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第20話 死ぬか、殺すか、生かすか

助ける為に戦った。

助けたいが為に戦った。


助けるための戦いなんてした事が無い。

だから変になったかもしれない。それでも助けれた事が嬉しくて、きっと自分は変わったんだと思った。

そう思うと更に嬉しくて仕方が無かった。


だけど、そんな簡単に行くわけが無かった。


思うだけならいくらでも出来る。

実現できなきゃ・・・・意味が無い。

正人の持つサーベルは、倒れて血を流す和也に向けて振り下ろされた。


ブゥン!と風を切る音が薄れ行く和也の意識に入り込んだ。


(やられ・・る)

薄れ行く意識の中、和也の頭にはその言葉だけが浮かんだ。


ギィンッ!

肉を切る音はしなかった。

変わりに、弾くような音が廊下内に響いた。


(・・・?)

必死に意識を保とうとしながら、顔を上げた。

血の流し過ぎで目が霞む。

その視線の先に、黒い塊が居た。

黒い塊はサッカーボール程の大きさしか無い。

霞む目を必死に凝らす。

黒い塊がはっきりと形を帯びた。


黒猫。


(黒猫・・・?)

そこで意識がはっきりとした。


「黒猫!?」

後ろを見せていた黒猫が、振り向いた。


「久シ振リニナル」

黒猫が当たり前の様に口を開いた。


「お前、あの時の?」

和也と怜次と水音の3人で捕まえた。

黒猫に見せているが、殺戮兵器として作られた存在。


「何でお前が!?」


「コノ学校カラ緊急信号ガ発セラレタ。コレ(自分)ハ緊急時ノ際ニ瞬時ニ対応出来ルヨウニト、コノ学校ニ配属サレテイル」


和也が黒猫の言葉に顔をしかめる。

(おいおい、初耳だぞ・・・?己区内の奴何考えてる?)


機械音の様な黒猫の声が続いていた。

「話ハ後ダ、現在ノ状況ヲ打破スル事ヲ考エル事ヲ優先スル」

黒猫の視線は和也から再び前に。


先程まで直ぐそこに居た正人は、廊下に倒れていた。

その手にはしっかりとサーベルが握られている。


「武器ヲ振ルト同時ニ体ニ突ッ込ンダ、直グニハ立テナイト思ワレル」

黒猫がそう言った瞬間、倒れている正人がもぞもぞと動き出した。

「!?」

それを見た黒猫が驚いた様に一歩後ろに飛んだ。

「マインドだ・・・『心』のマインドじゃない・・・『体』のマインドだ」

心へのマインドならば気絶してもおかしくない。

だが、体へのマインドは唯の操り人形と変わらない。

傷つこうが、気絶しようが関係が無い。


和也は壁を伝いながら立ち上がる。


ブシュッ!と音を立てて背中から血が噴出した。

「ッグゥ・・・!」

和也は必死で歯を食い縛る。

立ち上がると目が眩んだ。

(まずいな・・・血を流しすぎた)




