第12話 学校占領!!危機襲来!!
平穏であるはずだったこの世界で何度も小さな異変が存在した。
その存在は知らず知らず大きく膨らんでいった。
もう、止まらない。
危機は近い。
敵は目の前だ。
0:00 新しい日が始まる。
まだ外は暗い、そんな深夜。
暗い部屋に長方形の机、そして六つの椅子。
全員の顔は暗さでわからず、薄っすらと照らす光は机の真ん中にある1本の蝋燭。
左端の上からダイヤ、ハート、黒のジョーカー。
右端の上からクローバー、白のジョーカー、クラブ。
トランプを治める6人のリーダー。
その6人のうち、ジョーカーの2人組以外の4人の後ろには11人ずつの部下。
合計54名のメンバー、それが能力者による犯罪組織、別名『トランプ』。
そしてその54名をまとめているのがクローバーのキング。
クローバーのキングはいつもの様に冷静な声を放つ。
「今回の作戦のキーはハートのキング、」
「はぁ〜い♪」
ハートが元気良く手を上げた。
クラブの舌打ちをする声がした。
それを無視してスペードが話しを進める。
「白のジョーカー」
白のジョーカーはハートとは違い何の反応も見せない。
「そしてハートのクイーン」
その言葉にクラブの目の色が変わった。
ガタン!と椅子が倒れる音が暗い密室で響き渡った。
「何故ハートの部下が作戦の主力に入っている!」
同じ様に声も響き渡る。
クラブのキングが声を荒げてスペードを睨でいた。
「特別な能力を持っているからです」
スペードはあくまで冷静に声を発する。
「だからといってハートの部下を!」
クラブが食い下がる。
フゥ…と呆れた様に小さくため息をついた。
「…あなたは自己意識が高すぎます」
「それの何が悪い!!」
クラブの中で何かが弾けた。
自己中心的なその性格が災いした。
自分以外の人間が優位に立つことが許せない男だ。
「大体スペード!貴様がこの組織を指揮している事、事態気に食わないんだ!」
スペードの後ろで待機しているスペードの部下の一人が一歩前に出た。
その顔にはうっすらと怒りが宿っている。
その部下をキングが右手を出して征した。
クラブのキングを一瞥してから渋々という具合に部下は元の位置へと下がった。
「この中で最も力の強い者がまとめればいい!それは誰だ!?この俺だ!!」
クラブのキングは叫び続ける。
6人のリーダー達は微動だにしていなかったが、黒のジョーカー、基、夕菜の眉が少し上がった。
プライドの高い夕菜にはイラつく一言であった。
「俺が最強だ!!誰も逆らうな!!」
そう叫んだ瞬間、スペードのキングの目が本当に、寂しそうに目を細めた。
「そうですか…残念です」
そう言うと右手をゆっくりと上げていく。
だが右手を上げきる前に、それは起こった。
「ッガ!」
クラブのKが声を上げて倒れたのだ。
「?」
スペードのキングが何かしたわけではない。
「いや〜すんませんね、ウチのリーダーが」
クラブの後ろに並んでいた一人がお気楽な声を上げた。
スペードのキングが上げていた右手を下しながら声の主を見つめた。
「クラブのクイーン…」
そう呼ばれた男はヘラヘラと笑いながら頭をかいている。
「嫌、スペードのキングの手をわずらわせるわけにはいかんでしょ、身内は身内で片付けますんで」
「…」
「…」
瞬時、目が交差する。
スペードのクイーンの額に薄らと汗が浮かんだ。
「いいでしょう…」
その言葉と共にホッとした顔を浮かべた。
(た…助かった…)
本来クイーンがキングに声を掛ける事は無い。
それは権力上の事では無く、殺される恐怖で声を掛ける事はない。
それ程、キングとクイーンの実力差は大きい。
だが不意打ちとはいえ、キングを気絶させたこの男、クラブのクイーンは結構の実力者の様だ。
「ただし、クラブのクイーンには今回の作戦に参加してもらいます」
「え゛!?」
スペードのキングはッフと片頬を小さく上げた。
