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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第63話

……確かに。

いや、でも、調べる範囲が大して変わってないような気がするのは気のせいだろうか?

いや、うーん。自分は元々考えるのは得意ではないし、彼女の言う事が正しいんだろう。

正しいような気がする。


実力を隠した一般人とかもいるだろうし、そもそもなんで商人は除外していいのかも分からないが、とにかく彼女の言う通りにしていけばいい。と思う。


「それで、これからどうすればいいんだ?」


「方針は大して変わらないわ。あの子達が拾ってきたお金を使って、情報を集めるだけ。冒険者ギルドに依頼として出してもいいわ。もしかしたら奴の方からやってくるかもしれないしね」


「それだけなのか?」


「もう一つあるわ。あなたの言葉から、奴が魔物に並みならぬ感情を持っている事が推測できる。奴は龍を単独で討伐出来るほどの化け物よ。もし、普通の人間に倒せない魔物がいるなら、恐らく奴は自ら倒しに行くでしょう」


彼女の言葉にピンときた。

つまり誰にも倒せていない魔物を探すか、もしくは……


「アレクオレス、あなたが、その誰にも倒せない魔物になるのよ」


魔王という言葉があった。

この言葉が生まれたのは旧暦。西暦と呼ばれる時代だったとされている。

西暦において、神話や伝説における邪悪な神格の頂点、もしくは悪魔や怪物、妖怪などの頭領の呼称として幅広く使用されてきたとされるその言葉ではあるが、新西暦でその言葉が実際に使われたのは千二百年ほど前のことだったらしい。


それまでも、魔王と言う言葉自体は存在していた。

西暦と言う時代では魔王が働いていたらしいという逸話も残っている。新西暦においては娯楽の中であったりお伽噺であったりと、とにかく現実味が無かったが。


それが実態を持ったのが千二百年前の事。

それまで、人々は魔物の脅威に怯えながらも生きてきた。

冒険者が戦い、騎士たちが護り、恐怖と闘いながらも人々は小さな平和を享受してきた。


きっかけは最果てと呼ばれる世界で最も小さな国が滅びたことだった。

北から南へ、逃げるようにやってきた者達が口を揃えて言うのだ。魔王が現れた、と。


それまでにも、魔物の数が増大したり、今まで群れなかった魔物同士が群れたりなど、小さな異変はあった。

しかし彼ら異変を感じながらも、辛くも勝利してきた。防げない範囲では無い。倒せないレベルではない。そう言いながら、魔物と戦ってきた。

新西暦となってから、災害種などによるものを除けば、魔物の群れによって国が滅びたことなど一度も無かったのだ。


それが、崩れた。

やがて魔王は全世界に戦線を布告した。

人々は恐怖した。

これまで一匹であれば何とか倒せた魔物が、群となって攻めてきたのだ。

これまで何十人と集まらなければ倒せなかった魔物が、軍となって攻めてきたのだ。


村は枯れ、街は死に、国が滅んだ。

嘗て争ってきた国々が急遽同盟を組み、魔物の脅威に備えるようになった。

宣戦布告より十年。幾多の英雄たちが魔王を倒さんと立ち上がり、そして帰って来なかった。

悪夢の十年と呼ばれる期間。決して倒せない魔王に世界中の誰もが絶望していた。


「……俺に、魔王にでもなれと言うのか?」


結局のところ、魔王は誰にも倒せなかった。

世界中が嘆き、悲しみに覆われていた時、パタリと侵攻が止んだ。


人々は様々な説を口にする。

きっと勇者が現れて魔王を倒したんだ。

魔王は病気で死んだのだ。

世代交代が起き、穏健派の魔王が座に着いたんだ、と。


答えは未だに分からない。

本当に、魔王と言うものが居たのかすら分からない。

それでも、人の心には魔王の恐怖は刻みつけられている。

全ての生物の敵として。


「あら、それも面白いわね」


カラカラと笑う声が木霊する。

魔王が実際に居たのかどうかは問題ではないのだ。

大事なのは、強大な力を持って人を襲う存在は全ての生物の敵となる点。

それはあの黒鎧にとっても例外ではないだろう。


あの黒鎧が何であっても、出てこざる負えない状況に持っていけばいいのだ。

力がある限り、戦いからは逃れられない。


「だが……」


でも、それは出来ない。


悪い案では無いと思う。

復讐のことだけを考えるなら、世界中の全てを敵に回したって構わない。


「それは出来ない。俺は復讐をした後も、妹の願いにのっとって生きなければならない。全ての種を敵に回しても負けないとは思うが……」


戦闘の面では恐らく負けは無い。

だけど、寝ている間に首を切られたら、食事に毒を盛られたら、誰かを人質にでも取られたら……そう考えてしまうと、どうしても飲み込むことが出来ない。万が一ということもあるのだ。


妹の言葉が、初めて枷のように感じる。

死んでもいいなら、こんなに悩まなくてもいいのに。


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