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第22話 友

震える和也の手から刀が離れた。

カランッと金属音が響く。


まだ意識は残っている。

息が荒い、無茶苦茶な能力の解放が和也の持つ体力以上を持って行った。

強烈な眠気の中、歯を食い縛る。


「!?ガッハ!ゲホ!!」

強烈な吐き気と咳が和也を襲った。

慌てて抑えた手に生暖かい物を感じた。

その掌を見ると、べっとり血が付いていた。


吐血。


それを見て和也が失笑の様な溜息を吐いた。

当然の結果だ。大量の出血以外にも正人と同じようなメチャクチャな能力の使い方をした代償だ。

和也自体、元の能力のレベルが低い分、体への負担は正人以上の物だ。


和也に既に立ち上がる力は無い。

腕だけの力で必死に倒れた正人に近づいた。

強烈な眠気が襲えば、そこで動くのををやめて必死に歯を食い縛る。

眠気が和らげば再び腕を前に動かす。

それを見ている黒猫は眼を細めて、手助けをしようとはしなかった。

和也も別に助けてほしいとは思わない。


直ぐそこのはずの正人はあまりにも遠く感じた。


「正…人」

か細い声が和也から漏れる。

和也がここまで必死になるのは、生きているか死んでいるかの心配をしていたからだ。


正人が直ぐそこまでという所まで近づくと、弱弱しい声を聞いた。




「和也…」

正人の声。

その声を聞いた瞬間、和也は深い深い息を吐いた。


…良かった。


唯その言葉が頭に浮かんだ。

安心した和也は近くの壁に背を預けた。

ドクドクと流れる血も眠気も止まらない。

だが、和也の顔に苦痛の歪みは無い。

隣に黒猫が来ると顔を覗き込んできた。

「成功か…?」

和也の声が聞こえているのか聞こえていないのか、黒猫は和也を見るだけで答えない。


「…?まぁ、いいさ」

疑問に思うも、今度こそ助けたんだ…と小さな声で零す。


「和也ぁ!居るんだろ?」

弱弱しい声の主は倒れたまま、辛いはずなのに大声を張り上げた。

その声に和也が虚ろになった眼を開く。


「何だ…」

正人は天井を見つめるだけで、和也の方を見ない。


「ごめん」

その一言に、何の意味を乗せているのか、和也には解らない。


「背中…大丈夫か?」

何時も通り、とは行かないが正人は、はっきりと喋った。

「何だ?記憶が有るのか?」

ぶっきらぼうに和也は答えた。

一度マインドが解けた時、正人に記憶が残っている様子は無かった。

(記憶が残っているのなら…もう友達としては見てもらえないかもな、思いっきり斬り付けたしな)