(自分のリーダーを守る為に我が身を呈したその意志の高さ、いいモノ(心)を持っている…)
(うあっちゃ〜…いらん事しちまったよ)
クラブのクイーンは深くため息を付いた。
「それでは再び作戦の確認を行います」
何も無かったように作戦の話へと戻った。
気絶したクラブのキングは何人かが運んで行っていた。
明るい朝日が目に染みる登下校の朝。
「眠い…」
沢山の登下校者の中に和也達の姿があった。
頭から血を流しながら何度も目を擦っているのは和也、その右に呆れた表情の水音、
そして2人よりも前に歩き、明後日の方向を見ている怜次だ。
「和也・・・・いい加減普通に登校しようよ」
「・・・・・朝の眠気に慣れる事は無い」
「違うよ、眠気だったら私にもあるよ何で毎度事故るの!」
和也が首を傾げる。同時に頭から血が垂れる。
「変か?」
「変だよ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
軽いやり取りの後、水音と和也はゆっくりと、ある人物を見た。
この一連の動作に参加していない者だ。
「ねぇ、怜次君どうしちゃったの?」
「わからん・・・・昨日帰ってから、ずっと何か考えていた様だったが、朝起きた時からあんな調子だった」
2人はひそひそと話し合う。
怜次がおかしい。
朝起きて現在の通学路までずっと怜次は呆けている、というより惚けているという感じだ。
「・・・・怜次君?」
まず前に居る怜次に声を掛けたのは水音だった。
明後日を向いていた怜次が水音の方を振り向いた。
怜次は口の端が釣り上がって、気持ち悪い笑みを浮かべていた。
まず水音がその笑顔を見て引いた。
「何かな?」
「い・・・いや、怜次君がいつまでたってもつっこみ入れないから・・・」
怜次は笑顔のまま、
「それはすまないことをしたね」
「怜次君、そこはいつもだったら『いつから俺つっこみ役!?』とかじゃないの?」
「嫌、そこは『つっこみ役って何だよ!』だろ」
和也が軽い訂正を入れた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
2人で怜次の反応を見る。
怜次は気持ち悪い笑みを浮かべたまま
「ソデスネー」
(しゃべり方が違うね!?)
(やる気無ェ!)
水音と和也が同時に頭の中でつっこんだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何となく寂しい2人であった。
ペンポコパコペンパーン♪
気の抜けたチャイムの様な物が校舎に響き渡った。
学校の連絡の時のみ流れるこのチャイムは妙に耳から離れない。
「・・・毎度思うがこのチャイムはどうにかならんのか?」
このふざけたチャイムが和也はどうも苦手だ。
「いつもの校内放送は普通なんだけどね、己区内さんが生徒連絡にこの音楽を指定したんだよ」
水音のあまり関係のない説明を聞く和也が呆れたように目を細めた。
(己区内の野郎…)
『エーチェックチェックー』
気の抜けた声が学校中に響き渡った。
『特別教師用書類室、及び情報探索室の入室、接近を禁止する』
「そんな部屋あるのか?」
呆けている怜次を無視して水音の方を向く。
「うん、和也はまだ来て間もない(というより和也が覚えないだけ)から知らないかもしんないけど、この学校無駄に部屋多いからね」
校内放送はまだ続く。
『きよ先生いらっしゃいませんか?』
間の抜けた声から奇麗な女性の声へと変わっていた。
『きよ先生、いらっしゃったらすぐに職員室に来てください』
「・・・・・?」
「こんな朝から呼ばれているのか」
(そうだよね、朝から呼ぶ事なんてあんま無いよね、まだ来てないかも知んないし・・・そんなに大事な用事?)
和也の何気ない一言が水音には引っ掛かった。
(あれ?昨日最後に見たきよ先生が向かってた先って特別教師用書類室と情報探索室がある方向だったけ?関係あるのかな?)
