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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第69話

無理やり更新

「がっはっはっは!」


貸し切られた酒場に、ジョッキを打ち合わせる音と共に男達の声が響く。


「いやあ助かったぜ兄ちゃん! ここは俺らの奢りだ! 遠慮せずにじゃんじゃん食ってくれ!!」


そう言って並々と酒の注がれたジョッキを掲げる。それに追従するように周りも杯を掲げ、口々に感謝を述べてくる。


「ほんとだぜ! あんたがいてくれなかったら今頃どうなっていたか! 本当にありがとうよ!!」


「ありがとうよ!」


「助かったぜ!」


騒音とも言える様な声量で、誰もがそれを口にする。浮かんでいるのは安堵と笑み。

まるで言葉が波のように俺に襲いかかってきているようで、正直少し煩わしい。

しかしそれを外面に出さないように、努めて笑顔を浮かべる。


「いや、気にしないでくれ。たまたまだよ」


俺のその言葉を謙遜と受け取ったのか、周りから団長と呼ばれる男は更に気を良くしたように笑う。歳は四十を超えたくらいか、筋肉質で傷だらけの顔は歴戦の勇を窺わせる。


「たまたまでギガントプラントが倒せるものかよ。Dランクの怪物だぞ!!」


団長の言葉に、周りもそうだそうだと相槌を打つ。

それを流すように曖昧に笑う。


「ははは。まあそういう事にしておいてくれ。戦争が始まるまでは目立つ訳にもいかないんでな」


「中級以上の冒険者の戦争への参加依頼……か。ギルドも何を考えてるんだか。依頼なんて謳ってはいるが、受けなかった場合の罰則が初級落ちだからな……事実上の強制参加だ。訳が分からねえ。自由を愛する冒険者達への冒涜だぜ。これはよ!」


そう言って団長は酒を一気に煽る。味はイマイチだがとにかく度数が強い事で有名な酒だ。本来ちびちびと舐めるように飲む筈の酒を飲み干す姿から、今回の件への憤りを感じ取れる。


「それをせずにはいられないほど劣勢なのかもな。自国の兵士では戦力が足りないのだろう」


「ならばなぜ初級を使おうとしない!? 冒険者の中で最も多いのが初級だぞ! 戦争は数だ! 初球を集めない理由がねえ!!」


そう言って団長は拳をテーブルに叩きつけた。

怒りからか酔いからか。その顔は真っ赤に染まっている。


「俺が知るかよ。ま、そのおかげで俺みたいな初級冒険者は危険な戦争に行かなくてもすむんだ。願ったり適ったりさ」


「……俺らんとこに入ってくれねえのもそれが理由か?」


「中級の冒険団なんかに入ったら俺まで戦争に連れて行かれるからな。それも理由さ。まあ俺はそもそも誰とも組むつもりはないよ。連れもいるしね」


「あの強気で美人の姉ちゃんか。いいよなーお前は。あんな綺麗なパートナーがいてよ」


「やっかむなよ。こっちはこっちで大変なのさ」


「ちげえねえ!」


がはは、と笑いながら背中を叩いてくる。少し力が入り過ぎている気もするが放っておく。


「魔王が現れたなんて話も聞くし……いよいよ住み辛くなってきたなぁ」


団長の誰にも聞こえないほどの小さな呟きは、やけに哀愁漂っていた。



宴もたけなわ。彼らに付き合っていると夜が明けてしまうので、誰にも見つからないようにそっと酒場を出る。

降雪期を過ぎて少しだけ温かくなってきたがそれでもまだ冷たさを残す空気が、上気した

肌に心地いい。空を見上げて一つ大きく息を吐いた。


ウル曰く命名の儀から約三月。

もう少ししたら咲花期に入る頃。

城壁都市の遥か北東に位置する帝国に俺たちは来ていた。


魔王の情報を流し、黒鎧の情報を収集するその道中。戯れに始めた冒険者の依頼。それをしているうちにここまで流れついたのだ。

避けられるように残っていた商人の護衛依頼を受けたのだが、話を聞くにどうやらこの国は今戦争中らしい。残っているのもそれが原因だろう。誰が好き好んで、命の危険の高い戦争の中に飛び込んでいくものか。

命の危険なんて自分達には関係のないものだが。


あの冒険団と出会ったのも、そういった依頼の一つでだった。

今回のギガントプラントのような巨人種と遭遇し、それを俺が単独で討伐してからいやに懐かれてしまったのだ。害は無さそうなので放っているが。


それはともかく、この国は今戦争中らしい。

詳しくは興味がないので聞いていないが、王国とやらと争っているそうだ。


なんでもこの帝国。やることが苛烈だそうだ。

降伏しようとした相手を斬って捨てたり、毒を使ったりは当たり前。

技術水準も中々に高く、人を殺す道具の開発が特に上手いという話だ。

戦争に、アーティファクトを使ったこともあるらしい。


俺達が未だこの街に留まっているのもそれを聞いたがためである。

都市を吹き飛ばすほどのアーティファクト。時を刻む爆弾。

黒鎧が使ったそれは、案外簡単に見つかるかも知れない。


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