そうふと考え、少し寂しさが過った。

だが、後悔はしない、自分は助ける事が出来たのだから。


「ああ…この手で後ろから斬った所から、お前がすんげー怖い顔で斬りつけた所までバッチリだ」



「ッフン…謝罪してんのか皮肉言ってんのか解らないな」

何時も通りの口調に和也は微笑んだ。


「それじゃぁ…あんがと」


そこで和也がまた笑った。

「なんの謝礼だ」


「・・・・」

正人が少し間をあけた。


「俺を…止めてくれて」

その声は悲痛に震えている様に和也は聞こえた。


「ああ…死ななくて良かったな」

和也の言葉に、正人が目を細めた。

細めるだけで、見つめるのは天井。


正人は勝手に喋り出す。

何故喋り出したかは解らない、それ所では無いはずなのに正人は口を開いた。

和也は何も言わず、正人の声を聞いた。


「俺さ、昔ここじゃ無い所に住んでたんだ…そこでは俺、結構悪ワルだったんだぜ?」

そう言って、正人は悲しそうに小さく笑った。


「・・・」

和也は黙って聞いている。能力者が過去を語る事は本当に無い。それは誰もが必ず過去に心の傷を持つから。

それでも正人は語る。


「そこで能力に目覚めた時、俺は他みたいに落胆しなかった…寧ろバカみたいに喜んでやりたい放題だった」

淡々と語る正人の話は、典型的なタイプの能力者の始まり。

能力は突然生まれる。

能力が生まれる際に人が思う事はどちらか。


喜ぶか。

悲しむか。


片方は力を手に入れた、と、片方は自らが差別の対象に変貌した、と。


正人は前者の様で、この系統のタイプは少なくなく、そのタイプのせいで能力者の肩身は更に狭くなる。

それを能力者の自分に話す正人はどういうつもりなのか、和也は解らなかった。

だが、眠気に耐え、最後まで聞くことにした、

それが、生涯で最後に聞く声かもしれないから。


「その能力で結構人を傷つけてたと思う…俺は元の能力のレベルが高かったから、自在に操れると思い込んでいた…でも違った」

そこで正人はギュッと唇を結んだ。


「力が暴走してさ…辺りはそりゃやべー事になってた」

力の暴走による災害。

その『やべー』と言った言葉が理解出来た。

これが能力者の嫌われる理由の一つ。


「その時…友達を殺した」

声色が変わった気がした。

「この手で…暴走自の時の記憶は無いが、その記憶だけは今でもハッキリと覚えてる」

声が震えている。

「何で、そんな記憶は…残ってん…だろォな」

震える声は今に泣き出しそうになっていた。


正人は震える右腕を顔に被せて、震える声で言った。

「良かった…本当に良かった…」

誰にでも解る様に嗚咽と震える声を出していた。



「また…『友達』を殺さずにすんで…」



その、言葉で、和也は鼓動が止まった気がした。



「まだ、俺を友と言ってくれるのか…?」

和也の声は驚きで少し震えていた。


「当たり、前、だろ?」

何度も小さく息を切りながら言葉を言った。


「ッ!!!」

弱弱しい声だが、和也には力強く聞こえた。

「だ、だが・・・」

和也の声は自然と大きくなる。

「俺は、お前を刀で斬ったんだぞ?傷付ける為の武器を向けたんだぞ!?」


見透かすように、正人が笑った気がした。

だが、声は震えている。

「俺も和也を斬った、ダチどーしの喧嘩だろ?」


正人はそれで済まそうとしていた。

そうしたかった、正人も、和也と同じ思いだから。


「ありがとう…」

自然と、そう言っていた。

正人の様な人間が多く存在するこの学校が。


やはり好きだと


思えた。


「…おいおい、お礼を言ってんのは俺だぜ?」

そう震える声で言いながら、正人はまた、笑った気がした。


「お礼を言うのは…俺だ」

そう言って和也も笑った。


「何だよそれ。へへへッ…」


「ッフ…ハハッ…」


血だらけの二人は小さな声で、お互い弱弱しく笑った。


か細い2つの笑い声は、


片方が途切れた。


「正人…?」


「・・・」

和也の声に正人は反応しない。


「正人?正人!!」

反応は無い。

寒気が走った。脳裏に最も嫌な状況が思い浮かぶ。


「正人!!正人ォ!!」

呼び起こすように何度も正人を呼ぶ。

しかし、返事は無い。


嫌だ!!


壁に手を付き、震える足で立ち上がると必死で正人に駆け寄った。

眠気も痛みも、全てが正人に駆け寄ろうとする自分を妨げる障害に思え、苛立ちが先走る。

「!!」

駆け寄った際に、見えなかった部分が『見えてしまった。』

焼けただれた斜め直線の跡。

皮膚が焼けて血が止まる筈の予定だった傷は思った以上に傷を付けていた。


それは当然の事だったのかもしれない。力のみに特化した技は殺す為の技。


それをしたのは、和也自身だ。


3%しか無い可能性は、可能性でしか無い。


「そんな…!そんな!!」


「当然ダ」

いつ居たのか、黒猫が和也の隣にいた。

その言葉の意味が解ら無い。だが、黒猫の方を見る余裕は無かった。


黒猫は勝手に喋りだす。

「アレ程ノ威力ヲマトモニ食ラッテ生キテイラレルワケガナイダロウ」


「!!!」

そこで初めて黒猫の方を見た。

「どういう事だ…?どういう事だ!!」

怒鳴る様に黒猫に叫び声が向けられる。


「ソウイウ事ダ、3%ノ可能性?ソレ以前ノ問題ダ」


「つまり…嘘だって事か!?」


「否定スル気ハ無イ、ダガコノ能力者ヲ行動不能ニシタ事デ残リノ操ラレテイナイ者達ガ攻撃サレル事ハナイ」


「黙れェ!!!」

既に黒猫の方を和也は見ていない。

冷たくなっていく正人の傷口を必死に防ぐ。

自分の傷を塞いでいた上着を取ると正人の傷口に当ててその上から両手で抑える。

溢れる温かい血から、弱弱しい鼓動が伝わる。

血が止まらない。


「和…也…」

か細い声に和也が反応した。

意識はまだ少し有る。

だが、元の黒眼に戻った瞳は何処を見ているのか解らないの様に虚ろだ。

虚ろな瞳を見て、和也の背筋に寒気が走る。


(目が!見えていない!?)

