第64話
一話あたりの文字数が少ないですかね? 五千字くらいは書いた方がいいのでしょうか?
話し合いは続く。
「厳密に言えば、あんた自身が魔王になる必要はないの。必要なのは偶像、いるかもしれないという影。姿を現す必要もないし、魔王なんて存在自体がいなくたっていいわ。大事なのは、いるかもしれない脅威に向けて討伐隊を出させることよ。魔王が現れたなんて噂が広まれば、いつかのように国同士で同盟が組まれるでしょう。そして討伐隊が組まれる。魔王を倒そうとするのだもの、生半可な実力ではダメよね。精鋭が集まるわ。そして黒鎧が強ければ強いほど、有名であればあるほど、それに組み込まれる確率は上がる」
彼女の言葉に、なるほどと思う。
必要なのは人類の敵であって、俺が人類の敵となる必要はないのだ。
甚大な被害。それがあれば、または予想されるのならば、人は手を取り立ち向かわずにはいられないだろう。
「さっきも言った通り、方針は変わらないわ。お金を使って、情報を集めるだけ。そしてその中でほんの一欠片臭わせればいいの。『城砦都市が落ちたらしい。魔王の仕業に違いない』ってね。多くは語らなくていいわ。何もしなくても、尾ひれがついて噂は独り歩きしていくから」
「おおー」
メアの言葉に、ウルが感嘆の声をあげる。
「そうか、そうすれば」
「人々は恐怖する。ついでに二、三個どっかの街を潰したりすれば完璧ね。そして噂が蔓延した頃、最後にこう流せばいいわ。『どこどこに魔王の居城があるらしい』ってね。そしたらあら不思議。精鋭を集めた討伐隊が結成され、ありもしない魔王城へ出発するのよ」
「そしてその中に黒鎧がいれば殺し、いなければ無視すればいい。と言うわけか」
「そ。簡単でしょう?」
「ああ」
「天才! 天才だー!!」
バンザーイとウルが両手を上げる。その無邪気さに少し笑いながら、話を続けていく。
「それにしても……」
一頻り話し終えた後、そう言ってメアがふふふと笑った。
「それにしても?」
突然の事に少し驚きながら尋ねる。
「まさかあんたの口から魔王なんて言葉が出てくるとは思わなかったわ。あー懐かしい。そんな言葉があること自体すっかり忘れてたもの」
「たしかにそーですねー。千年くらい前のことですかー? なつかしーですねー」
メアの言葉に同意するように頷くウル。
懐かしいという言葉に違和感を覚えたが、よくよく考えてみれば彼女達は龍、千歳を優に超えているのだ。魔王が居たと言われる時代も当然生きてきたのだろう。美しい外見に騙されてはいけない。
「そうか。二人は魔王のいた時代も知っているんだよな。もしかして、魔王の正体も知っているのか?」
魔王の正体を誰も知らない。魔王討伐を掲げた者達は誰一人として帰って来なかったからだ。
しかしこの二人なら知っているかもしれない。何しろあの時代の生き証人で、しかも最強の生物の一角である龍なのだ。
特にウルなんかは好奇心旺盛そうだし、魔王に興味を持って見に行ったりしたかもしれない。
そしてここにこうして居ると言う事は、当然生きて帰ったということだ。
そう思うと少しドキドキする。
誰も知らない魔王の正体。それを知ることが出来るかもしれないということに、多少興奮を覚えた。
俺の質問を聞いた二人は顔を見合わせた後くすくすと笑う。
「知ってるも何も」
「我達が魔王なのですよー」
そうして言った言葉は、なかなかの衝撃をもたらした。