第1話 純白の男
祝!第1話!純白の男!!
最初なので何も言えませんが温かい目で見守ってください。
第1話 純白の男
ジリリリリリリ!!!!
小さな個室に目覚まし時計の音が響く。
時計は7時を指している。
「・・・・・」
時計の大きな音と共にむくっと無言で起き上がる女性。
少女は顔に掛かった長い、赤い髪をかき上げた。
カーテンの隙間から朝日がもれている。
ジリリリリリリ!!!と今も耳障りな音が響く。
少女は無言で時計を止め、身支度を始めた。
15歳程のまだ幼さの残る少女の髪は無造作にはねている。
少女は眠そうに目を擦すった後、濃い青色のブレザーにか細い腕を通し、ボタンを留め、黒いスカートを上げる。
黒に赤が少し入った髪を頭の両脇に止めて、最後に顔を洗う。
パンパンと濡れた手で顔を叩き、女性は鏡を見た。
その顔は綺麗な顔立ちを照らす様に、澄んだ綺麗な黒に近い赤色の目を真っ直ぐに見ていた。
赤髪の女性は、顔を拭いた後、居間に足を向けた。
居間には少し長いテーブルの上に一人分の朝食があった。
目玉焼きと暖かいミルクに少し焦げ目の付いたトースト。
女性は朝食に目を向け寂しそうに小言を漏らした。
「お兄ちゃん・・・もういったんだ」
もう1度朝食を確認し、椅子に腰掛け食べ始めた。
朝食を食べ終えて鞄を取り玄関に向かう。
ドアに手を掛けてゆっくりと力を入れる。
ガチャ・・・
外れる音と共にドアが開き新鮮な春のあたたかい空気が入ってきた。
「いってきます」
後ろを振りむいて、小さな声で反射的に出る言葉はだれもいない寮にこだまする。
女性は少し悲しそうな顔をしてから、寮を出た。
15歳の女性の朝にしてはあまりにも静かな朝で、静かな寮であった。
その時は7時10分になっていた。
――――今日1日が始まる。
同じ濃い青の制服を着た学生がちらほらと歩いている。
その中の一人の赤髪の少女は学生達の歩く中、1人逆走している少女を見つけた。
その中にブンブンと手を振っているショートカットのかわいらしい女性が見えた。
「水音ーーー!!!」
遠くからでも、分かる様な、ニコヤカな笑いを浮かべ、女性は近づいて来た。
水音と呼ばれた少女は少し驚いた様な顔色を浮かべた。
その声を発した少女の方を向く。
「美奈!」
慌てた様に水音が美奈と呼んだ少女に駆け寄る。
「迎えに来なくても私から行くのに」
美奈の寮は水音から見ると学校から逆走しているのだ。
「なーにいってんのよ!!気にしない気にしない!」
美奈という少女はニコニコとしていて、人懐っこい感じを思わせた。
「それで?風間さんは?」
美奈はキョロキョロと周りを見渡した。
「お兄ちゃんならもういったよ、どーせお兄ちゃん目的で来てんでしょ」
水音が疑うように、美奈に視線を投げつけた
「あ・・・あはは〜」
美奈は、誤魔化すような笑みを浮かべた。
「ふぅ・・」
水音は小さくため息をついた。
「じゃあ行こっか」
「おーっし!今日もがんばろー!」
美奈が元気に青い空に拳を上げて叫んだ。
場所は水音の寮から大分離れた信号の所
「でねぇ…」
「へぇ…それで?」
楽しそうに談笑しながら信号の青を待っていた。
水音が話しながらチラっと同じように待っている人達を見た。
待っている人は水音と美奈を合わせて5人。
2人は小さな男の子を連れているお母さんっぽい人がやさしそうに笑っている。
(春から入ってくる小学等の子かな?)
水音は、はしゃいでいる男の子を見てほがらかに笑みを浮かべる。
もう一人は、春にしては暑苦しい長袖を着ていて、服に付いているフードを目までスッポリと被っている。
長い布を被っている棒を背中に背負っている。
ズボンも長袖で、かなり暑そうに見えた。
身長は水音よりも少し高い程度で、微動だにせず立ちつくしている。
制服を着ていないので多分新入生ではないだろう。
(変わった人がいるなぁ)
そう思った瞬間、フードから見えるか見えないかの目が合った。
「!!!」
水音はビクっと小さく体を揺らした。
(え?なに?今の?変な違和感が・・・?)
男はすぐに目を伏せたのでよくは見えなかったが、
なぜか少し動揺している自分を不思議に思った。
「ん?どうしたの?」
美奈が驚いた顔で固まっている水音に話しかけた。
「え?なんでもないよ」
水音が慌てて笑う。
「ふ〜ん?」
心配そうに美奈は顔をしかめた。
目の片隅で先程の男の子が飛び出したのが見えた。
「あ!ほら!青になったよ!いこ!」
水音が男の子が飛び出したのを見て反射的に青だと認識した。
「ん、そだね え? 」
美奈が顔を前に向けて困惑した声を上げた。
(何で『え?』っていったんだろ?)
そう思って水音は前を見た。
(・・・青じゃない?)
水音は一瞬、頭が混乱した。
(じゃあなんで男の子が飛び出したの?)
