第61話
短いですが投稿。
今日という日、一つの街が世界から姿を消した。
そこに住む十万を超える人も、それを襲っていた存在も、建物も、動物も、全てが消し飛んだ。
街の中央にあった建物を中心に、円を描くように全てが抉れた。
かつて城壁都市と呼ばれた街の面影はもはやどこにもない。
あるのはそこで何かが起きたことだけが分かるクレーターだけ。
そのクレーターの端に俺は立っていた。
あの爆発からしばらく、俺は何が起こったのか理解できなかった。
熱に強い龍の皮膚と龍が常時展開するという不可視の魔力結界が、あの爆発から俺を護っていた。
衝撃によって多少弾け飛ばされたが、大きな傷は付かなかった。
街を壊すという目標は奇しくも達成された。得る筈だった貨幣も、いくつかが地面に埋まっているのが分かる。拾えば富が得られるだろう。問題は何もなかった。
「……」
だけど……この結果に言葉が出ない。
奴に逃げられたという事実が、想像以上にショックだった。
奴に会ったのは偶然だ。
奴を見付ける為の準備をしているところに偶々奴がいただけで、探すのは準備が終わってからの予定だった。
それでも、もう少しで奴の命に手が届いていたのだ。
もう少しで、妹の無念を晴らせたかもしれないのだ。
そう思うだけで、やりきれない気持ちで一杯になる。
「くそっ!」
力任せに地面を殴る。
地震のような振動が起き、大地が裂ける。
もはや人間業ではない。人間でもないのだが。
「くそっ! くそっ!!」
何度も地面を殴る。その度に大地が揺れる。
これだけの力があって、たったひとりの人間を殺せないなんて!
「なんで、なんでなんでなんで!」
滾るような感情を大地にぶつける。
周りのことなんて考えていなかった。どうせ誰もいないのが分かっているので、気配を探ろうとも思っていなかった。
「ッ!?」
トンっという軽い衝撃を首元に感じた。
誰かに襲撃を受けたのか!?
考えようにも、途端に朦朧とする意識。
「だ……れだ」
誰がやったのかを確認するために後ろに顔を向ける前に、俺の意識は落ちた。