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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第52話

遅くなりました。お気に入りが200件に届きそうでとどかない……悔しいです。

会話回です。それではどうぞ

「水……龍……? 龍、ですか?」


ルサルカが狼狽したように言う。


「そうよ。あなたもね」


「わた、し……も?」


「そう。完全な龍というわけではないけれどね。あの時、あなた達はアレクの血を、龍血を受け入れた。龍の意思を持って血を与えられた者は、その龍に連なる存在になる」


メアの言葉に反応して、姉妹が俺の方を見てきた。

肯定の意を込めて頷く。


「アレク、さんの?」


「そう。少なくともあなたの妹を救うにはそれしか方法がなかった。あたしもアレクも、治癒系はあまり得意じゃないの」


「そう、なんですか」


「そうよ。あなたも、アレクとの繋がりのようなモノを感じているんじゃない?」


「は、はい。分かります。なんていうか……見えない糸の様なもので繋がっているような不思議な感じがします」


ルサルカが俯きがちに答える。

その様子に、思わず言葉が漏れる。


「嫌か?」


「え?」


「俺と、俺達と繋がるのは、嫌か? 家族になるのは、嫌か?」


そういうと、彼女は慌てたように言い返してきた。


「ち、違います! そうじゃないんです! 私達を助けてくれたし、家族と言ってくれるのも本当に嬉しいです。まるで魂で繋がっているみたいに、この糸は温かくて、優しい」


「ヴィーラも! お兄ちゃんとお姉ちゃんができて嬉しい!!」


目を閉じながら、彼女はそこに何かあるように両手を胸に当てた。

まるで大切なものを包むかのようなその仕草。隣で跳ねるようにヴィーラも言う。

少し照れる。


「そ、そうか」


「はい。でも……」


「でも?」


「龍、というのがイマイチ分からないんです。存在は知っています。でも……急に龍になったなんて言われても……」


「実感が湧かない?」


「……はい」



申し訳なさそうに彼女は顔を曇らせる。

その様子を、メアが楽しそうに眺めていた。


「そうよね。急にお前はもう人間じゃないなんて言われたら、普通はそんな反応するわよねー」


チラリ、と俺の方を見てくる。


「……なんだよ」


「べっつにー。どっかの誰かさんは、あっという間に自分を龍だと認識できたってお母さんが言ってたのを思い出しただけー。いやーやっぱ単細胞は違うわねー」


白々しい口調で彼女は笑う。

ぷぷぷー。なんて活字でしか目にしたことの無いような笑い方まで披露してくれた。

あまり高くない俺の沸点がグツグツと上昇していくのが分かる。


「かっちーーーーーん! 水龍のクセに長時間水に浸かっていたら腹を壊す奴に言われたくないね!!」


「んなッ! 人が気にしていることを! 覗き魔の癖に!!」


「なんだと!」


「なによ!」


「ぐぬぬぬぬ」


「むむむむむ」


顔を突き合わせるようにしながら互いをののしる。

なんてヤな奴だ! マザコンのクセに!!


「……ふふふ」


そうしていると、噛み殺すような笑い声が聞こえた。

思わずそちらを見ると、ルサルカが笑いを堪えるかのように手を口元に当てていた。


「ごめ、なさい。なんだか可笑しくて」


「あはは、お兄ちゃん達おもしろーい!」


「ねー」


「ねー」


そう言って、堪え切れなくなったのか二人は顔を合わせながら笑いだした。

無邪気な笑顔だ。本当に面白くて仕方がない。そう思っているのが伝わるかのように楽しそうに彼女達は笑った。


「……はあ。なんだか毒気を抜かれちゃったわ」


「……だな」


「ええ。それにしても……」


溜め息を吐きながらメアも小さく笑った。

そして関心したように部屋中を見渡す。


「凄いわね、この家。一年以上放置していた筈なのに塵一つ無い。劣化も見られない。維持の魔法? いや、でも術者がいないし……」


「魔法陣だよ。母さんは卓越した付与術師でね。空気中の魔力を使った半永久型空中固定魔法陣、だったかな。両親の部屋の奥にもう一つ、そういうの専門の部屋があってね。この村全体に効力が及ぶようにしているらしいよ」


「ええ!?それってとんでもないことなんじゃ……」


「うん。天才と言われた俺の妹もそう言ってた。人に出来るレベルじゃないって驚いてたよ」


懐かしいなあ。


「ここがこの森の魔物達に襲われないのもそれが原因なんだって」


「そうよ! それもずっと気になってたの。この森にいる生き物の多くは人間の手に余るような怪物ばかり。そんな森で何十年も生活していたなんて、殺して下さいって言っているようなものだわ! それなのにここには魔物が侵入したような形跡が一つもない」


「そう、それが母さんが一番苦労したモノらしいよ。なんだっけな。……目的の魔法陣、って言ったっけ? 良く覚えていないんだけどさ。この村の事を知っていて、この村に来ようとしないと絶対に辿りつけないようになってるんだって」


「……なにそれ。聞いたことも無い。人間業じゃないわ……」


メアが心底驚いたように言う。

妹が母さんの魔術陣の構成を見た時も似たような表情をしてたっけ。

案外、メアと妹は似ているのかも知れない。


「ん?」


ふと、なにかを感じた。

何かを見落としているような、そんな違和感。


「どうしたの?」


「いや……」


俺の様子に不審なものを感じたのか、メアが怪訝そうに聞いてくる。

なんだろう。この違和感。なにか……。


「お兄ちゃーん!」


「んあ? どした?」


思考を中断して声をかけてきたヴィーラに答える。


「あのね。えへへ、ヴィーラお腹減っちゃった」


お腹を押さえながらヴィーラが照れくさそうに笑う。

ルサルカを見てみると、彼女も顔を朱に染めてチラチラとこちらを見てきていた。彼女もお腹が減ったのだろう。

そういえば、もうすぐ夕方か。


「そうだね。それじゃあご飯にしようか……っと、そういえばあまり食材がないんだった。

ちょっと森でホーンラビットあたりを狩ってくるよ」


「ホーンラビット? この森に? って今からですか!? 危ないですよ!?」


「大丈夫だよルサルカ。じゃあ行ってくるね」


「ちょ、あ、き、気を付けてくださいねー!」


「お兄ちゃーん! いってらっしゃーい!」


心配性なところを見せるルサルカに、妹も同じような子心配をしていたなと少し笑みが零れる。

元気に送り出してくれるヴィーラに手を振って、俺は赤く染まり始める森のなかに入った。


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