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卒業記念パーティーで婚約破棄はやめてほしい

作者: 幸壱
掲載日:2026/04/06

「公爵令嬢との婚約は破棄する」


 王立学園の卒業記念パーティーでいきなり響いた声に頭を抱えたくなる。


「聖女に対する数々の所業、許しがたい。このような者は我が妃には相応しくない。今すぐ断罪してやりたいところだが、聖女は謝罪さえしてくれればいいと言う。その慈悲に感謝し、今すぐ聖女に頭を垂れて謝罪して、この場から消えるがよい」


 学園の入学式等にも使われるこの大ホールは奥に壇が有り、入場後真っ直ぐに壇上に上がり卒業記念パーティーに相応しくないセリフを言っているのはこの国の第二王子、俺の兄上だ。

 兄上にエスコートされる筈の公爵令嬢が、第二王子の取り巻きの婚約者達と入場してきたと思えば、聖女として見出され平民ながら学園へ通う事となった少女をエスコートし、取り巻きを引き連れて入場してきてのこの所業どうにか治めねば。


「誠に申し訳ないが、この騒動を治める為に協力をお願いしたい。既に手遅れではあるが、貴女の名誉は私が守ろう」


 何事かと事情を聞こうと、公爵令嬢の下に居たのでお願いという名の強制をし、手を出す。


「お願い致します」


公爵令嬢は短く返事をすると手を取ってくれた。

 彼女をエスコートし壇上に向かおうと振り向くと、すでに人は脇に避け道が出来ていた。卒業記念パーティーの浮かれた雰囲気は既になく、この醜聞をどうするのかという好奇な目を向ける者や、この後どうなるか不安な様子な者等人それぞれだ。


「それでは参ろう」


 公爵令嬢に声をかけ、壇上に向かい歩き始めたが一緒に居た王子の取り巻きの婚約者達も着いてきている。

壇上の前まで歩き、公爵令嬢の手を離し、一息入れてから兄上に問いただす。


「兄上、これは一体どういう事でしょうか?」


 兄上は少し苛立ったように答える。


「公爵令嬢を私たちの前まで連れてきた事は褒めてやろう、だがお前には関係のないことだ引っ込んでいろ」


 関係のない話で卒業記念パーティーを潰しておいて、引っ込んでいろはないだろう。


「私は、このパーティーの主催者の一人です。関係がない事はないでしょう。それに聖女に対する所業と言いますが、彼女に嫌がらせをしていた者たちは既に、裁かれているはずですが?」


 確かに、聖女は嫌がらせを受けていた。

貴族と関わりの無い平民であった彼女を貴族の中に飛び込ませたのだから、問題が起こらないはずが無い。

そのため、問題が起きたとき教育中ですのでご容赦してくださいねと言い放っても文句の出ない第二王子と婚約者の公爵令嬢が教育係につけられたのだ。

 公爵令嬢が聖女を嗜めると第二王子がフォローに回る。最初のうちは上手くいっていると思われた。

しかし、同い年に何度も注意されるというのは聖女にとっては苦痛だろう。次第に王子の方へ懐いていき、王子の方も貴族子女とは違う天真爛漫さに興味を抱いたのか次第に聖女を嗜める公爵令嬢を咎めるようになっていった。

 こうなると、公爵令嬢の権威に罅が入り派閥外の者達への統率が甘くなる。結果、日々王子との仲を深めていく聖女への嫉妬や聖女を排除してその席に座ろうと嫌がらせが始まったのだ。

 嫌がらせは軽く体を当てる事や陰口から始まり、物を隠す、ゴミをぶつける等エスカレートしていった。

ノートや教科書を破損するまで至り、ついには聖女を中庭の噴水に突き落としたことで学園側が対処することになる。

 学園には貴族だけではなく平民も少数ながら通っている。

大抵は貴族御用達の大商人が多額の寄付金を支払って子息を入学させているが、極稀に平民ながら優秀な者を特待生として通わせる事があった。聖女も特待生に当たる。

 特待生が学園で使用している物は支給された物である。

 王立学園の最高責任者は代々王が担っており、特待生制度が設立された時、特待生にかかる費用は王の私費から払うことにしていた。その為に、この事件は徹底的に調べられ、関わっていた者は退学処分にされた。


「まだ、その女がいるだろう」


 憎らしいといった顔で言い放つ。


「公爵令嬢は無関係と調べがついております」


 毅然と言い返す。


「その女は聖女に対しグチグチと嫌味を言うのみならず、茶会に招待しない事で聖女を孤立させようとしていた。それに、聖女を階段から突き落としたのではないか!私は見たのだぞ、階段の上で手を伸ばしたその女を!」


 ついに怒りを抑えることが出来なくなったのか、怒鳴るように言い放つ兄上に呆れ果ててしまう。


「聖女の行動に対して忠告をしていたのは教育係としてですし、聖女が問題なく茶会に参加できる基準になるまで何回も茶会練習会を開いておられました。そして何よりも、聖女が階段から落下した事故に関しては公爵令嬢は助けようとして手を伸ばしたのです」


