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第11話 平穏な日々に異変が交差する

朝にトランプの存在を知る。


怜次は昼に少女と出会った。

小さな異変が平穏なはずの日々に介入していた。

様々な異変に気づく事も、気付かない事も。


第11話 平穏な日々に異変が交差する

PM1:00分


「帰ってこないな」

隣の席の怜次の机の上に行儀悪く座る和也はその机の周りに居る2人に言った。

「帰ってこないねぇ」

さなぎは何が楽しいのかケラケラと笑っている。

「昼休み入ったな」

今井が腕組みをしながら答える。

「……行ってくる」

和也は机から飛び降りるとスタスタと教室の出口へと向かう。

ドアから出て行く和也を今井とさなぎが見送る。

ドアが閉まったのを確認してから、さなぎが今井にヒソヒソと話しかけた。

「行ってくるって、怜次探しに行くんやろか?」

「だな」

今井もひそひそで返す。

「何だかんだ言ってあの2人仲良いんやね〜」

さなぎが更に楽しそうにわらって続ける。

「……ああ、そうだな」

今井は顔をしかめると間を空けた。

「ほっとけないんじゃないか?」

さなぎが不思議そうに首を傾げる。

今井が言った事が判らなかった様だ。

和也は比較的、人が良い訳ではない。

だから人を、しかも怜次をほっとけないと思うのはお門違いだと思った。

「どゆこと?」

今井はさなぎを横目だけで見ると、鼻から大きく息を吐く。

「さぁーてな」

「……何かしってンの?」

さなぎは反射的にそう言っていた。

今井とは長い付き合いのさなぎは今井が困ったときに、こういう癖をするのを知っていた。


「………さぁーてな」

間を空けて同じ言葉を続ける。

今井の疲れた様な目は和也の出て行ったドアを見ていた。


昨日の深夜、AM3:21

今井は今回の仕事で情報を知るためにパソコンを使い様々な情報を引き出していた。

暗がりの中、光は画面の青白い光のみ、情報人としての腕を振るう。

いわゆるハッカーと言われる作業だ。

カタカタとキーボードを叩く音は迅速かつ無駄が無く、慣れた手つきで指が軽やかに動く。

パソコンの画面に移された規則正しく並べられたフォルダやデータ達。

それはどれもが唯の一般人が見ていいような物では無く、一つ一つに暗証を入れるシステムを持つ厳重さである。

【一年間の犯罪履歴】【能力者による社会的問題】【××××年○月△日、犯罪組織によるバスジャック】【etc】【etc】【etc】…

沢山の情報網を頭に叩き込む中、妙な物が混ざっていた。

【イレイザー部隊】

これだけなら怪しいわけでは無い、そのフォルダの中にあるデータに気を引くものがあった。

イレイザー部隊とは別名、排除人はいじょにん

請負人とはまた異質の選ばれた請負人に特別な仕事を設ける。

要は汚れ仕事だと思えばいい、排除人は依頼人で禁止されている殺害、暗殺、等を時に犯罪に手を染める依頼事を約束された特別な部隊である。

エリートクラスの実力を持つ排除人は全員が請負人でいう、Aクラス以上の存在だ。

報酬は大きいがその分危険の伴う物である。

この仕事はあまりおもてでは知られておらず、今井も情報人でなければ知りようのない事であった。

排除人の仕事の経歴からトランプの事を知るつもりであった。

まさか『こんな物』を見るとは思っていなかった。

【イレイザー部隊】というフォルダから更に様々なデータに分けられていた。

そのデータを一つずつ違法の手法でパスを通して見て行く中、最後に残ったデータは規則正しく並べられたデータから2つ3つ間を空けて置かれていた。

黒の文字でデータの内容を教えていた今までのとは違い、赤い文字で書かれていた。

【 純白の悪魔 】

「・・・・・?」

今井が眉を寄せる。

純白の悪魔

その名は聞いたことはあるが、どれもこれもありえない噂で構成された都市伝説の様なものだ。

要するにハッキリとした情報が無いのだ。


情報人をしていると次々と新しい情報を見る事になるのだが、このケースは始めてであった。

ちょっとした興味本意で先ほどまでと同じ様に違法の手法でパスを入れる。


ブー…


耳障りなハズレの音がパソコンから鳴る。

先ほどまで一発でパスを通していたのが、初めて失敗した。

「・・・・???」

軽やかに打ち込んでいた指が止まる。

再び同じ様に指を動かす。


ブー…


またしても同じ音が鳴る。

「・・・????」

どうやら先ほどまでよりもかなり厳重な様だ。

今井は大きく息を吸い込む。

肺一杯に空気を送るとゆっくりと吐き出す。

深呼吸と同時に目を瞬く、集中力を練り上げていく。

「…なめんな」

その一言と共に再び指が動き出す。

先ほどまでの軽やかな動きとは違い、力強い動き、その目はパソコンの画面を凝視している。

次々と画面が変わる。

今井は、ハッカーとしての実力は上に在る様だ。


ピー…


今井が手を止めると共に耳障りな機械音が高い正解の音を出す。

今井はフンと鼻を鳴らすと手に入れたデータを開く。


その画面には一枚の写真と文字で形成されていた。

「………なんだこれは」

独り言が口から漏れた。

その目は驚愕の色に染まり、画面を凝視していた。



ッブーッブーッブー!

突然の低い音がけたたましく鳴り響いた。

パソコンの画面に大量の警報のマークが表示され、最早手に入れた情報も見えなくなっていく。

バッと顔を上げると、今井は慌ててパソコンのコンセントを引き抜いた。

力いっぱい引いた導線はブチブチ!と痛快な音を立てて引き抜かれる。

それと同時にパソコンの画面がプッツンとテレビを消した様に真っ黒な色へ変わる。

今井は軽く舌打ちすると再び独り言を漏らした。

「見つかっちまったか………!」

パソコンへのハッキングは様々な警報装置やパスワードを外さなければならない。

今井が見落とした警報がデータの持ち主に気づかせたのだ。

その持ち主はハッキングからこちらの居場所を割り出そうとしたのだ。

今井が後数秒気づくのが遅れれば今頃警察の世話になっていただろう。

バチバチと鳴る導線を握りしめたまま立ち尽くす、今見た情報は既に頭に入った。

だが、常識的にありえないその情報は今も脳内を駆け巡る。

「純白の………悪魔、か」

そのデータの横端に貼られていた、ある少年の顔には見覚えがあった。

白い目と同じ様な白い髪は印象深く頭に焼き付いている。

都市伝説と思われていた伝説は、幻想では無く現実に存在していた。



「今井?今井ー?」

さなぎの高い声でハッとする。

昨日のパソコンでの件を今井はまだ考えている。

「大丈夫かー?」

今井の顔を覗き込むさなぎの目は少し心配そうにしている。

大きく息を吐くと軽く手を振って大丈夫と表現する。

昔からの腐れ縁のさなぎにはこれで十分通じる。

(ったく…まだ寝ぼけてんのか?俺…)