思ったと同時に走っていった男の子を見た。
男の子は道路の真ん中で止まってしゃがみ込んでいた。
母親が誤って手を離したのだろう。
それは水音にもわかった。
だが、男の子が道路に出た『何か』を不思議に思って出たところまでは、見ていなかった。
男の子が何かを追って出た瞬間、赤い車が大きな音を上げながら、走り出してきた。
「―!」
水音はすぐに状況を理解すると男の子のもとへ走り出した。
「!」
美奈も少し遅れて分かった様だ。
「イヤァァ!!」
美奈よりも更に遅れて助けようと悲鳴を上げながら子供の母親が走り出した。
水音はもう一人の暑苦しい男までは見ることができなかった。
小さな鈴の音が、何故か水音の耳に届いた。
だが、そんなことに時間をかけている暇は今の水音にはない。
道路の真ん中に男の子はいる。
「ダメ…!間に合わない!!」
水音が叫ぶ。
車が男の子の目の前に来た瞬間、スローモーションの用に見えた。
大きな物が当たる音と共に道路外に弾き飛ばされる。
「!?」
慌てて弾き飛ばされた男の子を確認しようと飛ばされた方に走る。
男の子を抱かかえている男が居た。
先程の暑苦しい男だった。
男はフードが取れて頭から血を流しながら、男の子に話しかけていた。
長めの布で覆われた棒はまだ持っている。
水音達より早く男の子に駆けつたのだ。
男の子をかばって傷を付けたのだろう頭から大量の血しぶきが上がっている。
(え?さっきの人・・・?)
水音が目を見開いて驚いた。
(嫌…てか大丈夫なのこの人!?)
今もドクドクと黙々と、血が流れている。
「大丈夫か?」
そんな血も気にせず男は少し低い声で男の子に呼びかけた。
「・・・・!」
呆然としていた男の子は震えながらうなずいていた。
「そうか…今度から気をつけろよ」
男はやさしく男の子の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「ごごめんなさい」
震えが収まったのか男の子が口を開いた。
「お…おにいちゃんはだいじょうぶなの?」
申し訳なさそうに、男に話しかけた。
「ああ大丈夫だ、気にするな」
男は頭を触って今血が出ている事に気づいたようだ。
「直太!!!」
母親が驚愕の声を上げる。
「馬鹿!!なんて危ないことするの!」
母親は直太という少年をギュッと抱きしめた。
それを確認した様に見ると、男は無言で立ち去ろうとした。
まだ頭から血を出している。
「待ってください!」
母親が男を止める。
「何かお礼を・・・」
そういった瞬間男は顔を少し、しかめてボソッと言った。
「別に…」
先ほどまでの男の子に優しく話していたのとは違い、冷たくそう言うと逃げるように立ち去っていった。
水音は呆然と立ち尽くしていた。
突然の交通事故未遂、男の子が追いかけた何か、そして1番驚いたのは、
その男の髪と目が真っ白な純白の色をしていたことにであった。
「水音・・・大丈夫?」
美奈が呆然と立っている水音に心配そうに話しかけた。
「え?ああ、うん」
そこは野次馬になっていた。
母親と男の子もなにやら警察らしき人達に事情徴収を受けている。
「いこっか」
水音がぽつりといった。
「うん、そだね」
美奈はまた元気に水音の先を歩き出した。
水音はまだ男の事が気がかりだった。
あの時感じた奇妙な感覚は一瞬だけ見た白い目だということだけはわかった。
あのときの鈴の音も男がいつ飛び出したのかも、
水音にはわからなかった。
キーンコーンカーンコーン
学校まで残り少しという所でチャイムが鳴った。
(遅刻決定か・・・あの事故がなかったら間に合ってたのになぁ)
チラッと高学等の学校の大きな時計を見る。
今は8時30分を示していた。
場所は変わり、職員室のような所で青年が怒られていた。
「敦盛和也君・・・私はチャイムが鳴る前に来なさいと言ったはずだが?」
偉そうな男が椅子に座って少し怒った用に声を荒げている。
かなり若い男だ。
「すみません・・・」
全くすまなそうに無表情で怒られている敦盛和也といわれた青年は、真っ白な純白の頭からドロドロと血を流している。
整った顔立ちにも、所々血が付いていた。
「それに何なんだ!その血は!職員室の床がよごれるじゃないか!」
学校の先生らしい人は青筋を浮かべて怒鳴っている。
「ああ・・・これは、さっき撥ねられました」
和也は血をぼたぼたと落としながら、あっさりと言った。
「ふざけるな!それになんだ!その白い髪と目は!何故染めている!」
教師の男の青筋が増える。
和也が少し眉を上げてからゆっくりと言った。
「この髪も、目も、自毛自眼です。」
「そ・・・そうか・・・」
男は少し後ずさりをしたように、うっと詰まっていた。
自分よりも遙かに若い目の前の少年に教師の男は蹴落とされた。
その純白の目には妙に圧力が掛っている。
「で…ではこの学校について説明する」
慌てて教師は話題を変えた。
「もう知っているとは思うが、まずは『能力』から説明しなくてはならんな」
「・・・・」
和也は黙って目を瞑った。
「異常気象か、新たなウィルスか、まだわかっていない人間の潜在能力の1つが現代に存在する、能力と呼ばれるもの、その者達がアウトサイダーと呼ばれる者達、能力は様々で全てが『ありえない能力』だ、いつその力が開花するかも分からないが、
殆どの人間はこの能力が出ることは無い」
「だからこそan outsider〔局外者、外れ物〕と呼ばれているのだ。別名でO能力者、0(何も無い)から生まれる事から0(ZERO)能力者と様々な言われ方をしている。
この者たちは当然学校でもさげすまれ、中退になるものも多い、だからこそ我が高校が出来たのだ!この学校内に存在する校舎は様々だが、この校舎が素晴らしい所だと私は自負している」
自慢げにえらく早口で教師は言った。