黒猫が和也を見ると、目を細めた。

「今迄ノ状況ノ説明ハ出来ルカ?」


「・・・フン、悪いがそんな余裕は無さそうだ、悪いが手短にいくぞ」


正人が何度も立ち上がろうと試みていた。

だが、まだ完全に回復していない様で、上手く立ち上がれて居ない。


「確認するぞ?貴様は味方で良いんだな?」

和也が黒猫を横目で見る。


「認識ガ早クテ助カル、今ハ過去ノ事ヲ気キニシテ欲シクナイ」

黒猫も和也に目を合わせた。


「・・・どうやって、『逃げる』つもりだ?」

正人が立ち直るまでまだ少しの時間が在る。


「・・・逃ゲル?」

黒猫は不振そうに声を漏らした。


「違うのか?」


「アナタハ逃ゲルツモリカ?」


「悪いが俺の策は無くなった、さっさと逃げる方が得策だ」


「逃ゲ切レル可能性ハ極メテ低イ、アナタハ闘イタクナイダケデハ?」


「・・・何故そう言い切れる」


「アナタノ心肺ニ揺レガ発シタ」



「・・・」

和也が黒猫から目を逸らす。

黒猫はそのまま続ける。


「今ハソレヨリモ、血ヲ止メル事ヲ優先シタ方ガ得策ダトオモワレル」

和也の背中からダラダラと流れる血は、床一帯を赤く染めていた。

「アナタノ生存率ハ、現在急激ニ低下シテイル、コノママデイレバ死ニ至リマス」


「・・・、余裕が在ったら、な」



正人が立ち上がっていた。

真っ赤な瞳を和也たちに向け、サーベルを構える。

その表情に感情は無く、唯唯無表情であった。


そして、サーベルを何も無いところで思いっきり振りぬいた。


(!?、ッチィ!また空気振動による衝撃波か!!)

和也はとっさに、ガラスに拳を叩き付けた。

ジィン、と和也の掌に痛みが走る。

だが、振動は完全に消える。



はずであった、


ドン!!


和也は宙を浮いていた。

最初にこの技を食らったときと同じ様に、体中に衝撃が走る。

硬い床に叩きつけられる。


「ッグッァ!!」

背中の痛みに、悲鳴が漏れた。

和也は慌てて立ち上がった。

だが、現状が理解出来ないで居た。

先程まで消すことの出来た空気中の振動から作り出す衝撃波。

(何故だ!?)


「成ル程、同ジ様ナ振動デ相殺ヲ試ミタカ、良イ判断ダ」

後ろから黒猫の声がした。黒猫は無事だった様だ。

「シカシ、ソノ程度ノ振動デ打チ消スノハ不可能ト思ワレル」

和也が眉を寄せる。

「どういう事・・・」

和也が言い切る前に、再び衝撃が体中を襲った。


「ックッソ!!」

空中で態勢を立て直し、倒れずに着地する。

(食らい続けてたおかげで攻撃のタイミングが読める様にはなったが、それでもダメージはでかいか!)

和也は衝撃と同時に後ろに飛び、衝撃を和らげたのだ。


「走るぞ!」

和也の掛け声と共に、黒猫と和也は即座に走り出した。


「ドウスルツモリダ?コノ先ハ行キ止マリダゾ?」


「行き止まりの前に空き教室が在ったはずだ!一旦そこに隠れる!!」

走りながら後ろを見た。

ヨタヨタと、正人が後を追っていたがスピードは遅い。

正人と和也の間が広がる。

(立つ時も、もたついていたな・・・足を挫いたか?)

挫いても表情一つ変えず追いかけてくる正人にゾッとした。



空き教室に黒猫と一緒に滑り込んだ。

瞬時に和也は辺りを見渡した。

(ドアは2つ…!!あの正人のスピードなら時間が掛かるはずだ!)

前と後ろに一つずつドアが有る。

無造作に置かれた椅子や机。

黒板の溝に埃が溜まっていた。

その様子から長い事使われていないのが解った。

(少しでも…時間を稼ぐか)


和也は、椅子を掴むとドアに向けて思いっきり投げた。


ガシャァン!!という音が教室内に響き渡る。

次に机を投げる。再び音が響く。

そして再び椅子を投げた。

それを何度も繰り返す。

ドアの前に無造作に山が出来た。


そこで、和也の手は止まった。

手に持っていた椅子が手から離れる。

ガシャァン!!と音が響く。

(まだ…後ろのドアがあるのに…)

手が震える。力が入らない。

眩暈がした。

フラッと後ろに下がると同時に、ピチャッ!と足元から音がした。

反射的に足元を見る。

足もとに、一面の血が広がっていた。

(血を流し過ぎた…か)


そのまま、2歩、3歩と後ろに下がると崩れるように座り込んだ。

「…大丈夫カ?」

すぐ横で黒猫の声がした。

「大丈夫では…無い、かな?」

弱弱しく声が漏れた。

ブレザーを脱ぐと、切り裂かれた痕を見た。

(一直線にバッサリ…か…)