自分で自分の顔をパシパシと叩くと眠い目を擦る。

あるはずが無い、疲れているんだ、と自分に言い聞かせる。

あの和也に限ってそんな事は…と、

今井が昨日見た者は、


何人もの人間を殺し続けた。

本当の悪魔の情報であった。






昼休みで人が何人も横切る通路の中、

和也は学校の出口へと向かっていた。

目的地は方向音痴のお迎え。

昼休みまでに見付からなければ、直ぐに学校に戻る予定だ。

もう既に何回目になるか解らない怜次捜索にはかなり呆れていた。

過去に怜次をほっといたまま寮に帰った事があった。

帰った先の寮には大量の領収書が送られてきていた。

顔を青ざめる和也と水音。

後に怜次が喧嘩で暴れ周り、

その被害を受けた健全なる一般人の方々の弁償等諸々(もろもろ)の類が回り回って、更に関係の無い和也と水音に回ってきたのだ。


現在、和也達の寮は借金に負われ、結構大変な状態であり、水音に泣きながら怜次の事を頼まれている。

過去の依頼により、和也が真っ二つにした噴水も未だ弁償出来ておらず、そんな和也が水音の頼みを断ることは出来なかった。

和也は深く深くため息を付いて肩を下ろす。


怜次の居そうな所を考えながら歩いていると、周りの話し声が耳に入った。


『おい!見たかよ!スッゲー美人!』

『ああ、新しく入った先生か?』


『さっき通路の先で綺麗な人が居たよ!』

『スッゲー!モデルみたい!!』


周りの喋っている事は殆ど似たような内容の様だ。

通路の先に行けば行くほど騒がしくなっていた。

和也は気にせず歩いていると、話の基らしき人が同じ様に歩いてきていた。

それは20代位の女性であった。

ツヤッとした黒髪、顔の化粧は中々の物があり、大人の女性を思わせる顔つき。

180はある身長にしっかりと出る所の出た体つき。

それを更に強調する様なピチッとしたスーツは体の曲線がはっきりと判り、

わざわざ見せている様に大胆に胸の部分を開いている。

歩く度に見えるか見えないかの服と同じ様な黒のピチッとした短いスカート。

そのモデルの様な大人の魅力を醸し出す女性は成る程、箱入り状態の学園の生徒達には珍しいらしく、男達にとっては、常に成長しきっていない同年代近場の少女達を見るよりは新鮮さがある様だ。

