第49話:破壊の論理と、味覚の論破
ヤマダは、足元に置かれたタナカの**『永久不滅の平和の味』**を、冷たい目で見た。ココアパウダーに包まれた球体は、美味しそうな甘い香りを放っている。
「くだらない。そんな**『甘い記憶』**で、戦争の根絶ができるか」
ヤマダはそう言い放ち、その球体へ手を伸ばした。彼の能力が発動する。触れられた瞬間、球体の表面のココアパウダーが一瞬で砂塵となり、内部のマシュマロと煎餅の結晶も、音もなく崩壊していく。
タナカの**「平和の味」は、ヤマダの「破壊の力」**によって、瞬時に消滅した。
「見たか、タナカ。お前の創造したものは、一瞬で無に帰す。これは、戦争の無常さ、そして平和の脆弱さそのものだ」
破壊者の孤独
しかし、タナカは動揺しなかった。彼の能力は、**「記憶」**を消すことまではできない。
「破壊は完了したか?ならば、ロイド!」
タナカが呼ぶと、茂みに隠れていたロイド=ブレイブハートが、顔に緊張を浮かべながら飛び出してきた。
「タナカ様!ご指示を!」
「ヤマダの能力は**『破壊』だ。だが、お前が今、最も強く感じている感情を、言葉ではなく、『力』**として表現してみろ!」
ロイドは、タナカの意図を測りかねたが、タナカへの絶対的な忠誠心から、全身の力を込めて咆哮した。
「我が忠誠は、タナカ様と国王軍にあり!」
ロイドはそう叫び、ヤマダに向けて剣を構えた。その瞬間、ロイドの全身から、タナカの**『絶望を乗り越えた、一瞬の安寧』の記憶が込められたココアの匂いが幻影として立ち昇った**。
ヤマダは、そのココアの匂いの幻影を見て、目を細めた。
「これは……!お前は、**私の破壊した『甘い味』を、『記憶の残滓』**として再現しているのか!?」
タナカは、ヤマダの破壊によって**「永久不滅の平和の味」の組成が、ロイドの「忠誠の念」と結びつき、「平和の記憶の具現化」**としてロイドを通じて発現したことを理解した。
タナカは、ヤマダに語りかけた。
「ヤマダ。お前が憎むのは、戦争だ。だが、お前は、**戦争を終わらせたいと願う俺やロイドの『平和の記憶』を、破壊できるか?俺たちの絶望から生まれたこの『安寧の味の記憶』**を、お前は、戦争の道具として利用できるか?」
ヤマダの論理崩壊
ヤマダは、タナカの言葉に激しく動揺した。彼の破壊の論理は、**「戦争を仕掛ける悪を破壊する」というものだった。しかし、タナカが創り出した「平和の記憶」**は、彼の破壊の範疇を超えていた。
「お前は……!戦争を嫌い、平和を願う者の**『安寧の記憶』を、俺の破壊の前に晒すのか!?それは、俺の憎悪の原点**を、意図的に揺さぶる行為だ!」
ヤマダは、タナカの**「究極の非暴力」**による論破に、手を引っ込めた。彼の能力は、タナカの記憶を破壊することはできない。
「わかった、タナカ。お前の**『平和への執念』**は、確かに俺の破壊を超える」
ヤマダはそう言うと、静かにタナカに背を向けた。
「だが、俺の憎悪は消えない。貴様が創った**『安易な平和』を、『戦争を仕掛ける悪』が再び破壊しようとしたとき、その時こそ、俺の『絶対的な破壊』**が必要になる。覚えておけ、タナカ。お前の平和が、再び血に染まった時、俺は戻ってくる」
ヤマダは、タナカの**「創造の平和」**を試す言葉を残し、静かに森の中へと姿を消した。
タナカは、ヤマダの去った後、ロイドに顔を向けた。
「ロイド、お前のその**『平和の記憶の力』は、『究極の防御』**となる。大切にしろ」
タナカは、ヤマダという**「憎悪のアンチテーゼ」を乗り越えたが、その平和が「次の戦争」**が起こるまでの猶予期間に過ぎないことを悟った。