昨日、帰る一歩手前で暗い廊下を歩いて行ったきよ先生の表情はいつもと違う気がした。
考え込む水音の頭にポンっと手が置かれた。
「和也?」
水音が顔を上げて和也を見上げた。
「何を考え込んでいたが知らんが、その考え込む癖はやめておいた方がいい・・・・」
「何で?」
見上げたまま首を傾げる。
「戦闘中等で無駄な思考は怪我に繋がるぞ、前の依頼でも危なかったじゃないか」
少し考える素振りを見せてから、水音を首を傾げた。
「心配してくれてる?」
そう言った瞬間、和也が顔を背けた。
「ち、違う…戦闘の時に足手まといになられては困るわけでだな・・・」
「本当?ねぇ、何か珍しいね」
水音が和也の顔を覗き込もうと回り込む。
同時に和也は慌てて顔を背ける。
「ねー、本当?本当ー?」
再び水音が回り込む。
和也が背ける。
二人でグルグルグルグルと通学路の道で回っている。
二人は気づいていないが、周りの同じ様な通学路を歩く学生達から黒いオーラが漏れていた。
(このバカップルめ・・・・)
そんな様子を更に気にしていない怜次はにやけながら「そうだよ・・・・・これが恋だよ・・・・」と独り言を漏らしていた。
時は過ぎ、1時間目の水音のクラス。
教室の端、水音は今日も空を見る。
授業は進んでいるが、それでも空を見る。
いつもはこんな状態でも耳に入る先生の声は今日は全く聞こえない。
(…何だろコレ)
冷静に見える水音だが、冷や汗だけは止まらない。
「寒気が…止まらない…」
異変は学校の校舎に入ってから始まった。
最初は気に留めるほどではなかった。
だが現在では、吐き気さえする。
いつもの教室とは違う空気があった。
まるで別の世界に入った様な。
(駄目…)
そう思った瞬間、震える手を上げた。
「先生、気分が優れないので…保健室に行ってきます」
教師は最初は難しい顔をしたが、軽く頷いて再び授業を始めた。
ふらつく足取りでドアへと向かう途中、美奈と目が合った。
珍しく笑顔では無く、心配そうな顔つきをしていたが、直ぐにいつもの笑顔で笑い掛けて来た。
水音も力無く笑い返したが、笑った様に見えたかは定かではない。
同時刻、別のクラス。
「…であるからしてー能力者の歴史は長い様で短く…その歴史の中で多くの英雄による能力者と犯罪による能力者が勃発しているわけでー、これが現在の能力者たちの問題にもなっているわけである」
机と机の間をゆっくりと歩く若い教師の言葉は子守唄の様に一部の生徒達を洗脳する。
「眠い…」
その中の一人に和也の姿があった。
目が開いたり閉じたり、頭がグワングワンと揺れているのは和也もある程度抵抗している様だ。
(こいつって……)
和也の席より3つ分程席の離れた位置に今井が呆れた様に和也を見ていた。
現在は3時間目、相変わらずの変わらない毎日。
今井の目は和也の隣に移る。
そこに居る怜次は頬杖を付いて和也を通り越して窓の外を眺めている。
時々思い出したように、ニヘラァ〜と笑うこの男は周りから見ればかなり気持ち悪い。
突然和也の方からドギャァン!というすざまじい音が響いた。
静かなクラスで突然の音に全員がそっちを向いた。
「・・・・・・・・・・」
和也が机に突っ伏して煙を上げていた。
「Zzzz」
小さな寝息が聞こえる。
限界だった様だ。
思いっきりぶつけたせいか、机一面に血が広がっている。
それに気付いていない隣の怜次は今も空を眺めている。
再び気持ち悪い笑みを浮かべた。
(こいつら……)
再び今井は呆れた顔色を浮かべた。
その今井の前の席のさなぎがいつもの様に楽しそうに笑っていた。
「あいつらメッチャアホやー」
先程まで教科書を読んでいた教師は溜息をつくと低い声を漏らした。
「今井ーその馬鹿を保健室につれてけ」
教師の低い声は今井を志願した。