それを後ろに持って行くと、袖の部分を前でギュッ!!と結んだ。

「っつ!!」

痛みで漏れる声。

顔を挙げ、目を閉じる。

(この傷だと血は止まらないな…後の事は今井と水音に何とかして貰うか)


「ドウスルツモリダ?」


目をつぶったまま、和也は答えた。

「2人、俺以外に洗脳に掛かっていない人間が居る…そっちに行ってくれ、正人は出来るだけ俺が足止めして置く」

その言葉は、死を覚悟した様な声。


「知ッテイル」

「?」

和也は、黒猫の言葉が解らなかった。知っているという言葉がどこまでの知っているなのかが解らなかったからだ。

そんな和也を無視して黒猫は話を進める。


「死ヌ気カ…?」


「ああ…」

その声は、暗い声では無かった。

まるで、本望だと言わんばかりに。


「…ソレデ…ヨロシイノカ?」


「ああ…」

短く答えた。

「ホントウニ?」


「・・・・ああ」

再び短く。

「早く行け、正人が来るぞ」

続けるように言った。

「アナタノ生存率ハ極メテ低イ」

目を瞑ったまま黒猫の声を聞いた。


「ダガ…」

黒猫の声が途切れる。


「ソレ以上ニ先程ノ生徒ノ方ガ危ウイ」




「…!、?」

目を開けて、黒猫を見た。

和也を一直線に黒猫は見ていた。

先程の生徒、とは正人の事以外に考えられない。


「何故だ…!」

反射的に反応していた。


「アノ生徒ハ、能力ヲ暴走サセテイル…アノママちからヲ使イ続ケレバ間違イナク死ヌ」


「能力の暴走?」


黒猫は頷くと続けた。

「何故、アノ様ナ状態ニナッタノカハ不明ダガ、自ラノ力ヲ無理矢理引キ出シ、ソノ強力ナ能力ニ体ガツイテイッテイナイ」


「アウトサイダーの暴走…」

それは能力者としてBランク以上の人間の起こす、災害の様な者。

それを防ぐ為に制御装置が存在する。


(さっきの空気振動を消せなかったのは、最初から振動を衝撃に変えていたからか…

確かに窓ガラスを叩いた程度の振動で相殺するわけは無いか…だが、力を使い続けている状態という事か)

和也はそこでッハ、と我に帰る。

「…何故それを俺に言う」

黒猫を睨む。

「アナタハドウスル」

質問を質問で返される。

心を覗くような黒猫の瞳。


「…無理だ」

和也の一言はハッキリとしていた。

「武器も無い状態で暴走した能力者に立ち向かえるわけがないだろ」

和也は肩を落として見せた。


「武器ナラ有ル」

その言葉と共に黒猫の顎がガックン!と落ちた。


「は!?」

驚きの声があがる。

ビクッと和也の体が揺れた。

突然目の前で生き物の顎が外れれば誰でも驚くだろう。


黒猫が首をブンッ!と振ると同時に、床に長い物が転がった。

ガランッ!と金属音が響く。

その白い布で包まれた物を手に取った。



手にベトッとぬめりけがあるものがついた。


「…きたないな」


「安心シロ、唾液デハナイ油ダ」


「なお悪いわ!」

叫んだ後、クラッと眩暈がした。


「貧血ナノニツッコムカラダ」


(っく!今はシリアスだと思って油断していた!この機械からボケが来るとは!)