「・・・・」
和也はまだ目を瞑っている。
「・・・?おい」
教師はまだ目を瞑っている和也を呼んだ。
和也は目を開けない。
頭から流れていた血は今も流れている。
座っている和也の椅子の周りも血で埋め尽くされていた。
「・・・おい!」
それを見た教師が焦った様に大きな声を出した。
「・・・んあ?」
和也は眠そうな声を出しながら片目を開けた。
「すんません・・・寝てました」
頭を掻きながら眠そうな目を細めていた。
「・・・ま、まあいい・・・」
眉間に更に青筋が増えた。
教師は机から小さな紙を出しながら続けた。
「この学校は小学等、中学等、高学等と三つに分類されている」
丸い円の様な地図の真ん中の周りに小学等、中学等、高学等と分類されている。
その中の円には『寮』と描いてあるのがわかる。
それは真中に一つ一つ大量の寮を集め、それを少し距離を置いて学校が囲むように設置されていた。
通いやすくする設計なのだろう。
これならば小学等、中学等、高学等も関係無く、寮の配分も同い年でなくとも成立し、解り易くなる
だが、それはまるで学校が寮を逃がさない様に囲んでいるようにも見えた。
「随分、寮がおおいな・・・」
和也が地図の、学校が囲う様に位置する寮の所をジッと見て言った。
この大きな学校もそうだが、それに合わせた様な大きさに描かれた円は、その寮の数を現わしていた。
「ああ、当然だ、この学校は、ゆうに200以上は寮が存在するのだ」
教師がまた自慢気に言った。
「200・・・」
和也が無表情のまま、小さな声を出した。
「凄いだろう!だが、この寮の決め方は適当だからな、好きな人間同士になることはないらしい」
教師は、また早口で言った。
「ふーん・・・」
和也はめんどくさそうに言った後、続けた。
「この真ん中のは?」
地図の真ん中の所、寮を示す円の更に真中に薄い円が書かれていた。
「そこは町だ」
「なんで真ん中に町が・・・?」
ここはたしかに大きいが学校であって市ではない。
「そこはな、生徒たちの教育を重んじ商店街を作っているのだ、ゲームセンターもあるし買い物も出来るし何でも揃っている」
「・・・」
和也が地図から目を離してチラッと教師を見た。
「つまり・・・俺達、能力者をこの学校から出さない為か?」
和也が鋭く、小さく言葉を出した。
中に町があるのなら、学校の『外』へ行く必要は無い。
「・・・」
「・・・」
2人の間に冷たい沈黙が流れた。
先に沈黙を破ったのは教師の方だった。
「ふん、次の説明は別の先生の担当だ」
その教師は遠くに居る他の教師を指さした。
「わかりました・・・」
和也が椅子から立ち上がり、
刺された教師の所に向かって歩こうと背中を見せた。
後ろから舌打ちと睨むような視線が和也の背に刺さった。
指差された先生の所に無言で近づき、
その先生の目の前で和也は止まった。
まだ後ろから視線を感じた。
「ごめんなさいね」
高い声でその女の先生はゆっくりと言った。
かなり綺麗な人でとても若い。24、5歳位だろうか。
「あの人、本来はいい人なんだけど、O能力者が…嫌いなのよ」
女の先生は少し悲しそうに顔を曇らせた。
「根はいい人だからゆるしてあげてね」
優しく女の先生は和也に言った。
「別に気にしてないですから」
どうでもよさそうに和也はつづけた。
「なれてますから」
和也は冷たく言った。
「そうね、じゃあ説明を始めるわ」
和也の言ったことを気にしなかったのは、O能力者が差別的扱いを受けているのを、しっているからだろう。
「その前に、申し送れたけど私は笹村 清子っていうの。気軽にきよ先生って呼んでね」
さっきとは裏腹になれた感じで和也に紹介する。
「あなたが入るクラスの担任よ」
「よろしく」
にこやかに和也に笑いかけ手を伸ばした。
「あ・・・・よろしく・・・」
和也は一瞬戸惑ったように見せたが、すぐに手をとって握手の形を作った。
「それじゃあ説明を開始するわ」
すぐに手を離し、きよ先生は話し始める。
「まずこの学校の生徒は90%以上が寮暮らしなの」
さっきの地図の真ん中を囲むように、大きな学校が寮を囲む様に外側にあったのだからその程度はわかる。
その学校に登校する生徒達がその寮に住んでいる様だ。
生徒があまりにも多いため、いくつかの学校に分けられており、この学校は3番目に出来た学校だと、きよ先生は説明した。
「なぜ?」
和也が無愛想な顔と鋭い純白の目を向ける。
和也は一つ疑問に思った。
寮があまりにも多すぎる気がした。
その疑問にはすぐ、きよ先生が答えてくれた。
「殆どの親はね・・・子供がO能力者になると避けたがるのよ」
小さく肩をすくませ、きよ先生は悲しそうにいった。
その言葉だけで、和也には察しが付いた。
子を恐れてこの学校に預ける親が多いのだ。
悪く言えば捨てていく親が多いのだ。
「・・・」
「・・・」
小さな無言の後に和也は付け足すように言った。
「残りの10%は?」
「残りの10%は家を持っている人やそれでも大切にしてくれている親ぐらいね」
と、きよ先生はやさしく答えた。
「じゃあ次の説明に入るわよ」
元気にきよ先生はにこやかに笑う。
(何でこの人こんなに元気なんだ?・・・)
和也の思索を無視してきよ先生は話を続ける。
「この学校はお金が大分かかるの、大きいからね
そこまで手かをかける親はあまりいないのよ」
「だ・か・ら」
少し間を置いてニコッと笑った。
「自分で働くのよ」
「・・・」
和也は少し眉を上げた。
「あら?驚かないわね」
驚くことを期待していたのか、拍子を突かれた顔になっている。
「そうですか?」
あくまで丁寧口調を寄り添っているように無表情で言った。
「うん、これ聞いて驚かなかったのは珍しいかな」
「そうですか」
どうでもよさそうに話を返す。
「でね、仕事はちゃんと決まっていて」
「請負人!
