が付いていく。
「ま、いっか」
水音も考えるのをやめて二人を足早に追い掛けた。
誰もいない広い公園、
大きな川が有り、公園の真ん中には噴水が置かれている、
その噴水の前に黒い猫がジッと身を縮めて体を伏せていた。
黒猫の両耳だけが鋭くピンッと立っていた。
精巧、生命体レーダ二百Mニ周波数を広ゲル
機械らしい雑音に近い声が誰も居ない公園に響く。
周囲二百M内ニ生命反応、物理的機械反応、共ニ無シ。
確認、コレ(私)トノ戦闘ニヨリ、被害オ広ゲナイタメニ避難、マタハシールド(結界)ノ様ナモノデ二百M内ニ私ヲ閉ジ込メ確保カクホ、マタハ排除ノ為ト認識スル。
結論、スデニ回リコメレ、包囲サレテイルト断定、先ホドノ三名ハ唯ノ時間稼ギ
方法、ヲ検索・・・・検索終了、脱出ルートヲ確保し、逃走ヲ試ミル、不可能、円形状ニ包囲サレテイル可能性有リ
他にもいくつかの方法を口ずさんでいたが全てが冷たい「不可能」という言葉に打ち消されていた。
ゆっくりと両耳が元の形に戻っていった。
「コレ(私)ハ…死ヌノカ…」
さっきとは違う雑音から少し高いだけの綺麗な声にかわっていた
「機械トハ人間ヨリモ、ハルカニ強イハズデアルノニ、
コレ(私)タチ、機械トハナント弱イノカ…」
「アノ者達ハナンダッタノダロウカ」
黒猫の脳内メモリーに先ほどの事が頭の中で再生しようとしていた。
まず最初に再生されたのは、自分が3人に追いかけられた事だった。
まず長い棒を持った男が壁に顔をぶつけその後、堀で次々と3人が落ちていった。
「中々、面白カッタナ」
「オモシロカッタ…?、コレハ‘楽しい,トイウカンジョウダッタカ」
また頭の中で一時停止されていた記憶が再生された。
長い棒を持った男、1人に追いかけられ続け、最後には池に落とされた。
「アレニハビックリシタ、コレガタシカ‘驚く,ダッタカ」
最後に戦闘になり、白い男が棒の男を庇った所で停止した。
「アレハナゼタスケタノダ?アレハドンナカンジョウナノダロウ…」
黒猫の頭で白いめんどくさそうな男と槍を持ったアホっぽい顔の男と赤髪の綺麗な女性が写った。
「マタ、アエナイダロウカ」
黒猫が初めて無意識に口から出した言葉だった。
黒猫はピクッと動くとすぐに上体を起こし、耳をピンッと立てた。
同時に機械の雑音が響いた。
2体ノ生命反応ヲ確認、2体共AU能力者、一名ハ唯ノ能力者モウ一名ハズバ抜ケテ力ガ強イ、
ダガソレ以外デモ現在ノ科学デハ解リ得ナイ何カヲ察知シタ。)
黒猫の真正面を歩いてきた二人の影が見えた。
1人は長い棒を持った男、もう一人は赤髪のツインテールの女性
遅れて機械の雑音がもう1度、響いた。
モウ一体ノ生命体ヲ確認、科学デハ証明出来ナイ何カ、生命体トシテハ何カガ違ウ、存在証明ガ出来ナイ、測定不能測定不能)
遅れて、もう一つの影が現れた、純白、白髪白眼の男だった。
黒猫が口を開いた。
「マタアエタ」
「うぉ!!和也!水音ちゃん!猫がしゃべった!しゃべった!!」
怜次が黒猫を指差しながら叫んだ。
「うん凄いねー」
水音もあっけらかんと言った。
「機械に言語機能だったか?が入ってるのだろう」
和也もだるそうに言った。
「オ前達ハコレヲ殺シニ着タノカ?」
「ああ・・・」
和也の言葉と同時に水音が一瞬顔を曇らせた、
頭の中にまだ残っているあの言葉、シニタクナイ
「ソウカ、戦ワネバナラナイノカ」
「そう言う事だ」
そう言うと和也は刀を抜いた。
怜次も同時に槍を構えた。
水音だけは気が引けていた。
黒猫が動こうとした瞬間、水音が黒猫と二人の間に割って入った。
「やっぱり駄目だよ!」
水音が黒猫に背をむけてばっと手を広げた。
「水音ちゃん!?」
怜次はうろたえたように、手に持った武器を緩めた。
「!?」
(コノ人間ハ何ノツモリダ?)