 公爵令嬢も最初は頻繁に聖女の行動を律していたが、一年程も経つ頃には聖女もある程度は出来るようになっていたし、聖女を窘めると第二王子が出張ってくるようになってきたので距離を置くようになっていた。

 それでも、異性とも距離が近い聖女に対して何度も改めるように窘めていた。

これは教育係としての立場もあったが、最も聖女と公の場で異性として相応しくない距離や行動をとっていたのが第二王子とその取り巻きであり、他の者が咎めようものなら第二王子が出張ってくるので実質的に第二王子の婚約者である公爵令嬢でしか行えなかったのだ。

 茶会に関しても、何も知らない聖女に対し一からマナーを教えたのは公爵令嬢である。流れを通して教えるために練習の為に無礼講でお願いしますと他の参加者に頭まで下げていたようだ。

この練習茶会は広く参加者を募り、最上級の貴族の茶会に無礼講で参加できると意外に人気であった。

また、上級の貴族に呼ばれることが殆どない下級貴族達にとってもいい練習の場になっていた。

公爵令嬢も聖女ばかりに構っていて自分の社交をしない訳にもいかず、回数は少ないが茶会自体は開かれていた。しかし、聖女に惹かれていた第二王子が乱入するようになり茶会は練習どころではなくなり存在自体もなくなった。

 聖女に関わると第二王子が出張ってくるし、少しの齟齬があれば悪役にされかねないという状況で誰が聖女に関わろうとするのだろうか。少々厳しいかもしれないが間違ったことを言っていない公爵令嬢に対しての第二王子の行いは周知の事実であった。

 聖女が階段から落ちた事故に関しても、過去の事件が在ったことから徹底的に調べられた。

当時、学園は放課後で聖女は第二王子と一緒に居たが教室に忘れ物をしたので取りに行こうとしていたということだった。

第二王子を待たせるわけにはいかないと、急いで階段を駆け上がっていたら最後の一段で足を踏み外した、その時階段を降りようとしていた公爵令嬢は体が斜めになって落ちていく聖女を助けようとして手を伸ばしたが間に合わなかった。

目の前で人が落ちるという事態に固まっていた公爵令嬢の姿は下から見たら突き落そうとしたように見えたのかもしれない。

 聖女は気が付いたら階段の下に居たといい、何もわからない様子だった。幸いにも怪我もない様子であったが、呆然と階段下に倒れていた。落下音を聞いて駆け付けた第二王子は、倒れている聖女を見つけ駆け寄り無事を確認した後、階段上を見て手を伸ばしている公爵令嬢を見つけ突き落したと決めつけ騒いだ。

その騒ぎを聞きつけた教師に仲裁され、厳格に取り調べを行うと確約させてから聖女を連れて保健室へ去っていった。

 放課後といっても、授業終了後から時間が経ってなかった為多くの目撃者がおり事件ではなく事故として処理がされた。


「そんなもの、公爵の力を使えば如何様にも言えよう。聖女は落ちた時の事を覚えていないのだから」


「調査は王国の取調官が行っており、魔法薬の真実薬も使用されています」


 そう、最初の嫌がらせの調査から王国の取調官が行っていた。取調官は嘘検知の魔法を使え嘘は通じない。この魔法の弱点は沈黙と本人が嘘をついていない思っていると看破出来ない事だが、魔法薬の真実薬も併せて使用された。真実薬はその名の通り真実しか話せなくなり沈黙すら許さない。

