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第2話 トモダチ

前回のあらすじ


突如、転校してきた謎の男。


まだ二人しか住んでない水音の寮に住むことに。

交通事故、記憶違い、様々な物が不思議を呼び続ける。


第2話 トモダチ

第二話  トモダチ



あなたは


いつも


遠いところを見てる


私の知らないことを知って


何も言わずに傷付いて


いつもどこかで血を流している


それでもがむしゃらに


走っているあなたは


私には


教えを聞かない


無邪気な子供に見える











(ここは・・・)

和也は廃れた古い工場の中にいた。

そこには数十人の、ガラの悪い男達が真っ青な顔で『何か』を囲む様に立っていた。

その中には逃げようとしている物もいる。

そんな中でその『何か』は動きを見せた。

「グゲェェェェェェァァァァァァ!!!」

『何か』は3メートルはある体をよじって身の毛のよだつような叫び声を轟かせた。

「ひぃ!」

がらの悪い男達が逃げる様に足をばたつかせた。

その『何か』は体中に純白の体毛を生やし、足と手には長い爪が生えている。

顔は狼のように尖っていて耳が上にピンと立っていた。

獰猛な鋭く尖った純白の目を光らせていた。

まるで東洋の本に出てくる狼男の様だ。


その足元には赤い髪の毛の少女が居た。

真っ直ぐに伸ばした長い髪はバラバラにコンクリートに散っていた。

その場に合わない少女が倒れていた。

「!」

和也がその少女に気づき駆け寄ろうとした、その瞬間『何か』が再び動きだした。


「うわぁぁ!!!」

「ひぃぃぃ!!」

その『何か』が男達に爪を立てる。


「やめてくれぇ!」

「助けてェ」

「ぎゃぁぁ!」

男達が叫ぶ。

悲鳴と共に次々と血を流して倒れていく。

和也は呆然と立ち尽くした。

目の前の光景に、逃げ惑う者を容赦無しに八つ裂きにしていく。

長い爪を振るたびに『人が簡単に壊れた』。

その上から更に爪を奮い、巨大な足で踏み潰す。

その度にグチャッという生々しい音がし、肉が飛んだ。

『人』は次々と唯の肉隗の『物』へと変わり、その末路は人間と呼ぶにはあまりにも遠すぎた。


「やめ・・・ろ」

和也が震える声を出す。

知らない男達が死のうがどうでもいい、和也にはそんな考えがあった。

だが、それでも目の前で真っ二つになったり、ゴミの様になる人間はいくらなんでも放っておけなかった。


「ぐぎゃあ!」

「ぐげぇ」

『何か』が爪を振る度に男達が血を流しながら飛ぶ。


和也の足元に一つの『物』が転がっていた、『物』はまだ息があるのか、唇を何度も繰り返し動かしていた。

「タスケテ、タスケテ、タスケテ・・・」

和也は目を背けた、しかし、『物』は壊れたレコードの様に繰り返す。

「やめてくれ・・・・!」

和也がもう1度震えながら言う。

その顔はいつもの無表情から恐怖と絶句の色に変わっていた。

「タス・・・ケ・・・テ」

壊れたレコードは完全に停止した、辛うじて人間だった存在は動かない『物』へと完全に変換された。


次々と工場が血の海と化していく。

同時に真っ白なはずだった『何か』は返り血で赤く染まっていく。


地獄だ・・・!


和也の脳裏にはっきりと浮かぶ言葉。


ここは地獄だ・・・


和也は唇だけ動かして確認する様に言った。


「!」

いつ気づいたのか赤髪の少女が男達を守る様に『何か』に立ちはだかっていた。


和也の背筋に寒気が走る、

「何してる!早く逃げろ!」

和也が慌てて駆け寄ろうとする。

その少女が『物』になるのを和也は拒んだ。

心から拒んだ、やめてくれと何度も頭に響く自分の声。


和也の願いも知らず少女は逃げなかった。

ジッと目の前の『何か』を見ていた。

少女の背中は不思議と美しかった。

『何か』に怒る分けでも無く

『何か』に恐怖する分けでも無く

『何か』絶望する分けでもなく無く


唯々見据えていた。



グサッ



嫌な音と共に爪が赤髪の少女の腹に貫通し、突き刺さった。

「グゲェェァァァ!!!」

『何か』は何も気にせず遠吠えを上げながら爪を引き抜いた。

その瞬間、和也は時間が止まった様に見えた。

真っ赤な血が噴き出し、少女の体に穴が開いた。

『絶望が、恐怖が、怒りが』

和也の体の底から何かが走り抜ける。

少女が『物』へと変わる瞬間、

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

和也が大声で叫ぶが誰も和也に気づかない。




女性はゆっくりとひざから落ち、血を流しながら『何か』の足にしがみついた。


そして優しく、小さく、ニコッと笑うと薄い、綺麗な声を上げた。




「駄目だよ・・・かず・・・や」



そう言うと赤い髪をゆらして少女は血の海に倒れていった。


「な・・・・」

和也が震える声を上げ呆然としながら言った。

「お・・・・れ・・・・!?」

信じられないと言う風に眼を見開き、和也は立ち尽くしていた


(そんな!そんな馬鹿な!俺があの子を傷つけた!?そんな!そんな!)

恐怖と絶望が和也の体の中でのた打ち回る。

『あの子』は確かに自分の名を呼んだ。

『あの子』の唇であの子の声で、はっきりと言った。

その声を聞き間違える事は無い、何度も聞きたかった『あの子』の声。

『何か』がこちらを見ていた。

獰猛な殺気を込めた眼、嫌、むしろ殺気でも生ぬるい、狂気の眼をしていた。

『何か』と自分がだぶって見えた。

「ぐげげげげがががいいいいいいぁぁぁぁああああぁぁあぁあああ!!!」

『何か』が叫ぶ

「うわあああああああああぁぁぁぁあああああぁあぁぁああ!!!」

和也もそれと同時に叫んだ、




和也が、ガバッと布団から起き上がった。


和也はキョロキョロと周りを見渡す。

四角い部屋に夕方に送られて来た荷物が無造作に置かれている。

体はビッショリと汗だくになっていた。

安心した様に胸を撫で下ろし、歯を食い縛った。

「くそ・・・・!」

和也がぎりっと唇を噛む。

「あれが・・・・夢だと・・・よかったのに・・・」

嫌な感触の残る手をジッと見てから和也は言った。

「沙羅・・・・!」

和也は布団の上で目蓋まぶたと手のひらを強く握った。


夕に切った指の傷が開き、爪に食い込んだ手の平から血がにじみ、赤い液体は吸い付く様に真っ白なシーツにゆっくりと、ゆっくりと落ち、白いシーツの一部が赤く染まった。





ジリリリリリリリリリリリッ!!