「…ハ!?」
今井がガタン!と音を立てて立ち上がる。
「何で俺が!?」
教科書を教壇の上に置いて教師は再び低い声を上げる。
「今井は保険委員だろ?そいつ血出してんじゃん」
そう言って教師は和也を指差す。
「いつもの事じゃん!先生、和也の事めんどいだけでしょうが!」
「エー、シラナーイ」
教師が両耳を塞いで教壇をグルグルと回っている。
この教師、きよ先生の次あたりにめんどくさがりである。
この学校は生徒のアホ率と対比して同じ位のアホが教師の中にも存在する。
しかし、そういう教師のほうが以外に好かれているのもこの学校の良い所かも知れない。
「…!」
「・・・・・!」
10分程の言い合いの後、
和也を担いだ今井が教室のドアを開けた。
その表情はかなり嫌そうである。
「イッテラッシャーイ」
後ろでとてもいい笑顔で教師は白いハンカチを振っていた。
「うるっさい!」
今井が力いっぱいドアを閉めて敵意を示す。
「重たい…」
ダラダラと流れる和也の血は今井の背中を真っ赤に染めていた。
その生暖かさにブルッと寒気が走ったが、大きなため息の後、よたよたと歩き出した。
「やっと…ゼェ…着いた…」
息荒げに今井は保健室の前に辿り着いた。
背中に背負われた和也は、
「うむ、ごくろう」
そう言うと今井の背中からシュタッと降りた。
血はもう止まっていた。
「・・・・・・・・・・・・・お前いつから起きてた」
今井の睨む様な視線。
「教室を出たあたりから」
「・・・・・・・・おい!」
今井が軽く突っ込む。
「いいから行くぞ」
そう行って、和也は保健室のドアを開けた。
「なーんでそこまで付きあわなきゃ・・・?」
文句を言っている所で疑問に気づいた。
和也がドアを開けたまま固まっている。
「どうし・・・」
た?と言い切る前にすざまじい声が響き渡った。
「イヤァーーーーーーーーーーーーーー!!」
甲高い女性の声と共に和也の顔面に時計が飛んできた(あのジリジリ鳴る奴)。
顔面に減り込む、ゴホァ!という和也の呻き声も続かない。
次に何かの薬品と思われるビン、それも顔面に当たり血が飛ぶ。
次に・・・(以下略)
最後に巨大な氷が和也にぶち当たった。
今井が、あ、死んだな、と思った瞬間でもあった。
結構冷静である。
「和也のバーーーカー!」
その言葉と共にドアがピシャッと閉まる。
その声で中にいる先客が誰か理解した。
水音だ。
「・・・・」
一瞬の沈黙の後、今井は和也に近づく。
「何があった…?」
巨大な氷の下から苦しそうな声が聞こえた。
「み・・・・水音の・・着替えシーン」
「・・・・・・」
再び沈黙。
「・・・ッチ」
今井が軽く舌打ち。
「おい・・・今の舌打ちは何だ」
和也が今井の方を睨んだ。
今井、男として忠実な生き物。
(カメラ持ってきときゃ良かった…高く売れるしなぁ・・・・嫌、むしろ自分のこの目に収められなかったのが残念だな…嫌々今からでも開けりゃ(ドア)見られるだろうか、でもああは(和也の状態)なりたくないしなァ〜、和也が犠牲になってる間に見ときゃ良かった…)←舌打ちの理由
「和也…」
「何だよ」
大量の瓦礫と氷から和也が這い上がって来る。
「もう一回ドア開けるきない?」
―数分前
「あれ?先生居ないのかな?」
保健室には教師の姿は見当たらなかった。
「ウェ〜・・・汗で体気持ち悪い」
水音は冷や汗で汗だくになっていた。
(ん〜、まだ気分悪いけど先に服換えといたほうがいいかな)
保健室には換えの制服が結構置いてあり、汚れたりするとよく生徒は借りに来る。
「よいしょ」
オッサンみたいな掛け声と共に上着を思いっきり脱ぐ。
(さっきほどじゃないけど、まだ寒気は酷いなぁ・・・・・風邪かな?)
「・・・・、・・・・!」
ドアの前で声がした。
(先生かな?)