ビジっと親指を和也に向けて笑い掛ける。
「はぁ・・・」
和也がだるそうに返事を返す。
「んも〜本当にノリの悪い子ね〜」
口を尖らせてきよ先生がぶーぶーと不満をたれた。
(子供ですか・・・あんたは・・・)
和也が小さくため息をついた。
「…っま、絶対ってわけじゃないけどね」
きよ先生の付け足した言葉に和也は再び眉を上げた。
そんな和也を無視してきよ先生は話を進めた。
「でね!請負人の仕事で貰えるお金の4割を学校に入れるの」
和也は無言で聞いている。
「はい、これが請負人用の携帯」
きよ先生はそういうと、和也の手に携帯の形をした物を渡した。
請負人様の携帯。それはいつ、いかなる時でも現在存在する請負、つまり依頼が見れるようになっていたり、依頼料や、依頼の難易度等様々な事が見れる高性能な機械だ、当然電話もメールもできる。
「生徒手帳も兼ねてるから、無くさないでね」
和也はジッと携帯を見ている。
「メンバーですか?個人ですか?」
和也が携帯からきよ先生に目を向ける。
「メンバー?個人?」
きよ先生は少し首を傾げて頭の上に?を浮かべた。
「知らないんですか…?依頼人にはチームで動くタイプと、個人,つまりフリーで働く依頼人といるんです」
和也は、めんどくさそうに、ゆっくりと言った。
「あー!そういえばそんなのあったわね〜、ごーめんね〜私完璧に忘れてた〜」
きよ先生は少し小さく舌を出して悪戯っぽく笑った後、続けて言った。
「メンバーよ」
「請負人のメンバーは基本的に寮のメンバーでやるからね」
「寮のメンバー?」
和也が疑問を投げかける。
「うん!その事は後で嫌でも顔を合わせるからいいや」
(適当だな・・・おい)
和也が頭の中だけで突っ込む。
「それじゃあ依頼人になるんだから武器選ばなきゃね〜♪」
何故か楽しそうに和也に笑いかける。
「武器ならあります」
和也がきよ先生を止める。
「え?そうなの?そっか・・・」
きよ先生があからさまにしょんぼりと顔を曇らせた。
「・・・」
「・・・」
しょんぼりとしたきよ先生と少し困った顔をした和也の2人が沈黙を続けた。
先程の先生の時との沈黙とは違い、気まずい感覚が流れた。
「武器・・・お好きなんですか?」
和也がいたたまれなくなり、きよ先生に話を振る。
「!、そぉなのよぉ〜♪部屋にも飾ってるし、何より武器を使った時の快感がいいのよねぇ♪」
突然きよ先生の機嫌が良くなった。
和也はこの時心に決めた。
(この人に逆らうのだけはやめよう・・・)
きよ先生が話しを戻す。
「武器を持ってるって事はもう依頼人なの?」
少し驚いた顔で和也を見る。
「いえ、昔少しやった程度です」
「じゃあ武器確認書はある?」
きよ先生が和也の目を見る。
和也が黙ってポケットから車の免許書のようなカードを取り出して見せた。
そこには、和也の名前と武器確認 認定:日本刀
と描いてある。
「・・・うん、これで大丈夫みたいね」
キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムが響き渡った。
「あら、鳴ったわね、じゃあもう今日は遅いから明日もう一回きてね」
そう言うと1枚の紙を和也に押し付けた。
「じゃあ寮の地図はこれね」
なにかちゃっちゃと終わらそうとしている気配がある。
この先生、かなりのめんどくさがりというのは後にわかる。
「・・・・」
和也は黙ってうなずき、渡された地図を手に取り職員室から出て行った。
血はもう止まっているようだ。
場所は変わりざわざわとした教室の中。
1年1組
「おい!隣のクラス転入生来るらしいぜ」
「まじかよ!女の子だといいよなぁ」
一見普通の高校生達が高校生らしい会話をしている。
本来、教室にいる全ての少年少女が摩訶不思議な能力を持っている。
そんな教室の中に一人、窓側の真ん中に考え込んでいる女性が座っていた。
女性は少し赤の入った髪をツインテールにして、窓から入ってくる風で髪がなびいている。
(何で事故が起こったのに誰もその事について話ていないんだろう・・・そもそもなんで私や美奈は事情徴収を受けてないんだろ、あの親子は聞かれてたけど、私たちには先に行っていい、って言われたし・・・)
「ミーズーナ!!」
ショートカットの女性が後ろから話し掛けている。
(大体あの白い男の人は・・・)
水音は気づいていない。
「ミズナー」
もう1度女性が話しかける。
(そもそも・・・)
水音はまだ気づいていない。
「ミズナ!!!」
女性が思いっきり水音の耳元で叫ぶ