大きな目覚まし時計が四角い部屋に鳴り響いた。

「ん〜〜?」

顔に掛かった綺麗な赤髪をのけながら目覚まし時計に向けて手を伸ばす。


少し暗い部屋から騒音が消える。

フラフラと立ち上がりながらゆっくりとカーテンと窓を開けた。

朝日とチュンチュンとかわいらしい音を上げるスズメが数羽、目の前を飛んで行った。

「ふぁ・・・・ん!」

水音はあくびと伸びをしながら朝日を浴びた。

「ん〜いい天気〜」

昨日とは大違いの元気な姿勢を見せていた。


チュン

かわいらしいスズメが水音のすぐ前の窓の溝に止まった。

「おはよう」

水音がスズメに向かって優しく元気な声を出す。

スズメは少し首をかしげて、飛んでいった。

水音はそれを見送った後、ッフと小さく笑ってからポツリと言った。

「もう・・・この寮で1人じゃないんだ」

水音はそう言った後、学校の支度を始めた。

きゅっと両脇に髪を止めてリビングに向かった。

水音がリビングのドアを開けると。香しい匂いがリビングをつつんでいた。

そこには、朝食の玉子焼きとトースト、ミルク、昨日と同じ食卓が一人分、机の上に置いてあった。

「あ、そっか、お兄ちゃんまだ和也のこと知らないんだ」

一人分の食事に気づいて、ポンッと水音は手をたたいた。


「和也?和也ーー」

リビングを出て和也を呼んでみる。

返事はない。

不思議に思い、和也の部屋のドアの手を掛ける。


ガチャ・・・


鍵はかかっていなかった。

ガランとした部屋には無造作な荷物のみ、誰もいなかった、窓だけが開いていて、カーテンが風でそよいでいた。

「?…先に行ったのかな?」

水音は独り言を呟いてから少し顔が曇った。

(折角一緒の寮なのに…一緒に朝ご飯位食べてくれてもいいじゃん)

少しほおを膨らませた。

水音にとって、寮で誰かと一緒に寝泊りするという事は殆ど無かった。

それは、この広い寮にいつも一人で居たからだ。

リビングに戻って朝食を食べて玄関のドアに手を掛けた。

いつもより早い出発である。


寮を出て坂を歩いていると、前の方に見覚えのあるショートカットの女性がこちらに歩いてきていた。

女性はこっちに気づくと、駆け足で水音に近づいてきた。

「やっほー!水音!どしたの?いつもより早いじゃん!」

美奈は早口で水音に言うと、首をかしげた

「うん、今日はちょっと早めに出てみようかなって」

水音は美奈にニコっと笑ってから言った。

「ええ〜?風間さん見れないじゃん!」

美奈がブーっと頬を膨らませて冗談っぽく言う。

「あはは、ごめんね」

水音が美奈にまた笑いかける。

「?」

美奈がじっと水音を見る。

「ん?何か付いてる?」

水音が顔に?(クエスチョン)を浮かべる。

「何か今日・・・水音、元気じゃない?」

不信そうにじとっと水音を見る。

「え?そう?」

どうだろ?というような表情をして右手をほおに当てる。

「そだよ、水音って朝は結構暗いよ?」

眼を細めて更に不信そうに見る。


「さてわぁ・・・」

美奈は、いたずらっぽい笑みを浮かべて少し間を空けた。

「彼氏でもできたかぁ?」

いたずらっぽい表情のまま言った。

「!!!」

「そ・・・そんなわけないじゃん!」

少し顔を赤らめて手をぶんぶんと、美奈の目の前で振る。

「あっはっは!そうだよね〜水音にできるわけないかぁ!」

美奈は歩きながら高らかに笑った。

「ちょっと、それどういうことかなぁ!」

水音がむっとした顔で美奈にくいかかる。

「あっはっは!冗談だよ!じょ〜だん!」

美奈がニコニコと笑いながら水音に言った。

「本当、新鮮な反応するなぁ!今時そんな純情はレアだよ?少女漫画の青春ヒロインか!ての」

男っぽい感じで美奈は言う、その後さらに思いっきりけらけらと笑う。

「そうそう!絶対転校生見に行こうね!」

そろそろ怒りそうなので、美奈は話を変えた。

それを聞いて水音は、思い出したかのように言った。

「あ、そうそう!転校生だけど…」

水音はそこまで言った後言うのを止めた。

(本人楽しみにしてるし・・・後で言おっかな)