保険の教師は女性なので服を脱ぐ行動は止めない。
スカートに手を掛けた瞬間、ドアが開いた。
「・・・・・」
「・・・・・」
ドアに立っていたのは、良く寮で見ている白髪頭の和也だった。
水音は完全に硬直していた。
現在水音は下着のみ、手に掛けているスカートは脱ごうとしている形で太ももの所で止まっている。
つまり上も下も見えている状態。
和也も硬直している。
前回、着替え中を見たときは水音はツインテールのままであった。
だが現在はツインテールの紐も外している。
お忘れの方もいるだろうが、和也は水音のストレートヘアーが苦手なのだ。
和也の顔が真っ赤になっていくと共に、水音の口が『イ』の形になる。
和也は未だ硬直or赤面、水音はショックor赤面。
「イヤァーーーーーーーーーーーーーー!!」
叫び声と共に片っ端から周りのものを投げまくる。
ゴホァ!とか聞こえたが気にしない。
怒りとショックで能力が漏れる。
周りに冷たい冷気と水気が増す。
強すぎる能力が無意識に氷を作り出したのだ。
そして巨大に出来た氷は猛スピードで和也に衝突。
確認せずに思いっきりドアを閉めた。
ゼーゼー!と、荒い息を立てている自分を必死に落ち着けようとしていた。
自分の胸に手を当てて精神集中、再び新しい制服へと手を伸ばした。
ペンポコパコペンパーン♪
制服の袖に腕を通した瞬間、朝で鳴った校内放送が鳴り響いた。
(あれ?今授業中だよね?)
授業中に校内放送が鳴る事は滅多に無い。
緊急放送の場合はこんな緊張感の無い音は鳴らない。
和也達が出て行った後、
1−2のクラス。
パチコーンと景気の良い音がしていた。
「いい加減こっち向け、うすら馬鹿」
教師の放った白チョークが怜次の額に直撃していた。
授業中に、にやけ面で窓の外を眺めている怜次に教師は、そろそろイラつきを覚えた。
「ったくよ〜、こっちも仕事何だからよ〜」
そう言って授業に戻ろうとした、が
再び怜次が目に入ると、先程と全く変わらず明後日の方向をにやけ面のままであった。
「・・・いい度胸だ」
そう言うと思いっきり腕を振りぬいた。
怜次の額に何か当たると共にパッと粉が舞い、怜次の顔面が後ろに仰け反った。
クラスが、『またか・・・』とため息を付く。
この教師の授業では必ず誰かが被害に合う。
その名も誰が名づけたか【高速!消失!粉雪スーパーチョーク!!】
その名の通り高速でチョークをブン投げる。
相手の額に当たった瞬間あまりにもの威力にチョークは粉砕、粉の様に散ることからこの名がつけられた。
前回は和也、その前は直人、常に誰かが被害に会う。
被害に会ったものはあまりにもの威力に脳震盪、額が割れる等等。
ちなみに怜次はこれの常連。
過去にチョークが粉砕せず額に刺さった伝説を持つ。
その被害者達を無視して授業を進めるのがいつもの授業風景だ。
だが、今回の怜次は違った。
気絶するどころか、再びにやけていた。
その光景にクラスの生徒達はザワザワと騒いでいた。
「生きているだと!?(注:生徒)」
「ニュータ○プか!?(注:生徒)」
「お前ら微妙におかしいぞ!(普:生徒)」
そんな中で一番混乱しているのは教師自身であった。
(そんなバカな!俺の高速!消(中略)を食らって倒れないだと!?)
