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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第43話


さて、姉妹を助けたのは良いがこれからどうするか。

このまま放っておけばすぐに他の男に襲われることだろう。

そしてこの姉妹にそれを回避する術はない。

自分たちが去った後の結果は、火を見るよりも明らかだ。


……正直に言えば、どうでもいい。

こいつらが殺されようが犯されようが喰われようが、俺には関係のないことだ。

そもそも助けたかったわけでもない。ただ自分の目の前で姉妹が一緒に死ぬことを認められなかっただけなのだから。


自分の目の届かないところでなら、どうなっても構わない。

放っておこう。

そう結論付けた俺は、次に街の事を考えることにした。


そもそもなにが起きているのだろうか。

戦争中だという話は聞いていたが……こんな街中で?

いやそれ以前に、この街を攻めることに何の意味が?


山の上から見たところ、この街は山の前にあるだけの、ただの街だ。

重要な拠点というわけでもないだろうし、この街を攻めるメリットが見当たらない。


なんて、ちょっとだけそれっぽく考えてみたが、分からないものは分からない。というか実は興味もない。

きっとなにか、戦場になる意味があったのだろう。うん。そうに違いない。


問題があるとすればただ一つ。鬱陶しいのだ。

ワーワーきゃーきゃー煩すぎて落ち着くことも出来やしない。

黒鎧について情報を収集するつもりだったが、この様子では無理そうだ。


と、なればどうするか。

情報を集めたければ酒場に行けばよいという勇者の助言の元、酒場に行こうと思っていたのだが……。

考えるのは妹の担当だったので、こういう時どうすれば良いか分からない。


「ヴィーラ! ヴィーラ!? しっかりして! ヴィーラ!!」


そんな風に考えていると、突然姉の方が大声をあげた。

身捨てるつもりなので無視しても良かったが、あまりに切羽詰まったような声なので思わず見てしまう。


妹の方の息がやけに荒い。

肩で苦しそうに息をしているし、額には玉のような汗が浮かんでいる。

極めつけは妹を抱える姉の真下。地面に広がる赤。


どう見てもヤバい状態だ。

致命傷ではないと思っていたが、どこか重要な器官に傷が入ったのだろうか?


「あーあれは死ぬね」


メアが軽い口取りで言ってくる。

彼女にとって人間はアリ程度の存在でしかない。

アリが一匹死のうが死ぬまいが、どうでもいいのだ。


「……そうだな」


俺にとってもそうだ。

関係のない人間。それが死のうが死ぬまいが、自分にはなんの関係もない。

せっかく助けたのになとは思うが……。


そもそも医療なんてあまり知らないのだ。

妹が怪我をした時のための応急処置の方法やらなんやらは勉強していたが、これほど大きな怪我にもなるとどうしようもならない。

というかそれほどに大きな怪我なら、妹は自分で治してしまえるのだ。


今のじぶんに出来ることなど、止血したり安静にさせたり、死期を伸ばす程度のことだろう。


「そうだなって、死んでも良いんだ? せっかく助けたのに」


その言葉に思わずメアの方を見てしまう。

彼女の宝石のような瞳が、俺をジッと見ていた。

本当にただ疑問に思っているだけのようだ。死んでもいいならなんで助けたの? そう聞かれているような気がする。

そしてその問いに、上手く答えられない自分がいることに気付く。


「……分からない。だがどの道、俺にはアレを治す力などない」


ヴィーラ、ヴィーラと姉が叫ぶ声が聞こえるその中で、俺は今の気持ちをそのまま正直に伝えた。


「ん? 血をあげればいいじゃない」


俺に帰って来たのは、メアのそんな言葉だった。


「血をあげる? どういうことだ?」


「はあ? あんた何言って……ああ、そう言えば元人間なのよね。あんた。なら聞いたことない? 龍の血を飲めば強くなるーとか傷が癒えるーとか、そんな噂」


ある。龍の生き血を飲んで不死身になった戦士の話など、龍の血に関わる逸話は数多く存在する。草花にかけたら枯れたとか、血を浴びたら溶けて死んだとかいう話も数多く存在するが、それ以上にその手の話は多い。


「あるようね。まあそんな感じで合ってると思うわ。更に正しく言えばあたしたちが自らの意思で血を与えた者はね、龍に体が近くなるの。竜人とか聞いたことあるでしょ? あれもそう。龍によって血を与えられた存在。竜なの。強くなったり傷が癒えたりするのは、その副次作用にすぎないのだけどね。ま、つまりアレクオレス。あんたが血を与えれば、あの子はあんたの眷属になり、ついでに傷も治るのよ」


パンと手を叩き、メアが話を締める。

話は分かった。

しかしどうしたものか。血をあげれば治るということは分かった。

しかし、しかしだ。俺がそこまでする必要はあるのだろうか。


眷属を作るということは言うなれば身内を作ることに近いのではないだろうか。

そのままの意味で血を分けた存在なのだ。少なくとも他人や知人より近い位置になるだろう。

どこまで行っても、この姉妹は他人なのだ。

俺が、そんな他人のためにそこまでする必要はあるのだろうか。


「ルサルカ……おね……ちゃ……」


そんな葛藤を続ける俺に、姉を呼ぶ妹の小さな、思わず泣きたくなるような小さな声が聞こえた。


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