「え?転校生がなに?」

美奈は昨日のキラキラとした目で水音を見た。

「やっぱ秘密」

水音がニコッと、さっきのお返しとばかりに悪戯っぽく笑った。

「ええ〜何〜それ〜」

美奈がブーブーと文句を言った。


清々しい朝、変わらない毎日、いつもの様に友達(美奈)と笑い合う日。

水音にとって汚したくない一番好きな日常。


キーンコーンカーンコーン

その時学校のチャイムが鳴った。

どうやら話込んでいる間に学校に着いたようだ。

学校の前には赤い車が止まっていた。

「あ!遅刻になっちゃうよ!」

水音が先に走り出した。

「待ってよ〜」

美奈も後を追う。

赤い車の中にいた運転手がその二人の後ろをジッと見ている事に水音は気づかなかった。

その車が昨日の交通事故未遂の車だということも、

車の運転手がゆっくりと、そして不気味に笑ったことにも気づかなかった・・・

平穏がいつか崩れることを、今の水音は知らなかった。




和也は早く来るようにと言われた通り、速めにを出た。

「あら?今日は遅れずに来たようね」

きよ先生が目の前の和也に笑い掛ける。

「ええ・・・まぁ」

無愛想な顔で私服姿の和也がきよ先生の前に立っている。

「ところで・・・何でまた血を流しているのかしら?」

きよ先生は苦笑した顔で和也のだらだらと出ている血を見た。

「転びました」

和也は血を流しながら無愛想なまま言った。

「転んでそうなると思う?」

きよ先生は冷静に和也に突っ込む。

「・・・・」

和也は少し黙った後めんどくさそうに言った。

「正確には、転んだ所に偶然、車が走ってきて、それにはねられてぶっ飛んだ時に電柱に当たり、落下した時頭から落ちただけです」

和也は早口で言った。

「ふぅん・・・落ちた・・・だけねぇ・・・」

きよ先生は和也の体を見た。

頭から血が落ち、職員室の床を汚している。

服は血とはねられた様な後を残して無残なことになっている。

「ま、いいわ」

なにがいいのかわからないが、悟った様に立ち上がると、きよ先生は武器やら書類やらが乗っている机をまさぐりだした。


ゴトッ


何かが落ちた音がし、反射的に和也は落ちた物を見た。

「・・・・・」

そこにはよく戦争映画で見る手榴弾がおちていた。

通称パイナップルと呼ばれている爆弾で、ピンという鉄を抜くと数秒で爆発するあれである。

「先生・・・それ・・・」

和也が冷静さを保とうとしながら言った。

「ん?ああ、ごめんごめん」

そう言うときよ先生は手榴弾を拾った。

「先生・・・それ・・・おもちゃですよね・・・?」

和也が恐々と聞いた。

「ん?私がそんな中途半端な物欲しがると思う?」

きよ先生はあっさりとそしてニコッと笑って言った。

和也はこの瞬間心に決めた。

(絶対に、この先生には逆らわないでおこう・・・)


「ほら!タオルで血拭いて制服!これ着たら教室行くよ!」

ごちゃごちゃの机から真新しい制服と白いタオルを取り出し和也に渡した。



あの後、和也ときよ先生は教室に向かった。

和也はきよ先生に外で待つ様に言われ、一人、広い廊下で立っていた。

「え〜と、皆さん今日は転校生を紹介します」

きよ先生が教壇の上で声を上げて生徒達に話している。

「先生!」

優等生らしきメガネを掛けた男性が真っ直ぐに手を伸ばし言った。

「転校生は昨日来るはずだったのに、なぜ今日になったのですか!?」

大声で背筋を伸ばしてメガネ男は言った。

「あ〜それね・・・何かめんどくさかったから・・・・あたしが」

きよ先生はめんどくさそうに小指を右耳に突っ込みながら言った。

「な!?それでも先生ですか!だいたい・・・」

クックックと笑いながらそれを見ている男が前の男に言っていた。

「あいかわらずやな〜きよちゃんも委員長も」

委員長と呼ばれた優等生っぽい男はまだきよ先生と色々言っていた。

「全くだな、でもよ、そろそろ『アレ』が来るんじゃね?」

前の男も笑いながら後ろの男に言った。

「あー今日あたりかー転校生も、大変やな〜」

2人の男はケラケラと笑いながら言った。

「はーい!今はおしゃべりの時間じゃないですよー!」

散々喋りまくっていたくせにパンパンと手を叩きながらきよ先生は言った。

「それじゃあ入ってきてくれる?」

きよ先生はドアに向かって言った。


ガラッ


ドアの開く音と共に和也は無愛想な顔で入って来た。

全員が黙って見守る中、黙々と教壇に歩いていった。

「うわぁ…」

「白?」

「ちょっとかっこいいじゃん」

「そぉ?なんか白くて変じゃない?」

周りが色々言っている中、和也はジッとしていた。

「この子が、前に言っていた『敦盛 和也』君です、皆仲良くしてあげてね」

きよ先生が教壇に手を付けて前に体重をかける状態でクラスの生徒達に言った。

「それじゃあ質問は?」

きよ先生が教室内に声を上げて言う。

「はいはい!何の能力?」

元気に青年が質問する。

「火・・・だが普通に出すのなら、ライター程度しか出ない」

和也が答える。

「はい!なんで髪と眼が白いの?」

また一人元気に言う。

「よくはしらんが遺伝だとか・・・」

和也がまた答える。

「依頼人なの?」

また一人

「ああ、まだ始めたばかりだが」

趣味は?特技は?技は?和也って呼んでいい?好きなタイプは?寮どこ?