どったーん
水音が思いっきり椅子からこける。
「え?え?なに?なに?」
水音は驚愕の色を顔に浮かべていた。
「やっと気づいたか」
そこに立っていたのはショートカットの元気な少女、美奈だった。
「もー!驚かさないでよ」
水音がむっと顔をしかめる。
「あ〜ごめんごめん何回言っても気づかないんだもん」
美奈も同じ用にむっとした顔をする。
「え?そうだった?」
水音がこけた椅子からはいあがりながら答える。
「ま!それはそうと!聞いた!?隣から転入生来るんだって!!」
目を輝かせながら美奈は水音に言った。
「んーこの時期だと珍しくないかもね」
水音が椅子を立てながら美奈に感想を述べる。
「見に行こうよ!」
唐突に言った、そして美奈の目はランランと輝いていた。
水音が呆れたように、小さくため息まじりに美奈を見る。
「見てどーすんの?」
「えー?かっこいい人だったらどうすんのー」
美奈がめちゃくちゃ行きたそうに水音を見ている。
「どうもしないよ…」
突っ込みも無視して瞳は更に輝く。
美奈の目から『いっしょにいこう!いっしょにいこう!いっしょにいこう!』と語りかけている。
水音がまた呆れた様に顔をしかめると、諦めて肩を竦めた。
「じゃ・・・いこっか」
目を輝かせる美奈を見て、改めて水音は諦めたように、もう一度肩をすくめた。
場所は変わり隣のクラス 1-2
「えー!?明日になったー!?」
美奈が驚愕の声を上げる、美奈の隣には水音がいた。
「おう、きよちゃん(笹村 清子=きよ先生=きよちゃん)が明日になるって青竜刀振り回しながらいってたぜ」
どこにでもいそうな男性が1部おかしい所も気にせず美奈に言った。
「そんな〜・・・」
美奈が残念そうに俯いた。
「残念だったね。ほら、また明日こようよ」
水音はぶーぶー言っている美奈を引きずりながらドアに向かおうとする。
「おう!そうだ!その転校生を見かけた奴がいってたぜ?」
美奈と、つられてその男性の方を向く水音。
「何でも頭から大量の血を流していたそうだ」
ニヤっと笑った男性は怖い話を言うかの様に言った。
「うっわー!すっごいねー!」
何も気にせず美奈はランランと瞳と輝かせた。
それとは別に水音には妙にその言葉が引っ掛かった。
(頭から血?どっかで聞いたことあるような、ないような・・・・)
水音は思い出そうとするが何故か思い出せない。
(まぁいっか)
あっさりと水音は考えることをやめた。
何故かどうでも良いような気もした。
「ほら行くよ!」
まだぶーぶー言っている美奈を引っ張ていく。
「じゃあね!多寡君ありがとう!」
水音が元気に男性に礼を言った。
「お・・おう」
やっと名前の出た男性は脇役である。
学校のチャイムを聞きながら美奈と水音が学校の校門に向かって歩いている。
「あ〜あ〜転校生見たかったな〜」
少し夕焼けに包まれた空を仰ぎながら美奈は言った。
「明日になったら見れるよ」
水音がぶーぶー言っている美奈に笑っていった。
「・・・」
水音が少し黙って悩むような仕草を見せる。
「どったの?」
美奈があっけらかんと笑いながら水音の顔を覗き込む。
少し声を潜めて水音は注意深く言った。
「ねぇ・・・朝の交通事故・・・どう思う?」
水音はまだ朝の交通事故を気にしているようだ。
少し顔を曇らせている。
「え?交通事故?」
「…え?」
学校のグラウンドから野球部のカキィンという綺麗な音が夕日の中、微かに聞こえた。
水音が驚いた声を上げた。
小さなそよ風が驚いた眼差しで固まっている水音の顔に当たりツインテールの髪の毛がそよいだ。
「だって・・・・朝に小さな男の子が・・・」
水音は驚きを隠せない震えた声で美奈に問いかけた。
「またまた〜水音が冗談言うのひっさしぶりだね〜」
美奈の目は嘘をついていない。
いつもの純粋なきれいな青い目だ。
どういう事―?
そんな言葉が頭を過った。
「ん・・・そうだよね!あはは、勘違いしてたみたい」
水音は美奈に笑い掛ける。
戸惑ったような表情の上から。
「じゃあね〜!」
美奈がブンブン手を振っている。
「うん!またね!」
水音も小さく手を上げて言った。
水音は美奈が見えなくなるまで見送っていた。
(おかしい・・・絶対におかしい・・・何で美奈は忘れているの?)
水音は帰宅道をもくもくと歩きながら考えていた。
(美奈は嘘を付くような子じゃないし・・・それとも私が勘違いしてるだけなのかな?
いや、そんなことはない!証拠に私はあの鈴の音を聞いたし!て、あれ?
何で鈴の音が証拠になるの?)
