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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第48話

感想ありがとうございました。今後の指針になりました。

少し難産でしたがこの更新で大台の十万字突破です。

これからもよろしくお願いいたします。うう眠い。

「そう、だね。……壊そう。この街を全て」


「……!」


「あっ」


「……あら? あたしから言いだしておいてなんだけど、本当に良いの? 正直もっと、なんていうか、迷うと思っていたわ」


姉妹が驚いたような表情で、メアが意外そうな表情でこちらを見てくる。


「うん、迷ったよ。今でも迷ってる。でも……あの時俺は誓ったんだ。何を犠牲にしてでも妹の敵を討つって。必要なら、百万の人間だって殺して見せる」


それに、と言って周りを見渡す。

逃げ惑い、殺され、身捨て、殺し。阿鼻叫喚、地獄絵図。そんな言葉が似合うような街。

いつの間にかメアが水の結界のようなものを張っていて近くには来ていないけれど、視認できる位置に確かにいる他の人間達。


醜い罵声をあげるモノ。それから逃げるモノ。それをジッと見つめるモノ。火を付けるモノ。嗤うモノ。ただ過ぎ去っていくのを祈るモノ。殺すモノ、殺されるモノ。


誰も助けない。助けあわない。立ち向かわない。

死都でも魔都でもどんな呼び方でも構わない。だけど間違いなく、この街は死ぬ。


「壊した方がいい。もうこの街はいらないような気がするんだ」


そう言って笑う。

俺が知ってる人間という種は決して強くない。肉体面において、多くの生物に劣っている。

だからこそ集団となり、知恵を寄せ合い、力を合わせ、なけなしの勇気を奮う。


それが人間だ。それこそが人間だ。

だからこそ妹は人を愛した筈なのだ。

そんなことすら出来ないようなら、死んでしまった方がいい。


「……ふうん。ま、いいけどね。それで、どうやって壊す? あたしがやってもいいけど……」


そう言いつつメアは周りに結界のように張り巡らせていた水を操作する。

カーテンのような形状だったものが分裂を繰り返し、小石の様なものの集合体へと変化する。

これほど大量の水をどうやって出したのか、いつの間に出したのか、そんな疑問すら弾け飛ばすような光景。

太陽の光に反射してキラキラと輝く水粒の群は、話に聞いた星の川のようで綺麗だ。


「はっ!!」


それがメアの掛け声と共に前方へと射出される。

ほんの一瞬の出来事だ。たったそれだけの時間で、数十メートルが更地のようになってしまった。

人も街も抉れ、最後には全てが吹き飛んだ。

とんでもない技だ。俺との戦いの時に使われていたらと思うとぞっとする。


「うーん。これでもやっぱり威力が足りないわねえ。こんな威力じゃ、あと何回繰り返せばいいか分かったもんじゃないわ」


そんな惨状を産み出した本人は、恐ろしいことにこの結果に不服そうではあるが。

まあ確かに、上から見た限りこの街は相当に広い。

この規模の技ですら後数百は撃たなければいけないだろう。


「これ以上のだとなると時間も魔力もかかるし……どうしよう……」


うーん、うーんと悩み始めたメア。

俺には面制圧系の術は無いからこういう時はメアを頼りにするほかない。


「できないのか?」


「うーん……うん? ああ、いや、できるわよ。だけどほら、大がかりな魔力運用って疲れちゃうでしょう? 正直めんどってそうだ!!」


面倒って聞こえたような気がするけど突っ込むのは野暮だろうか。


「アレクアレク」


「……なんだ?」


「今からあんたの村に行くのよね?」


「そうだけど?」


「あんたの村は、あたしん家の近くの森にあるのよね?」


「そうだけど」


そこまで聞くとメアはブツブツと考え込んでしまった。それなら……とか、確か……はずよねとか言ってるが詳しくは聞き取れない。

一人でブツブツ言っている姿は、メアの容姿が整っていることを考慮してもちょっと不気味だ。

思わず姉妹の方を見てみると、あちらも困ったような表情を浮かべてこちらを見てきた。

ははっと三人で変な笑いを浮かべてしまう。


「よし。アレク!」


そんな事をしていると、考えが纏まったのかメアが声をかけてきた。


「一先ず山の天辺に戻るわよ!」


「山の? 通り道だから構わないけど、なんでだ?」


「いい方法があんのよ! 確実に街を破壊出来て、しかも楽できる方法! これならあんたの村とやらで話し合ってぐっすり寝て起きた頃には全て終わってるわ!!」


良く分からないが何やら良い方法があるそうだ。

具体的にどうするかは聞いていないが、彼女が言うからにはどうにかなるのだろう。

短い付き合いだがそんな気がする。


「分かった。じゃあとりあえず行こう。彼女達は」


「姉の方は私が抱えるから、あんたは妹ちゃんの方をよろしくね」


「きゃ!」