次々と生徒達が質問を投げ掛ける。

和也も動揺しながら質問に答えていく。


和也はやっと質問の嵐から抜け出した。

隣にはきよ先生がいた。

ふぅっと小さくため息を漏らす。

「どぉ?私のクラスは」

きよ先生がニコニコと笑いながら言った。

「髪が白いのに・・・冷たい眼で見られない」

和也は少し動揺気味に言った。

和也はその特有の体質で行く所では比較的、注目を浴びる。

眼と髪が真っ白な青年というのは珍しい様だ。

ある目は同情で、ある目は決別に、それが人と遭うのとほぼ当然と思えた。


「驚いた?皆、あなたと同じ境遇の子たちなの、だから皆お互いの気持ちが分かるのよ」

きよ先生は、ふっと笑うと言葉を続けた。


「まぁこんな立派な子達は、能力者の中でもこのクラスは珍しいけどね・・・」

そう言うときよ先生はまた小さく嬉そうに笑った。

『生徒』ではなく『子達』と言ったのに和也は不思議に思った。

この先生にとって、このクラスの人間は赤の他人よりも子供の様な意識が強いのだろうか。

だとすればこれほど素晴らしい先生も居ない。


この先生も、また能力者の差別の対象になった人なのだろうか、このやさしそうな先生にも悲しい過去があるのだろう。

和也は優しそうに笑う先生を見てそう思った。

サブマシンガン持ってなきゃかっこいいんだけど、とも和也は思った

きよ先生は笑う顔をやめてなかばやけくそ気味の様な顔になって言った。

「ただ・・・」


「ただ?」

和也はきよ先生の顔色の変わり方を奇妙に思う。

「一人問題児を除いては・・・ね」

「一人?」

和也がそう言った瞬間、和也の後ろの壁に妙な音がした。


ピシッ


「?」

和也が壁の方を向いた瞬間、


ドゴォォォォォォンン!!と、すざまじい音と共に壁が割れ、壁が和也事、一気に吹っ飛ばされた。


「ぐほぁ」

壁の破片というよりもはや岩と言うべきか、と言う位の大きな破片が見事に和也の顔面にクリーンヒットした。


「て・・・転校生ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

生徒の一人が驚いた声を上げた。

弧を描いて瓦礫事吹っ飛ぶ和也を見て叫ばずに居られなかった。


瓦礫の山から一人の男が出てくる。


「ここはどこだぁぁ!!」

そう叫ぶと周りを見回した。どうやら壁を壊した本人のようだ。

「やったぜ!とうとう学校についたんだぁぁぁ!!」

体中を傷だらけにしている男がとびはねながら言った。

キャッホウと笑いながら男は瓦礫の山から下りてきた。


きよ先生がため息を付く。

「今日も1週間ピッタリのご到着よ、全く・・・その筋金入りの方向音痴はいつまでも変わんないわね」


「よう!きよちゃん!相変わらずベッピンさんだねぇ!」

元気に男は笑いながら言った。


あらためて見ると、180cmはある大きな体をしていた、この学校の指定の制服を着ているのを見ると同じ生徒なのだろう。

ツンツン頭のせいで、不良っぽく見えなくも無い。

背中に長い棒を布で包んだ物を持っている。


「せ・・先生ィ!!転校生がいろんなところから血を流して倒れています!」

先ほど叫んだ男が先生に駆け寄る。

「あら、忘れてたわ」

きよ先生は簡単に言ってから和也のところに言った。

「忘れてたって・・・」

叫んでいた男が疲れた様に肩をすくませる。

どうやらこの男も委員長と同じ、このクラスの疲れ役のようだ。

「今井、転校生って?」

大男が叫んでいた男に話しかける。


「ああ・・・怜次レイジあんたいなかったっけ」

今井、と呼ばれた男が怜次に説明した。


「へぇ…強いのかな…」

怜次がニィっと不気味に笑った。


「お大事に…」

今井は、肩をすくめ、和也の方に同情の目を向けた。


「よいしょ・・・っと」

きよ先生が瓦礫に埋もれた和也の手を、引っ張り出している。

頭や頬やら顔やら耳やら鼻やら

いたるところから血が出ている。

流石に明るいクラスも少し青ざめていた。

「おい…血だらけだぞ…」

「死んだかな…?」

「縁起でもないこと言うなよ…」

ざわざわと生徒達が目の前の光景にたじろいでいた。


「・・・」

和也が無言で立ち上がる。

立ち上がる際に血が床に飛び散った。


「うぉ!?」

「起きたぞ!?」

和也の目の前には怜次がいた。

ニッと笑うと怜次は血だらけの和也に言った。

「悪いな!大丈夫か?」

怜次は元気に言うと、

悪気のなさそうに、また笑った。

「ああ・・・大丈夫だ・・・というより貴様は誰だ・・・?」

さすがに血を流しすぎたのか、

和也はフラフラと体を揺らしながら言った。

「俺か?俺は怜次!桜木さくらぎ 怜次れいじだ!よろしく!」

怜次が手を伸ばす。

「ん?ああ・・・よろし」

和也が怜次の手を握ろうとした瞬間、

怜次が思いっきり顔面ににぎり拳を叩き込んだ。

風船が破裂した様な音が教室中に響き渡る。

和也が顔面ギリギリで右手の手のひらを顔の前に出して拳を止めた。

騒いでいたクラスの人間は静かになり、ジッと見守っている。


「なんのつもりだ・・・?」

和也が純白の眼をとがらせながら言った。

「へぇ・・・反応できるとは」

怜次がまたニッと笑って続けた。


「今日の放課後、学校裏に来いよ!白髪!」

そう言うと破壊した壁から出て行った。

(・・・・白髪・・・?)

和也は無表情の顔でジッと、

怜次の出て行った壁があった所を見ていた。

「いや〜転校生君!災難だったなぁ」

一人の男が呆れた同情に似た目で和也に向かって言った。。

「そうそう、あいつ、ああいう奴なんや♪」

なにか妙になまった声がその隣から出てきた。

「どういうことだ?」

和也が2人に問いかける。

「あいつなぁ、クラスの奴全員 (女子以外)にアレやったんや」

なまり声の幼めの顔の男が言った。


「そーそー俺も最初はびびったな〜、でもあいつ止められなかった奴は、ギリギリで止めてくれるんだ(殴るのを)」

男は苦笑を見せながら続けた。

「申し遅れた。俺は、今井」

ニッと男が笑った。

第一人称はのんびりした、という感覚がある青年であった。

静かな立ち並みには大人っぽさを見せ、女性の言うカッコイイより男の言うカッコイイという感覚がある。

青年は何処か疲れた様に見えたが、いつもどうりなのか、定着した感もあった。


「俺なぁ!さなぎ言うねん!」

背の低い訛り声も続けた。

訛りは関西弁に聞こえたが、それを更に訛らした様な感覚がある。

今井とは対象的に何処か幼さを見せる青年はとても楽しそうに笑っていた。

遠くから見れば女の子と間違われても可笑しくないというかわいらしさが有った。

後ろで少し長い髪をちょこんとちょんまげの様に止めているのが更に幼く見せた。

「ああ・・・それはいいが・・・あれはなんだ?」

和也がスルーして言った。


「わーお、名前言ったのにスルーか・・・やるな」

今井が、なにか意味の分からないことを、ぼやいた。

「あー!アレなぁ、ああやって強い奴探しとんねん。」

さなぎが今井をスルーして言った。

今井が『お前もか!?』

という顔でさなぎを見ている。

「あいつなぁ、ああやって強い奴調べとんねん、あいつ強い奴と戦うん好きなんや」

さなぎが和也に笑いながら言った。

「ふーん・・・」

和也がめんどくさそうに眼を細めた。

「言っとくけど、あいつほんまに強いから気をつけや」

さなぎがまた嬉しそうに言った。

和也が片方の眉を少しだけ上げた。

「そ!まぁ戦ってみたらわかるわ!がんばりや〜♪」

そう言うとさなぎはさっさと、どこかに行ってしまった。

残ったさなぎも、少し付け足すように。

「まぁ、根はいい奴だから気にしないでくれよな」

そう言うと、今井もさなぎについて行った。

怜次のことを言っているのだろう。


「怜次・・・・ね」

和也がボソッと小さな声で言った。



時間は過ぎ放課後、

「遅い・・・」

和也が学校の裏に来て10分が経過していた。

「まぁまぁ、あいつのことだから迷ってんだろ?」

今井が何処から持って来たのか携帯用の折りたたみ椅子に腰掛けている

「そーそー!あいつ呼ぶくせに遅いねんなぁ〜」

さなぎも今井の隣で同じ様な物に座り、片手で持つポップコーンを口に入れながら言った。

「・・・・」

和也がジッと2人を見る。

「ん?どうした?」

「どったの?」

2人が声をそろえていった。

「いや・・・なんでお前らいるんだ・・?」

和也が疑問を投げかける。

「いや・・・」

「いや・・・」

「ひまだし」

「ひまだし」


2人がまた声をそろえていった。


(なんだそれは・・・・)

