第15話 無意識の想い
急襲する親友、強すぎるレベル差、混乱と暴走。
強すぎる能力は、水音自身でも抑える事は出来ない。
力は暴走す、
暴走は水音自身の狂気を呼び起こす。
その力は功か不幸か。
首謀者達は冷たい眼で現状を見つめる。
一人は心を、一人は体を支配する。
第15話 無意識の想い
薄暗く妙に広い部屋。
白い線で描かれた円の真ん中に、あぐらで座る人間が居た。
円の中にある無数の摩訶不思議な文字は暗い中で薄っすらと光る。
そんなオカルト的な物と正反対のものが座る人間の前に幾つか置かれていた。
監視用のテレビは暗闇の中で、科学的な光を放っていた。
ガラッと音を立ててその部屋のドアが突然開いた。
暗闇に光が差した。
「・・・」
暗闇に埋もれる人間は動く事も無く、監視用のテレビを見つめていた。
「何でこんなに暗いのよ、この部屋」
ドアを開けた張本人は部屋に入ると同時にしわを寄せた。
高い声の女性は部屋に入るなり、部屋の電源を捜そうと壁に手を付けた。
「ったく…どこよ…」
暗闇から鋭い眼光が女性に向けられた。
「電気を付けないで欲しい」
男とも女とも取れない美しい声が暗闇に響いた。
その声に女性が不機嫌そうな声を上げた。
「なんでよ?」
「・・・・」
暗闇に埋もれる人間はその質問に答える事はしなかった。
「…なんでよ?」
女性は再び暗闇の人間に聞いた。
「・・・・」
それでも暗闇の人間は答えなかった。
女性は大袈裟に溜息を付くと小さく首を振った。
「あんた私の部下のくせに生意気よね…」
その言葉と共に暗闇から再び鋭い眼光が飛んだ。
「別に、あなたの下に付いたつもりは無い」
その言葉に女性は、はぁ?と声を漏らした。
「あなたより『下』のつもりは無い」
その言葉の意味が解ったのか、女性の表情が暗闇でも解るほどに険しくなった。
「あんた…私に勝てるつもり?」
そこで暗闇から向けられていた眼光が消えた。
暗闇の人間が女性から目を離したようだ。
「否定するつもりは無い」
その綺麗な声が女性を苛立たせた。
「別にあんたを殺してもいいんだけど」
わざと聞こえる位に強く舌打ちをした。
ジロリと視線を人間の前の監視用テレビに向けた。
「つか、監視なんて必要なわけ?」
暗闇の人間はゆっくりと口を開いた。
「あなたと私の力は絶対では無い、場合によれば洗脳が解ける可能性がある」
女性は馬鹿にした様に鼻で笑った。
自分の力に、そんな事はありえないという、絶対の自信が女性にはあった。
「その可能性って?」
そんなのも解らないのか、と言いたげに人間は肩をすくめた。
その行動が女性を苛立たせる。
「私の洗脳は心(精神)に、あなたの洗脳は脳に…どちらかの洗脳が解けた時のみの保険を我々がお互いに掛けている」
「知ってるわよ、ボケ」
女性がボソッと毒づく、その声に今度は暗闇の人間の方が苛立ちを覚える。
「それで?」
そんな事を気にせず女性は先を促す。
暗闇の人間は苛立ちを隠すと、先を続ける。
「私の力(能力)は強い心(精神力)を持つ人間には効果が薄い」
「だから眠らしたんでしょ」
女性がつまらなそうに言った。
「…眠っていれば意志が無い分、こちらに有利だとは思える…」
淡々とした声は続ける。
「しかし、それでも無意識による心まで制御出来るとは思えない…」
「無意識って?」
そこで大袈裟に暗闇の人間は溜息を付いて見せた。
「自分で考えたらいい…」
女性のこめかみに解り易い程の青筋がビキッと入った。
「フン…欠点のある能力なんて、二流もいいとこね」
馬鹿にした様な言い方で、再び鼻で笑う。
「そしてあなたの力(能力)にも欠点がある」
女性の目が暗闇の人間を睨む。
「脳に送る身体的ダメージが洗脳を上回れば、洗脳を消す可能性もある…その2つが一辺に起こる事は無いが、可能性が無いわけでもない」
「…」
女性はそこまで聞くと不敵に笑って見せた。
「それは悪魔で可能性よ?そんなの何の充てにもならないわよ」
「…」
暗闇の人間はそこで黙った。
女性は呆れたように首を軽く振った。
(我々は元々、大人数に能力を使うのに適していない…、その悪魔での可能性も高い確率で有りうる…)
暗闇の人間が、それを口にしなかったのは特に理由があったわけではない、単にめんどくさかったのだ。
「そんなの下の人間にやらせりゃいいじゃない」
そう言いながら女性が一歩、近づいた。
同時に、暗闇で薄っすらと光っていた文字が突然強く光りだした。
「何…?」
女性が声を漏らした。
女性が何かしたわけではない、それは偶然に起こった。
暗闇から光に覆われた人間は綺麗な声で誰に言うでもなく漏らした。
「また一人…心の闇に惑う者が狂気に染まったか…」
男とも女とも取れ無い綺麗な声の人間は全く感情の無い言葉を零した。
「っう・・・」
呻き声と共に今井は目を開けた。
起き上がると同時に腹部に強烈な痛みが走った。
「ぐ・・・ぇ・・・ゲッホゲッホ!!」
咽る自分に気絶させられた事を思い出す。
「気づいた?」
自分を気絶させた本人の高い声が上から聞こえた。
見上げた先に笑顔を浮かべる美奈の姿があった。
美奈の赤い目と視線が交差した。
今井は自分が生かされている事を瞬時に察すると、恐怖で目が見開いた。
死ぬ覚悟が出来ていなかったわけでは無い、だがそれでも恐怖は拭えない。
「殺すんなら優しくしてくれよ」
震える声で、つよがりでそう言った、それが精一杯の抵抗であった。
その言葉に美奈は短く笑った。
「まだ殺さないよ?」
今井の表情は恐怖から疑問に変わった。
ニコニコと笑う美奈を見て不思議に思う。
(操られてるん・・・だよな?)
