第49話
ただでさえ書けない文章がいつもにも増して書けない。
短いですが更新。
山頂から眼下の都市を見下ろす。
何万という人が住んでいるのだろう。巨大な壁によって護られるそこを、改めて大きな都市だと思う。
カドモスと言ったか、あの少年と別れた後、俺たちは翔るように山頂に到達した。
メアが速かったのもあるが、自分もあの街にこれ以上留まっておきたくなかったのだ。
「あうう」
「ふええ」
結果として、慣れていない彼女達はぐったりとしてしまった。まあ仕方ないだろう。申し訳ないが。
今は木陰で休んでもらっている。
彼女たちを背負って高速で木々を掻い潜るのは面白かった。
初めはすごいすごいと楽しそうにしていたヴィーラも、速度が上がるに連れて「は? あ、ちょ、え、はわわ」状態である。
人として暮らしている限り見ることのない光景だっただろう。実に愉快だ。
「それで、あの街を壊す方法だけど」
思い出し笑いしているとメアが話しかけてきた。心なしか彼女も楽しそうだ。
少し楽しい気分になっていたが、彼女の言葉に思わず笑みを引っ込めて返す。
「ああ、どんな方法だ?」
「簡単よ。母さんから聞いたんだけどアレク、あなたあそこで龍を四頭ほど従えたんですって?」
「ん? ああ、そうだった」
メアとの出会いが衝撃的だったからかすっかり忘れていたが、そういえば砂漠みたいなところで味方になってくれたのがいた。
鰐の様な口、鋭い牙、鷲の様な前脚、ライオンのような後脚、矢じりの様な尾、蝙蝠のような翼、特徴が多すぎてもはやどこが特徴だか分からないような龍だ。というか龍か? まあ龍なのだろう。
「まさか忘れてたの? 呆れた。自分の味方を忘れるなんてとんだ阿呆ね」
やれやれ、といった風に言ってくる。
その表情と仕草に少しイラっとしたが忘れていただけに返す言葉もない。
「ま、とにかく、その子たちを呼べばいいのよ。龍種が四頭いればあの程度の街一日で滅ぼせるわ」
彼女にとって数万人が住む街もあの程度といった規模でしかないらしい。
いや、そういえばウルですら寝ぼけて国を落としたくらいなのだ。彼女も本気を出せばそれくらい余裕なのかもしれない。
それにしてもなるほど、その手があったか。
あの龍達も自分達の出番をまだかまだかと待ち望んでいる筈だし、この機会に呼んであげてもいいかもしれない。
「分かった。じゃあ行ってくるよ。ルサルカもヴィーラもまだきつそうだから、悪いけどメアは二人と一緒に待っていてくれ」
「は? ちょ、待て待て! 待ちなさい!」
そう言って走りだそうとした俺をメアが止める。
「なんだよ」
「なんだよって……え、どこに行くつもりなの?」
「どこって、あの洞窟だけど」
決まっているじゃないか。むしろ他にどこに行くというんだろうか。
「いや、そんなことしなくてもってそうか、あんた龍笛を知らないのね?」
「……龍笛?」
なにそれ?
「そう、龍笛。アレクはその四頭を事実上の配下にしたわけよね? ならその四頭を思い浮かべて、来いと強く念じてみなさい。恐らくパスが通っている筈だから、それだけでその四頭は来ると思うわ」
「?」
正直何を言っているのか分からないが、無視して走って呼びに行ったりしたら後が怖いので言う通りにする。
四頭を思い浮かべて、むむむむむ、来い!
……これでいいのだろうか。
「念じた?」
「念じた」
「そう。じゃあ待ってましょう」
そう言うとメアは姉妹のいる木陰に行き、木を背もたれにして座り込んだ。
……何だろうこれ。激しく不安だ。