今まで沢山の生徒達を机に沈めた(注:暴力はいけません)プライドは、へらへらと笑っている怜次にズタズタにされた。
「う・・・うぉぉぉぉ!!」
雄叫びと共に再びチョークをぶん投げた。
今度は一発ではない。
何本ものチョークが怜次に当たり粉砕と共に粉雪を散らす。
本来なら一発でも気絶する威力を何発も食らっているが怜次は今もへらへらと笑っている。
それを見た教師はヒートアップ。
呆けていた生徒達はッハと我に返った。
一人の男子生徒が慌てた声を出した。
「ちょ!先生!!それ以上やったら死ぬって!」
男なのにカチューシェをはめて黒髪をオールバックにしている少年の名は正人。
だがテンション上げ上げの教師の耳には届いていない。
「君が!倒れるまで!投げるのを!やめない!」
妙な叫び声と共に更に投げるスピードを上げる。
「先生ーそのネタは解り難いですー」
一人の女子生徒が妙な所に突っ込みを入れた。
のんびりとした声を上げた少女は眼鏡を掛け、少し青の入った長い髪の大人びた少女。
だがこの声も、ばりばりの教師には聞こえなかった。
その少女の後ろの席でため息らしき物が聞こえた。
「須美ー、そがん事言わんでええべさ、関わっとーたらいらん事巻き込まれるえ」
頬杖を付いている少女は緑色の髪を後ろに縛ってポニーテールにしている。
先程の少女とは正反対に背が低く幼い容姿をしていた。
須美と呼ばれた大人びた少女は、妙に訛りが深い喋り方をする少女の方を振り向いた。
「でもー鹿波ー」
鹿波と呼ばれた少女は再び大きなため息を付いた。
「アホはアホに任しといた方がええきに」
その言葉通りに一人の生徒が勢いよく立ちあがった。
「先生!!教師が生徒に暴行を加えるとはどういう事ですか!!!」
巨大なグルグル眼鏡を掛けたこの少年は周りから『いいんちょ』と呼ばれ、性格がとにかく固い。
その大声で教師はピタッと止まった。
「うるせー!ダメガネ!最初に出てきたのに結構忘れられてるクセに喚くなボケェ!」
「な!?先生なんか初登場じゃないですか!!」
「俺はこれからなんだよコノヤロー!死ね!!」
世界広しといえどここまで暴言を吐く教師も珍しい。
「お前が死ね!!」
負けずにいいんちょが言い返す。
「お前がもっと死ね!!」
教師も睨みながら言い返す。
その2人のやり取りを見ていた一人の男子生徒が呆れたようにフルフルと首を振っていた。
黒いサングラスをかけた茶髪の少年はカンペの様なものを出すと何かを書き出した。
それを机に立てると、そのカンペには綺麗な字で『ボキャブラリー貧相 子供』と、書いてあった。
「何だとこら!」
「待ちたまえ!金井君!!それは僕にも言っているのかい!?」
素早く2人は金井と言われた少年に反応した。
金井はもう一度首をフルフルと振ると、再びカンペに何か書き出した。
そこには唯一言『五月蝿い(うるさい)』とだけ書いてあった。
ここで更に騒がしくなるという所で、スピーカーが鳴った。
ペンポコパコペンパーン♪
力の抜ける音が鳴り響きクラスの生徒達が頭を傾けたと同時に耳をかたむけた。
(授業中に学校連絡?、緊急連絡ならわかるが・・・・)
教師も生徒達と同じ様に首を傾げて耳をかたむけた。
〜♪
流れたのは昔なつかしの子守唄。
「子守唄〜?」
全員が再び首を傾げた。
そして何人かが含み笑いをした、誰かの悪戯だと思ったからだ。
「ったく、誰の悪戯だ?ちょっと行ってくっから自習しといてくれ」
そう言って悪戯をした生徒にお灸を据える為に教師は歩き出した。
横式のドアに手を掛け、横に引こうとした。
びくともしない。
「?」
不思議に思いもう一度強く引く。
開かない。
生徒の何人かが不思議そうに見ていた。
そこで流れていた子守唄が止まった。
そして、少し間が空くと、人の声がスピーカーから流れた。
『籠り(こもり)なる者には子守り(こもり)を聞かしたし、それは心に聴かしたし、そしてそれはそれは夢送りに効かしたし…』