黒猫が頭を傾けて水音の背後を見た。
「水音…どけ」
和也は鋭い声を向けた。
「どかない!助けを求めているのが何であろうと私は助けたいよ!心があるなら、なおさらだよ!」
水音も負けじと声を張った。
「・・・」
和也は小さくため息を付くと、刀を下ろした。
怜次も釣られて槍を下ろす。
「和也!」
水音は嬉しそう声を上げたが、和也の目を見た瞬間、凍りついた。
和也の純白の瞳は氷のように無感情のまま、水音を見据えていた。
「水音、何か勘違いしていないか?俺達は請負人、代価を貰い、それ相応の働きをする
請負人は仕事を受ければ絶対に遂行しなければならない、請負人にNOは無いんだ」
怜次は心配そうに見守っていた。
「でも!この子は死にたくないだけなんだよ!!」
水音は叫びながら、黒猫の寂しい声を思い出していた。
「この子は!助けの声を聞いてもらいたかっただけなんだよ!!」
水音の声は和也にふり注いだ。
「だが・・・、この依頼を取ったのはお前だ、水音、」
和也の目はまだ冷たく見据えていた。
「だけど…だけどぉ…」
水音の瞳から小さな雫がポロポロと零れ落ちた。
水音の脳裏には赤髪の子供が暗い部屋でずっと一人でつみきをしている姿が浮かんだ。
子供とは思えない暗い顔立ちは不健康に思えた。
「一人だけってのは辛いんだよぉ…和也ぁ」
和也はその涙を見た瞬間、鳥肌を立てたように驚いた。
目は元の普通の純白の目へと変わっていた。
「い!いや!そんなつもりでいったのではない!ただ仕事はちゃんとせねばという・・・その」
和也は水音に近づくと慌てて弁解を始めた。
怜次は目を真ん丸にしてその光景を見ていた。
(あ・・・あんな光景初めて見た・・・)
「もういいもん・・・和也のバァカ」
グスッと水音は和也に顔を見せないように後ろを向いた。
「え・・あ・・・す、すまない・・・」
和也はうろたえながら後ろを向いている水音に謝った。
(・・・チョロイ)
水音は後ろを向きながら少しだけ舌を出してウィンクをした、悪戯っぽい笑みに変わっていた。
(あーあいつは絶対将来女の尻にひかれるタイプだな)
怜次は暇そうに座り込みながら見たこともない和也の焦りぶりを楽しんでいた。
「オイコラ」
忘れられていた黒猫が突然口を空けた。
「コレノ存在忘レンナヨ」
「あ、忘れてた」
怜次がボケーとしながら口に出た言葉だった。
「イヤ、ワスレンナヨ」
黒猫が右手を少し上げて横に振ってビシィッと突っ込みの形を作った。
和也は突然真剣な顔に戻り黒猫を見据えた。
「お前はどうしたい?」
黒猫の青い目と和也の純白の目が重なった。
「コレ・・・?」
「そうだ、お前は死にたいか?それとも、死にたくないか?」
和也の目が先ほどのように冷たい目になっていく。
「和也!」
水音が咎める様に和也を見る。
「ワタシハシニタクナイ」
「何故だ?お前は危険な存在だ、何処から来たのかもわからない、人を傷つけるかもしれない」
和也は水音を無視して話を続ける。
「・・・・ワタシハ、ニゲルノニツカレタ
ツカレタンダ」
黒猫のメモリーには沢山の人間の死体が写っていた。
「タダワタシノナカニウマレタカンジョウノヒトツ
‘恐怖,ガワタシノナカニアルダケダ」
「シニタクナイ、」
「そうか・・・」
和也はゆっくりと黒猫に向かって歩き始めた。
「和也!」
水音が後ろから追いかけ様とした。
「・・・」
怜次がガシッと水音の肩を掴んだ。
「怜次君・・・」
怜次は顔をゆっくりと横に振った。
和也は黒猫の前に近づくとジッと黒猫を見据えた。
水音と怜次が後ろで見守っている。
(ワタシハシヌノカ)
黒猫はキュッと目を瞑った。
(・・・・・・?)
