第44話:タナカの対抗策—破壊を甘やかす「究極の粘着兵器」
タナカは、ヤマダの「静かな破壊」とムッソリーニオの「熱狂的な扇動」という二重の脅威に直面し、頭脳をフル回転させた。
(ヤマダの目的は戦争の根絶。俺と同じだが、手段が破壊だ。彼は、軍事施設を消し、人々を恐怖させることで戦争を止めようとする。だが、その恐怖はムッソリーニオの**『鉄の意志』**のプロパガンダに利用される!)
タナカの平和戦略の基本は、**「武力や恐怖を、無意味で甘いものに変える」**ことにある。ヤマダの破壊を正面から止めようとすれば、それは新たな戦闘を生むだけだ。
「ロイド。チー牛!」タナカは部屋にいた二人に指示を出した。
「チー牛、お前はユグラシア側の新聞を全て集めろ。ムッソリーニオの演説内容を分析する」
「チー牛だと!?俺はチートウだ!わかったよ、最高の牛丼を食うために平和は必要だ!」チー牛は不満そうに部屋を出た。
「ロイド、お前は国王軍に伝令だ。ヤマダの破壊を**『新たなユグラシアの陰謀』として発表させろ。そして、『破壊された施設周辺に、国王軍が開発した最新鋭の防御施設を建設する』**と」
ロイドは敬礼した。
「ははあ!敵の破壊を、我が軍の防衛力向上の口実にする!さすがタナカ様!」
破壊者へのアンチテーゼ
タナカは、ヤマダの**「触れたものを砂にする能力」に対抗するため、創造魔法を発動した。彼の頭に浮かんだのは、前世で「絶対に手が汚れて厄介だが、誰もが大好きだった」**ものの記憶だ。
(タナカ内心):ヤマダは触れたものを破壊する。ならば、破壊者が触るのを極度に嫌がるもの、触った瞬間に破壊の意図を失うものを創るしかない。
タナカが創造魔法で生み出したのは、直径10メートルほどの巨大な飴の塊だった。
その飴は、ただの飴ではない。表面は蜂蜜と砂糖でコーティングされ、内部は極度に粘着性の高いキャラメルと水飴で構成されている。触れた瞬間、指が一本残らず飴に貼りつき、手が離れなくなる性質を持っている。
**『究極の粘着兵器』**の誕生である。
「これが、ヤマダへの対抗策だ」
【粘着兵器の戦略的意図】
破壊の阻止: ヤマダが飴に触れれば、手が貼りつき、能力を封じられる。能力の範囲は手から離れる必要がある。
極度の不快感: ヤマダの静かな破壊のイメージに対し、ベタベタとした、最も不快で厄介な感覚をぶつける。
タナカは、自身の創造魔法を駆使し、この粘着飴を「ヤマダが次に破壊しそうな場所」である、レドニア王国の次の軍事施設の周辺に、夜中に配置し始めた。
ムッソリーニオの演説とチー牛の報告
一方、ユグラシアの新聞を回収してきたチー牛は、ムッソリーニオの演説の分析を終えていた。
「タナカ!このムッソリーニオってやつ、やばいぞ!」チー牛は叫んだ。
「演説の内容は?」
「『レドニアのスフィアは軟弱な味だ!我々は刺激的で強靭な味を求める!』だと。要は、味が気に入らないから戦争をしたいってことだろ?アホか!」
タナカは、ムッソリーニオの演説の核心が**「味覚の対立」**にあることを理解した。
(ムッソリーニオは、**「甘味」を「軟弱さ」と定義し、「刺激」を「強さ」**と定義した。彼の演説の核心は、味覚のプロパガンダだ)
「チー牛。分かった。ムッソリーニオのプロパガンダに対抗する**『味覚兵器』**を開発する。それは、**甘くも刺激的でもある、誰も否定できない『究極の味』**だ」
タナカは、ロイドの報告を待たず、ヤマダの「破壊」を食い止めるための粘着飴の配置と、ムッソリーニオの「扇動」に対抗するための**「味覚兵器」**の開発という、二重の戦いに挑み始めた。