(・・・・)
水音の頭から煙が上がっている。
「あーーーーー!もぉ!意味わかんないよーーー!!」
水音が思いっきり手を伸ばす。
ドカッ
「ドカ?」
水音が手に当たった何かを見る為、不思議そうに後ろを振り向いた。
「いてえなねぇちゃん・・・」
そこには大きな男がいた。
その男のうしろにいたのか舎弟らしき男が大声で水音に言った。
「このお方を誰と心得る!このお方は請負人! ランクEの悪魔の機関車といわれ…(中略)」
その舎弟の後ろにはメガネを掛けた体の細い男がいる。
「あ・・・えっと・・・す・・・すいません!!」
あまりにも突然の出来事で水音は一瞬たじろいだ。
「あやまってすむと思ったのか!?くらぁ!」
男が大声を上げる。
「まぁ・・・俺と一緒に来るって言うなら考えてもやるが、」
大男がニヤッと嫌な笑みを浮かべ水音に詰め寄る。
後ろは壁まで誘導され、逃げる事が出来ない。
ヒヒっと後ろで不気味に細い男が笑う。
水音が肩を小さく震わせながら顔を男の顔から逸らす
「や・・・やめてください・・・・」
水音が、か弱い声を上げる。
(も〜なんでこおなっちゃうのよぉ・・・許可もなしに、力(0能力)使ったら退学になるのにぃ〜)
か弱い水音の姿とは裏腹に、考え方は違った。
水音自身には軽くひねった後脳味噌を勝ち割って東京湾に沈めるぐらいの力くらいは有るの で余計にこの男は水音にとって苛立つ存在であった。
(いっそ、証拠隠滅で消そうかな)
水音がオロオロとしている時、男の後ろの方から低い声が上がった。
「おい、」
怒っているわけでもなく驚いているわけでもない低い無機質な声が水音の耳に届く。
「ああん!?」
男達がギロっと声の方を睨んだ。
「なんか文句あんのか?こら、あ〜ん?」
見下すように最初に出てきた舎弟らしい男が声の主につめよっている。
(え?誰?どっかで聞いたような声なんだけど・・・・だれだろ・・・)
水音には大男が邪魔で見えない。
(も、もしかして助けてくれるのかな・・・?)
ッフ…と、男は鼻で笑った後あっさりと言った。
「いや、お前らのやってる事はどうでもいいんだが道がわからんのだ。」
そういうと男はポケットから地図を出した。
「ここらへんだと思うんだが…」
凍りついた空気も気にせず地図を指差している。
「ええ!?」
水音が驚愕の声を上げる。
「助けてくれるんじゃないの!?」
水音は大男を押しのけて、声のした男に詰め寄った。
「あ・・・・」
水音がしまった、という顔をしてからゆっくりと後ろを振り向く。
水音が後ろを振り向くと男達はニヤニヤと嫌な笑みを再び浮かべて言った。
「ヒヒ、助けを求める相手を間違えたなぁ」
「そんなヒョロ男が俺に勝てるとでも思ったか!」
「そうだ!この方を誰と心得る!この方は…(中略)」
3人が次々としゃべり出す。
(あ〜もぉ逃げるしかない…)
そう思って通りすがりの男に改めて向き直る。
「!?」
水音が目を丸くして驚いた。
(え?)
(なんでこの人こんな目の前にいんだろ・・・)
お互いの顔の距離約10cm程度だろう。
「・・・・」
純白の目がまじまじと水音の顔を見ていた。
(あれ?この人もしかして朝の時の人?)
水音が純白の目を見て朝のことについて気づく。
(っていうか気づくの遅いなぁわたし・・・)
男について気づくまでに3分は経っただろう。
「な・・・・何でしょう・・・?っていうか今の状況分かってます?」
水音が白い
男は黙っている。男に声を掛けた。
「・・・・」
(あ〜もぉなんなのかな〜後ろからちょっとアレ的な3人組がいるし前には全く意味の分からない変な人がいるし・・・)
水音が頭を抱えている時に純白の男が話かけてきた。
「おい・・・」
「はい、なんでしょうか?」
なかばやけくそ気味に水音が対応する。
「名前は?」
男が無表情に真っ直ぐに純白の目を向けている。
「え?」
「碕草 水音だけど?」
(????なんで今そんなこと聞くの?)
意味が解らない、この男の第一人称はこの言葉で片付いた。
「そうか・・・水音か・・・」
「俺は敦盛 和也だ、よろしく」
和也がスッと右手を出して握手を求めている。
「え?」
水音はこの男の一つ一つの行動がさっぱりわからなかった。
「あ・・・よ・・・よろしく・・・」
慌てて和也の手を取る。
(うわ・・・この人の手・・・あたたかい)
氷のように溶けない無表情の顔とは裏腹に和也の手はとても温かかった。
「おいおいおいおいおいぃ!!」
「いつまで無視してくれちゃってんのぉ!?」
「何分たったと思ってんだぁ!?」
「俺等の存在まじで消すきか!?」
「あ〜ん!?」
またしても3人がしゃべり出す。
「あ・・・ああすいません」
慌てて水音は3人組に振り向いた。
「え〜と・・・かえっていいかな?」
水音はあくまで冷静に言った。
「駄目にきまってんだろが!くるぁぁ!!」
1番大きな男が青筋を浮かべている。
「おい、こいつは見逃してやってくれないか?」
和也がいきなり水音をかばう様に前に出てきた。
「へ?」
「は?」
「は?」
「はぁ?」
4人がはぁ?という顔で和也の顔を見ていた。
(え?さっき『どうでもいい』って言ってなかったっけ?)
「ああ!?」
「さっきどうでもいいっていってただろうがぁ!!」
大男が和也に対して怒声を浴びせた。
(やっぱ言ったよね?じゃあなんでいきなり?)