 嫌がらせ事件の時は聖女を噴水に落とした実行犯から真実薬が投与され、判明した共犯者にも使用され裏の裏まで調査された。

 聖女の転落事故の際も、その場にいた者全員に真実薬を投与した上で証言を取っている。聖女も公爵令嬢も勿論含まれる。

 この事は調査結果として報告がなされている筈だが、兄上は最後まで報告を聞かなかったようだ。


「そんな、ばかな」


 兄上は先ほどまでの怒りが吹き飛んで呆然としている、後ろに控えていた取り巻き達も動揺している。


「いくら聖女が関わっているとはいえ、学園の事件に取調官は兎も角、真実薬を使うなど有り得ん」


 搾り出すように兄上は呟いた。

 確かに、真実薬は調合難易度が高く材料も希少でとても高価な薬だ。更に、慎重に使用しなければ重大な後遺症を引き起こす事があり貴族には滅多に使用されない。

 しかし、今回は王が下賜した物を破損し、王の庇護下に居る人物を傷つけた。王の威光を傷つけた者を許す訳がなかった。


「有り得ないも何も事実です。報告も行われている筈ですが?」


 終わった話を自分の妄想で蒸し返し、無実の者を晒し上げ、学園最後の余興をぶち壊した愚か者。

 自分がそのような者だと思いたくないのか、取り巻きたちを責め立てる。


「そんな話は私は聞いていないぞ、宰相子息どうなっている?」


「私も知りません、ですが公爵令嬢は公爵家の力を使って罪を逃れていると仰ったのは殿下ではないですか」


「私だけの責任だと言うのか、公爵子息も姉は尊大で悪辣だと申していたではないか」


 そんな所で、責任のなすりつけ合いを始められても迷惑なので声をかける。


「兄上、誤解が解けたようでしたら公爵令嬢に謝罪をなされては?」


「なぜ私が謝らねばならんのだ、公爵令嬢が勘違いされる様な行動をしていたのが悪いのだ」


 そんな事を言うが、会場から集まる冷たい視線に気づき


「だが、卒業記念パーティーを騒がせた事は謝罪しよう。私は予定があるので失礼するが、皆は楽しんでくれ」


 と言い、そそくさと出口に聖女を連れて出ていこうとする。遅れては堪らないと続く宰相子息と公爵子息。

 同じ取り巻きの騎士団長子息は兄上に声をかける。


「私は婚約者と合流しますので、ここで失礼します」


 想定外の言葉に思わず、呆けそうになるが兄上にもうひと言かける。


「兄上、聖女は明日には教会に入られるのです、学園の者とは気軽に話せなくなるでしょう、挨拶も出来ないのは些か残念でしょう。兄上は用事があるとの事ですが、聖女は参加なされては?」


 暗に聖女は置いていけと言ったわけだが、兄上は早急にこの場を離れたかったのか


「そっ、そうだな。聖女はパーティーを楽しむといい、折角着飾ったのだしな」


 と言い残し、早足で退室して行った。

 壇上に残った騎士団長子息は何を思ったのか、聖女を壇上からエスコートしてきて俺に引き渡そうとした。


「私にはまだ雑務が残っているし、このパーティーはパートナー必須というわけではない。聖女も私などと居るよりも一人のほうが気楽だろう」


 俺がエスコートを断ると、聖女がホッとし顔色が少し戻ったように見える。

 聖女は入場時こそ笑顔でいたが、兄上が壇上で発した言葉を聞いてから顔が強張り顔色も真っ青だった。

 俺に一礼すると、公爵令嬢に向かい勢いよく頭を下げ謝罪した。


「別に良いわ、あの方が早とちりして空回っただけでしょう。貴女も折角着飾ったのだからお友達と楽しみなさい」


 公爵令嬢は素っ気なく返事をし、さっさと行きなさいと促す。

 少し驚きつつも、聖女は一礼して去っていく。


「それにしても、貴方一応、殿下の護衛でしょ?離れてよかったの?」


 騎士団長子息の婚約者は、少し焦ったように聞く。


「護衛だったのは学園の中だけだな、もう卒業したし護衛は本職の人が着いてるよ。元々その予定だったし、卒業記念パーティー位は婚約者と過ごしたいね。」


 騎士団長子息はあっけらかんと言い返す。


「はぁ、貴女達は仲良くて良いわね」


 宰相子息の婚約者が溜息をつきながら呟く。


「それに引き換え、私たちはこれから大変だわ」


 公爵令嬢は和やかに言う。

 この卒業記念パーティーは、制服の他にドレスでも出席できるようにしている。これは婚約者がいる貴族がドレスを送りたい、婚約者を着飾りたいと要望があったためだ。この為に婚約者がいる者はドレスを送りパーティーに参加するのが常識になっていた。

 しかし、公爵令嬢と宰相子息の婚約者は制服である。

 聖女は豪華なドレスに左右の耳に豪華なイヤリングを付けていた。イヤリングの色は宰相子息と公爵子息の瞳の色だった。

 聖女にだけ送ったのではないよな、と考えて怖くなるが今は関係ない。


「あまりお力になれなかったが、一先ず騒動は収まりました。そろそろ卒業記念パーティーを再開させたいと思います」


 公爵令嬢に一礼しつつ、言葉をかける。


「そうしてください、私達だけの場ではありませんもの。私はもう帰宅します、これからの事もありますので」


「兄上がご迷惑をお掛けしました」


 公爵令嬢はあなたは悪くありませんと慰めつつも、凛として去っていった。

 さて、と一息つきホールを見渡す。聖女は友人と談笑しているようだ。


「さて、予定外の騒ぎは起こりましたが、これより卒業記念パーティーを始めさせていただきます」


 俺の言葉が終わるのと同時に楽団が和やかな曲を演奏し始める。料理の蓋が開けられ、ウェイターが飲み物を配り始める。

 最初にケチがついたが、せっかくの卒業記念パーティーだ楽しんでもらいたい。

 兄上と公爵令嬢の婚約は解消されるだろう、王族側にかなり不利になることになるだろうがそれは別の話。

 もうこれ以上、トラブルが起きてくれるなよと思いながら


「それでは皆様、学園最後の夜です。羽目を外しすぎないように、しかし存分にお楽しみください」


 卒業記念パーティーは開始されたのだ。

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― 新着の感想 ―
え? これで終わり? 断罪返しの物語が欲しいんですけど!
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