いつまでたっても痛みは感じない。
ゆっくりと目を開けると目の前に大きな手があった。
和也が無表情のまま手をさし伸ばしていた。
「助けてやる、俺から上に言おう、だが誓え2度と俺の仲間を傷つけるな」
黒猫が驚いた様に目を見張ったが和也の優しい目を見た瞬間ッフと小さく笑い、小さな肉球を和也の手に乗せた。
「チカオウ、」
黒猫の機械の心には何か特別な物が湧き上がっていた。
「‘ありがとう,」
後ろから見ていた水音はっほとしたように胸を撫で下ろしその後ろに居た怜次はニィ〜と笑っていた。
ドォ…ン
短い銃声音と共に小さな黒猫の体が宙に飛んだ。
「・・・・な!?」
「・・・・キャ!!」
怜次と水音が驚いた声を上げる。
和也も一瞬呆然と飛んで行った黒猫を見送った。
和也の背中に戦慄が走った。
(何処だ!?何処から撃った!?)
和也がバッとあたりを見回した。
怜次と水音が黒猫に向かって走って来たのが和也の目に映った。
「怜次!水音!黒猫を頼む!!」
和也の叫び声が2人の耳に届く。
和也が一度目を瞑るとすぐに目を開いた。
(落ち着け、冷静になれ!
弾は一発!赤い首輪が飛んだという事は首筋による的確な射撃、
距離は最高でも50メートル、隠れる事が出来る場所は・・・)
和也がもう一度あたりを見回す。
あたりは平原に噴水、とても奥に小さな森が見え、
ポールで周りを敷き詰められた池
(50メートル内で隠れる事が出来るのは・・・噴水の後ろか!!)
和也は噴水に向かって走り出した。
(体力は…よしいける!ぎりぎりで1秒!いけるか!?いや、1秒あれば十分だ!噴水ごとぶった斬る!!)
和也が刀の柄に手を掛ける、
走りながら即座に引き抜いた刀は鞘から出た部分からすでに真っ赤に燃え盛っていた。
噴水の少し前で刀を大きく振った。
「炎!!斬!!」
和也の声と共に炎を纏い、2メートルはある刀は一直線に噴水にぶち当たった。
キィ…ン
噴水に斜めの切れ目が入ると、ゆっくりと切れ目にそって噴水が崩れ落ち、一気に燃え盛った。
「す…げぇ…コンクリートの噴水を斬った!?」
怜次が呆然と独り言を漏らした。
「怜次君!!この子抑えて!!」
水音が怜次に叫んだ。
黒猫は痙攣を起こし、ブルブルと震えていた。
撃たれた首筋から茶色い液体が出ていることが機械であるということを証明しているようだ。
水音はハンカチで首筋を抑えていた。
「あ、ああ」
怜次が慌てて震えている黒猫の体を抑えた。
燃え盛る噴水から黒い影が宙に飛んだ。
(く・・・逃したか・・・)
和也が苦しそうに膝を付いた。
同時に纏っていた炎も消えた。
黒い影は着地するとすぐに走り出した。
「くっそ!!」
怜次が追いかけ様と即座に立ち上がった。
「怜次!!行くな!!」
和也がまだ座り込んだ状態で叫んだ。
「けど!!」
怜次は立ち止まると和也に抗議の声を出した。
「あそこまでの的確な射撃…相手は凄腕のガンマン(銃使い)だ、返り討ちにされるぞ!!」
「ああ!?俺が負けるってのか!?」
怜次の黒い目に凄味が帯びた。
「そういうことじゃ、ぐぅ…」
和也がうめき声と共に苦しそうにその場に蹲った。
「お・・・おい!和也!」
怜次は慌てて和也に駆け寄った。
先ほどの目が元の淡い黒色に戻っていた。
和也の額に汗が滲んでいた。
「ど!どうすりゃ!!」
怜次がオロオロと和也の目の前でうろたえていた。
その時、
怜次の肩に重みを感じた。
怜次が振り向くと白いコートを羽織り、銀縁のいかにも度の濃そうな眼鏡、その裏に、薄らと写るめんどくさそうな和也に似た目つき、口に煙草を加えた20代後半の老けた男、