和也の目はさっきまでのだるそうな目から野犬のような目で男達を睨んでいる。
「さぁな、今はそういう気分と改める」
和也は簡単に言った。
(うわ〜勝手だな〜この人・・・)
水音は、『もうなんなの・・・』といいたげな顔で頭を抱えている。
「駄目か?」
和也が話を戻した。
「駄目に決まってんだろうがぁ!!」
大男がまた叫ぶ。
「まぁ待って下さいよ」
慌てて舎弟らしき男が大男をたしなめる。
舎弟はたしなめた後ニヤッと嫌な笑顔を和也と水音に向けた。
「そうだな・・・」
少し思案した後舎弟はしゃべり出した。
「指1本置いてくならゆるしてやろう」
ニヤニヤと笑いながら舎弟は言った。
「そりゃあいい!」
「やれるもんならやってみろや!」
舎弟の後ろからヒヒっと言う笑い声とげらげらと笑う声が嫌に水音の耳に響いた。
明らかに楽しんでいる、水音は更に男達に対して苛々(いらいら)が増した。
知り合いでも無い者が人を馬鹿にして笑う人種はあまり好まなかった。
何か言おうとした瞬間、純白の男が水音を庇う様に前に出た。
(やっぱ消してやろうかしら…)
水音が一歩前に出ようとした。
しかしそれを遮って和也が前に出た。
(え?)
和也は少し間を空けると小さくため息を付いた。
「どいてろ」
「あ…あの」
水音の声を無視して和也は更に前に出る。
水音はジッと心配そうに和也の顔を見る。
「そうか・・・しかたない・・・」
そう言うと和也は白い棒を掴み布を剥ぎ取った。
「あ・・・」
水音が見たものは綺麗な純白な日本刀だった。
夕日に重なる白い剣は水音にはとても綺麗に見えた。
和也はゆっくりと刀のさやを抜き取ると水音に振り返った。
「持っててくれ」
和也は優しく水音に言うとさやを水音の手の上に置いた。
「あ・・・・うん」
純白のさやを渡されてから水音はもう1度日本刀を見る。
刀の先から柄(刀を持つところ)まで綺麗な純白で覆われており、柄の後ろの先には鈴が3つ付いていた。
「き・・・貴様おれ様と戦うきか?」
大男が日本刀を見てたじろぐ。
「勝てると思っているのか?この方は…(中略)
舎弟とメガネを掛けた男も少し後ずさっているようだ。
「戦う?そんなことするわけないだろう?」
和也の無表情が崩れ、一瞬、不気味な笑みに変わった。
「・・・!」
男達は和也の不気味な笑顔にたじろいだ。
「指・・・1本だったか?」
そう言うと和也は刀の刃を人差し指に当てた。
指からゆっくりと赤い液体がコンクリートの地面に落ちる。
「・・・」
和也は無言で男達を見ているが男達は真っ青になりながら、男の指から出る液体を見ていた。
「!」
水音も男達と同じ様に顔が青ざめた。
「ひぃ!」
「こいつ頭おかしいぞ!」
「狂ってる!」
次々と男達は叫びながら逃げていった。
「だ・・・大丈夫!?」
水音は逃げていく男達を尻目にさやを両手で持ちながら和也に駆け寄った。
「ああ・・・脅しに使っただけだからすぐ止まるだろ」
そう言いながらも指からはまだぼたぼたと血が出ている。
「ちょ・・・ちょっと待っててね!」
それを見て何を思ったのか自分の鞄の中をまさぐりだした。
「あ!あった!」
鞄の中から小さな医療バックの様な物から包帯やら何やらを出して和也の指を治療し始めた。
「ジッとして!」
動こうとした和也を水音はキッと睨んだ。
「あ・・・その・・・ごめん」
さっきとは裏腹にしどろもどろして和也は言った。
くるくると包帯を指に巻きながら水音は小さな声で言った。
「ねぇ、なんであんなことしたの?私はあなたの事しらないし、あなたも私を知らないと思う・・・なんで知りもしない私を助けたの・・・?」
水音はすまなそうに和也を上目遣いで見てから小さな声で続けた。
「指まで怪我して・・・」
付け足す様に更に声が小さくなる。
「ごめんね・・・」
水音はしゅんと小さくなり、つぶやく様に言った。。
和也はその顔をジッと見つめていた。
なつかしそうに・・・少し悲しそうに・・・
「昔に似たような奴がいてな、そいつと、似てるなって思っただけだ気にする事は無い」
和也は無愛想な顔のまま、水音を見た。
まだしゅんとしている。
和也の無表情が困った様に崩れる。
「それに、」
和也は少し慌てた様に言った。
「こういう場合は謝られるよりも、礼を言われた方が俺的にはうれしく思う」
水音は変に、不思議な気持ちになった。
まだ遭ってばかりのこの男は赤の他人であるはずの水音を助けた、
無表情で心の読み取れない男の第一人称は変な人、
しかし、何となく、何となくだが水音はこの男は良い人だ、と核心を思った。
(そっか・・・そうだよね)
水音はパッと顔を上げた。
その顔はもう悲しそうな顔はしていなかった。
「そだね!和也!」
じっと純白の目を見て水音はやさしく嬉しそうに言った。
「ありがとう」
「おっとそうだ・・・俺は寮に行かねばならんのだ」
慌てた様にポケットから地図を出して水音に渡した。
少し顔が赤くなっている。
「わかるか?」
和也は心配そうな目で水音を見る。
無表情な顔は相変わらず変わらない。
ジッと地図を見た後、水音は声を上げた。
「え?
