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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
13/69

第13話

そして

渾身の力を最速のスピードに乗せて繰り出された一撃は、油断していただろうワイバーンのがら空きの顔面に炸裂した。


会っ心の一撃ぃぃぃ!!

思わずそう叫びたくなるような、今できる最高の一撃。


身長差故に下から突き上げるように放たれた一撃に、ワイバーンは錐揉み状に空中に向けて弾き飛ばされる。


過去あとにも未来さきにも、これ以上ないだろうと確信めいた一打。


足元に砕かれたワイバーンの牙が残る。



勝った。



ズドンと地を揺らし、ワイバーンが打ち付けられるのを、膝に手をついて体を支えながら眺める。

ピクリとも動かない。


「……よし」


溜め息のように零れ落ちた一言。ズキリと失った左腕が痛む。


視線の先は下るための道。

炎の中を、急かされるように歩く。


全身全霊の力を使ったからか、やけに体が重い。それでも、引き摺るようにしてそこに辿り着いた。


――ドクン


心臓が鐘を打つ。


俺は……何をしている?


――ドクン


何故、体が痛む?


――ドクン


何故、牙が残る?


――ドクン


今までこんなことがあったか?


――ドクン


恐る恐る振り返ると……


――ドクン


そこには首を振りながら身を起こす飛龍の姿があった。


――――――――




「おおおおお!!」


気絶の二文字が頭を過ぎった瞬間、走り出していた。


再び炎の中を走る。

先のようなスピードは出ず、炎がチリチリと体を焼く。


脳が揺れたからか……ワイバーンの体はふらふらとしている。

今しか……今しか……っ!!

焦燥感に駆られ走り出したはいいが、どうすればいいのかが分からない。それほどまでに、先の一撃は完璧だった。


「GYAAAAAAAAA!!!!!!」


無意識での行動だった。

気が付けば牙を持っていた右手を、ワイバーンの右目に差し込んでいた。

その痛みによる絶叫は、しかし断末魔には及ばない。


「がぁっ!!」


強靭な右翼によって弾き飛ばされる。

幸いにして、それほどまでに力は入れられていなかったのか、致命傷にはならない。

ワイバーンは翼を広げ空に飛び立っている。

その間も、怒りに燃え立った瞳は俺を捉えて離さない。


空中で身を起こし着地した俺に、火球が放たれる。

転ぶように避けたが、ワイバーンはもう降りてこないだろう。


何度も放たれ何度も避ける。

地面に当たるたびに爆発するように大地がはぜる。


大きく弧を描くように逃げていたためか、いつの間にか、自分を囲むように円上に穴が開いていた。


辺りには、衝撃によってできた岩が散乱している。


まずい。

穴は深く、大きい。

飛び越えることは難しいし、万が一落ちてしまった場合逃げ場はない。


……どうすればいい?


火球が放たれる。後ろに跳躍して避ける

ちょうど円の中心辺りに居たためか、上空から見たらドーナツ状に穴が開いて見えるだろう。


穴の中心。その真上辺りで飛龍は羽ばたいている。


――覚悟を決めろ!


天恵にも似た閃き。

他にもあるかもしれないが再考はしない。

時間もなにもかもが足りない。

5歩後ろに下がり火球を待つ。


熱い。緊張と熱で酷く喉が乾く。しかし当然のようにここに水分はない。

ワイバーンから目は離さず、右腕から流れる血を舐める。


無意識の行動。気が付けば口内に残るその独特な味と香りに顔を歪める。

喉に絡みつくような不快な感覚。

大して喉は潤わないがそれでも、僅かに乾きは消えた気がした。


――集中しろ。

ワイバーンの口内から炎のうねりが覗く。

チャンスは一瞬。


緊張が走り、体が震える。武者震いだ。

失敗したら死ぬかもしれないのに、驚くことに少しだけワクワクしている。


「GRRRRRRAAAAAAAAA!!!!!!」


大気すら歪ませる火龍の十八番。

それが放たれた瞬間に駆け出す。


轟音。着弾と同時に跳躍。爆風に乗る。

通常なら届かない距離を補うための一案。

遅れると余波でダメージを負い、早すぎるとワイバーンに届かない。


空を翔る。

狙うのは右目に刺さりっぱなしのワイバーンの牙。

体当たりするようにこのまま突っ込んで、脳漿をぶちまけてやる。


たがしかし。

現実は無情で、未来は無効。

目前に迫り気付く。ワイバーンの口内が未だに燃え盛るように赤く灯っていることに。


「……ぁ」


小さく漏れたのは悲鳴だったのだろうか。

ワイバーンによって繰り出された火炎。

肉眼で確認し、時間がゆっくりと流れた。


炎に包まれ、体はそのベクトルを反転させる。

響く轟音は、追突し抉られた地面によるものか、自分の肉体からか。


プスプスと体が煙を上げる。

鍛えられた肉によって辛うじて原型を保ったような状態。もはやピクリとも動かない。


穴の中に炎はない。

激突の衝撃と舞い上がった土で消火されたのだろう。


目だけでワイバーンを見上げる。それだけでも眼球が痛む。


穴は思ったよりも深いようで、壁によってワイバーンの全形は見えない。

ただ、三度火球が放たれようとしているのが分かった。


棺桶みたいだなぁと思った。

……いや、棺桶なのだろう。


自嘲するように笑おうとしたが、頬の筋肉は動かなかった。

せめて最後の瞬間までと思ったが、それも叶わないらしい。


瞼が閉じていく。

考えることすら難しくなってきた。

……なんだか、酷く、眠い。


――おとうさん、おかあさん……みーしゃ


呟きは声にもならない。

さらさらと舞い落ちる火の粉が綺麗だ。

この光景を目に焼き付け、俺は、目を閉じた。


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