そんな美しい女性を和也は見ることなくすれ違った。

女性も和也の白髪を物珍しげに一瞬見ただけで直ぐに目を戻した。


瞬間であった。


和也の背中に妙な物が走った。

過去に何度も覚えのある旋律、

和也が戦闘に命を掛け、相手もまた命を取りに来ている。

あの漆黒の少年との戦い前の様に。

それは命を奪った事がある物のみに存在する感覚、

和也は振り向いた、女性は振り向いてはおらず、

和也の純白の眼に女性の後姿が映る。


その眼はいつものめんどくさそうに細めている眼ではなく、戦闘時の睨む状態と似ていた。

この女は危険だ、と脳内が認識する。

調べる必要が有ると脳内が命令する。



「……すいません」

小さな声だが女性に聞こえる様にはっきりと和也は言った。

礼儀正しく呼び止めた声にはある種の敵対心が込められている。

女性はその声に反応したのか、振り向くと、和也に近づく。

ニッコリと笑うと女性は自分より背の低い和也に目線を合わせた。

その笑顔は普通の男性ならば眩暈がする程に美しかったが和也の表情は変わらない。

「何かな?僕?」

甘ったるい声で女性は和也に話しかける。

和也には完全に子供と見下している様に見えた。

「いえ……一瞬、血の匂いがしたので」

本当は血の匂い等しない、だが殺意持つものなら、この言葉だけで意味が判る筈である。

和也は注意深く女性の顔を見る、少しでも異変が在るか探るためだ。

だが、女性の顔は変わらなかった。同じ様な笑顔のまま。

「わけわかんない事言って〜、私に近づく為の算段かな?もう、そんなんじゃ女の子は落ちないゾ☆」

「・・・・・」

勘違いか、そんな言葉が頭に浮かぶ。

和也は拍子抜けした様にいつもの顔に戻ると再び歩き出した。

「あ、待ってよぉ、」

女性は直ぐに歩き出した和也の横に引っ付くと和也の腕を取った。

女性は両手で腕を包んだ。

和也の腕に胸の柔らかい感触が当たる。

「君可愛いネ〜ちょっと位なら、お・ち・か・づ・き・になってもいいよ?」

耳元で囁く甘ったるい声、普通の男性ならくらくらと来る誘惑だが、和也は少し感覚が違うようだ。

バッと腕を抜くと女性と距離を取ると一言、冷たく言い放つ。

「おばさんには興味無いんで」

それだけ言い残すとサッサと歩き出した。


後ろ側で女性は笑顔のまま固まった。

何人も男を落としてきたプライドが一気にズタズタにされた。

固まりが解けると女性は先程の美しい笑顔は消え去り和也が過ぎ去った通路を睨む。

「ガキがぁ・・・・」

ゾッとする様な声と共に、和也が感じた感覚があたりに揺らいだ。

女性は誰にも聞こえない様に舌打ちをした。

その時、大きく開いた胸が揺れ、胸が更に前に出ると、カードの様な物が落ちた。

女性はそれを拾うとそのカードに軽くキスをして、再び胸の谷間へ収納する。

カードはトランプの1枚であった。

ハートのマークとKキングを示す剣を持つ王の絵。

それは何処にでもある。

トランプの、

ハートの、

キングのカードであった。


PM1:20

一年一組のクラス、いつもの様に窓側の真ん中の席で水音はポケーっとしながら窓の外を見ていた。

昼休みを使ってグラウンドでサッカーをする自分と同じ様な学生達が見える。

時折サッカーボールが妙な動きをするのは能力を使って遊んでいるのかもしれない。

この学校は能力の規制をそこまでしている分けでも無く、喧嘩や傷の元になる様な事に能力を使うと学校から処分を下される。

