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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第45話

血が全身を巡り、その体を作りかえるのにどれくらいの時間がかかっただろうか。

体感にして約五分。姉にしてみればその何十倍にも感じられただろう。

その間、ルサルカは祈るような瞳で、身じろぎもせずに妹を見続けている。


「やっぱりやったわね。ま、やると思ってたけど」


メアが呆れたような口調でそう言ってくる。口調とは裏腹に、やけに楽しそうな顔をしている。

メアもこの姉妹を助けたいと思っていたのだろうか。

いや、違うだろう。いつだったか、人間なんてどうでもいいと言っていた。

この二人に限りどうにかしたいなんて考えには至らないだろう。

なんとなくだが、この姉妹を俺が助けようとしたことに喜んでいるような気がする。


「う……ん。あ……れ……ここ……は……?」


考えている間に、妹が目を覚ました。

戸惑うような表情。自分がどこにいるのか、なぜ生きているのか、理解出来ていないといったところか。


「ヴィーラ!! ああ! 良かった!! ヴィーラ! 私のことが分かる!?」


ルサルカが感極まったという顔で妹を抱きしめる。

目に浮かんでいた涙はぼろぼろと零れ落ち、妹の服に染みを作っている。

気持ちは痛いほどは分かるがもう少しボリュームを落とせないものか。

龍になって聴覚を強化されたからか、あまり近くで大声を出されると、煩いというよりもはや痛い。


「おねえ、ちゃん? ……ルサルカお姉ちゃん? あれ……ヴィーラ……なんで……」


「ヴィーラ! ヴィーラ!! 生きてる! 生きてるの!! 良かったよぅ」


ギュッと妹を抱きしめる。姉の方はおいおいと泣いていて、ちょっと人様には見せられない感じになっている。

その顔を見て冷静になったのか、それとも単に状況を把握できたのか、妹も目に涙を浮かべて姉を抱きしめ返す。


「良かった。ルサルカお姉ちゃんが無事で、本当に良かった!!」


「!!」


良かった。この二人を助けて、本当に良かった。

今、そう思った。


「嬉しそうね」


俺は笑っていたのだろうか。メアがそう言ってくる。


「そう、だね。嬉しいのかもしれない。やっぱり家族は、兄妹は、こうでないとね」


そう返す。

するとメアも嬉しそうに笑った。

ははは、うふふと傍目から見たら何とも言えない二人だっただろう。


「そういえば、姉の方はどうするの?」


そんな風に笑いあっていると、唐突にメアが聞いてきた。

どうする、とはどういう意味だろうか?

殺すのか殺さないのかとか、そういうことだろうか。

そのまま聞いてみた。


「どうするって?」


「姉の方も血を与えるのかって聞いているのよ。竜になったということは何百年も生きるようになったということだし、人と違って病気にもなりにくい。身体能力もまるで違うし、ふと抱きしめたら姉の骨が折れた、なんてこともありうるのよ?」


そういえば。見た目的に何も変わらなかったから失念していたが、妹の方は竜になったのだった。体の構造も変わったのだ。

血を飲ませて二分くらいたった時にビクっと体を跳ねさせたことがあったからその時に決定的に変わったのだろう。

妹の方を良く見れば確かに、なんとなく仲良くしたいオーラが出ている。同族なんとかかんとかとかいうやつだ。


「だから、姉も方も竜にした方がいいとおもうんだけど」


メアの言う通り。竜と人間は全然違う。男と女の違いなんて目じゃないくらいに違う。

確かに姉の方も竜にした方がいいのかもしれない。


「あの!」


「ん?」


いつの間にか、姉妹がこちらを見ていた。

声をかけてきたのは姉の方だ。


「助けてくれて、ありがとうございます!」


「ありがとうございます!!」


そう言って頭を下げてくる二人。

なんだかくすぐったい。初めは身捨てようとしていたのに現金なものだなと思う。


「……気にするな。……話を聞いていたのか?」


「は、はい。すみません! あの!血を分けていただけたら、ヴィーラと、妹とずっと一緒にいられるのでしょうか!?」


そして血を分けていただけなかったら、妹と一緒に生きるのは難しいのでしょうか。ルサルカの言葉にはそう聞いているような響きがあった。


何もせずに一緒にいるだけなら難しくはないだろう。

だが一緒に生きるのは難しい。力が違う。寿命が違う。種族が違う。


「そうだな。血を飲めば、ずっと一緒にいられるかもしれない」


「なら! お願いします!! 私にも血を分けて下さい!! 助けていただいた上にこんなことを言うのは失礼かもしれません。だけど! 私は妹と一緒に、生きていきたいのです!!」


「ルサルカおねえちゃん……。お願いします! お姉ちゃんに血を下さい! なんでもします!! お姉ちゃんが一緒にいてくれるなら、なんでもできます! だから!」


そういって再び二人が頭を下げてくる。

話を聞いていたなら、それなりに聞きたいこともある筈なのに……。


なりふり構っていられないほどに、二人は必至なのだろう。

別に失礼だなんて感じなかった。自分の立場だったらと思うと、こういったことを願うのも当たり前に感じた。


だからコクリと頷いて、指を差し出した。

だが既に傷は塞がってしまったようだ。血が落ちる気配もしない。


仕方がないのでもう一度傷付けようとしたら、パアッと顔を輝かせたルサルカが飛びついてきて指を咥えた。

思わずおおっ!? っと驚いてしまった。


指に付いた血を舐めとっているのだろう、彼女の口内で舌が縦横無尽に蠢いている。

何とも言えない感触だ。

妹の方は姉の突然の行動に手で顔を覆っている。うわーとか言いながらも指の間からばっちり見ているが。


十分に舐めとったと感じたのか、姉が真っ赤な顔をして口を離した。

自分のしたことに今更羞恥心が湧いて来たのだろうか。恥ずかしそうに俯いているが、しばらくするとウっと呻いて蹲った。

妹がお姉ちゃん!? と驚いて傍に駆け寄っている。


どうしたのかと一瞬思ったが恐らく竜になるために体が変化しているのだろう。

咥えられた指を見てみると、彼女の唾液でヌラヌラとしている。


「……おお!」


「おお! じゃないわよこの馬鹿!!」


メアに頭を叩かれた。バチンと快音を撒き散らして。

いや、自分でもどうかと思ったが、いくらなんでもあんまりじゃないだろうか?

さすが龍の攻撃だ。すっげえ痛い。さっきの男の剣なんて比べ物にならない。


「……良かったわね」


痛みに唸っていると、姉妹を見ながらメアがそう言ってきた。

見てみると姉の方も痛みが治まってきたようだ。

竜になったのだろう。仲良くしたいオーラが出ている。


「ああ。色々あったけど……これで良かったと思う」


「ふふふ」


そう言って笑うと、メアもそう笑った。

色々と考えることもあったが、少なくとも、今の結果に自分は満足していると思う。

メアもどことなく、この結果に満足しているように見える。


「それにしても……」


と呟いてメアを見る。


「……なによ?」


妹に血をあげれば助かると教えてくれたし、姉の事を思ってそういう提案をしてくれた。

彼女なりに心配したのだろうか。優しい奴だと思った。


「~~~~ッ!! なにニヤニヤしてんのよ! 気持ち悪い!!」


蹴られた。なんて酷い奴だと思った。


いつもよりちょい長め。切るところが見つからなかったんで。

誰かの行動に違和感などがあったら教えていただけると助かります。

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