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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第41話

感想をいただけたので喜びの更新。

「……」


「全く。理解しがたいわ。生きるためでもなく、魔力があがるかもしれないってだけで同族を喰うなんて」


「……」


「亜人でも、魔物だって、そんなことはしないわ。彼らにはいつも理由があるもの。生きるため、生き残るために同族を喰らうならまだ、理解出来るわ。したくないけど! ほんっと畜生にも劣る存在ね、人間って!」


「……」


「かもしれない。と、思った。興味本位。今までどれだけの同族がそんなくだらない理由で死んで逝ったか、人間は知っているのかしら!? 知らないのでしょうね。知っていたらこんなこと出来る筈がないもの。死んで逝った者達の無念を、奴らは考えたことがないのかしら!?」


「……」


「……ちょっと! 聞いているの!?」


隣のメアの叫び声が、やけに遠く感じる。

視線にはまだ、男の姿が映っている。喜々として女性の体を抉る男。返り血にも、咽るような血の匂いにも、苦渋に満ちた女性の顔にも、こいつは、コイツラハ、何モ感ジナイト言ウノカ?


「……見苦しいな」


「はあ? なに言って……」


ひとり言のように呟いた言葉にメアが反応するが、敢えて無視して男の方へさらに歩を進める。

正直に言って、がっかりした。

俺が好きだった英雄譚にはこんな人間は出てこなかった。

俺が好きだった冒険活劇にもこんな人間は出てこなかった。

今まで見たどんな書物にも、こんな人間の姿はなかった。


こんな人間は知らない。知りたくない。いらない。見たくない。


「あ? なんだおめぎゃぺッ!!」


男が何かを言い終わる前に、オルトロスで叩きつぶす。


「醜い」


言葉が漏れる。

妹が助けたかったのは、こんな人間じゃない筈だ。

妹にとって人間は、もっと、もっともっともっと優しさに溢れている筈だ。

もっと素晴らしい生物の筈なんだ。

じゃないと、妹が救済する価値が無い。


すでに物言わぬ塊になった男に、再度オルトロスを叩きつける。

計二撃。それだけで、男がいた場所は隕石が落ちたかのように穴が空いた。

当然、男だったものなど欠片も残っていない。

虚しさのようなものが胸の辺りを漂う。


「きゃあああああああああ!!」


再び、悲鳴。今度は女性二人のものだ。

その方向へ顔を向けると、女性が二人、手を繋ぎながら走ってくるのが見える。

顔立ちから、恐らく姉妹なのだろう。


九、十歳くらいの妹の方は、顔を恐怖と涙でいっぱいに染めている。

姉の方も涙は浮かべているが、生きようとする意思を強く残したような表情をしている。

それを男は八人。


姉妹も必死に逃げているが、妹の方はまだ幼い。

大人と子供の脚力では時期に追いついてしまうだろう。

本来なら助けに行くべきだろう。だが、人間に絶望しかけている俺には、それに手を差し伸べようとする意思はない。


「ヴィーラ! 頑張って!!」


姉の方が妹に向けて声をあげる。息も絶え絶えで、既に限界が近いのだろう。妹は姉の言葉に頷くだけで、もはや声を出すことすら苦しいのだろう。


――その手を離せば、姉だけは助かるよ。


「はっはっ! おね……ちゃッ!!」


下卑た考えだと思う。だがこのままでは二人とも捕まってしまうだろう。

一瞬だけ思ってしまった事が声に出たのか、それとも声にならずとも伝わったのか。

妹が無理矢理に声を出して姉を呼ぶ。


「!! だめッ!! 離さない!!」


妹が手を緩めようとしたのが傍目からでも分かった。

そしてその手を姉が強く握りこんだ事も。


「もうヴィーラだけなの!! ヴィーラしかいないのよ!!」


男たちは既にすぐ近くにまで来ている。

諦めるように脚を止めようとした妹を、姉が引っ張るようにして走る。

その姉の言葉に、心が揺れた気がした。


「あっ」


しかしそんな逃走劇にも、終わりはやってくる。

先頭にいた男が振るった剣が、妹の方の背中を切ったのだ。


妹が体勢を崩して倒れる。

それを庇おうとした姉も、妹を庇うようにして倒れた。


「はあはあ。はは。やったぞお前ら!」


男たちは歓喜の声を上げつつ、倒れた二人を取り囲む。

妹の方、疲れ果てて意識もあるか分からないが、おそらく致命傷ではない。

姉の方はそんな妹を庇うように抱きかかえながら強く目を瞑っている。こちらは意識があるだろう。

その姿はこれから訪れる運命に抵抗しているかのようだった。


「あのままだと二人して死んじゃうね」


メアが何でもないことのように言う。


……二人して?

家族が? 兄妹が? 姉妹が? 一緒に……死ぬ?


メアの言葉に、感情が炎の様に湧いてくる。

ドス黒いほどの暗い感情。それは赦さないと魂が叫んでいる。

自分でも醜いと思うような感情だった。

強いていうなら嫉妬。それが一番近いだろうか。


「あれ? 助けるの?」


「……助けるさ」


羨ましい。

妹のために死ねるなんて、妹と一緒に死ねるなんて、妹の死を見届けるなんて。

そんなことは許さない。

俺が出来なかったのに。他の誰かがそうするなんて許せない。


メアの言葉にそうとだけ返して、俺は男たちの中心へ向けて走り出した。


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