男とも女とも取れない、あまりにも綺麗な声が歌うように言葉を紡ぐ。
『籠り(こもり)なる者には子守り(こもり)を聞かしたし、それは心に聴かしたし、そしてそれはそれは夢送りに効かしたし…』
その声は何度も何度も繰り返されていた。
しかし、飽きる事は無く、ただただ聞いていたい。
そんな気持ちにさせた。
クラスの生徒達は怜次を含み、その声に聞き惚れていた。
その時、教師のみ顔を青ざめさせていた。
「お前ら!!!耳塞げ!!!この声を聞くな!!」
教師の叫び声に誰も反応する事は無かった、全員がトロンとした目でみるみる内に目蓋を閉じていく。
一人、また一人と机に突っ伏していった。
突然襲った睡魔に抗うわけでけでもなく、唯流れに反る様に眠っていった。
「っくっそが!!!」
教師一人は必死に耳を塞いでスピーカーから流れる声を遮ろうとしていた。
だが、それでも声は流れ続けていた。
教師にも睡魔が襲ってくる。
耳を塞いでも全てを塞ぎきる事は出来なかった。
「何・・・・で、こいつが!!」
必死に歯を食いしばる。
その時後ろから声がした。
若々しい声が教師の耳に響く。
「無駄っすよ、『言霊』に抗えば頭が狂いますよ」
振り向いた先に居た男は右手にバスタードソードという名を持つ大き目の両刃の剣を地面に刺してそれに全体重を預けた形になっていた。
茶色に染めた髪に首から提げた銀色のロザリオ、手首に巻いた金色のリング、そして今時風の若者の格好。
「んだ・・・・テメェ」
教師は明らかに敵意をむき出し男を睨む。
男は格好には似合わず、教師に対して礼儀正しい喋り方で接している。
「この学校乗っ取りに来ました」
そういうと男はにやっと笑った。
「乗っ取る・・・だぁ?テメェここが何処か解ってんのか?」
睡魔に襲われながらも教師から殺気が放たれる。
「そう簡単に行かないのは解ってるっすよ、だから、生徒や教師を眠らせてからゆっくりっつー戦法」
教師はギリッと歯を食いしばり、机に手を伸ばし立ち上がろうとする。
「ま、生徒はともかく教師はこうやって、ちゃんと眠ってるか見に来なきゃ駄目だけどさ」
男はめんどくさそうに、おおげさに頭を掻く素振りを見せた。
「なめんじゃ!!」
教師が叫ぼうとしたが、そこに男が冷静な声で割って入ってくる。
「なめちゃいないさ」
男が豹変した。
その姿に一瞬、教師の方がたじろいだ。
(なんっつー目しやがる・・・!)
男の黒い目は獣の様に光る。
「この学校の教師は過去に請負人、しかも超一流だった人間が多い」
男が教師を一瞥する。
「あんたもね、元請負人Aランク、別名『クラッシャー(破壊神)』破壊神とまで言われた男が丸くなったものですね」
破壊神と呼ばれた男はそこで不敵な笑みを浮かべた。
「ックックック・・・・ガキが・・・くっちゃべってる暇あったらサッサと済ませたら良いものを」
そういうと睡魔の襲う中、最後の力を振り絞り、教壇の後ろへと手を伸ばした。
ビービービー!
教壇の後ろには赤い警報装置が設置されていた。
これを知るのは教師のみ、もしもの為の装置であった。
警報の様な激しい音がクラス中に響いた。
「じゃぁな・・・寝させてもらうぜ、ウチのガキ(生徒)共には手を出させねぇ」
それだけ言うと教師は、固い地面へと倒れた。
それを確認すると男は小さくため息を付いた。
「カッコイイねぇ・・・・」
警報の激しい音は今も鳴っている。
同時に放送から流れる声は止まった。そして間が空くと、再び声が流れた。
『凶器持つ物に狂気を、心は芯に狂喜せよ』
『〜♪〜〜♪」
スピーカーから流れたのは昔懐かしの子守唄。
水音も聞いたことがある様な気がするリズム。
(授業中に子守唄・・・・・・誰かの悪戯かな?)
特に気に留めていない。
そう思いながらスカートを上げてホックを止める。
着替えはこれで終了。
そこであることに気づいた。
(あれ?寒気が消えた?)
