第41話:至宝の解析と、総統の「ビジネス」決断
タナカが掲げた**『万能栄養スフィア(アブソルート・ニュートリエント)』**の出現により、戦場は完全な静止状態に陥った。ユグラシアの戦車師団は攻撃を停止し、飢餓に苦しむ兵士たちの視線は、全てその黄金の球体に釘付けになっていた。
ロイドは超硬質チョコレートで胃を痛めながらも、タナカの偉大な戦略に感涙し、その横でチー牛が能力を集中させていた。
「チー牛!解析を急げ!」タナカは焦りながら促す。
「うるさいな!今、成分の黄金比を計測してんだよ!」
チー牛の能力がスフィアの組成を読み取る。
「判明した!この球体、全栄養素が完璧にバランス取れてる!ビタミン、ミネラル、プロテイン、そして、この異世界の特殊な穀物の旨味まで凝縮されてる!しかも、食感がモチモチで、飽きない!最高の牛丼じゃないけど、究極の防災食だ!」
チー牛の**「食のプロ」としての鑑定は、スフィアの価値を裏付けた。タナカの「食べる記憶」**が、今回は初めて、実用的かつ完璧な結果を生み出したのだ。
ヒットラーク総統の最終判断
ユグラシア連邦軍の本部壕では、フューラー・ヒットラーク総統が、遠距離魔力通信で送られてきたスフィアの情報と、最前線から来る兵士たちの**「食わせろ!」**という切実な願いの波動を受け取っていた。
元老ナチョスと星輪は、スフィアの存在に激怒した。
元老ナチョス:「馬鹿な!あの異邦人は、『欠乏』の概念を、飽食で破壊した!我々のチップスは無意味だ!」 元老星輪:「あの球体は、我々が支配する貧困と飢餓の構造を、根本から覆す!フューラー!直ちに攻撃し、破壊せよ!」
しかし、ヒットラーク総統の頭脳は、権力維持のための合理性で動いていた。
(破壊?馬鹿め!あの球体一つで、一軍の補給が一ヶ月賄えるのだぞ!あの異邦人の能力が本物ならば、この球体は無限に生産可能ということになる!戦争を続行すれば、我々の兵士もあの球体を欲し、反乱が起きる!)
総統は、自らの独裁体制を守るために、最も合理的な判断を下した。
「静まれ、元老方!」ヒットラーク総統は立ち上がった。「これは、戦争ではない。ビジネスだ!」
総統は、通信機を手に取り、最前線指揮官に命令した。
「即刻、レドニア側と接触せよ!あの異邦人の提示した**『永久的休戦と完全な資源交換』**の条件を、受諾する!」
戦争の終結、甘い契約の締結
ロイドは、タナカの指示に従い、スフィアを掲げたまま、ユグラシア側の休戦連絡官と接触した。
数時間後、泥まみれの戦場の中間地点で、史上最も奇妙な休戦協定が結ばれた。
【平和協定の骨子(スイーツ・パクト改)】
永久的休戦:レドニア王国とユグラシア連邦は、即時、永久的な戦闘行為を停止する。
資源交換の恒久化:タナカが創造する**『万能栄養スフィア』**を、レドニア側からユグラシア側へ、ユグラシアの軍需物資と交換で恒久的に供給する。
技術交流:タナカが提供する**「食の技術」(マシュマロ、ココア、煎餅など)を、両国間で共有し、兵士の「精神的な安寧」**を最優先する。
こうして、タナカの**「甘すぎる戦略」は、二人の異邦人の衝突、独裁者の合理性、そして究極の栄養食によって、この異世界アースガルドの戦争を、「永久的な休戦」**へと導いた。
タナカは、休戦協定の調印を見届け、疲労困憊のロイドと、満面の笑みを浮かべるチー牛と共に、ウッドストック村へ帰還した。
チー牛は、去り際に**『満腹兵器』の残骸から、「具材と米の黄金比」を記録した一部を創造魔法で回収し、次の「最高の牛丼」**を作るための研究材料として持ち去った。
タナカは、**「戦争のない世界を作りたい」**という、前世の絶望から生まれた目標を、ついに達成したのだった。
エピローグ
数年後、アースガルド大陸は、かつての戦争の面影を失っていた。
レドニアとユグラシアの国境には、塹壕の代わりに、巨大な『万能栄養スフィア』の交換所が建ち、両国の兵士は、武装ではなく、スフィアの味の好みについて平和的に議論していた。
フューラー・ヒットラーク総統は、今や**「食料貿易の独裁者」として権力を維持。元老ナチョスと星輪は、タナカの創造魔法で再現された『究極のトルティーヤチップス』と、『星形クッキー』の供給を受け、戦争ではなく「甘味産業」**で裏経済を支配している。
そして、タナカは。
彼はウッドストック村で、クッキーの帽子とキャラメルの服をまとったまま、チー牛と共に**「スフィアの新たな味の開発」**に明け暮れていた。
「タナカ!スフィアの**『つゆだく味』は、やはり安易な欲望**を誘発するから、廃止だ!」チー牛が叫ぶ。
「うるさい!ココアとマシュマロの**『王道の甘さ』**こそ、平和の基本だ!」タナカが応じる。




