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乙女ゲームは馬狂いによって成立しませんでした【連載版】  作者: ゆうらり薄暮


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9/12

ブチ柄子馬はある日何かを踏んづけた ~馬鹿王子またはキラキラ男で毒でハエの末路~

馬視点です。


 私の名前はルチル。

 父は「無敗の名馬」とも呼ばれるシトリン、母も「女帝」という呼び名を持ついわゆる良血馬というものらしい。

 一歳になって初めての秋、雨上がりの空の下でこっそり放牧場を抜け出し気分良く走っていたら変なものを踏んづけてしまった。

 なにやら小汚い人に見えなくもないシロモノである。

 そしてひどく臭う。

 本当は触れたくもないがしょうがない。

 人間だとしたら助けなければお父様に叱られると思うので拾って帰ることにしよう。


 万が一人間だとしてもこんなに汚いのを兄妹の中で今のところ私一頭だけの自慢のブチ模様を汚したくはない。

 それの首の後ろあたりを適当にくわえて比較的きれいな水溜まりにボトリと落とした。

 なんかカエルを踏み潰したときと似たような音がしたがまあたぶん大丈夫だろう。

 前足で適当に転がし、洗う。

 ただそれは思っていたよりも汚れていたらしく水溜まりが汚れていくだけで臭いはそのままだった。

 これじゃ意味がない。

 ……面倒くさい。

 拾うのをやめようかとも思ったがそういえば近くに川があった気がする。

 襟首をもう一度くわえ、ズリズリと引きずり川まで行くことにした。


 川に着くと口のものをブンと放り投げた。

 水しぶきとともにバッシャンといい破裂音がする。

 そのままにしていたらきれいになるかなと思っていたらそれは無抵抗に沈んでいこうとするから驚いた。

 なんで泳がないんだ?

 え? ご主人様は普通に泳いでたから泳げるもんだと……?

 でもお父様はご主人様は人間の中ではかなり優秀なほうだと言っていたような………

 まさか人間って泳げないのが普通だったりする?!

 うっそでしょ?!

 そのことに考えが至り、慌てて川に飛び込んだ。

 ズブズブと沈むそれにうまく身体を滑らせて背の上に乗せた。

 岸に上がり、いつもは身体を震わせて水を落とす所だが背の上に力なく乗っているそれを落とすかもしれないので今日は我慢することにする。

 ずぶ濡れのまま元の放牧場へと向かった。


 放牧場に戻ったはいいものの背の上の人間もどきを洗うのに手間取ったとはいえ放牧に出たのは昼前だったからか誰も厩舎の近くにはいなかった。

 ゆっくりと背の上のものを降ろしてから嘶きを一つして仲間たちを呼んだ。


 ――ヒヒィイイィィーーン――


 鳴き声が響き渡るとともに近くにいた仲間たちがパラパラと集まってきた。

 この囲いの中には親離れを済ませた同年代の牝馬しかいない。

 ここでのボスは私だから数分ほど待てばたいていの子たちが集っていた。


「ルチル? びしょ濡れじゃない?! 何かあったの?」


 特に仲の良い鹿毛のフォシルが聞いてきた。

 前足で人もどきを指した。


「これ拾っちゃった」


「え? 何これ?」


 他の子たちも興味深げに人もどきの臭いを嗅いだり鼻先でつついたりしている。

 知らないものではあるがここにいる皆は好奇心旺盛な子が多い。

 皆けっこう怖いもの知らずだが私の怖いものは現時点で一つ、怒ったときのご主人様である。


 わらわらと皆で人もどきをつつき回していると足音が聞こえてきた。

 私たちの背丈くらいある柵を軽々と越えられる白く輝く馬体を持つ馬はここには一頭しかいない。

 お父様だ。


 危なげなく着地したお父様は悠々とこちらにやって来た。


「ルチル、なんで皆を呼んだんだ? これは一体?」


 皆を見回すお父様の困惑がありありと感じ取れた。


「お父様! 変なもの拾っちゃったの。これなぁに?」


 お父様なら何でも知っているに違いない!

 良いところに来てくれた。


 お父様は人もどきに顔を近づけると一瞬で耳を伏せた。


「ゲッ?! こいつ! あのハエ野郎じゃないか! なんでここに?!」


 いつも穏やかなお父様がご主人様とお母様以外のことで怒っているところを初めて見た。

 他の子たちはそもそも立派なボスとして知られるお父様が怒っているところを見たことがないのですっかり怯えてしまっている。


「この人もどきダメなものだったの?」


「……そ、そのだな。ダメというか。あぁもう! ルチル、これ動かないように見張っといてくれ! すぐに戻ってくる」


 お父様は私にそう言いつけると再び柵の外に消えていった。

完結まで毎日投稿予定です。短編のものと大筋変わりませんが一部エピソードに加筆があります。

よろしくお願いします。

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