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第17話 青空の少女と子供 1

水音と美奈の戦いは終わった。

だが、まだ見えない敵との戦いは終わって居ない。

敵の量はあまりにも多く、友すらも牙を向く


和也、今井、水音


少なすぎる人数は、『まだ』立ち向かう事は出来ない。

立ち向かう為に必要な人間。

4人目は、狂気に染まった少年。

狂気を消すのは、かつての少女。

冷たい廊下に、幾人もの生徒が居た。


それを座って見ている『ボク』が居た。


廊下に生徒が居る事は不思議ではない、だが一人一人の姿に異常があった。


ある者は、濁った赤い目を虚ろにし、フラフラと歩き周り、

ある者は、奇声を上げながら、血が出るほど頭を掻き毟り、

ある者は、廃人の様な瞳をギョロギョロとしながら手足を投げ出して座っていた。


その異様な世界は、少し前までそこに在った学園では無かった。

若々しく明るい筈の学生達には、その姿は無かった。

それは、『狂気』に蝕まれた世界。

様々な『狂気』は、まだ人生経験の少ない筈の学生達には在る筈の無い物。


アウトサイダー


その普通では無い人種達は、普通の人種達に蔑まれた者が多い。

この学園は、そういった人間達の最後の行き着く先であった。


『ボク』もその一人だ。


口に出さずとも、辛い過去を持つ物は多い。

それは、そのまま『一つの狂気』として心の奥底に存在した。

奥底の『狂気』は、再び呼びだされた。

平穏に、やっと幸せに暮らせて、楽しい学園生活だった世界が



崩された。


再びアウトサイダー達は、苦しみ、悲しみ、怒り、様々な負の感情を爆発させた。

そして、『ボク』も。

様々な行動をする生徒達にも2つの共通点が在った。

一つは、赤い瞳。

もう一つは、全員が武器を持っていた。

『狂気』を示す、傷つけるための『凶器』

そこは狂った世界。

在った世界は、そこには無い。



その狂った世界に、イレギュラーな存在が居た。

地獄に天使が居ない様に、

天国に悪魔が居ない様に、

あまりにもその風景に不釣合いな矛盾した存在。


冷たい廊下を、ペタペタと音を立てて歩いている少女が居た。

黒いストレートの長髪、その髪の上に乗せた物は茶色い麦わら帽子。

白いワンピースが歩く度に揺れる。

スラッとした容姿は一目でスタイルが良い事が解る。

だが、麦わら帽子から除く筈の目は眠っている時と同じ様に目蓋を閉じていた。

少女は目を閉じている筈なのに、歩く姿にまどつく様子も、フラつく様子も無かった。

狂気で狂う学生達に、気にもかけず、真っ直ぐに廊下を歩いていた。


『青空』


かつて怜次に出会い、見えない瞳で怜次をみつめ、空を指差し『青空』と零した少女。


その容姿は。

とても、とても、綺麗で、『ボク』は直視出来なかった。

恥ずかしくて。



第17話 青空の少女と子供 1







冷たい廊下を、少女が歩いていた。

裸足の足にひんやりとした冷たい感触がある。

廊下には少女以外の人間も居た。

だが、少女にはそれが人間には『視えなかった。』

目を瞑る少女には、光景が見える事は無かった。

だが、少女には『視えていた。』

色の無い形だけの世界。

ある者は、濁った目を虚ろにし、フラフラと歩き周り、その度にボロボロと腐った体が床に落ちていた。異臭が鼻に付き、少女が眉を潜める。

ある者は、奇声を上げながら、何本も体から伸びる手で体中を掻き毟り、血だらけになっていた。

ある者は、体の半分が砂の様に崩れており、片方しか無い廃人の様な瞳が不気味に動いていた。


少女は本当に狂った世界に居た。

その異様な光景は、見え無い少女の『イメージ』でしか無い。

目の見えない人間は、その不便を埋めようと周りの機能が発達し、それが目の代わりとなる。