和也がフゥっと息を吐いた。


「ふははははははは!!」

アホっぽい笑い声が響く。

「待たせたな!」

ボロボロな格好を、よりボロボロにした姿で、

怜次が現れた。


「遅い・・」

和也が顔を少し向けてからだるそうに言った。

「へん!ヒーローは遅れてくるもんなんだよ!」

怜次はあわててそう言った。

「体中ボロボロで半泣きのヒーローなんていないよなぁ」

今井がさなぎに聞く。

「いまいーそりゃいっちゃあかんわー、どーせ道に迷ってたんやろ」

さなぎは子供っぽく今井に答える。


「う・・・うるさいな!っていうかなんでおまえら、いんだよ!」


「暇つぶし」

「暇つぶし」

ばりばりとポップーコーンを食いながら、また声をそろえて言った。

「ま・・・まぁいいや!そんじゃぁ勝負といこうか!白髪君!」

怜次はそう言うと白い布に覆われた長い棒を手に取った。


布をとる音と共に、長い槍が姿を見せた。

槍はどちらかと言えば、なぎなたに近い形をしていた。

茶色い、丸い木の部分の先に鋭く尖った、長い刃が日の光で輝いた。

「へへ!どうだ!かっこいいだろ!」

自慢げに怜次は笑った。

「いや、それはどうでもいいが、俺には名前がある、白髪と呼ぶな。」

和也はすまし顔で、怜次の言葉をスルーする。

「おぉい!今は名前じゃなくて武器に注目しろよ!」

怜次が驚いた様に目を丸くする。

「ちきしょう・・・調子が狂う野郎だ・・・、じゃあ俺に勝ったら名前でよんでやるよ!」

そう言うと怜次は思いっきり地面を蹴った。


戦闘スタート


「うらぁぁ!」

怜次が雄叫びと共に、和也に刃を振るう。

「ッチ!」

和也が舌打ちした後、慌てて後ろに下がり避けようとしたが、

「!?」

和也がつまづいて後ろにこけた。

「は?」

怜次が一瞬、和也の行動に戸惑いを見せるがすぐに和也に向けて槍の先端を振り下ろす。

和也が地面の砂を握り締め、一直線に槍の刃を向ける怜次に目掛けて投げつけた。

「うわ!?」

怜次の顔面に、モロに砂が掛かる。

その間に和也が転げながら立ち上がった。

「てめぇ!白髪!卑怯だぞ!!」

怜次が怒涛の声を上げながら眼の砂を取ろうと目を擦る。

「卑怯もくそもあるか、これは兵法っつうんだ、それに、エモノ(武器)を持ってないのに攻撃してくるのはどうなんだよ、ツンツン頭」

和也が体の砂をはたいた後、刀を包んでいる布を取りながら冷静に言った。


「ぐぅ!」

怜次が言葉に詰まる。

「いまいーどう思うー?」

さなぎがすっかり鑑賞気分で、今井に言った。

「いやー今のは怜次が悪いだろ、でも、転校生も、いきなり砂投げるとはねぇ」

今井はポップコーンをバリボリと食べながら言った。

和也が刀を構えてジッと怜次を見ている。

(さて、どうするか・・・あいつの武器は槍、中距離型の武器だ、それに比べて俺の武器は近距離型、ふところに入れば勝てるか?)


怜次はジリジリと和也に寄ってきている。

(へ!身長差は俺の方が高い!力勝負になれば間違いなく俺の勝ちだ!小細工を考えさせる暇はあたえねぇ!!)

※和也の身長165cm怜次の身長178cm


「うらぁぁ!」

怜次が和也に向かって一直線に刃を突く。

(早い…な)

和也がギリギリで体をずらし突きを避ける。

(良い突きだが動きに無駄が多い、当たる直前を払いのければ、ふところに入れるな)

和也は冷静に怜次の動きを読む。

「らぁぁ!」

怜次がさっきの倍の速さで和也を突こうとする。

(ここだ・・・!)


和也が当たる直前で、槍の切先を刀で地面に払いのけた、金属音が響き渡ると同時に、

地面を蹴りふところに入り込む。

入りこんだと同時に和也は刀の刃の無い部分で腹に向けて横に振る。

「くぅ!」

怜次が瞬時に気づくと、槍を思いっきり横に振った。


「な!?」

和也が驚いた声を上げると、

何も考えていないのか考えての事なのかは解らないが怜次は近距離で刃が使えない為、今一番和也に近い棒の部分で和也の横っ腹を殴ろうとしていた。


和也は同時に刀を止めて、迫ってくる槍の棒の部分に刀をかすめさせながら、

槍の棒の部分が体にめり込むと同時に蹴りを怜次の腹に入れる。


2つの擬音が重なった。


ッゴ!

「ぐぁ!」

「げほ!」

お互いが同時に後ろに下がる。

(ッチィ、俺が槍を振った瞬間、刀で槍の棒の部分の起動をずらして威力を下げやがった!!

しかも棒が食い込む瞬間に俺の腹に蹴り入れやがるたぁ…)

怜次が片手で腹を抑えながら、槍を立てた。


(くっ、槍の棒の部分で、俺の刀より早く横腹を叩くとは・・・!しかも反射的に俺の蹴りを体をずらして威力を減らしている)

和也が地面にひざを付けて横腹を抑える。


(この野郎・・・!!)

(こいつ・・・)

2人が同時に思った。

(喧嘩慣れしてやがらぁ!)

