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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
36/69

第36話

矛盾や気になった点などがあれば教えて下さい。

第六階層。

龍の住む家。


そこへ戻ってきた俺はエキドナさんに言われて椅子に腰を掛けている。

少しばかり話があるそうだ。

目の前のテーブルを囲むように三人も座っている。


俺も……話したいことがいくつかある。


それを切りだす前に、もしかしたら二度と戻って来ないかもしれないこの場所を少しでも多く刻みつけようと思って、俺は周りを見渡す。


エキドナさん、ウル、メア。メアとはあまり話してはいないが、それでも俺を同族……家族だと言ってくれた人達。

彼女らは他愛のない話をしながら盛り上がっている。その光景は、まさに家族そのものだ。


ほんの少し、本当に少ししか過ごしていないけど、ここは温かくて優しい。

ずっと居たいと思ってしまうほどだ。

ここにはきっと、俺があの日に望んだ幸せがある。二ク――――


ズキンと頭が痛む。


何の前兆も無く痛む頭。

魂を否定するかのような鋭い痛み。

なんだこれは。


「さて、そろそろ本題に入ろうかの」


痛みに軽く頭を抱えていると、エキドナさんがそう切り出してきた。


「本題?」


「うむ。いや、その前に……今一度自己紹介をしておこうかの。余の名はエキドナ。この子らは余の娘のウルとメアじゃ」


「やっほーウルだよ!」


「メア。よろしく」


エキドナさんは俺の目をジッと見つめたまま、ウルは俺に手を振りながら、メアは頬を掻きながらそれぞれ言う。


「あ、よろしくお願いします」


三人に、特にほぼ初対面のメアに対してそう挨拶を返す。


「それで?」


エキドナさんの声。


「そなたの名はなんという?」


重なる。

そういえば、彼女らは自己紹介してくれたのに自分は名を一度も名乗っていなかった。

そのことに少し恥じる。失礼な行為だ。


「あ! すみません。俺の名……は……」


俺の名は……あ、れ?

驚愕。そして愕然。


俺は……俺の名前を知らない。違う。俺は俺の名前を覚えていない。

父の名前、母の名前、妹の名前。近所に住んでいた人の名前、木の名前花の名前動物の名前魔物の名前。

全部覚えているのに、自分の名前だけが思い出せない。


「なん、だ……これ」


父が俺を呼ぶ時、母が俺を呼ぶ時、妹が俺を呼ぶ時。

○○。○○。○○お兄ちゃん。

声も映像も浮かぶのに、自分の名前の部分だけにノイズが走る。


「どうした?」


「あ、いえ」


エキドナさん達が怪訝そうな顔で見てくる。

なんだ? どうして? そんなことばかりが頭を巡る。


「……思い出せぬのか?」


「ッ!!」


「思い……出せぬのじゃな?」


「……はい」


「そうか。ふむ……ワイバーンを覚えておるか?」



少し考える仕草を見せた後、エキドナさんがそんなことを聞いてきた。それと名前と何の関係があるのかと思ったが、ワイバーンのことは決して忘れられないので頷く。


「あの時、そなたはかなりの出血を伴っておった。覚えておるな?」


覚えている。


「余も詳しくは知らぬがな、大量に血を失った場合、ショックで記憶を一部無くしてしまうということがあるらしい」


「記憶……喪失」


「そう。それじゃ。」


聞いたことがある。事故で大量に血を流した人が一命を取り留めたが記憶を失っていたという話。悲劇の物語などでもたまに使われる症状だ。だけど……。


「なんで……自分の名前だけ……?」


「そこじゃがな。よくわからぬ。何か理由があるのかもしれぬし、ないのかもしれぬ」


「そう……ですか」


「一過性の場合もある。時間がたてば思い出すかもしれん」


感じたのは、安堵だ。

もちろん幾分かのショックも受けた。だけどそれ以上に安堵を感じた。一過性かもしれないというところにではない。


父や母のことを忘れていなくて良かった、ということにだ。俺の数少ない幸せの記憶。それを失うことに比べたら、自分の名前など問題ではない。

妹のことは忘れる筈がないのでそもそも心配などしていない。


「まあいいです」


「……いいのか?」


「はい」


だからそう答える。エキドナさんが驚いた顔で聞いてくるが、いいのだ。

どの道、あの日、俺は一度死んだ。そして復讐をするために生まれ変わった。

自分の名は、もはや重要なものではない。多少の寂しさは感じるが。


「そうか。しかしそれまで呼ぶ名がないのも不便じゃ。いつまでもそなたとか少年というわけにもいくまい」


エキドナさんはそこまで言った後、少し言いにくそうに口をもごもごとさせた。言うか言うまいか。そんな葛藤が窺える。

すると意を決したのか、唇を少し湿らせた後に言った。


「それでな……もしそなたが嫌でなければじゃが、余に名を付けさせてくれぬか?」


三人を殺すというルート分岐を回避。

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