生徒達の直線的な感情は、無理矢理に少女の肌に付き刺さる。

それが、少女の意思とは無関係に見えない筈の世界を視せていた。

だが、そのイメージは少女の想像では無く、狂気で狂った者達の『心』を表していた。


少女は歩きながら小さく零した。

「つまらない…簡単に終わるのか…」

その言葉は、誰に向けるでもなく発せられた。

少女が突然立ち止まった。

廊下の先に続く通路は無い。

少女の前には壁が在るのみであった。


しかし、少女はきびすを返す事は無かった。

様々な異様な姿をする者達の中に、一人だけ不気味では無い姿をした者が居た。

少女の目の前の壁に、三角座りをして顔を伏せている色の無い『子供』が居た。

子供の直ぐ隣に長い棒が立て掛けてあった。

「つまらない、と思わない・・・?」

少女は子供に語りかけた。

その声は優しく、透き通った綺麗な声。

子供はビクッと体を揺らし、恐る恐る、と言った風に顔を上げた。

怯えた赤い瞳は、少女を見ていた。

少女は、子供を『視ていた』


「狂気に晒され、まだマトモな姿をした人間は初めて視た」

少女は、先程とは全く関係の無い事を言った。

子供は困惑した様に首を傾ける。

少女は続けた。

「綺麗な心、無垢とも…純情とも少し違う…」

少女は目を開いた。

濁った、見えない瞳は、子供を見据えた。

その時、子供の怯えの色が消えた。

ゆっくりと口を開き、

「きれー…」

子供の声変わりしていない高い声が小さく零れた。

子供は少女から目を逸らした。

恥ずかしそうに、再び顔を伏せた。

少女は薄く笑って見せると、子供を優しく見下ろした。

「私を綺麗と…?目の見える者の綺麗の基準は解らないけれど…私はあなたの心の方が綺麗に視える」

子供は再び首を傾げた。

「こころー?」

少女は、再び薄く笑う。

「そう、心…」

少女は、そこで思いついた様に立ち上がった。

突然の事に子供は再びビクッと体を揺らした。

「おもしろくなるかな・・・?」

少女は子供の頭に手を置くと優しく撫でた。

「あなた一人で、逆境を覆すかな?物語は変わるかな?」

子供には少女の言葉の意味が理解出来なかった。

少女は別に理解させるつもりは無かった。

唯、独り言の様に口ずさむ。

「今、この学校で理性を持つのは『4人』だけ…嫌、『別にまだ一つ居る』が、たったそれだけで救えるはずが無い、たった一人で流れは変わるのか…5人で救えるか…?」

少女はクスクスと小さく笑った。

子供は不思議そうに赤い瞳で少女をみつめる。


「おもしろそうだ」

少女の子供を撫でる掌が薄く光った。

「あなたを助けよう、私は『青空』…また会えたならそう呼ぶといい」


その一言と共に子供は廊下に倒れ伏せた。

少女はそれを視届けると、踵を返し、元歩いてきた道を戻った。

小さく笑みを作り、再び零した。

「名が『青空』…?自分でも笑ってしまうな…」

少女は寂しげに笑った。

「色を知らない者が何を言っている…」


『青空』は一人、廊下を歩いていた。

異形な者達等、少女は気にしない。

自らも異形なる者だから。






場所は変わる。


長い廊下で対峙するは、2人の少年。

少年達の間隔は3メートル弱。

片方はカチューシェで前髪を上げてオールバックにしている少年、正人。

手に持つサーベルを、縦に横にと何度も大振りした。

もう片方の少年、和也は正人がサーベルを振る度に何度も宙を飛んだ。


「どしたよ和也ァ!」

サーベルをヒュンヒュンと音を立てて回している正人が居た。

和也を見下すように赤い眼が爛爛と輝いている。


「ッチ…」

軽い舌打ちの後、ゆっくりと立ち上がる。

「こんなんじゃ!つまんねーって!!」

言葉と共に、正人がサーベルを振り下ろす。

ヒュン、と音を立ててサーベルが空を切る。

(またか!)