(戦い慣れしている・・・)


「おーーー!結構激しい戦いしとんなぁ!」

さなぎが嬉しそうに言った。

「うんうん、互角ぐらいかねぇ?」

今井もポップコーンの残りカスをチマチマと食べながら言った。



一方、水音は学校裏で激しい戦いを繰り広げている事など知らず、机の上で教科書を鞄に入れていた。

「そんじゃ!帰ろっか!」

美奈が水音に笑いかけながら言った。

「あ〜ごめん!今日、放課後先生に呼ばれてるんだ!」

水音が手を合わせて困ったような顔をした。

「んー、そっかー・・・じゃぁしかたないっか!また明日ね!」

美奈は手を振りながら教室を出て行った。

「ふぅ…でも何だろ?」

水音は美奈を見送った後、サッサと教室を出て職員室へと向かった。


もちろんそんな水音の行動も知らない和也は緊張の解けない戦いを繰り広げていた。

「おい、お前名前なんつったけ?」

怜次が少し離れた所で構えている和也に言った。

「?、和也だ」

和也が不思議そうに答えた。

「そうか・・・和也か・・・」

怜次はぼそっと小さく言った後続けた。

「さっきは悪かったな!お前みたいな強い奴、久々だったからよ!」

怜次は和也に向かって叫んだ後、キョロキョロと周りを見だした。

怜次は周りを見た後、さなぎと今井の方を向いた。

「なんだ?」

今井は新しいポップコーンの袋を開けながら言った。

「今井、さなぎ・・・・絶対に言うなよ?」

怜次はそう言った後、和也の方に向き直り、槍を和也に真っ直ぐ向けた。

怜次はニィっと笑うと嬉しそうに言った。

「これが…俺の能力だ!」

怜次の槍の先端が光出した。

「おい!怜次!」

今井がポップコーンの袋を投げ出して叫んだ。

「何やってんだ!!退学食らうぞ!!」

さなぎは相変わらず楽しそうに笑っている。

(何だ・・・?)

和也は不思議そうにジッと光出した槍の先端を見ている。


バチッ


光から突然、弾ける様な音が鳴り出し、その音は連鎖の様に音を増やしていく。

「食らえ!!」

怜次が和也に向かって叫ぶ。

『雷光!!』

怜次が叫んだ瞬間、ビームの様に和也に向かって光が走った。

(これは・・・・・まずい!)

和也がそう思った瞬間、横に飛んだ。

和也から外れた光は、ドン!という音と共に学校の壁に当たり、見事に丸い円状に亀裂が走っていた。

和也の頭に壁の小さな破片が降ってきた。

和也は、頭に乗った破片を落としながら、立ち上がった。

「何考えてんだ!!お前は・・・」

今井が怒って怜次に歩み寄ろうとした瞬間、和也が微かに口を動かした。

「いいね・・・」

「!?」

今井が、和也の方を驚いて振り向いた。

和也は刀を構えながらニッと怜次に向かって笑った。

怜次もそれを見て、ニッと笑った。

「ふぅ・・・」

今井が諦めた様にさなぎの隣に戻って座った。

「ええんか?」

今井がニヤニヤしながら言った。

「ああ・・・お互い楽しそうだしな」

今井はそう言うとポップコーンを口に放り込んだ。

「行くぞ!」

怜次が槍を構えながら和也に向かって走り出した。

(奴との実力は、互角とみていい、ならば近距離戦でやれば勝負はつかない、だが、離れればあの光の攻撃が来る、さて、どうするか)

考えている間に怜次の槍が和也に向けて振られていた。

和也は怜次の刃の部分を瞬時に刀で受け止めた。

和也の刀と怜次の槍の刃が当たり金属音と火花が飛び散る。


(よし!!力技に持ち込んだ!!俺の勝ちだ!!)

