間章
夢を見た。懐かしい夏の出来事だ。
暑く、肌を突き刺し焦がす程の太陽光が降り注いでいる。今年の夏は、まだ始まったばかりなのに、早く秋になってくれと思うほどの猛暑だった。
ついさっき買ったばかりのペットボトルのジュースは既に空になっていた。飲み物を買っては飲み干し、買っては飲み干しと繰り返す。これじゃあお金が幾らあっても足りないな。
空のペットボトルをゴミ箱に捨てる。
日射病になると面倒だと思い、木陰に移ろうとするが、あいにく木陰は他の客人で満員だった。
仕方なく近くにあるベンチに座る。ベンチに座った瞬間、それまで自覚してなかった疲れがどっと押し寄せてきた。
あ~疲れてんな。
ただでさえ猛暑によって体力を奪われているのに、ここ数日はバイトが毎日あった。体を騙しながら頑張っていたが、どうもここに来て限界がきたらしい。
ちょっとだけ……寝よ。
マナーが悪いのは分かっていたが、疲れと眠気に逆らうことはできず、そのまま横になり、ベンチで眠ることにした。
目を閉じると、待ちわびていたというように意識は途切れた。
額にひんやりと冷たい何かが触れているのを感じ、俺は目を覚ました。
ゆっくり目蓋を開けると、明るすぎる日差しは少し影を潜め、暗闇が徐々に面積を増やし始めていた。
額に感じる冷たい何かを手に取る。水滴を垂らしている白い女性用のハンカチがそこにはあった。そして、このハンカチには見覚えがあった。
「あ……起きた? こんなところで寝るなんてよっぽど疲れてたんだね」
背後から聞き慣れた声が聞こえた。俺は上半身を起こし、声の主の方を向く。
「香織?」
後ろを向いた先にいたのはいつもより少しだけ気合いの入った服装をしている市川香織がいた。
「そうだよ。誰だと思ったの?」
「いや、別に誰とも思ってないけど……。ところで、なんでここにいるの?」
「もしかして寝惚けてる? 今日みんなで一緒にご飯食べに行こうっていってたでしょ?」
香織に言われて思い出した。そうだ、今日は久しぶりにいつものメンバーで飯を食いに行くんだった。
予定を思い出したところで、ポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認する。既に六時を過ぎていた。集合時間が五時半だったから大遅刻もいいとこだった。
「ヤバッ! みんな今どうしてる?」
現状を理解すると、それまで霧がかかっているようだった思考が一気にクリアになった。
「みんな先にお店に入って軽くご飯食べてるよ。そんな中で私は食事を我慢して一人で佳祐の捜索をしてたの。なにか私に言うことは?」
「ごめんなさい。それと待たせて悪かったな」
「素直でよろしい。それじゃあ、みんなのとこに行こっか」
「そうだな」
先に食事を始めている友人の元に向かって二人で歩き始める。
「そういえば、なんで俺がここにいるってわかったんだ?」
連絡もできなかったのに俺を見つけることができた香織に理由を尋ねた。
「別にここにいるって確信してた訳じゃないよ。ただ佳祐ってよく公園にいるから、今回もいるかな~て思ってお店の近くの公園探してみたの。そしたら案の定いるんだもん。あんまりあっさり見つかったから、思わず笑っちゃった」
俺を見つけた時のことを思い出したのか、香織は笑いだした。
「悪かったな、単純な男で」
「いいと思うけどな、単純な男の方が」
「ミステリアスな部分があった方がモテるだろうが」
「そうなの? それじゃあ佳祐はモテないね。裏表ないもん」
「うるせえ」
互いに軽口を叩きあいながら黄昏の下を二人で進む。
友達以上恋人未満の関係。先に進むか、後ろに下がるか決めることができずに停滞の日々を過ごしていた夏の日の記憶。
この話はタイトルの通り、主に記憶の整理になります。佳祐がかつて体験した出来事を夢という形で回想しながら、次の章で重要になる話野一部をここで紹介する事になります。