先程まで襲っていた寒気がスッと消えていた。
不思議に思いながらも再びドアに手を掛けた。
ガラッとドアを開けた先には、和也が今井の胸倉を掴んで持ち上げている姿があった。
見事に浮いていた。
「…嫌、何やってんの?」
水音が当然の疑問をぶつけた。
「や、ちょっとヤキ入れとこうと」
無表情に見えながらも何となく怒っている気がした。
「ぐふっ…ドア開けてって言っただけじゃん…」
口から血を吐きながら空中でプラプラと揺れていた。
「それよりこの子守唄何?授業中だよね?」
水音の疑問に今井と和也は同時に首を傾げた。
「「さぁ?」」
(ま、そりゃそうだよね)
2人に疑問を言った所で解決するとは当然思っていなかった。
だが子守唄は突然止まった。
そして再び放送は流れだした。
『籠り(こもり)なる者には子守り(こもり)を聞かしたし、それは心に聴かしたし、そしてそれはそれは夢送りに効かしたし…』
それを聞いた3人のうち、まず水音が首を傾げた。
「何これ?」
そう言うと水音は今井と和也を見た。
放送が何度も繰り返されている、妙に放送が耳に付く。
2人は先程とはうってかわり目を交差させた。
「こりゃー・・・」
今井の言葉と共に和也がコクンと頷く。
「でも・・・・なんで?」
今井が考え込む様に、腕組みをした。
「ちょ、ちょっと!2人で勝手に納得しないでよ」
「取り合えず、教師に連絡した方がいい」
水音、完全にスルー。
「ちょ・・ちょっと」
「ああ、こりゃ緊急事態だ」
再びスルー
「・・・・いいもん、いいもん・・・・」」
三角座りでズーンという具合に顔に影がかかっている。
「・・・・・冗談だ」
そう言って、ポンッと水音の肩に手を置く和也。
「酷いよ和也!!凍らすよ!!!」
水音が歯を剥き出しにして和也に叫びながらグーパンチ。
「グハァ!!」
吹っ飛んだ和也を今度は今井がスルー。
「ま、何はともあれ、マジでこりゃ連絡した方がいいな」
今井がため息まじりにそう呟いた。
目は真剣そのものだ。
「そんなに大変なの・・・?」
水音にはさっきまでの放送がそこまで一大事に思えない。
「そーそー!大変じゃねって!」
そこで大声が聞こえた。
聞いたことのある元気な声。
さっきまで気づかなかった廊下を歩く足音。
3人が同時にそっちを向いた。
「正人?」
そこに居たのはカチューシェで前髪を止めてオールバックにしているいつもの姿。
だがいつもの黒っぽい茶色の目では無く、驚くほど真っ赤な目をしていた。
右手に洋風の剣、刃にカールのかかったそれは、サーベルと言われる者だ。
それを肩の上でポンポンと跳ねている。
「その眼・・・・!」
今井の目が驚愕へと大きく開かれる。
「どうした、授業中じゃないのか?」
今井とは違い、いつもの和也の言葉に正人はケラケラと笑った。
「よー!カーズヤー!今井ー!笹草ちゃ〜〜ん」
大声と共にサーベルの切っ先を3人に向けた。
「殺しにきたよン♪」
そう言ってゾッとする笑みを浮かべた。
真っ赤な深紅の瞳は残酷に輝いている。
第12話 学校占領!!危機襲来!! ー完ー
とりあえず非常に遅くなってしまった事をお詫びします。
次はもっと早く出せるように頑張ります!
さて、
今回は二つの武器が出ました。
この話には武器が多く出るので、その度パソコンで調べています。いやはやパソコンは素晴らしい物で簡単に情報が手に入るし、とても興味深い。
ですからその情報から武器の説明を少し。
1つはバスタードソード
バスタードとは、「雑種(または私生児)」という意味である。バスタードをBastardではなくBusterd(破壊者)と混同することがあるが、雑種と言う意味が正しい。
バスタードソードは、突く為の剣と切る為の剣の丁度中間に存在する剣だそうです。
もう一つはサーベル。
もともとは騎兵の武器として、それまでの直剣に変わって使われ始めた。時代を下ると、サーベルは多くの国の軍隊で軍刀として階級を示す記章ともなり、銃器が主流兵器となってからも精神的・装飾的な意味合いで携帯され続けた。今日の軍隊でも儀礼用のサーベルが使用されている。
これからも様々な武器が出没すると思いますが、機会があれば説明も付けたいです。
それでは読んでくださっている方々。