第50話
細かく描写したいけど細かくし過ぎると途方もなく長くなってしまう。
かといって短くしすぎると伝えたいことが伝わらない。
どうでもいいこととか沢山書きたい。でも早く次へ進みたい。
小説を書くのって難しいですね。苦渋の更新。
「……来たようね」
木にもたれかかって待っていると、メアがポツリと呟いた。
馬車酔いに似た症状も治まった姉妹もその言葉に顔をあげる。
俺も彼女が見上げた方向へと顔を向ける。カッと空に稲妻のようなものが奔ったかと思えば、視線の先、自身らの遥か上空を四頭の龍が旋回しているのが見えた。
顔を上げた時は確かに居なかった筈。となればウルのように空間を切り裂いてきたか、そう思ってしまうほどの超スピードで来たのだろう。
どちらにせよ、この身体になって気配を読むことに長けたと思っていたのだが慢心だったようだ。
気が付いたら上空に居たのだ。いつの間に、と思うと同時に、本当にきちゃったよとも思う。
正直半信半疑どころか三信七疑と言ってもいいくらいだったのだ。
どこの誰が、思うだけで龍を呼び出せると言われて信じると言うんだ。
事実来てしまったのだから仕方ないが、龍の万能さには驚くことばかりだ。
鰐の様な口、鋭い牙、鷲の様な前脚、ライオンのような後脚、矢じりの様な尾、蝙蝠のような翼、生物の優れた部分だけをかけ合わせた様な身体。
物語に出てくる混合獣に似たものを感じるが……俺がそうだからだろうか、龍であるということに確信がある。
しかし改めて見ると、その容貌の異質さが際立つ。
鰐の様な口、鋭い牙、鷲の様な前脚、ライオンのような後脚、矢じりの様な尾、蝙蝠のような翼。灰を被ったようなその身体は、ともすれば悪魔の様ですらある。
少なくとも何かに従うような存在には見えない。
どうしてあの時、この四頭は協力してくれる気になったのだろうか。
そう思った瞬間。ズキリと頭が痛んだ。
そもそも何故、あの時俺は祈りなんてものを捧げてしまったんだ?
そんなことをするつもりなんて微塵も無かったのに……まるで、龍を信仰する自分がもう一人いてその思考に今までの思考が上書きされたかのようだった。
そういえばあの時もそうだった。
協力してくれと頼むのではなく、力で抑えつけ支配する予定だった筈だ。
考えれば考えるほど、自分の中に矛盾が生じて行くような感覚。
自分の中に沢山の他人がいるような違和感。気持ちが悪い。
「ずっどーーーーーーん!!」
そんな俺の状態を知ってか知らずか、もはや墜落したと言ってもいいくらいの速度で、陽気な声を響かせながら四頭の龍が地面に降り立った。
とんでもない重さの龍がとんでもない速さで降り立ったものだから、山が揺れたというか標高が低くなったんじゃない? と思うほどの衝撃が起こる。
「きゃああああ!」
「きゃははははは!」
視界が悪くなるほどの粉塵の中、姉妹のどちらかの驚く声と、子供の様な笑い声が響き渡った。
「リンドブルム四天王! ここに参上!! メア姉さんに兄やん、おまたっす!」
そこに居たのはいかにも参上しましたと言いたげに両手を腰に当ててポーズをとる少女と、
それに倣うようにポーズをとる三頭の龍だった。
りんどぶるむ? 四天王? てか誰? あにやんって俺のこと? なにあのポーズ?
先ほどまでとは違う意味で頭が痛くなってくる。
「遅かったじゃない」
頭を抱えていると、メアが少女にそう言った。
「そ、そりゃーないっすよー。ウチらマジ届いた瞬間全力全快っすよー。こいつらなんてほら、まだ人化覚えてないうちからきたんすよー。ウチも覚えたばっかっすよー。マジダッシュしたっすよだから勘弁してくださいっすよー」
その言葉に怒りの片鱗を感じたのか、少女が捲し立てるように言う。
「へーそれは大変だったわねえ」
「そうなんすよ、あはは……そ、そんなことよりどうしたんすかー? ウチらリンドブルム四天王への呼び出しはもう少し先かと思ってたっすよー兄やん!」
形勢が悪いと思ったのか話を変えるようにグルリとこちらを向いて話し出す少女。
兄やんというのはやはり俺のことのようだ。
少女の後ろには例の龍。三頭しかいないことと話から察するに、この少女は人化した龍ということなのだろう。リンドブルムというのが種族名なのか。
「あ、ああ。えっとあの街を破壊して欲しいんだけど頼めるかな?」
「オッケーっす! じゃあ早速行くっす! そゆことなんでメア姉さん続きは今度でお願いしますね忘れていてくれると嬉しいすでわー!!」
「あっちょ、まちなさ……もう!」
捲し立てるように言うとバビュンという音が聞こえそうなくらいの速さで龍になって飛んで行った。怒られる前に逃げた訳か。メアが慌てたように追いかけようとしている。
待ち時間を十としたらここにいた時間は一以下だろう。もう少し話してみたかったから残念だ。
「はあああ凄かった」
「凄かったねーお姉ちゃん!」
姉妹がそう話している間にメアが戻ってきた。捕まえられなかったのだろう。心なしか肩が落ちている。
「メア」
「……なによ」
「怒るほど待ってないじゃないか」
「分かっているわよ。本当は怒ってだっていないわ。ただほら……あの子のあたふたする姿って可愛いじゃない? だからつい……ね」
好きな女の子を苛める男の子みたいな台詞だな。と思ったけど多分言うと怒られるので黙っていよう。
確かに慌てる少女は可愛らしかったと思うし。
「はあ……まあいいわ。用事も済んだことだし、行きましょう」
メアはそういうとルサルカを抱えて歩き出した。なんだか背中が煤けて見える。
「ヴィーラ」
「はーい!」
ピョンと飛び乗ってくるヴィーラ。
背中に優しい重みを感じて俺も歩き始める。
妹との、家族との思い出の詰まったあの家に向かって。妹でも、家族でも無かった人たちを連れて。
ちなみに待った時間は10分ほどでした。