「どうした?」
和也が不思議そうに水音を見た。
「ここね・・・」
水音は苦笑した顔を和也に向けた。
「私の寮と同じ」
「…」
「…」
少し暗くなった夕焼けに2人の微妙な沈黙が流れる。
「・・・・なに?」
和也は驚いたよう言った。
「あはは、偶然ってあるんだねぇ」
水音も少し驚きながら言った。
2人が同時にふぅと息をつく。
「偶然ってあるもんだねぇ・・・」
水音がもう1度言って和也に笑いかける。
「ほんとだな」
和也は少し暗くなった空を見上げる。
「じゃ!行こっか!」
そう言うと水音は先に歩き出した。
「ん、」
和也も少しうなづいてから後につづいた。
「ねぇさっきの刀もう一回見せてくれないかな?」
水音が興味津々の目をして言った。
「ああ・・・かまわんが・・・」
和也はそう言うと布を解いて刀を水音に渡した。
「ひゃ!」
水音は少し体制を崩した。
「結構重いね、これ」
水音がゆっくりと剣を両手で持つ。
「日本刀は結局は鉄の塊だ、見かけよりは重い」
和也は歩きながら答えた。
「へぇ」
水音がもう1度刀をまじまじと見る。
純白でつかの後ろに3つの鈴が付いている。
「この鈴が交通事故の時になった音かな?」
「?」
和也が何を言っている?と言うような顔で水音を見た。
「どしたの?」
水音が和也の視線に気づく。
「この鈴は鳴らないんだ、聞き間違いじゃないのか?」
和也が?と言う顔をしている。
「ええ?和也は朝の交通事故の時、子供を助けた人だよね?」
水音が和也に慌てた様に聞く。
「・・・ああ、あんたいたのか確かにそうだが、」
つまらなそうに言う、自慢する分けでも無く、照れる分けでも無く、唯、当たり前をした、という感じの言い方であった。
「だよね・・・」
(あれ?じゃあ、あたしの聞き間違いかぁ・・・おっかしいなぁ・・・あんなはっきり聞こえたのに・・・)
試しに鈴を振ってみる、鳴らない。
中に玉のようなものはあるが小さくカタカタとなるだけだ。
(う〜ん・・・って、あれ?)
「ねぇ!」
水音が嬉しそうに和也の方を見向いた。
「今日の交通事故覚えてるのかな?」
「え?あ・・・ああ」
和也はいきなり水音に迫られ、驚く表情を見せる、だがすぐに戻る。
(なんだ・・・じゃあ美奈のド忘れかぁなんか妙な気がしたけど気のせいか、よかった〜)
水音は胸をなでおろした。
水音は思索した後もう1度刀を見た。
「本当に…綺麗な刀だね」
水音が夕日に照らして見ている。
「ああ手入れはしてるからな」
和也も刀を見ながら答えた。
「ねぇこの刀の名前は?」
「名前?別に無いな」
和也は首を少しかしげた。
「ないの?おかしいなぁ、武器って証明証見たいなんの代わりに名前を付けるんでしょ?」
水音も首をかしげた。
請負人は武器を使う人間が多く、盗まれない防止の為に請負人の会社の方で、『名前と共に』武器を登録する。
だが、和也がきよ先生に見せた武器確認証に『名前は無かった』
少し和也が考える顔をしてから和也の方を向いた。
「つけるか?名前」
和也が水音と刀を交互に見てから言った。
「え?いいの?」
水音がキョトンとした顔で和也を見た。
「お前と俺が会ったのもなにかの縁だ、名前を付けるぐらいどうってことはないだろ。」
和也が坂を上りながら言った。
「んー・・・」
水音は何度も刀を振ったり上から下まで見てから言った。
「うん!決まった!」
ッグと拳を握り水音は、はっきり言った
「『氷鈴刀』なんてどうかな?」
水音が刀を和也に返しながら言った。
「ひょうりんとう?」
和也が聞き返す。
「うん!純白の氷のひょうに鈴のりん、そんでかたな(刀)」
少し心配そうに水音は続けた。
「どうかな?」
和也が目を閉じて少し考える仕草をしてから言った。
「氷鈴刀・・・か・・・」
「いいな、それ」
和也が片目だけ開けてチラッと水音を見た。
「そう?」
水音は嬉しそうに笑った。
少し前を歩いていた水音が和也の方に振り向いて言った。
「ねぇ、やっぱり和也が今日来るはずだった転校生?」
水音が後ろ歩きで和也を見ながら言った。
「ああ・・・多分そうなんじゃないか?」
和也は無表情のまま言った。
水音はすぐ前を向いて走り出した。
和也も慌てて追いかける。
水音は建物の前で止まるとくるっと回って振り向いた。
「ようこそ!私達の学校へ!そして私達の寮へ!」
和也には沈みかける夕日と水音の風に揺れる赤い髪が重なりとても美しく見えた。
(綺麗だ・・・)
(こんな事思うのはあいつ以来だな・・・)
和也は呆然とした後水音には聞こえない様小さな声で言った。
「沙羅・・・」
第1話 純白の男 -完-
主人公登場、
全く主人公らしくないですね、ええ
っていうか、ヒロインが最初と性格が違う気も…
ちなみにヒロインの友達の美奈ちゃんはまた出ます。
それでは、また、第2話 トモダチで逢いましょう