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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第46話

さて、これからどうしようか。

情報を集められる状況でもないようだし、かと言ってこれ以上誰かを助ける気にもならない。


ほんの気まぐれにこの姉妹を助けた。

色々と見て、色々と感じたからこの姉妹を助けた。


でもそれは本来、必要の無かったことだ。

復讐を誓い、復讐にのみ身を捧げることに疑問はない。それでいい。それだけでもいい。

だけど、自分の中に甘さのようなものが残っている。残ってしまっている。


英雄になりたい幼い自分は死んでしまった。それでも、英雄に憧れるちっぽけな自分がまだ生きている。

見てしまったら、知ってしまったら、多分、救いたいと思わずにはいられない。


……それは、邪魔だ。邪魔だと感じる。

人を一人救う間に、復讐のための情報が得られるかもしれない。

助けた人間が、足手まといになるかもしれない。

そう考えると、どうしても……。


どうしよう。どうすればいい?


この街で情報を得るには、この街の争いを収めなくてはいけない。

そうすればどうしても救ってしまう命があるだろう。救ってしまえば、俺は多分面倒を見たくなってしまう。


どれくらいの時間がかかる? 

争いを収め、人を救い……家を壊された人もいるだろう。元の暮らしに戻るまでに、どれくらいの時間がかかる?

考えるだけで気が遠くなる。

結果、荷が増え、枷が増え、復讐が遠のく。


名が知られることも有るかもしれない。

それらのメリットは? デメリットは?

今有名になることは復讐にどう左右する?

……分からない。


他の街に行くのはどうだろうか。

ここより大きな街はたくさんある筈だし、ここに拘る必要もない筈。

うーん。うん。悪くないような気がする。


この街は放置か?

……自分の知らないところで知らない誰かが死んだってどうだっていい。

放置でいいかもしれない。


というか他の街ってどこだ?

俺そういうことに詳しくないんだよな。

姉妹に聞いてみるか。


「おい」


「は、はい!」


「はい」


妹の方が慌てたように、姉の方は少し恥ずかしそうな顔をしながらもしっかりと俺の方を見ながら返事をしてきた。


「ここより大きな街を知っているか?」


「大きな街、ですか?」


「そうだ。人が多く集まるところならどこでもいいが」


「うーん。お姉ちゃん、分かる?」


「そうですね。魔の山を背にして、あっちの方ですね。ずっと行けばこの国の首都がある筈です。私たちはこの街から出たことないので分かりませんが、かなりの大きさだそうです。人もこの街の何倍も住んでるって、聞いたことがあります」


姉はそう、地平線を指差しながら言った。

ここより大きな街か。行ってみるかな。


と、この二人はどうしようか。

助けた以上身捨てることなんて出来ないし、竜にしてしまったからか保護したいと感じてしまう。

一緒に連れていくか? この街に置いていくというのは論外だろう。

いや、というかそもそもこの二人は付いてきてくれるのか?


緊急事態だったから自己紹介すら出来ていない。

状況もいまいち把握できていないだろう。

なんにせよ一度、話し合う必要がある。


「ねえ」


するとメアが不機嫌そうに話しかけてきた。


「なんだ?」


「他の街に行くの?」


「そのつもり」


「ふーん。ま、いいけど。この二人は?」


「連れて行こうと思う。いや、その前に一度腰を落ち着かせて話し合いをしたいな」


「はあ? 話し合うって、あんた、そういう時間とかが惜しいから他の街に行きたいんじゃないの?」


「そうだが。いや、それとこれとは別だ。竜となった以上……俺と血が繋がった以上、それは必要なことだと思う」


俺がそう言うと、メアは驚いた顔を一変させ呆れたように溜め息を吐いた。


「前に話した時も思ったけど、なんていうかあんたって本当、身内に甘いのね」


「当然だろう。血の繋がりは何よりも濃く、尊い」


「……そうね。まあいいわ。あたしはあんたについて行くだけだもの。それで、その話し合いをするのに何かいい場所はあるの?」


「……」


「ないの?」


「いや、少し戻れば俺と妹が住んでた村がある。あの洞窟の近くだ」


「戻るの? 別にいいけど。ちょっと走ればすぐに着けるだろうしね。あなた達もそれでいい?」


「はい」


「はーい!」


メアが姉妹に話しかけると、彼女たちも少し心配そうな顔をしながら了承する。

ヴィーラの方は楽しそうですらある。


「それじゃ決まりね。まだ力加減が分かっていないだろうから、この二人はあたし達で抱えて行きましょう。あ、そうそう。あなた達、ちょっと聞きたいんだけど」


メアがそう言った後、姉妹に向かって問いを投げた。


「なにー?」


「なんでしょうか」


「この街に、思い入れとかある? 大事な人がいるとか、大切なものがあるとか」


その言葉に、姉は少し考えた後に答える。


「……ありませんね。両親が死んでから、ずっと苦労してきましたし、誰も優しくしてくれませんでした。仲の良い人とかもいませんし……思い出も、これといってありません。私たちは二人だけでずっと生きてきました」


「……良い答えね。ところでこの辺りの貨幣って、衝撃に弱かったりする? あと火に弱いとか」


「は? あ、い、いえ。特殊な金属を特殊な方法で精製しているらしくて、なんでも作られた後は何があっても形が変わらないそうです」


「へー。……へええええええ。ねえアレク」


俺はこの時の彼女の顔を忘れられないだろう。

とんでもなく満面の笑みだった。素晴らしい悪戯を思いついた子供のような笑顔だった。

体裁を保っていられないほど恐ろしいくらいに笑顔だった。


「……な、なに?」


「この街の人間。というかこの街。全部壊しちゃわない?」


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