そんな少年達から目を上に向ける。

あまりにも青い晴天がそこにあった。

春ももう終わりなのかも知れない。

「良い天気……」

ボソッと一人事を漏らす。


「おばあちゃんか、あんたは」

後ろから声がした。

ゆっくりと振り向くとそこにはニコニコ顔の少女が居た。

黒髪のショートカットが良く似合う少女は美奈、水音の親友だ。

「若モンなんだから、空ばっか見てないの!」

美奈はそういうと笑っている顔を更に楽しそうに笑う。

美奈はこういう少女である。

活発でいつも笑っている。

何処にでもいる少女、能力者という事意外は。


「…」

そんな少女が一瞬、間を空けた、長い付き合いの水音としては結構珍しい事だと思った。


「ねぇ美奈……」

水音は美奈とは昔からずっと親友だった。この学校で育った水音にとって、同じ様に小さい頃に入ってきた美奈は数少ない自分の過去を知る存在だ。 

ん?という感じで美奈は水音を見る。

「突然命を狙われたらどうする?」

美奈は右手の人差し指をで顎を器用に支えて空を見る。

少し考えた後、嫌、考える素振りを見せた後、美奈は答えた。

「ぶっ飛ばす」

答えは考えずとも出てくる。

笑みを浮かべながら少女が口にしない様な言葉を吐いた。

水音は驚かずに、やっぱり…とため息を付く。

「なになになにー?もしかして襲われたのー?」

何か勘違いをしている。

「うーむ…和也もやるなぁ……」

そこで水音の顔色が変わる。

「!、何で和也が出てくるの!!」

「おやおや〜ん?そのリアクションは何かあったのかな〜ん?」

美奈は右手を口に当てて探るような目を向ける。

楽しんでいる。

「違うってー!!」


水音は遊ばれている事に気づかず、美奈に一生懸命反論していた。

それを見て楽しそうにしている美奈。

何処までも平穏な日。

(楽しいなァ……)

美奈の目が細く細くなる。

(大切な私の平穏……)

グラウンドからサッカーをする学生たちの声が一際大きく上がった。

美奈はいつもの笑顔のまま水音に向かって横に退くように手をヒラヒラと動かした。

不思議そうにしながら水音は椅子から立ち上がり横に退いた。

水音が先ほどまで眺めていた大きく開いた窓がある。

その窓から見える青い空に一つの点が見えた。

点はどんどん大きくなっていく。

点はサッカーボールへと変わり、更に開いた窓へと近づく。

グラウンドの生徒の誰かが打ち上げたのだろう。それは運悪くこの教室へと向かっている様だ。

美奈は近づいてくるサッカーボールをいつもの笑顔で見ている。

サッカーボールは一直線に窓の直ぐ近くにいる美奈へと向かった。

サッカーボールが水音が居た場所を通過し美奈の顔に当たる―

直前。

パン!という音と共に、美奈の足もとに落ちた。

顔色変えず笑顔のまま自分の足もとを楽しそうに見た。

そこにへしゃげたサッカーボールが落ちていた。

「これは…?」

水音は直ぐに美奈が自分を助けたのだと解った。

だが、結構な強度を持つサッカーボールが一瞬で割れたのが解らなかった。

美奈に当たる直前にヒュンッという音と共にサッカーボールと美奈の間に何かが走ったのは見えた。

だがそれが何かは確認出来なかった。

美奈はもうボールでは無い物を窓からグラウンドに投げた。

投げた後、美奈は水音に振り返りいつもの笑顔を見せる。

下の学生達の驚く声が聞こえた。

今の一瞬でありえないサッカーボールの形に驚愕している様だ。


(!!)

