第33話
お気に入り100まで後少し。感想も評価もお気に入りもなかなか増えない。どうしたら増えてくれるのでしょう。
「は、え、なになに!? なんなの!?」
「すみませんでした!」
「っ! そ、そうよ! なんなの!? 誰なのよあなた!! なんでここにいるの!? お母さんは!? の、のぞっ、覗きなんて……!!」
地に両手をついて謝罪すると少しだけ戸惑ったような声を上げたが、すぐに先ほどまでの怒りを思い出したように捲し立ててきた。
この件について弁解の余地はない。すぐに目を逸らせば多少は良かったのかもしれないが、これでもかというほどに見入ってしまっていた。完全に俺が悪い。
「ごめんなさい! 覗くつもりは無かったんです!!」
「あ、う、や、やっぱり……見たの……?」
言い訳にも等しい謝罪を入れたところで、彼女の声がピタリと止まった。
すると今度は、オドオドしながらそう訊ねてきた。
……どうする? 正直に言うべきなのか、それとも……。
こういう時はどうしたらいいんだ? こんな場合の対処法なんて、どの本にも載っていなかった。
彼女は見られたくなかった筈。なら見てないというべきなのか? いやしかし、目もばっちり合ってしまっているし、状況的に無理があるか? ならなんて言えば……
い、いや駄目だ。誠心誠意、正直に、ありのままを言うべきだ。父さんはそれで母さんと上手くやってきたと言っていたじゃないか。
「は、はい! 見ました!!」
「ッ!! ど、どこまで!? いいいいつから見てたの!?」
「はい! いつかは分かりませんが! 多分あそこに腰掛けてから気がつくまで、ずっと見ていました!!」
「さ、最初からじゃない!? こ、この変態! 変態!」
「うおお!」
変態と連呼しながら再び水の弾丸を発射してくる。慌てて避けるが、この状況の打開策が見当たらない。心なしか、さっきより威力が高い気がする。
「はあはあ」
「はあはあ」
避け続けていると、息が切れたのか彼女の攻撃が止まった。
た、助かった。あの威力から考えると回避も命懸けだ。倒す相手がいない以上回復の手段もない。命の危機には何度も遭遇したが、疲労を感じたのは久しぶりな気がする。
「はあはあ、んく、ま、まあいいわ! たかが人間風情にか、体を見られたところでどうってことないし!? 今回は許してあげるから、あ、あんたもさっさと忘れることね!」
息を整え、唾を呑みこんでから、彼女は言った。
正直忘れられそうになかったが、ここは一つ頷いておく。
「……ふう。それで? あんたは? どこから来たの? ここがどこだか分かっているの?」
それを横目で見た彼女が聞いてくる。
最初に座っていた場所に腰掛け、脚で水を蹴っている。少し憮然とした様子ではあるが、この切り替えの速さも龍の特徴なのだろうか。どちらかというと彼女の性格だろうが。
冷静になってみれば、いつのまにか魚の様な脚から人間の脚に変わっている。人化だろうか。
「俺は……この洞窟の近くの村からやってきた者だ。ここに来れば強くなれると聞いてやってきた」
「洞窟? まあいいわ。ここまで来れたってことはあんた、強いのね。いや、強くなったのかしら。それで、これからどうするの?」
「これ、から?」
「そう、これから。ここまで来たってことは相当な数の龍を倒して来たのでしょう? 十分強くなったはず。この下は所謂居住区よ、あんたの望むような相手はいないわ」
そういうと彼女は呆れたように首を振った。
この下にはエキドナさんやウルの住んでいる家がある。相手がいないとは言い切れないが普通の人間に勝てるような人達ではない。……これは彼女なりの優しさなのだろうか。
「そう、だね。復讐のための強さは手に入ったんだ。そろそろここを出ようと思う」
「あら? 復讐? なにそれ、面白そうな話ね!」
先ほどまでの顔とは打って変わって、キラキラしたような目でこちらを見てくる。ウルしかりエキドナさんしかり、ここの住人は余程娯楽に飢えているらしい。
「……面白い話ではないよ。ウルにしてもエキドナさんにしてもっ!?」
二人の名を出した瞬間。彼女は目を吊り上げて攻撃を仕掛けてきた。
避けた場所が大砲を食らったかのように抉れている。今までで最大級の破壊力だ。
「な、なにをするんだ!!」
「あんた……なんでウルのこと知ってんの? 母さんのことまで! 何者よ!?」
「な、何者って……俺はエキドナさんに助けられただけで……」
「嘘おっしゃい!! 母さんたちが、人間を助けるわけないでしょう!! そう言えば、さっきまでここにいた母さんもいない……。水から出るまで待っててくれるって言っていたのに! あんた……母さんに何をしたあああ!!!」
そういって彼女が指ではなく手のひらを向けてくる。グニャリと空間がネジ曲がったかと思うほどの魔力の集約。ここにある全ての魔力が一点に集中したかのような錯覚さえ覚える。今までの水の弾丸など、これに比べれば稚戯に等しい。
勘違いだ。と叫んでみたが、どうやら我を忘れているようだ。
「おや? なにをしとるんじゃ?」
まずい、と思った時、下に続く階段から疑問の声が上がってきたのだった。
いい加減、ここを出たいので少し駆け足。
彼女は予定ではこんな性格じゃなかったんだけどなあ