やさしそうな目の色で怜次の肩に手を置いていた。
「安心しナァ・・・こいつは力を使いすぎただけさ」
ニッと男は笑った。
一瞬、何が起こったのか怜次には解らなかった。
「あんた…誰だ?」
怜次は呆然としながらも男を警戒して見た。
あまりにもの一瞬でいつからそこにいたのか、全く解らなかった。
確かに誰も居なかったはずの怜次の後ろに男は居た。
男はもう一度、ニッと笑った。
「顔を合わせるのは初めてだなァ、己宮内、そう呼んでくれ」
「あ!あんたが!己宮内さん!?」
己宮内はサッサと水音に向かって歩き始めた。
「己宮内さん!!」
水音が嬉しそうに、こちらに向かってくる己宮内を見た。
己宮内は座り込むと黒猫をジッと見た。
「酷いな…起動線がやられてる、」
己宮内は携帯を取り出すとボタンを押さずにしゃべり出した。
「B-62地域にヘリをよこせ、5分だいいな」
携帯をパチンと閉じるとポケットに戻した。
水音が心配そうに己宮内を見ていた。
それに気付くと己宮内はニッと笑うと水音の頭にポンッと手を置いた。
同時に水音の顔がうっすらと赤くなった。
「だーいじょうぶだ、アレはすぐに直す」
水音がパァッと顔色を輝かせたが、また暗い顔に戻った。
「あ・・・あの依頼の事ですが」
己宮内の言った『破壊しろ』、という言葉が水音の脳裏に浮かんだ。
「クックック、和也の苦労を無駄にする気はないさ」
面白そうに笑った、先ほどの和也の慌てっぷりを見ていた様だ。
「己宮内さん!!ありがとうございます!!」
水音がとても嬉しそうに顔を輝かせた。
近くのベンチまで来ていた和也と怜次がその一部始終を見ていた。
「よー和也、いいのかよー」
ニヤニヤと笑いながら隣で座っている和也を肘で突付いた。
「・・・?」
和也がまだ額に汗を浮かばせながら、顔を少し傾けた。
「お前はアレを見て本当に何もおもわねぇのか?」
怜次が顎で射した先には傷の処置を終わらした黒猫を挟んで楽しそうに談笑する己宮内と水音、
「・・・・いや?」
和也がまた不思議そうに頭を傾けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
怜次が怪訝そうに和也を見た
「もういい・・・・・・・・・」
怜次が呆れたように肩を落とした。
「悪い、少し・・・寝させてくれ・・・・」
和也はそう言うと、ゆっくりと、目を瞑った。
「・・・・ちぇ、かっこいいなぁ、お前は」
怜次は眠りについた和也にボソッと漏らした。
「己宮内さん!」
怜次はベンチから飛び上がると己宮内のそばに行った。
「なんだ?」
己宮内もすぐに振り向いた。
「和也にとって俺は邪魔なのかな・・・」
怜次が深刻な顔で己宮内に言った。
「・・・」
己宮内は黙って聞いていた。
隣りの水音もジッと怜次を見ていた。
「俺は親友だと思ってんだけどなァ・・・」
怜次はとても悲しそうに目を伏せた。
何故会ったばかりの己宮内にこんな事を言ったのか、怜次は解らない。
唯、水音に言うには気が引ける、他のものにも言い難い、怜次の弱さがそこにあった。
会ったばかりだからこそ、自分の知らない和也の知り合いだからこそ、自然に言いたくなっていた。
「クックックック」
何度も聞いた低い笑い声。
「安心しなァ、和也はそんな事思ってないさ」
如何にも年上という感じの男は怜次を年下としてではなく、同じ位置として、話し掛けていた。
すざまじい権力を持つ男はすざまじい心の持ち主であった。
「でも・・・」
怜次がまだ目を伏せていた、水音が居るのも忘れ、怜次はいつもの強気の姿勢とは違う自分を見せていた。