水音の背筋に寒気が走る。

平穏なはずのクラスで殺気が走った。

普通よりも鋭い感覚を持つ水音だが、誰が発したものかを感じることができなかった。

目の前に居る美奈はいつもの様に笑っている。



長年一緒にいる水音も気付かない程に美奈が殺気を押し殺したのには気づかない。

美奈は常に笑っている、それは逆に美奈の素顔を見たことがないという事だ。

(私の平穏を奪おうとした奴は絶対に許さない……)

美奈は笑顔の仮面を被り、心の奥底で怒りを燃やしていた。

自分の幸せを奪おうとした、水音を襲った男を忘れる気は無い。

PM1:30.昼休みが終わるチャイムがした。







PM4:00. 3時間半後の校門。

「サッサと行け、アホタレ」

和也の言葉に押され、怜次が校門の先へと入る。

「アホタレって何だよー!お前だってアホじゃねーか!」

怜次が不満そうに眉をひそめる

「…いいから早くきよ先生のとこ行ってこい、貴様のせいで俺も学校に帰れなかったじゃないか」

学校は丁度終わってしまった様だ。

実質怜次は3時間以上掛る場所に居たのだ。

「アホー!アホー!」

恩知らずは遠くから怜次に子供の様な言葉を連呼していた。

「いいからさっさと行け!!」

和也が声を荒げた瞬間、怜次は猛ダッシュで学校内へと消えていった。

全く…っと、小さく洩らすと肩を落とした。

和也も後に続くように歩いた。


その時、誰もいないはずの学校前で声がした。

「あなた」


和也は何気なく振り帰った。

5メートル先程に長髪の少女が立っていた。

ワンピース姿にサンダルをはいている少し早い夏仕様

同じ年位だろうか、長い黒髪には所々はねたような部分もあるが、それが自然な姿であった。

奇麗な少女であった。


「…何だ」

無愛想な返事を和也は返す。

「…」

少女は答えない。

和也はめんどくさそうに頭をかいてもう一度同じ言葉を言った。

「何だ」

少女は口を開いた。

「あなたは変わっている」


「…?」

和也の無表情の顔から片眉が動いた。

少女そんな和也を無視して口を動かす。

「この学校は能力者だけを集めた学校…範囲は幼稚園児から高校生」

「…それが何だって言うんだ」

和也の声が少し荒くなった。

意味のわからない事を言う見知らぬ少女に苛立ちを覚えた。

「能力者の力量はFからSに分けられ、その中でも危ない存在は別の場所へと分けている」

少女は和也の後ろの学校を指差した。

「この学校以外に中高合同の学校はまた遠い所に配置されている、広い土地ね…」

少女は親しい友人の様に和也に話しかけている。

滑らかに少女の話は進む。

「そして今あなたのいる学校はその中でも最も最弱に位置する学校、Sランク4人Aランク7人Bランク25人…後はC以下が殆ど」

和也がそこで妙な事に気づいた。

(…?何故そんな事が解る?)