暴走した能力は予想以上に代償を払っていた。


「もう…良いよ…和…也」


「何も喋るな!!」

(意識はまだ有る!だが血が止まらない!!能力の使い過ぎで体が極端に衰弱している!!…!?)

和也の頭がガクッと落ちた。

限界が来ていた。

(まだ…だ!!このままじゃ正人が死ぬ!!)


「無駄ダ」

黒猫の冷たい声が放たれても和也はそれを気にしない。

「黙…れぇ!!」

既に、声に力は入らない。

血を止めようとしている和也からも大量の血が流れている。

人間は3分の一の血液を流せば生命の危険を要する。

つまり、自らの血の量が2分の一になれば失血死をして、死亡する。

和也は既に3分の1以上の血を流し、本来なら体を動かすこと自体が不可能な状態だった。


黒猫の言っていた10分は既に過ぎている。

眼が無意識に閉じようとする。その度に首を振った。

血を止めようとする和也の手から力が抜けていく。


「ありが…と」

必死になっている和也の耳に声は聞こえているかは解らない。

そう言った正人は小さく微笑んだ。


ゆっくりと意識が無くなっていく。


その瞬間、弱弱しく伝わっていた鼓動が、



止った。



「ッ!!!!」

息が止まった。絶望的な震えが和也の体中を伝わった。


「ゥワァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!」

絶望の叫び声と共に、抑えていた手に力が入ると共に、両手を重ねる。

同時に思いっきり両手で胸を押す。

それを何度も繰り返し、必死に正人を呼び覚まそうとした。


血を流しながら心臓マッサージを繰り返す、和也の顔は辛そうに歪めていた。

「いつもの冗談だろ!?早く起きろよ!!」


和也の声も聞こえず自己迷惑は意識を呼び覚まさない。

「起きろ!!起きろぉ!!」

感情的になっている事に和也は気づいていない。


悲しみに和也の顔は歪む。


強烈な眠気に、力は奪われていく。

震える手でそれでも、和也の胸を思いっきり押し続ける。

普段以下の力になっても必死で心臓マッサージを繰り返す。

正人を押す力は既に心臓マッサージとしての意味を持っていなかった。

それでも和也は続ける。


「俺…を」

震える声色で呟く声は、既に意識の無い正人に向けられる。


「友達…だって…言ってくれた…のに」

和也の意識も遠のいていく、歯を食い縛っても、血が出る程唇を噛んでも、遠のく意識は止まらない。


「クソ…クソォ…」

悔しさの声と共に、


和也は正人に覆い被さる様に、


倒れた。


血は今も流れ続ける。

それを眺め続けている黒猫が居た。


「…死ナセナイ」

和也の行動を否定した黒猫は、誰に言うでも無く呟いた。


「コレ(自分)ヲ助ケタアナタモ、ソノ友モ、ダガコレニ…現状況ノ彼ラヲ助ケルちからハ無イ」


黒猫は暗く続く廊下の方を向いた。


「ダガ唯一助ケラレル者ガ居ル、ソシテ…ソレハコチラニ向カッテイル」

暗い廊下の先に希望を向ける眼差しを向ける。


暗い廊下の中から、人のシルエットが浮かび上がってきた。

その人のシルエットは走っているのか、荒い息を吐きながら近づいてくる。



元々黒猫が和也の所に来た理由は二つ有る、

黒猫の中には学校の状況内が解る様に設計図がそのまま入っている。

そして、学校に登録されている全ての生徒の位置が把握出来る様になっている。

それは生徒が持ち歩くように言われている学校提供の携帯からの電波を掴み取れる為。


その中で、『最初から洗脳に掛からない』生徒を割り出したのだ。

その結果、現在一人の最も危険な和也の所に向かった。

それが理由の一つ目。


もう一つは、『もう一人の操られていない生徒』が一人で和也の所に向かって居たからだ。


和也、水音、今井以外の4人目が和也の所に向かっていた。

和也の戦闘、やっと終わった…

駄目だ…後何回戦闘すりゃいいんでしょうか…

解った事が有ります、連続の戦闘は漫画だから出来る事であって、小説で書いて良い戦闘は一回のストーリーで2,3回が限度な気がしてきたました。

参考になる戦闘描写の素晴らしい小説ないかなぁ…


やっと出したいキャラが出てきそうです。


それではまた、次回でお会い致しましょう

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