「ドウダ?」

黒猫の言葉に和也は顔をしかめる。

(わざわざ部屋から持ってきたのか・・・?しかし、どうた、と言われても、な)


「俺はいつ動けなくなるか解らないんだ」

その言葉に、ピンッと立っていた黒猫の耳がしおれる様に倒れた。

そんな黒猫を見て、和也は小さく笑った。

「俺は元々、時間を掛けて戦うタイプの人間だ・・・短時間で相手を倒す力を持って居ない」

黒猫が和也の言葉と共に、ピンッと再び耳が上に立った。


「何ヲ言ウ、アナタニハ、アノちからガアルダロウ?」


「力?」


「アノ時ノ炎ノ剣ノ事ハ良ク覚エテイル」

「!」

その言葉に、黒猫の言葉の意味が解った。

炎斬えんざん、和也の持つ能力の限界まで力を酷使した技。

能力のレベルが低い和也が唯一、対抗する為に作り出した技。

だが、その技は・・・

「駄目だ・・・」


その言葉に黒猫が首を傾げる。

「ナゼダ」


「あの力は・・・確実に『殺す』為の技だ」

コンクリートの噴水すら叩き斬るその力は、『破壊』に特化した力。

和也の言いたい事は、黒猫も理解した。

つまり、『止める』のではなく『殺す』のだ。

「シカシ・・・アノ生徒ハドチラニシロ放ッテオケバ死ヌ」


「だったら俺に殺せって言うのか・・・?」

和也は静かに言う、だがその言葉に怒りが込められていた。


「・・・ナラバドウスル」


「・・・」

黒猫の言葉に和也は口を噤んだ。


「放ッテオケバ、アノ生徒ノ死亡率ハ100%、ダガ・・・」


そこで黒猫はしっかりと和也を見据えた。

「アナタノちからデ止メレル可能性ハ・・・3%」


「ソレは生存率か・・・?」

和也の言葉に黒猫は頷く。


黒猫は再び聞いた。

「・・・ドウスル?」


「・・・・」

和也は俯いたまま答えない。


確実に死ぬのか、それとも和也自身の手で殺すか生かすか。

片方は自らの手に掛けずとも正人は死ぬ。

片方は助かる可能性が有る。しかし、失敗すれば自らの手で友を殺す事になる。

可能性は・・・あまりにも低い。


「ドウスル?」

黒猫は繰り返す。


どちらも正解では無い。

どちらも不正解では無い。

決めるのは和也自身。


「・・・俺は、」

和也は顔を上げた。


「俺はどれくらいもつと思う?」

一帯を染める血は、全て和也の血。


「8分弱・・・良クテ10分」


黒猫の言葉と共に和也は立ち上がった。


十分じゅうぶんだ」

和也の中で決心が付いた。

和也の中に選択肢など無かった。

3%の可能性に掛ける。

答えなかったのは決心を付ける為。

自分が傷つけるのは、クラスメート。

傷つける力は、全てを灰へと焼き尽くす『破壊を目的とした力』。

前を見据える。

決心は揺るがない。


今度こそ助ける。

傷つける事を恐れる余裕すら無くなった。

眩暈がした。直ぐに首を振って意識を保つ。

殺す事になろうとも、『助ける』という一つに置いて、戦う。

この命を掛けて。



前のドアは正人の侵入を遮る為に自分が閉ざしてしまったので、後ろのドアへ向かう。

黒猫はその和也の背を見つめる。


機械で有る黒猫は不必要な独り言を零した。

「アナタハ死ナセナイ、アナタガコレ(自分)ヲ助ケタヨウニ・・・コレガアナタヲ助ケル」

無意識に『感情を持つ機械』は零す。


黒猫の目が力強く光を見せた。




うわ・・・メッチャ時間かかってしまった・・・

新しく書き出した小説、『暴力熱血女と貧弱毒舌男』は早く更新していますので、とても執筆が遅いですがそちらで生存しているという感じに思って頂ければありがたいです。

アウトサイダーは、書く度にやり直していますのでどうしても遅くなってしまいます・・・

しかし、最後まで書きたいので勝手に終わったりしませんので

また見ていただける方に感謝致します。

感想、指導いただけると嬉しいです。

それでは失礼いたしました!!



忘れていた部分が有り、後から本文を追加させて貰いました。

すいませんでした。

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