立ち上がりと共に、体に衝撃が走った。

「クッソ…が!」

言葉と共に撥ねられた様に体が飛ぶ。

面白い程に体が何度も跳ねた。

芯に響く衝撃に、体が思うように動かない。

追いうちの様に再びサーベルが振り下ろされる、震える体は動かない。

舌打ちと共に和也が再び宙を飛んだ。


「あ、ぐ…ぅ!」

固い床に打ち付けられる度、痛みが走る。



正体不明の攻撃は和也を苦しめていた。和也は正人の能力が掴めないで居た。

そして武器が無い状態は予想以上に和也を苦しめていた。

能力は武器が無ければ出せない、というわけでは無い。

和也の『火』の能力は水音の『水』と違い、自分自身も傷つける。

武器を通さなければならない能力者は多く存在する。

和也の場合、武器を使わなければ自分自身を焼いてしまうのだ。


「最初の威勢はどうしたよ?ヒャハ♪」

正人の声が上から降りかかる。

攻撃をしないのは余裕か、和也に対しての皮肉か。


「調子に・・・乗んな」

立ち上がるも、足が微かに震えていた。

それを見ていた正人は、大きく目を見開いた。

堪え切れなくなった様に体を仰け反った。

「ヒヒャ・・・ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

甲高い笑い声が響き渡る。

「やっべー!やっべぇぇぇ!!ハイになっちまう!!」

それを見る和也が目を細めた。

(完全に飲まれているか・・・)

覚えの有る狂ったように見開かれた目。

和也は小さく零す。

「肉体か…心か…どちらにせよ壊すしかないな」

狂気に染まった正人の赤い瞳は爛々と輝いている。





それを見た和也の純白の瞳が薄く光を見せた。



助ける・・・!



和也は小さく零した。


そしてすぐに、自分の零した一言に違和感を持った。

(・・・助ける?俺が?)

他人は他人、と考える部分が和也にはあった。

よく一緒に居る正人は決して他人では無い。

洗脳で踊らされる正人を哀れに思う所もある。

助けれる可能性は無いわけでもなかった。

だが、洗脳を解くリスクは極めて低い。

倒すのが一番手っ取り早い方法だった、それは一番解り易い回答だった。

それは頭で考えた結果の答え。

感情に流されない、和也のやり方。



だが、『心』の答えは違った。


´助けたい´

と、


和也が小さく笑った。

不敵でも無く、不気味にでもなく、唯優しい微笑を浮かべた。

(変わったかな・・・?)


あの時、水音を助けたいと思った。

あの時、怜次を友と思えた。


今、正人を助けたいと思えた。


もし、自分が変わっているのだとすれば、それは、良い事だと思える。

変わったのは、この『学校』に来たから。

うるさくて、騒々しくて、腹が立つ。だが、嫌いになれない。

この学校に来る前には無かった世界。

目の前で敵意を向ける正人やクラスメート達の暖かい心が自分を変えてくれたのだと思った。

『あの娘』と同じ、暖かい心。


そんな、この学校の生活が気に入っていた。

これを妨げる者達を、和也は許さない。


第17話 青空の少女と子供 1 ‐完‐

はい、第17話でした〜

更新が本当遅くて・・・

しかも、後書きと前書きを後から追加するという・・・

何かもう色々と、駄目だ・・・

毎度更新早くしよう!とか考えてるんですけど、中々難しいものですね。

駄目だ、部活やめたい。

はい、愚痴です、ごめんなさい。

前回、水音達の話だったので今回は別のメンバー達の方の話もと、

まぁ、大体誰かは予想出来るでしょう。

本当、俺は隠すのが苦手だと思いますわ・・・

技術が欲しいです。



『5人目』が早く出したいですね、気に入っているキャラですので。



それでは至らない小説ですが、次回も宜しくお願い致します。

あ、後、感想頂ける嬉しいです。

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