現在、和也の学校のレベルが低いのは知っていたが全ての生徒達のランクを知っているのは教育者だけだった。

もし一人一人に聞いていたとすれば和也にもこの少女の事は知っているはずだ。

「でもあなたは違う」

少女の話は進む。

「全くの異例…あなた何者?」

その言葉で和也には何が言いたいのか解った。

「話はそれだけか?感知能力者、何処の所属かは知らないが…興味本位で調べたのなら痛い目を見る」

感知能力者ならば誰にも知られずランクを知る事が出来る。和也はそう考えた。

だが、

レベルの低い学校でも中高合せて相当の人数が居る学校を調べ上げたのはかなり凄い事ではあった。

和也は無表情のまま目だけ睨むように少女を見た。

「…」

そして話は済んだという様に少女に背を向けた。

「あなたみたいな例外は『作戦』に邪魔だから…」

先程までの声が突然耳元でした。

「!?」


「バイバイ」

再び耳元で声がする。5メートル程だった距離は今の一瞬で詰められていたのだ。

「っ!」

和也は振り向く事よりも瞬時にその場にしゃがみ込んだ。

ブォン!という空気を切る音が和也の首が合った場所を通った。。

ッチ!と、逃げ切れなかった頭上の髪が数本散る。

しゃがみ込んだと同時に前のめりに和也は扱けた。

直ぐに立ち上がり後ろを振り返る。


そこに、


誰もいなかった。

「…な!?」

和也は直ぐに周りに警戒を張る。

だが何処にも先ほどの少女は居ない。

「バカな…」


音をたてず、一瞬で5メートル程の間合いを詰め、迷いのない攻撃。

「確実に首を狙ってやがったな…プロか?嫌…それよりも消えた?この短時間で?」

あたりは何もなかったように静まり返っている。

「クソ…」

和也は苛立ちからか、頭をガリガリとかくと、再び学校へと歩き出した。




その後ろ姿を見送る先ほどの少女には最早気付かなかった。

手には先程までは持っていなかった、穂先が三つに分かれている三叉槍、基トライデントと呼ばれる2メートル程の槍。


「…良い反射神経…それとも体が覚えている本能か…どちらにせよ…一筋縄では行かない…か」

少女の独り言は誰が聞くでもなく、風に流される。

風の去る後に、少女は再び消えていた。

そんな事を知らない和也は校舎内に足を踏み入れたところであった。

PM4:10

空は夕日へと近づいていた。








「失礼しやしたー」

鉄のドアが横に開くと怜次が出てきた。

ドアの上に『職員室』とハッキリとした文字で書いてあった。

怜次は回りを見渡す。

学校は既に薄暗く、外の明かりで照らされているだけだ。

廊下の奥は暗闇で見えず、何処までも続いているようで気持ち悪く見えた。

「遅い」

出てきた怜次に冷たい一言が降りかかる。

和也が壁にもたれて怜次を真正面から見ていた。

「んだよ…また待ってたのかよ」

怜次はバツが悪そうに頭をかく。

いつもの事は予想できていた。

「私もね」

水音が怜次の視界に横からヒュッと現れた。

怜次はいつもの笑みを見せて謝罪と礼を言った。

「わーりぃ!そしてサンキュー」

フン、と和也はそっぽを向く。

水音は満足した様に怜次と同じ様に笑顔を向ける。


「あら?まだ居たの?」

怜次が出てきて直ぐにきよ先生も職員室から出てきた。

「このバカ待ってたんで」

「てんめ!バカってなんだよ!バカって!」

怜次が和也の言葉に即座に反応する。

「ふーん?早く帰りなさいよー」

きよ先生はそれだけ言って、直ぐに暗い廊下へと姿を消していった。

「?」

その姿を見送りながら水音は首を傾げた。


「そんじゃー!俺らもかえっかー!」

そう言うと怜次は歩き出した。

それに続こうとしたが和也は足を止めた。

振り返ると水音が今もきよ先生が消えていった暗い廊下を見ていた。

「……水音?」

和也の声に水音が振り返る。

その顔は困惑を示していた。

「ううん…何でもない」

水音の顔はいつもの顔に直ぐに戻った。

(…先生?)

水音にはきよ先生がいつもと少し違う様に見えた。

「…水音」

違和感に気づいた和也は無表情で水音を見つめる。

「お前は感覚が鋭すぎる…集中せずとも見える筈のないものが見えたりする、何を見たかは知らんが…深読みはしない方がいい、相談に乗れる事があれば聞いておくが?」

「…うん」

和也なりの優しさだと言う事は解った。

だが、この『感覚』を口にするには言葉が見つからなかった。

「お前…」

和也の言葉が一瞬鋭くなった気がした。

「?」


「嫌…何でもない」

和也の無表情が厳しい顔へと変わった。


「おーい!おっせーぞおめーら!」

暗い廊下のギリギリ見える位置で怜次が手を振っていた。

「行くぞ」

それだけ言うと和也は歩き出した。

(水音の感覚がかなりの物なのは知っていたが…まさか『人の感覚』読み取ったのか?殺気とは違う人間の中の『流れ』…それを無意識に読み取ったのであれば……)

