黄金の馬と白き愛馬の悲喜交々
「どうも初めまして。僕、シトリンって言うんだ。一応……ここの群れのボス、かな。よろしく~」
白毛の馬は穏やかに首を傾け、そう名乗った。
その態度は落ち着いていて、どこか余裕すらある。
「ど、どうも……えっと……」
黄金の馬は少し戸惑いながら蹄を鳴らした。
「何も知らないまま連れてこられたんですけど……ここ、どこなんでしょうか?」
「あぁ、そうなの?」
シトリンはあっさりと言う。
「ここはね、『世界最高のレース』がある国だよ。君たちもレースに参加しに来たんじゃないの?」
「それが……」
黄金の馬はちらりと仲間たちを見る。
「走る練習はしていたんですけど……レースに出たことはなくて。どうなんでしょう?」
「う~ん……」
シトリンは少し考える素振りをしてから、軽く笑った。
「まぁ、ご主人の馬に仲間入りするみたいだから。レースには出ることになると思うよ」
「ご主人……?」
「ほら」
シトリンは鼻先で遠くを示す。
「あそこで、君たちのお仲間に乗ってはしゃいでる人だよ」
黄金の馬たちの視線の先では、
――明らかにテンションのおかしい人間が、黄金の馬の背に乗って感極まっていた。
「にしても、見たことない毛色してるね~。ご主人がいつもより興奮してるのも、そのせいかな」
「この毛皮は……生まれつきでして」
黄金の馬は少し誇らしげでもあり、困惑してもいる。
「オレたちはみんなこうでしたから。珍しいんですかね?」
「珍しいよ」
即答だった。
「僕、初めて見た」
シトリンは一拍置いてから付け加える。
「さて。ご主人が乗り飽きて帰ってくるまで、案内するよ」
そして、黄金の馬たちを見回す。
「ひぃ……ふぅ……みぃ……」
数えるように首を振り、
「……十頭くらい? じゃあ――十頭様、ご案内~」
どこか慣れた調子だった。
*****
「なぁ、シトリン」
少し離れた場所で、栗毛の馬がぼそりと声をかける。
「おまえさ。ちょっと前まで、新しいやつが来るたびにご主人が構ってくれないって、すねてなかったっけ?」
「……」
「それがどうだよ。ちゃんと案内までしてさ。熱でもあるのか?」
「ん?」
シトリンは一瞬きょとんとしてから、鼻を鳴らした。
「あぁ……慣れた」
「慣れた?」
「というか、慣れざるをえなかった」
シトリンは遠くで黄金の馬に群がるご主人をちらりと見る。
「あいつらに当たってもしょうがないしさ。毎年、毎年、子馬が生まれるたびにご主人それにかかりっきりになるし」
少し間を置いて、淡々と続ける。
「まぁ……レース前には僕に乗りに来るでしょ」
「…………」
栗毛の馬はじっと見る。
「……本音は?」
「………………」
シトリンは黙った。
黙ってから、ぽつりとこぼす。
「……僕も」
一拍。
「あいつらみたいな、黄金の毛皮が欲しい」
「で?」
「ご主人に!」
突然、声が大きくなる。
「一日中! いや違う! 毎日! 毎朝! 毎晩!!」
白毛の馬は地面を軽く蹴った。
「構って欲しいんだよ~~!!
なんで新入りばっかり~~!!」
そして、魂の叫び。
「ちっくしょ~~~!!」
「……だよな」
古株の馬は深く頷いた。
「このご主人様バカがそんな殊勝なこと考えてるわけないよな。だと思った」
シトリンは何も言い返さなかった。
遠くで、ご主人が黄金の馬を撫でながら大はしゃぎしている。
白毛の名馬は、鼻を鳴らした。
――不機嫌そうに。
※※※※※
黄金の馬はアハルテケという品種の馬が実際にいます。
競争馬は基本サラブレッド種ですがご都合主義ということでご了承ください。
完結まで毎日投稿予定です。短編のものと大筋変わりませんが一部エピソードに加筆があります。
よろしくお願いします。