怜次がそう思った瞬間、和也が後ろに飛んだ。

「次は、俺の番な」

和也が刀を怜次に向けた。

刀の切先が赤く、うっすらと光り始めた。

『炎尾』

和也が叫んだ瞬間、切先から弧を描きながら炎が怜次に向かって走った。

「な!?クソ!間に合え!」

怜次が慌てて和也に槍を向ける。

槍の切先がさっきよりも早く光りだす。

先ほどと同じバチバチという弾ける音が飛ぶ。

『雷光!!』

さっきと同じ様に光が一直線に和也に向かう。


和也の炎と怜次の雷が爆弾の爆発の様な音と同時に激しくぶつかり、衝撃で風が吹く。

「くぅ!」

「ぐぅ!!」

和也と怜次が切先を向けた状態で技を出しながら、苦しそうに唸る。

「おいおいおいおい」

今井が目を真ん丸にしながら両手を顔の前で交差して風を防いでいる。

「すんごい衝撃やね〜」

楽しそうに、もろに顔に風を当てながらさなぎは言った。


その瞬間であった、正に水を指すという言葉がぴったりの綺麗な声を荒げた言葉が飛んだ。

「こぉらぁぁ!」

水音が物陰から突然現れた。


「和也!怜次君!何してるの!!」

もの凄い形相で、怜次と和也に問いかける。

「ぐぅぅ・・・」  

「くぁぁぁ!」

和也と怜次はお互いの技に集中して気付いていていない。

「あれ?水音ちゃん」

今井が驚いた様な顔で水音を見る。

「碕草さん??何でここに?」

さなぎも今井につられて水音を見た。

「やめなさーーーい!!」

水音は叫びながら両手を怜次と和也の技が衝突している部分に向けた。

『水の柱!!』

水音がそう叫んだ瞬間、水音の両手から、もの凄い勢いで水が噴出した。


音と共に破裂した様に和也・怜次・水音の技が消えた。

「っく!」

和也が衝撃で後ろに飛ぶ。

「ぬぉ!?」

怜次も同時に吹っ飛ぶ。

「あちゃ〜〜…」

今井が頭を抑えながら小さくため息を付く。

その隣で楽しそうにクックックとさなぎは笑いを堪えている。

「いってぇ〜何が起こったんだ?」

怜次が尻を抑えながら言った。

「れ〜〜い〜〜〜じ〜〜〜く〜〜ん?」

水音が上半身だけ起こしている怜次の真上に立って恐ろしい微笑を浮かべていた。

「ッヒィ!?み…水音ちゃん!?」

怜次はビクッと体を揺らして震えた。

「む?…水音?」

和也も少し驚きながら立ち上がった。

「和也!!」

水音がキッと和也の方を見ると、ズカズカと寄ってきた。

「この学校の校則知ってる!?許可も無しに能力使ったら、退学だよ!?た!い!が!く!」

水音は和也を恐ろしい眼力で見据えた。

「う・・・すまない・・・」

和也は水音の、あまりにも恐ろしい眼力にたじろぎながら小さく言った。

水音は悲しそうに顔を下に向けながら、少し声の質を落として、小さな声で言った。

「それに、また一人ぼっちになっちゃうよ・・・馬鹿」

「?」

声が小さくて和也には聞き取れなかったようだ。

「なんでもない!」

水音はまたキッと和也を見据えた。

「う・・・」

和也がまた後ずさる。

「まぁまぁ水音ちゃん、和也は怜次に無理矢理戦わされたんだよ、な!さなぎ」

今井は目配せしながらさなぎに言った。

「そうやなぁ〜、和也はなぁ〜〜んも悪ないなぁ、」

さなぎはまだ少しおかしそうにしながら言う。

「ええ!?オイ!お前ら!」

怜次が驚いた様に叫んだ。

「そうそう!だから許してやってくれよ」

今井が怜次を無視しながら言った。

「え?そうなの?」

水音は驚いたように言った後いつもの調子に戻って和也に言った。

「そっか、ごめんね、和也」

水音はすまなそうに上目遣いで和也を見た。

「え、あ、いや・・・」

和也は顔を少し赤らめて下を向いた。

そのときの水音の顔を見て、不覚にも可愛いと思った自分が居た。

和也は怜次の電磁波に思考回路がやられたのか、と考えていた。

「んで、何で笹草さん、ここに?」

今井が、不思議そうに水音に尋ねる。

「うん、何か、先生がね―――」

水音は自分の力で濡れた手を拭きながら説明を始めた。

〔回想〕

真剣な面持ちできよ先生が水音の目の前に座っていた。

「先生、何ですか?」

水音はきよ先生の真剣な顔を不思議に思いながら言った。

きよ先生は少し悩んだ素振りをした後、水音に言った。

「和也君、昨日どうだった・・・?」

「え?昨日は、和也は寮に付いたら部屋に入ってすぐに寝ちゃいましたけど…」

水音は少し困惑して言った後、続けて言った。

「何で、そんなこと聞くんですか?」

水音はまた不思議そうにきよ先生を見た。

きよ先生は少し考えるような仕草をしてから答えた。

「教師として、新しく入った子の事を聞くのは変かな?」

「いえ、変じゃないですけど・・・」

水音は言葉を抑えて言った。

(そんな感じには、見えなかったけどな)

水音は普通の人よりも感覚が鋭いのできよ先生の様子が妙に見えた。

「ま!それはいいとして!水音ちゃんには二つ用事があるの!」

きよ先生は、さっきとは、裏腹に元気に水音に言った。


「二つですか?」

水音はその明るそうな素振りを少し不振に思いながら、きよ先生に言った。


回想終了


「で、その一つが怜次君をうちの寮に入らないか、ってことなの」

一瞬、その場に沈黙が流れた。

「はぁ〜〜〜!?」

沈黙を破ったのは、怜次であった。

「何!?どゆこと!?俺にはちゃんと寮はあるけど!?」

和也がもの凄く困惑しながら、起き上がった。

「うん、何かね〜、怜次君もの凄く方向音痴だから寮に帰ること殆ど無いでしょ?