今井の予想では、というよりもその予想通りの筈なのだが美奈は例外であった。
正人の様に暴走しているイメージは無い。
しっかりと意志がある様に見えた。
自分がまだ生きている事自体が不思議だった。
そして水音の姿が見えない。
自分が寝ている間に何があったのかが気になった。
「水音は?」
今井は自然といつもの様に美奈に話しかけていた。
返答はいつも通りの様に見えた。
「ん?あの中」
そう言うと美奈は目の前のドアを指差した。
理科室と表札されたドアの隙間から白い冷気の様なものが溢れていた。
「あれは・・・?」
まだ完全に状態を把握出来ないでいた。
美奈が再び短く笑った。
「今井君も『コッチ』側に付いたら?」
突然の美奈の言葉に今井は一瞬困惑した。
「それはどういう事だ?」
美奈は今井の方を見ずに頭を小さく振った。
「アッハッハ…ううん…何でも無い」
その表情も仕草も操られているというにはあまりにも美奈らしかった。
美奈は水音が居ると言った理科室をジッと見つめていた。
(水音ちゃんが出てくるのを待っているのか?逃げるとは考えないのか?)
そんな今井の考えも知らず、美奈はひたすら赤い瞳でドアを見つめていた。
今井が慌てて首を振った。
(いや…水音ちゃんには悪いが今なら逃げられるかもしれない…)
今井は現在でも最も効率のいい手段を選ぶ。
そこに感情を持ち込むことは無い。
美奈はづく事は無かったが、その時、今井のあばらにヒビが入っていた。
今井自身側にいるが、後ろを向いている状態、解る筈がない。
ゆっくりと立ち上がろうとすると、殴られた所に激痛が走った。
(っつ!!ギリギリの所で走るか…)
気づかれないように、体を少しづつ動かしていった。
「ねぇ今井君」
そこでいきなり美奈が今井に話しかけた。
今井はビクッと体を揺らし、慌てて美奈を見た。
顔は今井の方を向いていない、今もドアの方を見ていた。
小さく息を吐くと動揺を見せない様に声を出した。
「なんだよ?」
「・・・・逃げようとしないでね」
声色が変わった。
「あ…ああ」
勿論嘘だが、何か言わなければ怪しまれる。
ドギャァ!!というすざまじい音が直ぐ目の前でした。
「!!!」
美奈の右足の下のコンクリートが飛び散った。
幾つかの小さな破片が今井の顔に当たった。
見事な窪みは確実に、脅しが含まれている。
呆然としている今井の上から声が降り注ぐ。
「あたし…何するか解んないから…」
いつもの明るい美奈の声色とは全く違う声。
今井はそれ以上動く事が出来なかった。
信じられない殺気が美奈の背中から伝わった。
今井は仕事状、戦う事が少ない分殺気や気配に疎い部分があった。
しかし、その今井でも肌で感じた殺気は想像以上のものがあった。
振り向かない。
美奈はひたすらに水音が居る教室を見ていた。
待ち焦がれるように、赤い目を輝かせて。
第15話 無意識の想い‐完‐
はい、ありがとうございました。
亀の様に遅い更新ですが、日々(色々)頑張っております。
やっと黒幕臭いのが出てきました。
友人に、「お前のキャラは何故喧嘩ばかりする」等と言われておりますが、そんな気は無いんですが…
今回は敵のは話だけでしたが、次の話は実は出来ておりますので早く出せたらナー…なんて…。
それではまた、次でお会いしたいです、
もし、指摘、誤字がありましたらお願いいたします。
精進の為、人からの意見は大切にさせて頂きます。
それではありがとうございました。