人の感覚、つまり人の思いや感情、大雑把に言えば何を考えているか、

そういう思いや感情は感覚として周りに広がる。

例えるなら、沢山の人が一つの所に閉じ込められれば『不安が広がっていく』これが『流れ』と呼ばれるもの。

『殺気』とはまた違う、簡単に読み取れるものではない。

殺気等はある程度の訓練や実践を持つ者ならば簡単に感じられる。

だが人の自然に持つ『流れ』は感じにくい。


これを読み取ることができれば、考えていることを知ることは出来なくても、自分にとって悪い事を考えている、良い事を考えている等の事を知ることができる。

だが、もしこの様な力を無意識に行えば、永遠に人の感覚を聞いていなければならない。

いうなれば人の居るところでは不安や恐怖や喜び、悲しみ、等を聞き続けることになる。

それはいわゆる愚痴や自慢を聞き続け、しまいには頭が壊れるか、心が壊れるかの状況に追い込まれる。

そして水音の鋭い感覚は意識的では無く、無意識的に放たれている。

(まさか…な)

だが、そんな人間はいるわけがない。

それにもしそうだとしたら水音はとっくにおかしくなっているはずだ。


「何…たの?」

考え込んでいた和也は突然掛けられた言葉をしっかりと聞き取れなかった。

水音が覗き込むように隣を歩く和也の顔を見た。


とっさに和也は2・3歩後ろに飛んだ。

「…いつからいた」

和也の顔が少し赤い。

いつもの無表情がひきつっている。

「行くぞって言ったの和也だけど?」

水音が不思議そうに首を傾げる。

「そ…そうか」

水音の顔を見ない様に上を向く。

「?、さき言ってるね」

それだけ言うと水音は怜次の方に先に歩きだした。

「…まったく」

呆れた様に先に歩く水音に続く。

突然話し掛けられると、焦ってしまうのは未だに治らない。


(あいつ何言ったんだ?)

水音が突然話し掛けた言葉が気になった。

どうという分ではないが、何となく気になった。

というより馬鹿な事を考えない様に別の事を考えたかった。

(何、と最後の、たの?は聞こえたんだが…)

水音を疑う様なことをとっさに考えてしまった自分が嫌だった。

(なに…を……たの?何だっけな)

少し先には水音の後ろ姿があった。

赤髪のツインテールが歩くたびに揺れている。

(なに…を…かん…たの?)

もう少しで出てきそうだ。

(なにをかんがえてたの?そうだ、そう言ったんだ)

思い出した後に、和也の顔色が変わった。

慌ててその言葉を小さな声で口ずさむ。


何を考えてたの?


「!?、俺は何も言ってないはず…」

偶然かもしれない、考え過ぎかもしれない。

だがあの時に自分が考えている素振りをしたつもりは無かった。


水音が振り返って和也に笑いかけた。

「早く行こ?和也」


変わらない一日、小さな異変が少しあっただけ、何も変わらない一日

3人はいつもの様に帰路へと向かった。

PM5:00


空は既に赤く赤く、一日の終わりは近い。



第11話 変わらない日々に小さな異変が交差する −完ー


早く出ると言いながらこの空きの長さ…

やはり部活との両立の難しさに頭を抱える日々です。

久しぶりの11話目、この話は前の話と続いています。

まだもう一回続きそうですこの調子だと…

今度はもっと早く出さなきゃ…


ちなみにこの話に出たトライデントとは槍の切っ先に3つの刃が付いていると思えばいいでしょう。

両端は短く、真ん中の刃が長い。

戦い方では両端の短い刃で相手の武器を捉える事が出来たり。避けたと思わせて両端の刃で仕留めたりと中々便利な武器です。

この武器の使い方には両端の刃のどちらかと真ん中の刃で首を捉え首を切りやすくする武器でもあります。


それと人間の『感覚』と『流れ』の話が出ました。

これはちょっと難しいのですが不安が伝染する等、実際に感覚や流れというもの有ります。

実際、微妙な表情の変わり方や態度で人の感覚というのは意外に読みやすいものです。

ですが、自分でも出しているつもりのない不安などは無意識的に出るものなので、これを知る事は難しいでしょう。

人間のこういう性質は完全に解析出来ているわけでは無いそうです。


こんなもんでしょうか、それではお付き合いありがとうございました。


また次回、【※ここにあった文字は消させてもらいます、私の不手際により題名を間違えました、真に申し訳なく存じます】でお会いしましょう。

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