だから、怜次君の部屋、もう別の人が使ってるんだって」

水音は怜次の気持ちも知らずにあっけらかんと言った。

「そ・・・そんな・・・」

怜次はへなへなと崩れる様に、その場に座り込んだ。

「そこで!今、がら空き中のうちの寮に来ないか!ってこと」

水音は暗い顔で座りこんでいる怜次に、向かって、人差し指をビシッと向けて言った。

「何だよそれぇ・・・きよちゃん意味わかんねえよぉ・・・・」

怜次は泣きそうになりながら言った。

「おい貴様…そんな嫌なのか?」

和也は少し首を傾げ、今にも泣き出しそうな怜次に言った。

「嫌にきまってんだろぉ・・・俺の(元)部屋には、大事なもんが滅茶苦茶あったんだぞぉ・・・」

怜次はまた悲しそうに言った。

「あ!そこは大丈夫!もう全部、こっちの部屋に移したから」

水音が人差し指を顔の横でクルクル回しながら言った。

「え!?ほんと!?」

怜次は、水音の言葉を聞いた瞬間、顔を輝かせた。

「ただし、教育に悪い雑誌や本は処分したそうです」

水音はもう1度人差し指を顔の横で回して、悪戯っぽく笑った。

「そんなぁぁぁぁ!!」

怜次が愕然とした顔で両手を頬に当てながら叫んだ。

泣き顔から喜んだ顔に、そして一瞬で愕然とした顔になる、

そんな怜次の動作は騒がしい奴という印象が和也に残ったが、喧嘩を売ってきたにしてはむかつく奴という印象は持てなかった。

「お・・・俺の・・・巨乳天国増刊号が」

怜次はそう言いうと、地面にゆっくりと倒れていった。

「あちゃ〜」

「馬鹿だな…」

さなぎと今井が面白そうに怜次を見ていた。

「それじゃ!和也、怜次君、寮まで連れて行ってくれるかな?」

水音がニコッと笑いかけながら和也に言った。

「ああ、別にかまわんが・・・水音は帰らんのか?」

和也は刀を鞘に収めながら、無表情のまま言った。

「うん!もう一つの用事があるからね!後、今日はお兄ちゃん帰らないから、罰として、2人で晩御飯の準備しておくこと!いいね!」

水音は軽くウインクして笑いながら言った。

「それじゃ!」

水音は手を振りながら、きびすを返して早足で行った。

「さぁ〜〜て、そんじゃ、俺達も面白いもん見れたし行くかぁ、さなぎ!」

さなぎが伸びをしながら立ち上がると今井に言った。

「ん〜そやな!そんじゃ!また明日な〜和也〜」

今井が持ってきた椅子をたたみながら和也に言った。

「お、おい・・・」

和也が少し困惑した顔で2人を見た。

「じゃ〜〜な、和也!怜次ちゃんと、運んでやれよ!」

さなぎは後ろ向きで手を振りながらさなぎとサッサと帰って行った。


「・・・・」

「・・・・」

その場には困惑した顔で立っている和也と、燃え尽きた様な顔で、倒れている怜次の2人だけになった。

和也は小さな声で独り言を呟いた。

「わけがわからん・・・・」



「あ〜あ、俺の巨乳天国が・・・・」

怜次は肩を落として、顔を伏せたまま、とぼとぼと和也の隣を歩いていた。

「・・・」

和也はジッと前を向いたまま、無言で歩いている。

「おっぱい増刊号、女体の神秘、セクハラスメント・・・」

怜次がぶつぶつとエロ本の名前らしき物を連呼している。

和也はそんな怜次を一瞬だけチラッと見て呆れた様なため息を漏らした。

「なぁ・・・和也」

怜次が無言で歩いている和也をチラッと見て言った。

「・・・なんだ?」

和也が少し間を空けた後、純白の目だけを向けた。

「まさとに聞いたけどよ、お前、能力めちゃくちゃ弱いんじゃなかったのかよ?

なんだよあの火は」

まさと、とは和也に最初に能力を聞いたクラスメートだ。

和也の脳裏に何故か女の子ようのカチューシェを付けて髪をオールバックにしている男の姿が浮かんだ。

和也は少し怜次の方を向いてゆっくりと説明した。

「能力は、鍛錬を繰り返すことで、ある程度の力までなら上げることができる、

だが当然本来の能力以上のことをすれば、体力は消耗、走る時にスピードを上げれば上げる程体力が減るのと一緒だ、まぁ基の力が強ければ体力が減らずとも能力は使い続けれる、

簡単に言えば、元から『体力の有る人間』と『無い人間』の様な物だ、俺は『体力の無い側の人間』だがな」

和也は1度口を閉めた後、付け足すように、もう1度口を開けた。

「それに、水音が止めなければ、俺の力の負けだった、貴様はまだ『体力の有る側の人間だ』」

和也は言い終わると、また前を向いた。

「・・・・ぶっちゃけ言ってる事の8割はわかんなかったけどよ要するにあれか?練習すりゃ能力は上がるわけ?んじゃ、俺もまだ初期段階だからもっと力を上げれるって事か」


「ああ、だろうな・・・」

和也はゆっくりと言った。


「じゃぁ、俺はまだ強く…」

怜次は嬉しそうに自分の目の前に持ってきた握りこぶし見た、嫌、それは見たというより睨んだという感じであった。


和也は、少し間を空けて迷った様な素振りを見せた後、和也はさりげなく (のつもりの要だが明らかに怜次には不信に見えている)怜次に言った」

「俺も・・・一つ聞いていいか?」

「あんだよ?」

怜次はめんどくさいと言った感じに和也に顔を向ける。



「『あの子』…嫌、水音は何者だ…?」




怜次はポカンと口を空けて驚いた。

「はぁ?」

「水音ちゃんは、水音ちゃんだろ?」

怜次は不思議そうに和也を見た。

「すまない、何でもない」

和也は困った様な顔をしたがすぐに無表情に戻った。

「なんだぁ?さては…

水音ちゃんのことが気に何のかぁ?」

怜次はいやらしい笑いを浮かべて和也の顔色を窺った


「そんなんじゃない、ただ・・・」

和也の顔に明らかに嫌そうな顔が浮かぶ、何をアホな事を言っている、という言葉が顔に書かれている。


「ただ?」

怜次は嫌そうな顔をしている和也の顔を窺いながら言った。

その瞬間、和也の顔は嫌そうな顔からいつもの無愛想で無表情の顔へと変わる。

まっすぐに道を見ているが様に見えるが、何処か別の物を見ている様な顔にも見えた。

「あれ程、基の能力の高い人間は珍しいかったのでな、少し気になった」

和也の目は変わらない、ずっとずっと寮へと繋がる道を見ていた、本当にその道を見ていただけなのかは怜次にはわからない。

「水音は良い子だと思う、誰から見てもそうだろう、だが良い子だからこそ何か辛い物が見える、水音の過去や今の状況がどうなのかも知るわけも無い、だが、あの良い子の笑顔がいつか消えるのは見たくない、何でもいいから力になりたい・・・てな」

何故そう思う?怜次はそう言った。

怜次も水音の過去も状況も知らない、だが、転校してきてすぐにこんな事を思える和也が不思議だった。

和也は俯いて、顔を曇らせた。同じ様なのを知っているから、和也は小さな声で、怜次に聞こえるか聞こえないかの本当にぎりぎりの声で

水音は普通の人間よりも基礎の力、和也が先ほど言った『体力の有る側の人間』を大幅に上回る、かなり珍しい能力者だ。

だが、この珍しい能力者は普通の能力者以上に偏見を受けることを和也は知っていた。


ジッと怜次は和也の話を聞いてた。

和也は押し黙った怜次を見て、慌てて付け足すように言った。

「いや、悪い、何でもないんだ、忘れてくれ・・・」

怜次は突然、和也の肩に手を回し、和也に向かって満面の笑みを向けた。

「何だ」

和也が嬉しそうに笑ってる怜次に無愛想な顔を向けた。

「俺、お前のこと嫌いじゃねぇわ!」

怜次は楽しそうに、和也の肩に手を回しながら歩き出した。

「おい、重いだろが…」

和也は迷惑そうに怜次を払いのけようとした。

「んだよ〜恥ずかしがんなって!俺たち『トモダチ』だろ!」

怜次がそういった瞬間、和也の脳裏に女性の言葉が浮かんだ。




『私達――

トモダチだもんね!――』




和也は、払いのけようとした手を離し、迷惑そうに小さな声で、しかし、少し嬉しそうに言った。





 「まったく…変な奴だな…」


第二話 トモダチ -完-

怜次君ですねぇ…

俺的には1番好きなキャラで、これからも活躍してくれるでしょう!

初めての戦闘はいかがでしたか?

本来はもっと長いので、今回は戦闘とは呼べないかもしれません。

さなぎ君と今井君、脇役キャラですが、和也と怜次の後に親友になります。

今井君とさなぎ君の二人はくされ縁の関係

それでは、次回は第3話 苦手と懐です、以後お見知りおきを、それでは

あまた会いましょう

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