そう言うが早いか、メアがルサルカを抱きかかえた。俗に言うお姫様だっこだ。


「あああの、よろしくおねがいします」


「はいはい。お願いされましたっと」


そんなやりとりさえしている。なんとなく、あの二人は相性が良さそうな気がする。


「……」


それを眺めていると、と俺の袖を誰かが掴んだ。いや、誰かと言っても一人しかいないが。

くいくいっと袖を掴んでくる。

子供が親に何かをせがむ時のアレだ。


「お前もお姫様抱っこしてほしいのか?」


「んーん」


そう聞くと、今度は首をフリフリ。


「あのね? ヴィーラおんぶがいいの」


そう言って両手を広げる。ダメ? と言わんばかりの、申し訳なさそうというか不安そうな顔だ。

妹もよくおんぶしてって言ってきてたな、と思い出す。


「いいよ」


そう言って座ると、ぱあっと花が開いたような笑顔を浮かべた。

座ったままクルリと彼女に背中を向ける。するとすぐさま飛び乗ってきた。

思わず苦笑する。


「じゃあ行きましょか」


「ああ」


メアが言ってきたのでそう返す。

姉の方は恥ずかしいのだろうか。顔が真っ赤だ。


「あなた達も、準備はいい?」


「しっかりと捕まっていろよ?」


「は、はい」


「うん! えへへ、お兄ちゃんの背中あったかいねー」


走り出す前に姉妹に声をかける。結構なスピードを出すつもりだから念のためだ。

ルサルカは緊張した様子で、ヴィーラは顔は見えないが楽しそうな声で返してきた。


メアが言う方法とやらはどんなものなのだろうか?

気になりながらも脚を出そうとした瞬間、街のメアが壊していない方向、路地裏の様な所から小さな子供が飛び出してきた。


「待ってくれ!」


そうして出てくるなりそんなことを言ってきた。

七、八歳といったところだろうか。高価そうな恰好をした少年だ。


「頼む。助けてくれ!」


俺達が何も言わないでいると、更に少年が続けて言った。

街の住人だろうか。


「この街を壊されると困るんだ! まだ友達もいるんだよ!! 頼むよ。助けてくれ!」


「……話を聞いていたのか?」


「うっ。逃げていたらたまたま……。いいじゃねえかそれくらい! なあ頼むよ! あんたら強いんだろう!? あいつらも追い払ってくれよ!!」


「……」


何て言い草だ。これが人にモノを頼む時の態度なのだろうか。


「ッ! お。おい! ヴィーラ!! お前からも何とか言えよ!!」


あまりに不快な発言だったので睨むと、怯んだのか今度はその矛先をヴィーラに向けてきた。


「……知り合いなのか?」


「うん。……あのね? いっつもヴィーラのこと虐めるの。カドモス君の家はお金持ちで、ヴィーラの家は貧乏だから……」


「そ、そんなこと今は関係ないだろ!? 街が大変なんだぞ!?」


「……不愉快ね」


「メア」


叫ぶように捲し立てる少年のその言葉を聞いて、メアが一歩前に踏み出る。

さっきまでの楽しそうな表情は欠片も存在せず、ただただ汚いモノを見るような、そんな目をしている。


「な、なんだよ!」


「不愉快だといったのよ」


「ん、だとぉ! いいから助けろよ!! 困ってんだよ! 困ってる人間を助けるのは人として当たり前のことだろ!! 早くしねえとぶん殴るぞ!!」


そんなメアにも少年は吠える。

相当な圧力がかかっていると思うんだが、今のメアにそんなことを言うなんて……勇気どころか蛮勇もいいところだ。

いや、この場合は無謀とか無知とか言った方がいいのかもしれない。


碌に怒られたこともないのだろう。怒気と殺気の違いも分からないのか。

彼女は人間なんてゴミのように殺してしまえるというのに。


事実、メアはこの少年を殺してしまうだろう。

既に表情を失くし、殺すために空中に水の玉を浮かべているのだから。

後一言でもこの少年が言葉を口にすれば、見るも無残な死体が出来あがるころだろう。


「……可哀想だよぅ」


そんな状況を変えたのはヴィーラの一言だった。


「……あんた。命拾いしたわね」


それだけ言うとメアは浮かべた水を四散させた。

そして踵を返し山へ歩き出す。


「お、おい!! どこ行くんだよ!?」


少年の言葉が聞こえていないかのようにメアは歩を進めて行く。

俺もこいつをどうにかしてあげたいとは思えない。同じく踵を返す。


「お、おい!!」


慌てたように少年が声をあげた。一度だけ止まり、振り返らずに話す。


「……一度だけ言っておく」


「な、なんだよ」


「この街は滅びる。俺達が滅ぼす。せいぜい、残された時間を大切にしろ」


「……ごめんね」


それは何に対しての謝罪だったのか。少年に聞こえたかどうかも分からないほどの小さな声で、ヴィーラが呟いた。再び歩き出す。


「な、なんだよ! おい! ふざけんなよ!! 戻れよ!! おい!!」


少年の叫びに、今度は誰も反応しなかった。


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