一瞬だったが、和也と戦った事がある、だから友と言えた、無表情の更に奥にある心をあの時垣間見た気がした。だから不安に思えた、和也が時々見せる拒絶は酷く心に残った。
だが己宮内は何の気も無しに話始めた。怜次の事を知ってなのかは解らない、だが、その声は相変わらず低い変わらない声で、
「あんたら森で俺に電話してたろ、その時、和也が俺に言った言葉があってな」
怜次と水音が森の中で突然、和也が携帯を取った事を思い出した。
「『今度そんなことで俺の仲間が傷付く様な事があれば俺はお前をゆるさない』、ありゃァ・・・あんたは十分信頼されてんだよ」
その言葉は怜次の胸を打った、確信できた、あいつの心を掴んだ様な気がした。
和也は別に拒絶を見せているわけでは無かった。簡単な事だ、感情が不安定なんだ。
いつかで聞いた言葉。
「へ・・・へへ」
怜次は嬉しそうに目を瞑った。
(なんだよ、悩んでた俺が馬鹿みてぇじゃねぇか)
水音もうんうんと嬉しそうに頷いていた。
空からバタバタバタ!!という騒音が響いた。
空中で大きなヘリが静止していた。
ヘリからハシゴが下ろされ、己宮内はそれを確認すると怜次の手を両手でギュッと掴んだ。
「え?あ?」
怜次は驚き後ずさった。
「ありがとう、」
己宮内は嬉しそうに、眼鏡で見えないが確かに目を輝かせた。
己宮内は片手で黒猫を抱くとハシゴに飛び乗った。
「じゃぁな!仲良くしなぁ!」
己宮内を乗せたヘリがゆっくりと離れていった。
「さて、和也を起こして行こっか」
ヘリを見送った後、水音が怜次に振り返った。
「そうだな」
怜次も軽く伸びをした。
「おい、コラ、白髪起きろ」
怜次が槍でチョンチョンと突付いた。
「んぁ?」
和也が間抜け面で起きるとボーっと怜次の顔を見た。
「ああ、行くか、」
和也はベンチから立ち上がろうとしたが、
「あ、れ?」
力なくその場に倒れた。
(ッチ、流石に炎斬を1日に2回は無茶が過ぎたか)
「ったくよ〜、世話が焼けるなオイ」
怜次はそう言うと和也の右に回り、
右肩を持って立ち上がらせると右手を自分の肩に回した。
「和也頑張ったもんね」
水音も和也の左に回り左手を自分の肩に回させた。
「お・・おい自分で歩けるって」
和也が困ったように声を荒げると怜次がすぐに言い返した。
「うーるせ、フラフラのくせに何言ってんだよ、それに…」
怜次は一瞬間を空けて顔をそむけてから言った。
「な…仲間だからな」
怜次は友達という言葉をよく使うが仲間という言葉は使ったことが無かった。
不安定だった物がようやく形になった、そんな気がした。
一つの繋がりによって、仲間という形が出来たのだ。
和也は一瞬驚いた様な顔になった後、ッフと顔の力を抜いて言った。
一緒に居る友達から戦いに置ける背中を預ける仲間にへと代わった馬鹿に沢山の言葉は要らない。
和也はぶっきらぼうに
「ああ・・・悪いな」
いつものように言った。
それを見ていた水音が嬉しそうにくすくすと笑っていた。
(しかし…黒猫のレーダーでも察知出来なかった、あの人間は一体…)
ヘリの中で黒猫を抱きながら己宮内は噴水から出てきた黒い影の事を考えていた。
ヘリの中から外を見下ろすと怜次と水音が和也の左右で担いでいる姿が見えた。
それを見た己宮内はッフと嬉しそうに笑った。
「まぁいっか、ある意味収穫だったのかもな」
己宮内はもう一度3人を見ると眼鏡の裏で目を輝かせた。
ーおまけー
依頼終了後、怜次、水音、和也は寮内の居間でくつろいでいた。
プルルルルルル!!プルルルルルル!!
