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乙女ゲームは馬狂いによって成立しませんでした【連載版】  作者: ゆうらり薄暮


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7/9

公爵夫妻の馬狂い令嬢


 帝国の厩舎。

 白馬シトリンが鼻を鳴らす中、ひときわ眩しい黄金の毛並みが陽をはね返していた。


 その瞬間――


「……いる。いる……!」


 アイリスの目が、宝石みたいに光った。


 公爵夫妻は、娘の背後で息を整える。国を捨て、追われ、ようやく辿り着いた末の再会だ。

 なのに、娘の視線の先は――彼らではなく馬だった。


 公爵が咳払いを一つ。


「アイリス。今まで本当に悪かった」


 公爵夫人も頷き、まっすぐ娘を見る。


「お詫びの印の馬よ」


 次の瞬間。


「許す!!」


 即答だった。


「だからその馬に早く乗せろ! まさか本当にいるとは思わなかった! 黄金の馬! なんて美しいんだ!!」


 公爵夫妻は、固まった。


 ……謝罪とか、許しとか、そういう空気はどこへ。


 公爵が公爵夫人の袖をつまみ、小声で囁く。


「……本当に馬で許しちゃうのか~。そっか~。我が娘ながらチョロい」


「……チョロいわね」


 二人の小声は、完璧に“親の油断”だった。


 なぜなら。


 アイリスは聞いていない。

 まったく聞いていない。


「いい! いい! 最高だ!」


黄金の馬の周りをぐるぐる回りながら、目を輝かせている。


「ダートで走らせればよく走りそうだな! よし! まずは競走馬登録からだな!」


 もう、頭の中は走らせることでいっぱいらしい。

 謝罪の余韻? 親子の涙の再会? そんなものは一瞬で砂に埋もれた。


 少し離れたところで、その様子を眺めていたジュラが乾いた笑みを浮かべる。


「おぉ……黄金の馬か~。初めて見た」


 感心しているのは本音だ。

 だが同時に、目の前の“馬狂い暴走モード”に軽い絶望も混じる。


「アイリス、暴走してんな~……」


 止める?

 止められる?

 止めたところで、止まる?


 ジュラは顎に手を当て、真剣に悩んだ。


「……どうやって止めよう」


 その間にもアイリスは、黄金の馬の脚元を覗き込み、たてがみの流れを撫で、目を細めてうっとりしている。


「……この筋肉のつき方、絶対いい。骨格もいい。毛ヅヤも……最高だ……!」


 公爵夫妻は顔を見合わせる。


 公爵が小さく言った。


「……まあ、許されたなら……いいか」


 公爵夫人も、やれやれと肩をすくめながら笑った。


「ええ。アイリスは、これでいいのよ」


 遠くでシトリンが不機嫌そうに鼻を鳴らした。



完結まで毎日投稿予定です。短編のものと大筋変わりませんが一部エピソードに加筆があります。

よろしくお願いします。

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