居間に電話の音が響き渡る。
プルルルルルル!!
「和也ー電話に出ろよ」
怜次がソファーに寝転んだ状態で、近くで椅子に座って本を読んでいる和也に言った。
「ヤダ…貴様が出ればよかろう」
和也は本から目を離さずに言う。
「めーんどくさい」
怜次はソファーの上で仰向けになった。
和也が本から目を離すと怜次を片目でチラッと見た。
怜次も同時に和也を横目で見る。
2つの視線が重なった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
沈黙が二人の間に流れた。
怜次がソファーから突然飛び上がった、
それと同時に和也も椅子から飛び上がる。
二人は一気に右手を後ろに下げると、勢いに乗せて前に出した。
「「最初は!!グー!!」」
2人の声が重なる。
「「ジャンケン!!」」
(和也)グー
(怜次)グー
「「あいこで!!」」
(和也)パー
(怜次)パー
「「あいこで!!」」
遠くから見ていた水音が二人を見て呆れたように、
ため息を漏らした。
水音が電話の前まで来ると、もう一度、馬鹿二人を見た。
「「あいこでしょ!!あいこでしょ!!あいこでしょ!!」」
「何だかんだいって君等、似てるよ」
水音の口から呆れたような声が漏れる。
プル…
水音が受話器を取ると同時に電話が止まった。
(あれ?)
水音が首を傾げるとすぐに高い女性の声が電話から出た。
『留守番電話は1件です』
怜次と和也もジャンケンをやめてこっちを見ていた。
水音の細い指が点灯している留守番スイッチに触れた。
『よー和也!怜次!水音!』
先ほどまで何度も聞いた声。
「・・・己宮内?」
『初依頼、成功おめでとう!!そこで依頼料なんだが』
「おー!依頼金かぁ!!あの己宮内さんの依頼だったら結構もらえるんじゃねーの!!」
怜次が嬉しそうな声を上げた。
「待って、まだ続きがあるみたいだよ?」
水音が不思議そうにしながら怜次を止めた。
『無しな、つかよこせ』
「・・・・?」
3人が同時にハ?という顔で電話を見る。
『いや〜俺も上の人間だから、こういうの結構言われるんだよね〜
派手に潰したナァ、公園の噴水500万円』
青い顔で3人がポカーンと口を空けた。
『払えないならしばらく俺ンとこの依頼はタダ働きナ、連帯責任で全員でな』
お気楽な声が響く。
『じゃ!が・ん・ば・れ♪』
ガチャッツーッツーッツー
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
3人の開いた口が塞がらなかった。
第5話 機械の心 ―完―
遅くなってすんません・・・
実はこの話は自分的にあまり好きではない、
でもこれ入れなきゃ話進めれないし…
今回は短めでしたが、次は結構長くなる予定、
それでは次回、『第5話 仲間の繋がり』でまた会いましょう